インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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なんだかまだまだ続きそうな予感が……


タッグマッチ Ⅴ

「ぜあああ!」

 

気合とともに振り切られた一閃は『敵』の腕を切り落とす。

敵は奇妙な電子音を響かせて後退するが、それをさせまいと接近、もう一撃放つ。

 

「はああ!!」

 

今度の斬撃は流石に防がれたものの、一夏の顔にはわずかながらに笑が生まれていた。ようやく『敵』の防御の間を縫って確実なダメージを与えられたのだ。

腕を一本失った『敵』失った方は大型ブレードを持っていた方で、これで相手の格闘能力は、今のところほぼゼロになったと見ていいだろう。

 

(まだほかの格闘手段があるかもしれないけど、今は左腕の砲撃のみと見ていいな……)

 

一夏はとりあえず防がれた雪片を下げて、距離を取る。様子見をする余裕も出てきた。

本当はなるべく急ぎたいところだが、ここで焦って撃墜されれば元も子もあったものではない。焦らず、確実に目の前の驚異を取り除く。

そうすれば安心してほかの援護なりに行けるのだから。

 

「よし……」

 

しっかりと雪片を両手に保持。可能ならここで『零落白夜』は使いたくない。あれの攻撃力を持ってすれば目の前の『敵』は簡単に撃破できるはずだ。

でも、同時にこっちの経戦闘能力を著しく損なってしまう。ただでさえ燃費の悪いこの機体でさらにエネルギーを消費するわけには行かない。

 

「っ!」

 

『敵』が砲撃を仕掛けてくる。それを躱し、雪片で斬りかかる。

狙うのは左腕。残ったこの腕を破壊できればほぼコイツは戦えないと見ていいはず。そうすれば無視してもいくらいだ。自爆するかもしれないけどその時はその時で退避でも即時破壊

でもすればいい。

 

「ぜああああ!」

 

両手で薙いだ刃はエネルギーシールドによって防がれる。そう簡単にはやらせてくれるわけはない。

もう一度距離をとって、チャンスを図ろう。

 

そう思い、また剣を下げ、距離を取り直す。

 

「っし……まだまだ」

 

いける―――そう言おうとしたとき、それは起こった。

 

ドォン!!

 

「!!」

 

後ろで起こった爆発音。後ろの方で戦っていたのは蘇摩と3機の敵のはず。いままでここまで大きい爆発音なんて聞こえなかった。まさかと思い振り返る。

そこに広がった光景は―――

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

機体の半分近くが破損し、頭や右肩などから血で暗銀の装甲を赤く染めている蘇摩だった。機体の背にまとっている碧のマントも、半分以上が消し飛んで、残った部分がこげている。

肩で息をしており、見た目の上では出血も多く、その傷ではまともに立っている方が不思議なほどだ。

 

まさか、敵の攻撃を食らったのか―――

 

当然だ。彼は1人で3機の『敵』を相手にしているのだ。ここ以外でも爆音の聞こえた箇所は4箇所。だいたい2人1機位の配分になっていつと思う。

そんな中で俺は1人1機、蘇摩は1人で3機だ。多分誰かが1機を落としたのだろう。第4アリーナの方で凄い音が聞こえた。あっちは楯無さんと簪さんがいたあたりだから、さすがだと思う。今は他の人たちのところへ向かっているだろう。

 

楯無さんたちでようやく1機を落とせるレベルの敵を蘇摩は3機も相手にしているのだ。

ここまで持っただけで表彰ものだ。

 

ピー

 

「―――っ!!」

 

警告音が響き、そちらに意識を集中させる。

振り返ると、今まさに左腕のレーザーを撃とうとしている『敵』の姿があった。

 

「くそっ」

 

放たれるレーザーを体を捻ってぎりぎりで躱す。くそっ。

 

(落ち着け……焦るとそこで終わる……おちつけ……)

 

必死になって息を整える。心臓の鼓動がバクバクと大きく体の中で脈打ち、それが呼吸を加速させる。

それを無理やり押さえ込み、なんとか冷静さを保とうとする。

 

(どうする……このままだと蘇摩が危ない……一刻も早くこいつを倒さないと……)

 

一刻も早く倒すには、『零落白夜』の使用が一番迅速で確実。だが、これを使用すればエネルギーの大幅なロスにつながり、結果行動時間が著しく短くなる。

『零落白夜』を一瞬だけ発動させて、シールドを切り裂くか?無理だ。

 

