インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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タッグマッチⅢ

 

「お、織斑先生!」

 

廊下を走っていた真耶は、やっとの思い出見つけた千冬に駆け寄る。

 

「山田先生。状況は?何が起きている?」

 

「し、襲撃です!こ、この画像を見てください」

 

息を切らしながらも、携帯端末を取り出す真耶。受け取った千冬が見たものは、数分前のアリーナ・カメラで撮影された敵が映し出されていた。

 

「こいつは……!?」

 

「はい!以前手激してきた無人機と同じ、もしくはその発展系と思われます」

 

「数は?」

 

「全部で5……いや、8機です!各アリーナのピットに高速後下して、各専用機持ちを襲撃しています。各組に1機ずつの配置でシャルロットさんが一夏さんたちの援護に向かいました!」

 

そこまでの言葉を聞いた千冬は、心底忌々しげに顔を歪め、右手を爪が食い込むほどに握りしめた。

 

「くそっ……早すぎる。まだ『あいつ』は動かせない……」

 

「え……?」

 

ぼそりとした呟きに真耶は反応した。だが、小さな声だったために聞こえることはなかった。

それに、今の言葉は思わず漏らしてしまったらしく千冬は口を閉ざした。らしくないといえば、らしくない焦り方ではある。

 

ズウゥ……ン。

 

再びの衝撃。それにより学園の施設が揺れる。

 

「お、織斑先生!私たちはどうしたら!?」

 

IS学園の防衛機構について、あの男はこんなことを言っていたのを千冬は思い出した。

 

(現役を引退した人間に実質指揮を任せるのは、よほどの人手不足か、上が阿呆なのかな?まあ、どっちでもいいが)

 

この学園では、緊急事態において「予測外事態の対処における実質的指揮」は全て千冬に一任されている。それは彼女が『ブリュンヒルデ(世界最強)』であったことに他ならない。

 

(く……世界最強の名も、時には枷にしかならんか……!)

 

「各セクションの状況は?」

 

「前回と同じく、最高レベルでブロックされています」

 

「わかった。教師は生徒の避難を最優先。同時にシステムにアクセスしてロックを解除しろ。戦闘員は全員突入用意し、武装はレベル3で2人1組(ツーマンセル)を基本に拠点防衛型に布陣を敷け!」

 

「りょ、了解!」

 

真耶は背筋を伸ばし、そう言うと戦闘員である彼女は自分の機体を取りに格納庫に走って行った。

その背を見送り、千冬は思い切り壁を殴りつける。

 

ドズン!という大きな音が響き、壁が少しへこんだ。

 

「やってくれたな……だが、甘く見るなよ……!」

 

千冬の声は酷く低く、ドスの利いたもので聞いたものに恐怖を呼び起こさせるようなものだった。

 

――――

 

「どうする?この状況……」

 

「どうするって言っても……この状況じゃあな」

 

蘇摩と一夏は目の前の光景に四苦八苦、というより……口調からは感じられないが、かなり切迫している。

彼らの前には、例の『敵』が4機、存在していた。

 

「俺ら以外の専用機持ちもそれぞれ1機ずつ対応しているから援護は考えないほうがいい。強いて言うなら楯無と簪の2人が一番確率でいえば高いかな?」

 

「ってことは、状況は……」

 

「絶望的だ」

 

淡々という蘇摩であったがその額からは冷汗が流れ、口元も憎々しげに歪んでいる。

 

「くそ……1機だけなら、何とかなるかもしれねえけどよ」

 

一夏は思わずそんなことを口にした。それは彼の自信と前回の経験からの言葉だった。

倒すことはできなくとも、1機だけなら時間稼ぎくらいはいくらでもできる。その自信はあった。

 

「――――」

 

不意に、4機の中の1機が一夏に突進した。一夏は、それを躱し、半身になり、後ろに下がる。半身になることで、突進してきた1機と残りの3機が視界に収まり、警戒が可能だからだ。

蘇摩を見る。蘇摩は3機の『敵』に対して立ちふさがるように浮遊していた。

 

「蘇摩!」

 

「お前はその1機に集中していろ!」

 

「―――っく!」

 

一夏に突進した1機が再び一夏に仕掛ける。大型ブレードを振りかざし、突進する『敵』に対して一夏は雪片を正眼からやや切っ先を右にずらした状態で見据える。

 

「――――」

 

「ふっ!」

 

振り下ろされる大型ブレードに一瞬刃を拮抗させる。かなり強力なパワーアシストを採用させているらしく、かなり重い斬撃だった。だが、拮抗させたのは一瞬。すぐに刃と刃が交差している部分を支点にして刃を斜めにする。

 

『敵』の大型ブレードは滑るように一夏から逸れ、高出力のスラスターの推力は、そのまま『敵』を一夏から引き離すのだった。

 

「―――よし!」

 

