インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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ミッションスタート

IS学園は2学期を迎え、新しい授業や、行事が始まる。そんな日のSHRでは、クラスが、なんだか騒がしかった。

 

「なんか騒がしいけど、何かあるのか?」

 

織斑一夏は自身の隣にいた、シャルロットに、尋ねた。シャルロットは少し、首を傾げ、考えるそぶりを見せた後、何か思いついたのか、教室を見回した。一通り見回した後、納得したように頷いて、一夏の方へ向き直る。

 

「たぶん、転校生が、何かが来るんじゃないかな?ほら、あそこ、席が1つ増えてるよ」

 

シャルロットが指差したほうを見ると、確かに、窓際の列に1つ席が増えていた。周りの女子も、話しながらチラチラと窓際の列を見ている。

 

「なるほど。でもさ、なんか一組に転入生が多くないか?」

 

「それもそうですわね。本来であれば平等に振り分けるのが普通ですけど……」

 

一夏の疑問に同調したのは、シャルロットと反対の位置にいたセシリアだった。そして、セシリアの疑問に、シャルロットが応えた。

 

「たぶん、何か事情があるんじゃないかな。ほら、織斑先生のところに置いとけば、何かしら問題があっても解決するだろう~

ていうかんじで」

 

「「なるほど」」

 

シャルロットの言葉にセシリアと一夏は納得した。

 

それで納得できるとは、織斑先生は、鬼教師というレッテルが、完全に張り付いている様子だった。

 

「おっと、早く席に着こうぜ。今日は千冬ね……じゃなかった、織斑先生のSHRだろ?」

 

そういうと、女子二人は、手早く席に戻っていった。

 

――――

 

「唐突だが、転校生を紹介する」

 

織斑千冬は開口一番にそういった。

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??」×クラス女子9割

 

直後、クラスの女子達が、一斉に声を上げた。そして、数人でひそひそと話し始める。

 

「やっぱり、転校生くるんだ」

 

「席が1つ増えてるからもしやとは思ってたけど」

 

「静かにしろ!」

 

クラスの中で、ざわざわとした雰囲気が出る中、その声は机をたたく音で、一瞬にして静まり返った。さすが元ISの世界王者。影響力が凄まじい。

というより、机を叩く、という音では済まされない音が響いたが、そこはスル-することにする。

 

「静かになったな。よし、入れ」

 

「はいはい」

 

軽い感じの声、で入ってきた人物に、クラスは騒然とした。

 

「はじめまして」

 

其処にいたのは、やや長めの黒い髪に、黒い瞳。出で立ちは東洋系、身長は一夏より少し高い程度の男だった。

 

「蘇摩(そーま)・ラーズグリーズと言います」

 

「お、男……?」

 

クラスの誰かが、つぶやいた。

 

「ええ、まあ。取りあえず、俺は傭兵です。ここには任務と、その他諸々で来ました。3年間お世話になるので、これからよろしくお願いします」

 

傭兵、確かにその少年、蘇摩はそういった。確かにその雰囲気は、軍人であるラウラと似ているところがあるが、軍人のどこか硬い雰囲気ではなく、それでも何処か『歴戦の猛者』といった、そういう感じの雰囲気を漂わせていた。

 

「きゃ……」

 

「きゃ?」

 

「きゃあああああああああああああああああああああああ!!」×クラス(以下略

 

とてつもない、声による衝撃。音というものは、その大きさで心臓をも止めることができるという。歓喜に満ちた叫びはクラスの中心から、一気に広がって行った。クラスの若干名は、必死になって耳を塞ぐ。ただひとり、蘇摩だけは直撃を食らい、頭を抑え、うめいた。

 

「男子!正真正銘二人目の男子!!」

 

「しかも傭兵だって!なんか強そう!!」

 

「地球に生まれてよかったー!!」

 

えと、近頃の女子は随分元気がいいもので。この叫び声は、他クラスにも聞こえているだろうが、覗きにくる人はいなかった。

SHR中だろうからか、教師の皆様方はきちんとお仕事をしておられるようで。

 

む……見知った顔が1,2、3名。内ふたりは、なんか怖いもの見たさに驚いてるな。

それと騒いでいる女子の中で、手?、袖?を振っている女子、布仏本音。たしか、楯無の妹、簪の

メイド、だったか?非常にのんびりしているやつだ。もう二人は、いつかの喫茶で、見かけた二人じゃないか。まてよ、もしかして、金髪の方はフランス代表候補の、シャルロット・デュノアか。たしか、会社の経営戦略で男子としてここに転入したらしいが、ばれたのか。

 

バアン!!!

 

「騒ぐな。静かにしろ」

 

教卓から、本来あってはならないような強烈な打撃音がした。おそらく織斑千冬が叩いたのだろう。叩いた、ってレベルの音ではないような気がするが、スルーしよう。しなかったら次は俺の頭がああなるかもしれん。俺はどこかのバカ野郎どもとは違って、戦場で死ぬのは本望だが、長生きするに越したこたぁねんだよ。

 

「蘇摩。お前の席は窓際の一番後ろだ」

 

「りょーかい」

 

指定された席へと移る。隣の席の女子が話しかけてきた。

 

「ひさしぶり~そうり~」

 

「ああ、久しぶりだな本音」

 

声をかけてきたのは本音だった。そうり~って、随分懐かしい呼び方だな。

 

「簪は元気か?この前はは会えなかったが」

 

「うん~。元気だよ~」

 

