インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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タッグマッチⅡ

「ああ、ったくう!……一夏のやつ……!」

 

「どうされましたの?鈴さん」

 

試合が終わった後、更衣室で着替えている鈴がかなりむしゃくしゃした様子なのを見かねたセシリアが、鈴に訪ねた。

すると、鈴はロッカーを力任せに閉じて、振り返る。バタンというロッカーが大きな音を立てた。

 

「一夏の奴、最後の一撃だけ零落白夜を使ってきたのよ!雪羅のクローであたしの攻撃防いで、雪片でシールドをバッサリ!」

 

「成程……、鈴さんの格闘を防いでカウンターに最大火力の攻撃をぶつける……単純ですが、鈴さんの格闘を防げることが前提ですので……かなり一夏さんの技術はあがているということですわね」

 

「人がむしゃくしゃしてんのに何冷静に解析してんのよ!しかも長いし!!」

 

鈴は苛立ちが頂点に来たのか、ISを一部展開してロッカーを殴ろうとして……やめた。

 

「~~~~っ……はぁ……そしてさ。甲龍が絶対防御を発動したのを確認してから一夏はほぼ接射に近い距離で荷電粒子砲をぶっぱなして来たのよ!」

 

「……楯無さんにも言われていたそうですわね。一夏さんの能力とその装備が最大に活かせるのは、ゼロ距離射撃だと……」

 

「セシリアさ。一夏の技術が上がったって言ったじゃん?」

 

急に、鈴が落ち着きを取り戻したような冷静な声を出して、一瞬呆けたセシリアだったが、すぐに「はい?それがどうかしましたの?」と鈴に聞き返す。

 

「あいつさ。技術自体はあまり上がってないわよ」

 

「!」

 

その言葉は驚きだった。セシリアは彼の操縦技術が上昇しているのだと思っていたが、実際に戦った鈴が違うといった。

 

「一夏はISの技術も多少上がってるけど、一番大きいのは、戦いに慣れたってところだと思う。動き自体は前とあんまし変わってないし、ただ動き自体は前とはほぼ別物。

それにマニューバも特に新しいものはなかった。変わったのは瞬時加速のタイミングとか、攻撃の鋭さとか。それって技術の問題じゃないでしょ?」

 

「……そうですわね……ですが、鈴さんもそれだけではISの技術が上がったと思わなかったんですか?」

 

「思ったわよ。でもね一夏がさ、10日間も虐待まがいの訓練をした。って言ったからさ。それに今回のコーチは蘇摩だっていうし」

 

「……」

 

コーチが蘇摩。虐待まがいの訓練。10日間。そして、以前より知っている蘇摩の性格やあの剣では同国内に敵がいなかったでセラスさんと互角に渡り合う実力を考えると。

……怖いくらいに訓練の様子が鮮明に浮かび上がる。

 

何度も何度も立ち向かっては鎧袖一触に蹴散らされる一夏さんに、そんな一夏さんを笑いながら蹴散らしていく蘇摩の像。

……一夏さんも、戦いになれるし、度胸も付きますわね。その訓練が10日間もてばの話ですが。

 

でも実際持ったのだろう。油断したかもしれないけれど格闘戦では間違いなく代表候補でもトップクラスの能力を持つ鈴さんを下したのですから。

もしあの時、蘇摩さんを無視して鈴さんの援護に行っていれば勝てただろう。いくら一夏さんが成長したとは言えど、2人を相手にするのはまだ無理だろう。

 

ですが、そうなると誰よりも戦いに慣れている蘇摩さんのことですから、すぐに一夏さんの援護に向かうでしょうから、結果は変わらなかったかもしれない。

 

「……恐ろしいですわね」

 

「どっちが?」

 

「どちらもです」

 

鈴の質問にそう答えたセシリア。彼女は自分の考えを口にしていく。

 

「生身では圧倒的な能力を持ち、それがISに反映されている蘇摩さんも恐ろしい実力ですし、一夏さんも、地獄のような訓練とは言えど10日やそこらであそこまで強くなるというのは、

驚異というほかならないですわ。そしてもっと恐ろしいのはあの2人は未だ発展途上で、これからもどんどん強くなっていきます」

 

「蘇摩はきちんとした技術が身に付けば化けるわ。一夏はあの吸収力はもはや才能というべきものよね」

 

いずれ近いうちに、完全に追い越されるかもしれない。そんな予感がひしひしと伝わってきたのだった。

 

――――

 

「あっ。織斑君に蘇摩くーん!」

 

試合を終えて、次の試合を見るために観客席に移動していた2人にある人物が駆け寄ってきた。

整備部に所属している2年生のエース、黛薫子。

 

後期心旺盛な人物で、新聞まがいのことをしている。

 

「これこれ、このタッグマッチのオッズなんだけどさ」

 

「はあ」

 

「へえ」

 

見せられた紙には楯無&簪チームが堂々のトップを飾っている。まあ妥当な位置だろう。

学園内で唯一の『国家代表』。そして簪は今までは専用機が完成していなかったためにダークホースだったためかその分期待が強いということだろう。

まあどちらも曲がりなりにも暗部の人間だ。

 

楯無は言わずもがな、簪も本人の性格が引っ込み思案なのだが、その能力は目を見張るものがある。今回のタッグマッチで、本人がそれに気づけば爆発的に能力が上昇するはずだ。

次点で、デュノア&山田教師タッグ。学園の教師というだけあって実力派本物らしい。

 

一夏から聞いた話だとセシリアと凰のコンビをたやすく沈めたとか。

 