一夏は『敵』の大型ブレードを受け流した一夏は、そのまま『敵』に向かって反転する。そして、一気に『二段階加速(ダブル・イグニッション)』をかける。そして、すさまじい速度で肉薄する。一夏を通過する形で突進していった『敵』は一夏に向き直る途中だった。

 

「もらった!」

 

雪片を振りかぶる。そのまま敵の背中に、ブレードを振り下ろした。だが、それは展開されたエネルギーシールドに防がれる。

 

「くそっ」

 

一夏は、ブレードを弾く様にして距離をとる。一撃を与えたら高速離脱。そして、雪羅の荷電粒子砲を展開し、撃つ。

それも展開されているシールドに弾かれた。

 

「これもダメなのか……ならあとは零落白夜か」

 

だが、それはまだ使うべきではない。もう少し『敵』の情報がほしい。特にあのシールドの能力がどこまでなのか……それと俺の予想通りならあの機体には強力な遠距離武装もあるはずだ。

そっちのほうも見ておかないと、いきなり切り札出してそのまま撃墜なんてのはごめんだ。

 

そんな一夏の思考を読むかのように『敵』は左腕を突き出す。その砲口からはビームが覗きだしていた。

 

「……こい!」

 

一夏は、放たれたレーザーを紙一重で避けた。

 

――――

 

「さて、と……」

 

蘇摩は右手に重機関銃を展開する。そして、3機いる『敵』の向かって左側の1機に発砲する。撃たれた『敵』はシールドを展開する。小口径弾程度では到底突破は不可能であろう高出力のエネルギーシールドが銃弾を悉く弾く。

 

「よし……」

 

だが、それは蘇摩の狙い通り。蘇摩はそのまま『敵』に発砲を続けながら中央の『敵』に突進する。『敵』は右腕を突き出し、エネルギー砲をは発射。

 

「ちぃ!」

 

蘇摩は機体を捻り、『瞬時加速』を使用。錐揉み飛行に似た飛行方で中央と右側の『敵』の間をすり抜け、抜けざまに斬撃を加える。

 

ギイィン!

 

金属がぶつかる鈍い音がしたが。蘇摩の剣にも、『敵』肢体にも特に変化はない。

 

「ちっ……頑丈だなおい」

 

言った直後、蘇摩は急上昇する。瞬間、蘇摩のいたところを2条の閃光が貫く。

 

「……ジリ貧だな。このままじゃあ、ちょっと持ちそうにないな」

 

ハイパーセンサーのレーダーを展開するが、砂嵐が流れるだけだった。あの『敵』が妨害電波を流しているらしい。

 

「周りの状況もわからないんじゃ、かなり……」

 

考える暇も与えないとばかりに、蘇摩に『敵』の1機が突進する。蘇摩は大型ブレードほ振り下ろす敵に対して、真っ向からかち合った。

 

ガギイィンという金属の甲高い音が響く。蘇摩と無人機が、互いの剣で鍔ぜり合いをする。

 

「ふん……それで?今度は側面から砲撃か!」

 

『敵』の剣を押し出すと、蘇摩はそのまま距離をとる。そこに閃光が走る。

 

「攻めきれないな。かといって守勢に回ればその時点で詰む……困ったな」

 

蘇摩の顔は、今までにないほどに冷汗にぬれていた。

そこに追い打ちをかけるかのように、『敵』の1機が『瞬時加速』で突進し、2機がエネルギー砲を発射した。

 

――――

 

「くっ」

 

簪は『敵』のブレードを薙刀で受け流す。

 

「『鏡水』……」

 

そして、受け流した勢いのまま、薙刀を回して横にふるう。『敵の』腕を狙った一撃は、展開されたシールドによって防がれる。

 

(無間の技でも間に合わない……これは、ちょっと拙いな……)

 

「簪ちゃん!退って!」

 

楯無の言葉に簪はすぐに下がる。今度は楯無が蛇腹剣『ラスティー・ネイル』をふるう。

そして、簪に向けていた右腕に巻き付かせる。

 

「はあ!」

 

一気に剣を引く。するとロープのようにまかれた刃が『敵』の右腕を削るように楯無の手元に戻る。そしてその攻撃により『敵』の右腕はビーム砲を発射する間に、ゴトン、と鈍い音を立てて、地面に落ちた。

 

レーザーは暴発し、落ちた右腕そのものを粉々に吹き飛ばす。

 

「うふふ……まずは右腕一本もらったわよ」

 

楯無はもう一度『ラスティー・ネイル』を振るった。だが、今度はエネルギーシールドに阻まれ、直後に左腕のレーザー砲で粉々に破壊された。そして、そのレーザー砲は楯無にも牙を剥く。

 

「くっ」

 

楯無しはすぐに水の膜を展開。レーザー砲は展開された水の膜を貫通するが、直後にあらぬ方向へと拡散させて消えた。

 