それくらいのことはとうに思いついている。結果は発動させた一瞬だけは簡単にシールドを引き裂くことに成功した。だが、シールドを切ったのはその時だけで発動を切った瞬間にシールドに刃が引っかかり、押しても引いてもびくともしなくなってしまったことがある。シールドを切り裂いて、撃墜までダメージを与えるにはその時まで『零落白夜』を発動させる必要がある。

 

だが、相手のエネルギー量を考えると、それをやってしまうと残りの稼働時間が激減してまともな戦闘ができなくなってしまう。

 

(……そうだ!)

 

あるじゃないか。ちょっと危険だけど、相手を確実に落としきって、エネルギーを十分に残す方法が。

だが、それは賭けだ。一歩間違えれば、こちらが落ちる可能性がある。そして、やり直しは聞かず、成功するよりも失敗する確率の方がでかい。

 

(でも……迷ってる場合じゃない……!)

 

「すぅ……はぁ……」

 

深呼吸。気持ちを落ち着かせる。失敗不可の一発勝負。それは初めてじゃない。

かつての無人機襲撃、IS暴走事件、修学旅行IS暴走事件。でも、それらは仲間がいたからできたこと。今回は仲間の助けはない。

 

「だけど……!」

 

ここでやりきらなければ、俺は俺の思いにかけて、やりきらなければならない。

 

「守るために……」

 

自分の周りにあるもの全てを、この手に届くもの全てを、守るためにはこの程度のことでつまずいてはいられない!

 

『敵』が左腕をこちらに向ける。エネルギーキャノンによる砲撃が来る。いままで幾度となく避けた砲撃だ。

エネルギーの光が、徐々に広がり今まさに吐き出されるその瞬間に、一夏は動いた。

 

「ここだ!」

 

『瞬時加速』。放たれたエネルギーの柱をスレスレで通過していく。このままでは危険だと判断したのか砲撃を中断する『敵』。一夏はそれに構うことなく肉薄し、両手で持った雪片を振り抜く。

 

それは展開されたエネルギーシールドに防がれ―――

 

刃とシールドがぶつかった瞬間、一夏の口元には笑が浮かんだ。

 

 

 

 

パチィ

 

 

 

 

それは斬撃と盾がぶつかったにしては、あまりにも軽い音だった。

それもそのはず、振るわれた雪片はその刃だけを残して、それを持っていたISとその操縦者は消えていたのだから。

 

 

ガキィン!

 

 

突如本体下部に衝撃が走る。『敵』が下を向くとそこには左腕部『雪羅』のエネルギークローを展開した一夏が、そのクローを『敵』の本体に叩きつけるようにしていた。

 

「もらったあああああ!!」

 

リミッター解除の『2段階加速(ダブル・イグニッション)』その他のISをアビス・ウォーカーをすら引き離す隔絶した圧倒的速度を叩き出し、『敵』もろとも、アリーナのエネルギーシールド

に突撃した。

 

エネルギーと実体物がぶつかった特徴的なバチバチといった音と共にシールドに叩きつけられる『敵』。かなり強い衝撃が加わったというのにアリーナのシールドにはヒビ一つ入ることはない。一夏はすかさず『雪羅』を的に押さえつけたままクリーモードから荷電粒子砲モードへと切り替えた。

 

「前回みたいにシールドの強度を弄ったのは失敗だったな!!」

 

言うや否やに、荷電粒子砲を連射。

 

砲口と本体が密着した状態で発射せれる荷電粒子砲は、『敵』の絶対防御すら発動させずにそのボディを尽く砕いていく。数秒経たないうちに本体には大穴があいて、『敵』h行動を停止した。

さらに一夏は徐々に距離をとっていき、行動停止した『敵』になお射撃を加える。

 

頭部、脚部、腕部。余すことなく砕いていく。それは先の無人機襲撃で破壊したはずの無人機が、再び動き出したことの教訓だった。

まあ、蘇摩に指摘されるまでそうは思っていなかったのだが。

 

無人機が完全に粉々になって、初めて射撃を止めた一夏。

 

残量エネルギーは、結構減ったがそれでも零落白夜を使うよりは少ない。

まだ戦闘は継続可能な量だ。

 

 

ズゥ……ン

 