間延びした口調で、答えてくれた本音。動きも間延びした感じがあるが、こう見えて、整備技師としての能力が高い。俺のISの整備も、彼女に手伝って貰う事にしよう。

 

――――

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

SHRが終わったあと、蘇摩に声をかけてきた人物。一夏だ。世界で最初にISを動かした『男』であり、蘇摩の任務。彼の護衛対象である人物だ。

 

「ああ、どうした?織斑一夏」

 

「一夏でいいぜ。二人しかいない男子だから、よろしくな」

 

「ああ、よろしく」

 

一夏が手を差し出した。初対面の人間が手を差し出してすることなどひとつしかない。俺はそれに応じる。

要は握手ということだ。そして、一通り自己紹介が終わった頃、俺に声をかけてきた人物がいた。

 

「少しいいかな」

 

やってきたのは二人、まあ予想通りの人物が俺の目の前に立った。声をかけてきた少女。シャルロット・デュノアは、丁寧で、それでいて嫌味を感じさせない物腰で、話しかけてくる。

 

「話したいことがあるから、廊下まで来てくれるかな?」

 

彼女の後ろにはラウラ・ボーデヴィッヒもいる。要件はこの前の喫茶での出来事だろう。断る理由もない。俺は話に付き合うことにした。

 

「ああ、わかった。じゃ、一夏。またあとでな」

 

「おう」

 

一夏に軽く挨拶して、教室をあとにした。

 

――――

 

「単刀直入に訊く。お前は何者だ?」

 

銀髪の少女。ラウラが最初に発した言葉はまるで尋問のような質問だった。凄みを利かせ、殺気を放つ。

まあ、一般人なら、命乞いをしながらすべてをありのままに話すだろうが、残念。その程度の凄みと殺気じゃあ、俺にとっては心地いだけで痛くも痒くもないんだよな。

 

「言ったろ?傭兵だって」

 

「普通の傭兵ならあれだけの短時間で、銃を持った大の男3人を簡単に片付けられないよね?」

 

俺の答えにさらなる質問で返したのはシャルロットの方だ。彼女も、ラウラとは違う凄みを利かせているが無駄だっての。

 

「そうだな・・・・・・どこにでもいる凄腕の傭兵。とでも言えば満足か?」

 

適当な言葉ではぐらかす。適当と言ってもRAVENのメンバーは、実働部員のランカーだけで言えば500人はいるし、

しかも結構世界中呼びまわっているから、そこまで間違っているわけではない。しかもその中のAクラスランカーだし。

 

「満足するか。そんな自惚れの在り来りな台詞で満足するわけがなかろう」

 

「僕が知っている中でも、君のような腕前の傭兵は聞いたこともないよ」

 

満足するどころか、さらに追求してくる二人。だが、蘇摩にとって、自身の正体を乱りに明かすのは、避けたい。IS委員会や日本政府の人間の中には、RAVENの存在をよく思わない連中もいるのだ。

別に刺客を送り込まれるのは構わないが、「お掃除」の時間が多くなって、対象の護衛が疎かになるのは色々とまずい。あと、たった二人に問われた程度で、正体を晒すのは

カッコ悪い。蘇摩にも、プライドや、意地だってあるし、体面だって面子だってあるのだ。

 

「そうだ、な・・・・・・そっちの軍人さんには『白い閃光(ホワイト・グリント)』、と言えば伝わってくれるかな?」

 

「ホ、『白い閃光』、だと?」

 

ラウラが驚愕と困惑の混ざったような声を発し、それに一人おいてけぼりを喰らう形になった、シャルロットは困惑したようにラウラに疑問を投げかけた。

 

「ラウラ、『白い閃光』って何?」

 

ラウラは、一度蘇摩を一瞥する。蘇摩は軽く頷いた。「話してもいい」ということらしい。ラウラはシャルロットの方を向く。

 

「私たち、戦場に立つ分野の人間なら、最低2桁の回数は聞く単語だ。実力は、簡単に言えば剣一本でアメリカ軍一個中隊を殲滅したといえば分かるだろう?」

 

「け、剣一本で・・・・・・?」

 

シャルロットは、信じられない、といった様子で蘇摩を見た。だが、冷静に考えてみればラウラの言葉にも納得がいく。銃を持った強盗たちを、「戦争処女(アマチュア)」呼ばわりし、素手でものの2分足らずに制圧したのだ。しかも、おそらくあれはまだ本気じゃなかった。その彼が本気で戦えば、一個中隊も殲滅できるかもしれない。

 

そして、RAVENは駄目で、『白い閃光』は良いのかと言うと、今のところ『白い閃光』=RAVENと言う図式は成り立っていないのだ。そもそもRAVEN自体よほどの大組織の幹部クラス、つまり裏側のトップクラスでなければ知らない組織だ。対する『白い閃光』はそっち方面の人間なら最低2桁の回数で耳にする程に有名なのだ。

つまり、『白い閃光』は外に漏れても、RAVENの隠れ蓑になるぶん構わない。「お掃除」もそこまで増えはしない。

 

「さて、俺について少し理解してくれた所で、ひとつ―――

 

キーンコーン

 

予鈴が校内響く。蘇摩は仕方ない、とばかりに首を振った。そして二人に向けてこういった。

 

「少し頼みたい事があったが、あとにしよう。授業に遅れる訳にもいかんだろう?」

 

そう言って、ゆったりとした足取りで教室に戻っていく。ラウラとシャルロットは蘇摩の少しあとに教室に戻っていった。




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