インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

69 / 116
ええ、今回は普段よりちょっと長めに?そして会話文を多く入れてみました。
ですので結構違和感があったりするかもです。




その名は

「ちっ……」

 

自室に戻って早々に舌打ち。全く、俺らしくもない。

個人的感情に動かされるのはいつものことだが、今回は全く違う。

 

「くそ……」

 

あけたドアを思わず力加減無しにバタンと閉める。かなり大きな音がして、先に帰っていた同居人がびっくりしたようだった。

 

「おわ!?―――だから鈴!ドアを開けるときはもっとな―――って蘇摩?どうしたんだよ」

 

「一夏か……悪いな。少し黙っててくれるか?」

 

抑えているものの、未だにやや荒い声を上げる蘇摩。一夏は何があったのかと問おうと思ったが、蘇摩の様子を見る限り、本人にとって聞かれたくないことなのだろうと思い、

黙ることにした。誰だって、気分の悪い時にその原因を聞かれるのは嫌なものだろう。少なくとも俺は嫌かな。だから蘇摩に何があったのかは今は聞かないことにする。

 

「おう……」

 

蘇摩はそのまま前進し冷蔵庫を開けて、中に入っている炭酸飲料(全部1.5Lのいつも蘇摩が買い置きしていて、中が半分それで埋まっている)を無造作に取り出し、キャップを開けて

そのままラッパ飲み……しようと思ったようだが、流石にまずいと思ったのか、コップを2つ持ってきて、泡が出にくいように静かに入れる。

 

そして、1本を俺に渡してきた。苛立っていても飲み物を飲む時は、いつも俺やほかの人の分も作るのが蘇摩らしいというか、なんというか。なんだか苛立っている雰囲気と真逆の

どこまでも冷静な対応のギャップがややシュールだった。

 

「あ、サンキュ……」

 

俺が受け取ると、蘇摩は何も言わずに椅子に座って、一気飲みし始める。

一杯、また一杯と飲み干して、3杯目を一気飲みし終わったところで、ようやく蘇摩はコップをテーブルに置いた。

 

「ふう……」

 

少しは落ち着いた様子で、息を吐く。先ほどの近寄りがたい雰囲気も薄れてきて、話しかけやすくなってきた。

 

「蘇摩?」

 

「……」

 

何も答えない蘇摩。だが、先程までの苛立ちはなりを潜めて、今は何だか複雑な悩みを抱えているようだった。

なんだか、自分でもどうしようかわからない悩みを抱えているようだった。

 

「よかったら……あんまやくたたないと思うけど、相談くらいには乗るぜ?」

 

「……」

 

蘇摩は俺の言葉を聞いて、どうしようかと考えている様子になった。彼自身、誰かに相談しようという思いはあったのだろう。

彼にしてはかなり長く考えている様子だ。

 

ふと、時計を見て立ち上がった。ああ、蘇摩も取り調べに行くのか。

 

「相談なら、後で乗ってくれるか?行かないと間に合わないからな」

 

「おう……って、間に合わないと言えば……」

 

時計を見る。……やべ、俺も間に合わねえ!

 

「お、おう!じゃあ、後でな蘇摩!!!」

 

ものすごい勢いで走っていく一夏。……何か待ち合わせでもしていたのかな?あの様子だと多分間に合わなさそうだが。

あいつが少し羨ましいな。悩み事があっても、聞いてくれる人間が多いからな。いろんな立場の人間が、それぞれにあった立場で聞いてくれる。俺の周りには、いろいろと立場が固定されてた人間が多いからな。あまり新鮮な意見が聞けることもなかったな。

 

まあ、俺も俺でうじうじ考えても仕方ない、か。

 

たまには楽観的に物事を考えるのもいいかもしれない。

 

さてと、そろそろ行きますか。

 

俺は、ドアを開き、歩き出した。

 

――――

 

線路指導室の前に立つ。さて……おれの要望通りの状況なら話してもいいだろう。そろそろ単独での四面楚歌には疲れてきた。

きちんとした支援措置があるのとないのとではやはり任務遂行にはかなりの違いが出てくる。

 

俺は漫画やアニメの人間とは違って1人で政治的問題も、軍事的問題も、解決するほどの能力は持っていない。むしろ持っていたらどんなに楽なことか。

さて、どんなものか。

 

コンコン

 

「入れ」

 

