インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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タッグマッチ

タッグマッチ当日。

 

俺は開会式で全校生徒と一緒に並んでいる。ちなみに蘇摩は「生徒会の用事がある」と言ってどこかに行ってしまった。

 

「ふぁ~……ねむねむ」

 

「シッ、布仏さん。教頭先生が睨んでる」

 

のほほんさんがすごく眠たそうにしているのをとなりの女子が注意している。

まあ、あんな堅物を絵に書いたような教頭先生がいるんだからな。生徒からは「鬼教師」などと呼ばれているが……。

 

本当の鬼には程遠い気がする……。そう、あの千冬姉には……。

 

「では、次に生徒会長からの挨拶です。更識さん。よろしくお願いします」

 

軽く、それでもしっかりとした足取りで壇上に上がる楯無さん。眼前に伸びているマイクを調節して、口を開く。

 

「どうも皆さん。本日は専用機組だけでのダッグマッチとなりますが、今日の試合は必ず皆さんにとっても参考になるはずです。しっかりと見ていってください」

 

よどみなく、澄んだ声にしっかりとした発音。それらはまるでひとつの音楽のようですらある。

この圧倒的な存在感。これだけならみんなに人気の完璧超人な生徒会長で済むのだが、この人の人気ぶりはそれだけでは済まないことにある。

 

「まあ、それはそれとして!」

 

パンッ!と扇子を開く。そこには書道の先生も顔負けな達筆な字で『博徒』と書かれている。……ま、さ、か。

 

「今日は全生徒にも楽しんでもらえるようにと、生徒会である企画を作りました。なずけて……」

 

楯無さんがパチンと指を鳴らす。すると、空中投影ディスプレイが楯無さんの頭上で起動し、豪華に装飾された文字盤が表示された。

 

「『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!!」

 

わあああああああああああああああ!!整列していた生徒たちが湧き上がった。

 

「って、それ賭け事じゃないですか!?」

 

「織斑副会長、安心して」

 

「え?」

 

「根回しは、万全よん♪」

 

先生方のほうを見やると、誰ひとりとして反対している様子はなかった。……千冬姉だけが頭を痛そうにしているが。

 

「それにこれは賭けではありません。あくまで応援です。自分の食券を使ってそのレベルを示すだけです。そして見事優勝ペアを当てれば食券がもらえるだけです」

 

「それを賭け事と言うんです!」

 

だ、だいたい俺はそんな企画一度も聞いてないぞ!

そう言おうと思ったら、ちょいちょいと袖を引っ張られて、そちらを見ると、いつの間にかこっちまで来ていたのほほんさんがいた。

 

「おりむーにそうりーは全然生徒会に顔を出さなかったから~私たちだけで多数決とって~決めちゃった~」

 

「っく……そりゃ最近は剣道場にとアリーナにしか行ってなかったけど……」

 

なんてこった。先生な学び舎で公然と賭け事が行われるとは……

 

しかし、そこは生徒会長更識楯無さん。きっちり全生徒のハートを鷲掴みにしたうえで射抜いている。だが、俺の気持ちはマリンブルーだ。

もうやめて!俺のライフはとっくにゼロよ!?

 

「では、対戦表を発表します」

 

そう言うと、今度は賭け事が大々的に表示されていた空中投影ディスプレイが、今度はトーナメント表を映し出した。

 

「……俺の最初は……セシリアと鈴、か」

 

犬猿の中の2人だが、なんだかんだ言って機体の相性はいいのだろう。よし、5日間の特訓の成果を発揮するには十分すぎる相手だ。

……残りの5日間何があったって?

 

俺と箒はあの5日間で機体の整備技能が先生に賞賛されるくらいになったぜ。

 

……あとは察して欲しい。

 

残りは楯無さん簪さんペアVSラウラに箒。シャルロットは……ん?山田先生だ。なんで?

 

「専用機組の数が奇数だったからね。僕だけ溢れちゃったから急遽山田先生が入ってくれたんだ」

 

「なるほど」

 

(各ペアはピットで待機か。蘇摩ともう一度連携の確認を取っておこう)

 

俺は、とりあえず着替えるために更衣室を目指して走るのであった。遠いんだよ!!