そしてシャルロットもその能力は大した者だ。

おれが代表候補の中でも一番やりたくないのはデュノアだろう。

 

彼女の得意技『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』がえげつない技だ。

 

特化した能力を持つ人間は、特化した能力が発揮できる距離以外で戦うのを嫌う。

理由は言わずもがな。故にどんな距離でも十分な能力を発揮できる人物は、ただの雑魚になる場合と、この上ない強敵になる場合がある。

デュノアは、強敵になる部類だ。

 

遠距離でのスナイパーライフルも平均以上の能力、近~中距離の射撃は代表候補中トップ。格闘戦ではパイルバンカーという外道兵器がある。

まさに俺にとって一番やなやつだ。

 

出来うるならばタッグマッチで当たらないことを祈る。

 

「それで俺たちは……最下位か」

 

「予想はしていたけど、なんか悔しいな」

 

俺の言葉に一夏が同調するかのように言葉を発した。だが、黛2年生は、その言葉を待ってましたかのように、目を輝かせた。

 

「そうなんだよ!だから今はいきなりの番狂わせで、一夏くんに賭けていた数少ない人たちは大盛り上りよ!」

 

「あ、あはは……」

 

一夏が乾いた笑いを発する。俺はRAVENのランクマッチで、賭け事がいつも行われているから慣れているが、一夏(こいつ)はそんな経験はないだろうから複雑な気持ちなのだろう。

俺はもう一度紙を見た。6組のタッグが並んでいる。

 

一夏も同じところに目がいったようで黛2年生に質問をした。それに黛2年生はちょっと興奮した感じで言った。

 

「そうそう、一年生が8人、2年生がたっちゃん込で2人で3年生が1人だけ。今年は1年生の専用気持ちの数が異常よ。しかも最新鋭の第3世代機がいくつも並んでいるのだし」

 

「すごいですね」

 

まるで他人事のような感想を漏らす一夏。お前のISも第3世代相当だろうがよ。

 

「何他人事みたいに言ってるの。君のせいでしょ。君の!」

 

黛2年生も同じことを思ったらしく、一夏をズビシッ、と指で指す。一夏は、「あ、たしかにそうかも」というような顔をしている。

 

「しかも篠ノ之さんのISに至っては第4世代相当なわけなんだし」

 

「みたいですね」

 

「らしいな」

 

「って!そんな話はどうでもいいのよ」

 

……自分から言い出したんじゃないの?(じゃね?)

 

見事、蘇摩と一夏の心境が重なった瞬間であった。

 

「とにかくね!次の試合前に何かコメントを頂戴!本当は最初の試合前にやりたかったんだけどすぐに行っちゃったでしょ?だからさお願い。これから全員分取りに行かないといけないから

私も多忙なのよ!はい、ポーズ!」

 

言うなりカメラのシャッターを切る黛先輩。相変わらず、行動力の塊みたいな人だった。

 

「写真オーケー!それじゃ、コメント」

 

「まあ、今の自分の能力で、どこまで行けるか、ですね。優勝を狙うのは自分の能力の限界値を知ってからです」

 

蘇摩がスラスラと言い切った。おお、さすが傭兵。こういうのも場慣れしてやがるぜ。

ってつぎ俺じゃねえか!?ええと、何言おうか……。

 

「ま、まあ……頑張ります」

 

「目指すは優勝!!くらい言ってよー」

 

「い、いやあそれは……」

 

「うーん……あ、そうだ!」

 

考え事をしていた黛先輩は、なにか思いついたのか、キリリ、とキメ顔(ドヤ顔とも言う)を作った。

 

「『俺に負けたらハーレム奴隷だぜ!』……てのはどう?」

 

「なんですかそれ!!」

 

「ん?たっちゃんが言ってたことだけど?」

 

「あああああああの人は!!」

 

一体俺をどこまで困らせれば気が済むんですか!?

 

だいたい、ハーレム奴隷ってなんですか!?

 

「あははは!織斑君ってからかうと本当におもしいわね。たっちゃんの言ったとおりだわ」

 

「いや、勘弁してくださいよ……」

 

「まあまあ、そう言わずに―――」

 

「危ない」

 

ものすごく冷静かつ落ち着いた声で、蘇摩は黛先輩の腕を引っ張り、俺に持ってきた。

 

――――ズドオオオオオオオ!!!

 

凄まじい爆音と衝撃が施設全体を揺るがす。

 

「きゃあああ」

 

「なんだよこれ!?」

 

「ふん……」

 

驚愕し、困惑する俺と黛先輩に、つまらなさそうに鼻を鳴らす蘇摩。

 

「大丈夫か?2人とも」

 

「ああ」

 

「私も……」

 

緊急のブザーが鳴り響き、天井の明かりが全て白から赤へ変色し周りに浮かぶディスプレイが『緊急事態警報発令』の文字を表示していた。

 

『緊急連絡!全生徒は地下シェルターに非難!繰り返す!全生徒は―――きゃあああああ!!!』

 

ブツッとアナウンスのマイクが切れる音がしたあと、廊下のスピーカーからは音は流れることはなかった。

続けて、再び爆音と衝撃が学園を揺らす。

 

「な、何が起きてるんだ……」

 

俺のつぶやきは、虚空へ溶けて消えていった。

 

――――

 

(予想とはかなり違うが……襲撃はあったな)

 

俺はこれから起こりうる戦闘の予感に、心躍った。ようやく、久しぶりに『本気』が出せる。

そんな漠然とした予感が俺の胸を見たしていった。




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