「うふっ……淑女には簡単には触れられないのよ」

 

「……こっちも」

 

『敵』の死角に回り込んだ簪は2連装がた荷電粒子砲『春雷』を連射。

最初の数発は、直撃する。だが、それ以降は展開されたエネルギーシールドに阻まれた。

 

「―――っく!?」

 

「!?だめ、簪ちゃん!よけて―――」

 

急に『敵』が簪を標的にして、『』瞬時加速を使用。一気に簪に肉薄する。簪は『春雷』で迎撃するが、エネルギーシールドの前に全て弾かれる。そして、『敵』は大型ブレードを振りかざした。簪はとっさに薙刀を両手に構える。

 

そして、『瞬時加速』の加速力も加わった斬撃が、簪に振り下ろされた。

 

「きゃああ!!」

 

「簪ちゃん!?」

 

簪は『敵』にブレードの一撃をもろに喰らってしまい、吹き飛ばされる。一応薙刀『夢現』で防いだようだが、それでもかなりのダメージになるだろう。

 

「よくも、私の妹を……」

 

楯無は、機体を包む水のベールを解き放った。それは楯無しの頭上に渦を描き、一塊に集約されていく。そして、それは一本の巨大な『槍』へと姿を変えた。

 

「ねえ、知ってるかしら?水ってねどれだけ圧力をかけても、その体積は変わらないの」

 

『敵』は警戒するように、距離をとる。だが、楯無の顔には、殺気の籠った冷たい笑みが貼り付けられていた。

 

「つまり貴方は、この水にどれほどの圧力がかかっているかを知らない……」

 

水の『槍』は徐々にその形状を精錬されたものに変化させていく。楯無のISのハイパーセンサーには現在どれくらいの圧力がかかっているのかを示すメーターが表示されていた。

 

『グングニル。現在78%』

 

(もう少し……それで『あれ』はつぶせる……!)

 

「――――」

 

だが、『敵』はそれに脅威を感じたのか、警戒している様子から一転、左腕を楯無しに向ける。

その砲口からは、ビームの光が漏れ出していた。

 

「く―――」

 

「させない!!」

 

突如、どこからともなく大量のミサイルが、『敵』に降り注ぐ。『敵』逸れの迎撃のために、左腕をそちらに向け、レーザー砲を発射する。

だが、ミサイルはその悉くがレーザーを避けるかのように軌道をずらした。

 

「!?!?!?!?」

 

『敵』はとっさにエネルギーシールドを展開。ミサイルを防ぐ。そこに簪が『瞬時加速』で突進をした。

 

「簪ちゃん!」

 

『敵』はシールドを解き、大型ブレードを振り上げる。だが、簪の表情は、とても落ち着いたものだった。

 

「私は、私は戦える……!」

 

「簪ちゃん……」

 

薙刀を、斜めに構える簪。そして、『敵』容赦なく簪にブレードを振り下ろした。

 

「―――『連亭』」

 

「!?!?」

 

ゴトン……!

 

鈍く、大きな音とともに、『敵』腕が落ちた。『敵』何が起きたのか側からに様子で、わけのわからない音を響かせて固まった。

無間流薙刀術『連亭』それは至高のカウンターであり、先手である。

 

相手の動きを利用して、自分の斬撃の威力を最大に高め、一瞬にして切り落とす。無間流の薙刀術。

それは簪の努力のしるしと同時に、彼女の追い求める力の片鱗でもあった。

 

「お姉ちゃん!今!!」

 

「ありがとう。簪ちゃん!!」

 

楯無は、その巨大な水の槍を掲げ、空中に飛び上る。

 

「グングニル……耐えられるものなら、耐えてみなさいな!!」

 

放たれる槍。それはすさまじい速度をもって『敵』牙をむく。

 

そして槍の穂先が『敵』に触れた。

 

ドオオオオオオオオ

 

それはもはや水の放つ音ではない。極限までの圧力を加えられた水は、『敵』に触れた瞬間、敵の装甲を粉々にしながら弾けていき、そこからまた水の槍が貫いて、弾けて、また貫く。それはもはや水でできたドリルのように、『敵』をたやすく粉々にしながら貫いていく。

 

そして、すべての水が弾けたあと、『敵』はバラバラになった状態で、地面に散乱した。

 

瞬間。

 

『敵』の残骸とともに地面を濡らした水が、極細の槍となって、再び『敵』の残骸を貫く。

 

それはまさに立てた槍に貫かれた敗残兵が如しであった。

 

巨大な槍で、対象を破砕した後に、いくつもの槍が再びバラバラになった対象を貫く。圧倒的な攻撃力を持った2段がまえの『奥の手』だった。

 

「うふふ……これが『グングニル』よ。水は時としてダイヤモンドをすら寸断するの。到底耐えられるものではないでしょう?」

 

楯無しの呟きは、もはや『敵』に届くことはないようだ




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