 

――――

 

「また、お前と組むとはな」

 

「それはこちらのセリフだが、今回はしっかり連携を取るつもりだ」

 

箒とラウラというやや因果のようなペアがピットで話し合いをしていた。

 

「よし、早速だが相手は生徒会長にその妹だ。片方は国家代表。あなどれない相手だ。」

 

「ああ、それに簪の方はあまりデータがない。どちらも慎重に攻めることにしよう」

 

前回のトーナメントとは違って、険悪なムードではなく、まるで軍の作戦会議みたいな雰囲気になっている。

 

――――

 

「来たな。一夏」

 

「ああ。最初はセシリアに鈴だ」

 

「まんま遠距離と近距離のコンビだな。各々の役割がしっかりしていて、シンプルなぶん強力だ。……まあ、しっかりと連携が取れればの話だが」

 

そう、あの2人は機体の相性は凄くいいのだが、搭乗者の相性はそれに反比例するかのように悪いのだ。おかげで、各々の持ち味を生かしきれていない。

 

「まあ、()お前なら勝てる相手さ。落ち着いて、な」

 

「正直あの虐待まがいのあとじゃあ、よほどのことがない限り慌てることはないと思う……」

 

「そのための虐待だったからな」

 

苦笑いする一夏に方をすくめてみせる蘇摩。2人はその後も作戦を練り続けた。

 

――――

 

『ではこれより、タッグマッチ第1戦を行います。両者、アリーナに入ってください』

 

アナウンスが入り、それに伴って2ペアのISがアリーナに入る。

 

片方は白式にアビス・ウォーカー。もう片方はブルー・ティアーズに甲龍。

互いに空中を周りながら、スタート位置につく。

 

「最初にアンタ達にぶつかるって運がいいわね。まずは一夏。あんたをボッコボコにして、優勝まで突っ走るわ!」

 

「やれるならな。こっちこそ返り討ちにしてやる」

 

「あら、いくら一夏さんとは言えども10日やそこらの猶予では代表候補との差を埋めるのは厳しくてよ」

 

「悪いが一夏の今回のコーチは俺だ。甘く見てると懺悔することになる」

 

カウントダウンが開始される。それに合わせて、両者武装を展開。

 

一夏は雪片。蘇摩は2丁のアサルトライフル。鈴は双天牙月を両手に、セシリアはスナイパーライフルを展開する。

 

(まずは一気に突撃して、一夏に攻撃。蘇摩はセシリアに任せて一気に一夏を堕とす……)

 

(とりあえず一夏さんは鈴さんにお任せするとして、蘇摩さん。あなたの相手は私でしてよ)

 

3、2、1……GO

 

開始のブザーが響くと同時に鈴が突撃し、セシリアは距離を取る。対する一夏はそのまま刀を構え、蘇摩はセシリアに突っ込む。

 

ギイン

 

金属同士がぶつかり、火花が散る。鈴の双天牙月は一夏に止められて、鍔迫り合いが起きている。

 

「へえ、2本同時攻撃も防ぐんだ。やるわね」

 

「そりゃどうも」

 

だが、鈴の余裕は崩れない。一夏は、その理由を知っている。

 

「でもね、この甲龍相手に距離を詰めるとどうなるか、忘れた訳じゃないでしょうね!」

 

甲龍の両肩にある非固定(アンロック)ユニットが起動し、不可視の砲弾を発射する。砲身すら見えない衝撃砲は近距離戦闘でのみならず、砲撃戦でも強力なアドバンテージを持つ。

以前もこの武装で、一夏を追い詰めた。

 

確かに発射される砲弾が見えないというのは、かなりの驚異だ。

 

(今だ!)

 

だが、発射された時には、一夏は既に行動に出ていた。

 

瞬時加速で機体を横にスライドさせて、体を捻る。そうすることで、衝撃砲を完全に回避しきった一夏は今度は此方からと雪片で斬撃を加える。

 

「!?っく」

 

鈴はすかさず防御するが、動揺を隠し切れない。

 

「どうやって衝撃砲の弾道を見切ったのよ!」

 

「さあ、ね!」

 

腹部に強烈な衝撃が走り、吹き飛ばされた。

 

「きゃああ!」

 

なんとか壁に激突する前に踏みとどまったが、エネルギーが大幅に削られてしまった。鈴が一夏を見やると、片手で雪片を振り下ろし、もう片手で雪羅を起動させていた。

 

「くっ私の戦法を逆手に取るなんて……いつの間にそんな小細工を身につけたのよ!」

 

「10日間も虐待まがいの訓練をしてりゃあ嫌でも身に付くさ!」

 

さらに一夏は、雪羅のクローを展開、突貫してくる。

 

鈴は衝撃砲で狙い撃ちするが、何発もかするものの、直撃はない。

 

「くっ!」

 

格闘戦に移行すると、今度は一夏の変則二刀流に苦戦を強いられる。双天牙月は間合いが同じ2本なのに対して、一夏の変則二刀流はクローと刀の間合いが著しく違うために、対処がしづらい。

 

攻めようとすれば取り回しのいい刀で防がれ、守ろうとすれば刀の裏からクローが襲ってくる。

そして、隙あらば高出力の荷電粒子砲を撃たれるのだ。

 

(くっ、一夏ってこんなに強かったっけ!?)