「っ蘇摩!」

 

一夏は急いで蘇摩のところへ向かた。蘇摩は今なお3機の『敵』と激し攻防を繰り広げていた。いや、もはや蘇摩は守勢に回りかけている。

明らかに攻撃頻度は落ちてきて、敵の攻撃を回避するよりも大盾受け止めることが増えてきている。

 

一刻も早く化成しなければ、そう思ったとき蘇摩が一夏に言った。

 

「来るな!!」

 

「!?だけど蘇摩!」

 

蘇摩は3機から距離を取る。そして、一夏の方へと着地した。

 

「いいか、この状況でお前が加わっても、大して変わらない。だからお前は他の連中のところに行ってさっさと片付けてこい。そしたら、そいつらを連れて俺のとこに戻って来い。

そうすれば少なくとも3対3か3対4だ。そうしたら十分に活路は開ける」

 

蘇摩の言葉に、一夏は考え込む仕草を見せる。だが、それもすぐのことで顔を上げた。この状況では下手に問答するよりも蘇摩の言葉に従ったほうがいいと判断したことだった。

 

「……わかった。死ぬなよ」

 

「は……もちろんだ、と言いたいが……持って15分だ。そのあいだに応援連れて来い。いいな」

 

「ああ。絶対に連れてきてやる」

 

一夏は、蘇摩に背を向けて、白式のウイングスラスターを蒸し、上昇する。それをさせまいとして『敵』の1機が一夏に腕を向けるが、それは蘇摩が切り込んできたことで中断させられた。

 

「後ろから撃たせるような真似は、させねえよ……」

 

蘇摩は今度は右腕にアサルトライフルを展開し、両腰のブースタを点火する。少し右側の出力が不安定だが、大丈夫だろう。

 

「待たせたな人形ども……試合再開と行こうじゃねえか……」

 

蘇摩は額の右腕の部分を一時収納し汗を拭う。そして、すぐに腕部を展開し直し、構える。

 

その顔には、笑が消えていた。

 

――――

 

『織斑先生!敵の反応が2機、消えました!』

 

「ああ。こちらでも確認している」

 

ISのピットから山田先生の報告が届く。そう、モニター上では一夏と、楯無たちがそれぞれ1機ずつ『敵』を堕としたのが確認できた。

 

「……これであと7機。うち誰とも戦闘をしていない1機は指揮官タイプなのか?」

 

途中からあの誰とも戦闘を行わず、特に行動を起こさなかった1機が先ほど両腕を上げて、まるで合唱の指揮を取るかのように腕をおろしたときから、各機の動きが変化した。

まるですべての活動権限が、1機の指揮官に委ねられたような変わり方だ。

 

「……だが、着実に他の機体を落としていけば、あの指揮官ともいずれはぶつかる。それで問題はないが……」

 

千冬は一夏の写っているモニターを見て、ふと笑った。

 

「つい数日前まではひよっこだったくせに、いつの間にこんなに強くなっていたのだな……」

 

本当に夏休み明けまでは、あの凰にボコボコにされる程度だったというのに、今日のトーナメントでは凰自身が油断していたこともあったが、勝つほどに腕を上げた。

この数週間で、今までにないほどに実力をつけた一夏には目を見張るものが出てきた。

それもこれも、あの男の仕業、か……。

 

千冬は今なお3機『敵』を相手にしている蘇摩に目を向けた。

 

(この実力、そしてイツァムの奴に対する反応……あいつはもしかするととんでもない傭兵なのかもしれないな)

 

千冬はもう一度、各モニターを見渡し、マイクのスイッチを入れた。

 

「シールドの解除状況は?」

 

『現在44%。敵は以前よりも強力なロックをかけています。もう少し時間を……』

 

「山田先生。突撃部隊は?」

 

『全員、配置につきました。あとはシールドの解除を待つのみです!』

 

「そうか」

 

報告を聞いた千冬は一度言葉を切り、息を吸った。

 

「シールドを解除しだい突撃、舞台を2つに分け、一隊を敵指揮官と思われるISへ、もう一隊を蘇摩・ラーズグリーズの援護へ向かえ!シールド解除班は一刻も早くロックを解除しろ!」

 

『『了解!』』

 

各員への指示を飛ばしたあとで、マイクのスイッチを切る千冬。

その顔は、複雑なものへと変わってきていた。




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