織斑千冬の声。ここまではまあ予想通り。ドアを開ける。部屋の中には3人の人物がいた。

 

手前側左りにいるのは読んだ覚えのない楯無。こちらに手を振っているがお前を呼んだ覚えはないぞ。次に奥側左、つまり楯無の前にいる人物は織斑千冬。

 

ここらで、きちんと話をつけておくべきだからな。ここで話をつけておけば、もうちょいマシな体制にはなるだろう。

そして、奥側右の人物。

 

轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)

 

このIS学園を取り仕切る学園長。男性でありながらこの地位にいるというのは凄まじいことであろう。

 

「よく来てくれましたね。蘇摩さん。まあ、お座りなさい」

 

「直にお会いするのは初めてでしたね。轡木さん」

 

「……」

 

いきなりの2人の挨拶に、多少面食らった千冬。今までこいつ(蘇摩)と学園長が面識を持っていたことは初耳だ。

しかもそれなり以上に親交があるということにも驚きだ。

 

「って私に挨拶はないの?蘇摩」

 

「いつも挨拶してんじゃねえかよ」

 

全く、この場でもコイツはこんな調子だ。まったく……。

 

「おや、仲がいいことですねえ、御2人さん」

 

「轡木さん……あまり変な邪推は」

 

「ええ、もちろん。4年前から私たちは親密な中ですよ♪」

 

こ……こ、い、つ、は……!

 

「お前はいつもそうやって俺を困らせるな!昔も元隆のおっさんにその度に俺が何言われたか!お前は当主としての責任と自覚を明確に持て!」

 

「あらん♪」

 

「……」

 

なんだろう。先程までの緊張感が飛んでいってしまった。頭痛のする頭を抑える。隣の轡木学園長は楯無と蘇摩のやり取りを柔和な笑顔で見守っている。

楯無は先程から話術に加えて、蘇摩の腕に絡みついていき、蘇摩は慌てた様子で振り払おうとする。だが、楯無は巧みに体重移動や足さばきで解かれるのを防ぐ。

 

蘇摩も抵抗しているがそこまで強いものではない。というよりも自分では気づいていないのか、満更でもなさそうなのがややしゃくにさわる。今の蘇摩の表情や雰囲気からは先の私の反応速度をすらゆうに超えるあの動きを見せ、背筋を凍らせる殺気を放ってきた人物とは信じがたいギャップの差だ。

 

「では、御2人方、本題に入りたいのだが、よろしいかな」

 

その顔に穏やかな笑みを蓄えたまま口を開く轡木。「あ、ごめんなさい♪」と楯無がまず蘇摩を拘束から解いて椅子に座る。蘇摩もようやく解かれた拘束からため息を吐いて、椅子に座った。

 

「それで、何からお話しましょうかね。織斑先生?」

 

それまでの蘇摩の雰囲気が一瞬で戦士のそれに変わる。先程までの、何処か一般人のような緩やかな雰囲気が一転して鋭いナイフのようなものに変わった。

 

「そうだな。まずはお前のことを知っているのはこの学園内にどれほどいるか。だな」

 

「楯無1人のみです」

 

「!」

 

それも初耳だった。この学園の校長を出して来いというのだから校長も真実を知っているのだと思っていたが、まさか蘇摩のことを知っているのは楯無のみだったというのか。

一応、轡木さんを見やる。轡着さんは、ゆっくりと首を振って、口を開いた。

 

「私も、楯無さんからはプロ中のプロの傭兵を雇い入れたとしか聞いておりませんでした。『白い閃光(ホワイト・グリンと)』の勇名はお聞きしていましたが、それ以上のことは知りません」

 

「と、いうよりは、一学園の教師が知っていたら俺等の仕事がかなりめんどくさいことになるので……」

 

蘇摩はこともなしげに言うが、よくその二つ名でそんなことが言えたものだ。それはそれとして、核心に踏み入れることにしよう。

 

「それで、お前は何者だ?」

 

蘇摩はその質問を受けて、不敵に笑った。そして、手を重ねて足を組む。この学園の制服ではなく、長いコートやジャンパーだったらかなり様になっていただろう。

今のままでも十分様になってはいるが。

 

「時の大統領は言いました。『戦場を貪る黒い鳥』だと。時の首相は言いました『手に入れたものに絶対の勝利を、手に入れられなかったものに絶対の敗北を』

時の革命家はこう言いました。『出逢った者に真っ黒な死を告げる鳥』だと」

 

「随分抽象的な表現でもったいぶるな。早く話したらどうだ?」

 

「まあ、待ってくださいよ。名前だけ言っても意味がわからないでしょうから」

 

蘇摩は不敵な笑みを崩さぬままに、「さて」と言葉を続けた。

 

「我々の起源は西部開拓期の無秩序から始まったとも、第2次世界大戦の中で生まれたとも言われております。ですが、組織としてそれが完成したといて最も確実なのは1970年、ちょうど核拡散防止条約が発行された冷戦真っ只中の時期ですね。当時のメンバーは誰1人として生き残ってはおりませんが、創始者の人物はかの伝説の傭兵とも呼ばれた男だったと言われております。まあ、貴女方はご存知ないでしょうが」

 

「それで?それがどうしたと言うんだ」

 

「我々は当時、この冷戦の中でその活動を始め、様々な出来事に関わっていきました。『ソ連小型核弾頭亡命事件』『サンヒエロニモ半島事件』『コスタリカ核弾頭発射事件』『サンディニスタ民間開放』『シャドー・モセス事件』全てブラック・オプス(非正規線)ではありますが、我々は様々な世界の情勢を覆しかねない事件を戦っていきました。この組織が完成される前は『キューバ危機』にも関わっていたという説も存在しています。

 

「全部聞かないな」

 

「ブラック・オプスが一般人にしれていたら世界情勢が崩壊してますよ。……現在も我々の力は世界各国で使役されており、法外な価格をもってして我々は傭兵としての取引をしています。例えば、俺が直接関わった事件としては『ホワイトハウス武装集団占拠』とかですかね?」

 

「元特殊部隊員がやったと言われる事件だな。確かそっち側もアメリカ軍の特殊部隊が使われたという話だったが。確か奇跡的にもホワイトハウス内に人質になっていた大統領含む42名の無事も確認されたはずだ」

 

「博識で」

 

蘇摩は、そこで一息つくように、目を閉じた。そして、そのまま顔に笑を作った。まるで懐かしい思い出を振り返るかのように。

 

「あれは全て俺がやったんですよ。簡単だ。ダクトから侵入して、そのままボイラー室から直接大広間に潜入、堂々と通用路から1人づつ殺していった。無論人質には一切傷をつけずにね。ほかには俺が関わったわけではないですがアメリカの1.19も、俺たちが関わった事件ですよ?」

 

「あの同時多発テロか……まさかテロリストに加担したとでも言うのか?」

 

「無論。金さえ積めばテロリストにも手を貸すというのが我々の本文でね。サンディニスタ武装開放何かがいい例だ。まあ、あの時は義理も関わっていたらしいけど。ちなみに関わった4人は全員が俺らの中でもトップを誇っていた4人だったらしいすから、テロ連中は合計でも最低100億ドル近くは持ってたんじゃないすかね。言ってしまえば当時雇われていた連中は3人生還して1人死んじまったらしいすけど」

 

こともなしげに蘇摩は言った。それに怒りを覚えなかったと言えば真っ赤な嘘だ。テロに加担するなどあってはならないはずだ。だが、それをこの少年にぶつけても意味がないのはよくわかっている。

だから、怒りがこみ上げてくるのを理性で押さえつけていた。

 

「ご怒りはごもっともですが、世の中そんなものですよ?所詮政治に暴力はつきもの。現に日本でも我々が必要とされたことは多くあるしアメリカもロシアも北朝鮮も韓国も中国もイギリスもブラジルもアフガニスタンもイラクもエジプトもインドだってそうだ。我々と言う存在がいなければこの世界はとっくの昔に第3次世界大戦が起きていてもおかしくはない」

 

「……」

 

「まあ、なってくれた方がありがたい気もしますけどね」

 

「―――ラーズグリーズ!!」

 

思わず声を荒げて、机を両手で叩いて立ち上がってしまう。それに蘇摩以外の全員が多少なりとも驚いた様子だった。蘇摩は先ほどと同じように手を重ねて足を組んでいるままだった。戦争が起きたほうがありがたいだと?ふざけるな!戦争が起きるたびに一体何人の犠牲が出るというのだ。あの大戦も日本が徹底抗戦をしなければ、原爆が落ちることもなかった。

 

あのような世界中を巻き込む悲劇は起きなかったのだ。それをあの男はこともなしげに踏みにじった!決して許されることではない。

 

「落ち着いてください、織斑先生」

 

轡木さんが私をなだめるように口を開き、両肩を抑える。私は、なんとかこのまま怒りに身を任せそうになる自分を抑えて、座りなおす。楯無も今の発言は思うことがあったのか蘇摩を険しい目で見ている。だが、蘇摩はどこ吹く風といった様子だった。それが無性に腹立たしく感じる。

 

「ご怒りはごもっともですよ?戦争に反対するのは素晴らしい考え方だと思います。あなたの様な人ばかりであれば、戦争という最も悲劇的で非生産的な外交手段はなかったはずですし、俺もこんなトチ狂った人間なんかになずに、純粋に一般的な生活が送れているかもしれません」

 

蘇摩はここで初めて笑を崩し、真剣な表情になった。その表情と言葉は彼の本心なのだろう。でも、だからといって先ほどの言葉が消えるわけではない。

蘇摩は目を閉じて、もう一度開いた。

 

「ですが、現実は小説よりも奇なり。俺と同じようなことを考えている人間は未だ世界中にいます。それに、あなたも轡木さんも楯無も、この俺も。全員が戦争の恩恵を受けていると言っても過言ではありません」

 

「っ!」

 

「そう、戦争がなければまだこんな豪華な施設を作れることはなかったかもしれません。戦争がなければ敗戦後の高度経済成長もなかったかもしれない。戦争がなければここまで急速に技術が進歩することはなかったかもしれない。すべて、戦争があり、あの敗戦のどん底があったからこそ、日本は成長を遂げることができたと言っていい。戦争がなければ、日本はISが誕生しても、それをほかの国々に吸収されて、さらに遅れをとってしまい、今よりアメリカの保護を受けざるを得なくなっていたかもしれない。日本が、この絶対数に劣るこの国がISが世界中に出回った今でもほかの国々と対等に渡り合えているのは、戦争の技術進歩と、敗戦後の高度経済成長という巨大で磐石な地盤があってこそのこと。

そして、戦争のない平和が続いた今。もはやあの日本を一時的に勝利に導いた英雄も現れなければカリスマもいない。堕落し、腐敗しきったお頭のでかい政治家の巣窟とかしている」

 

「……っ」

 

「危機感という栄養がない限り、この日本は堕落し続けるのみ。国民もそうだ。何かあるたびに政治の批判ばかりをして、新聞やテレビといった偏った情報を鵜呑みにして日本お政治家はダメだー。日本の政治は腐っているー。とか、知ったような口ばかり聞く始末。ならばいっそのこと戦争という刺激と危機感を与えて、思い出させる必要があるのではないのかな?」

 

「……」

 

「蘇摩……」

 

「……ふむ……」

 

それは一つの真理だった。少し賢い人物ならば、一度は考えついたことがあるかもしれない。でも、誰もが道徳やら、人道やら、厨的やらといった世間論というものにかき消されていく。それらも確かに正しい。だが、蘇摩の言葉もまた、正しいのだ。

 

ただ単に戦争はダメだー。という2言論にしか物事を考えられない人間ならばすぐにでも中身のない反対論を言い出すだろう。世の中の大衆がそうであるように。

だが、物事をある程度深く考えられる人間ならば、反論は難しい。今の彼女らがそうだといえよう。

 

(全く、らしくないことが多いな。こんな扇動家みたいなこと似合いもしないのにペラペラよくしゃべれたもんだな俺も)

 

「まあ、こんな答えの見えない禅問答はあとにしておきましょう」

 

蘇摩はそう言うと、また表情に笑を作る。だが、その雰囲気は未だに鋭い刃を思わせるままだった。

 

「まあ話が脇にそれましたが、あれらを言わなければ、いきなり名前だけ言ってもわけがわからないでしょうからね」

 

蘇摩はそう言ったあと、軽く深呼吸した。そして、ようやくその名を口にする。

 

「俺達の存在を一言でまとめるとこう言います」

 

それは古来より、不幸を告げるとして人々が忌み嫌う。漆黒の鳥の名前。

 

「RAVENと……」




ええ、だいぶ変なネタが飛び出してきましたが、特に1.19はわかる人にはわかるかと、現実で起きた事件の名前を変えただけですので。流石にガチで事件の名前を出すのは気が引けましたので。

それとスネーク分が多いのは仕様です。メタルギアとかも好きなものですいません。
ではでは

感想、意見、評価、お待ちしています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。