 

夏休み明けにやった模擬戦とはまるで違う一夏の強さに驚く鈴。だが、そんなことにいちいち驚いてばかりはいられない。

距離を取り、体制を整える。一夏もおなじように距離をとった。

 

今の一夏は強い。そう考えを改めてる。そして、深呼吸。

 

一夏は、剣を構えいつでも攻撃屋防御ができるようにしている。目つきや雰囲気もまるで違っている。

 

「ったく……いつの間にかとんでもないくらいに強くなってるじゃないの」

 

「ははっ……どうも」

 

「でもね……それくらいで代表候補を倒せると思ったら間違いよ!」

 

気合とともに、一夏に突進する。一夏は、それに合わせて、鈴の攻撃を待つように構えを固めた。

 

――――

 

(いつの間にか、強くなっていますのね……。それもこれも蘇摩さん。あなたの仕業ということですか)

 

セシリアは、目の前の人物を見据える。両手に同じ種類のアサルトライフルをもち、左手の方を肩に乗っけている人物。蘇摩はしてやったり、というような表情をしている。

 

「どうやったら、こんな短期間で一夏さんをあそこまで強くできるのです?」

 

セシリアの質問に、蘇摩はこう答えた。

 

「なあに。RPGと同じさ。奥に行くほどに敵は強くなっていく。得られる経験値も多くなっていくってわけさ」

 

「つまり、常に彼がぎりぎりついて行ける位の難易度で行い、彼の成長を促したのですか!」

 

ライフルを撃つ。蘇摩はそれを紙一重で躱し。両手のアサルトライフルを撃つ。セシリアはそれを避けて、ブルーティアーズを機動。4基のビットを射出し、蘇摩へと向かわせる。

蘇摩を遠巻きに囲むようにして展開されるビット。蘇摩はそれを避けるように機動し、アサルトライフルでビットを撃ち落とそうと射撃をするが、ビットはそれらを躱していく。

 

「ちぃ!ビットの操縦技術上がってるじゃないか」

 

「一夏さんが著しく進歩しておられるのに、私が進歩しなければ代表候補生としての名折れですわ!」

 

ビットの射撃が入る。蘇摩はそれを全て躱すが、躱したところから偏光射撃によりビームが湾曲する。

 

「ちっ」

 

蘇摩はそれらを振り切るように加速するが、ビームは再び曲がり、追従していく。

 

「しつこいな!」

 

「逃しませんわよ!!」

 

セシリアからの狙撃が入る。蘇摩はそれをギリギリで体を捻り躱す。だが、再びビットの射撃が湾曲して襲いかかってくる。

蘇摩は右手の武装をアサルトライフルから大盾に変える。

 

ビットの射撃を大盾で防ぎ切った蘇摩は再び右手をアサルトライフルに変えて、セシリアに突進する。

 

「させませんわ!」

 

ブルーティアーズのスカート部分から、ミサイル搭載型のビットが起動し、ミサイルが撃たれる。だが、蘇摩はそれをアサルトライフルの斉射で破壊し、瞬時加速で一気に距離を詰めた。

セシリアはそれを予想していたようで、ライフルを持つ両手の一つを離して、新しく武装を展開する。

 

「インターセプター!」

 

「甘いな!」

 

IS用の小型ブレードを呼び出すセシリア。蘇摩はアサルトライフルの銃剣部で斬りかかる。セシリアはそれを防ぐが、そのうでははじかれて、ブレードは飛ばされる。だが、そのままライフルを蘇摩に向ける。ほとんどゼロ距離での射撃。スナイパーライフルは総じて近距離での取り回しは悪いぶん初速がすままじく早い。

 

この距離ならば、当たる!

 

「もらいましたわ!!」

 

引き金を引くまさにその時、後ろから衝撃が走った。

 

「きゃああああ!!」

 

衝撃により蘇摩の方向へ無理やり吹き飛ばされるセシリア。蘇摩はそれを躱したうえで、思いっきり回し蹴りを叩き込む。

さらに加速して吹き飛ばされたセシリアはPICをフル稼働させて体制を直そうとするが、さらに蘇摩の射撃により、バランスを崩してしまった。

 

「―――ヒッ」

 

気づいたときにはアリーナの壁が視界全面に広がっていた。

 

ドゴォオン!!

 

セシリアは盛大にアリーナの壁に衝突し、行動不能に陥った。

 

『試合終了。勝者―――織斑一夏、蘇摩・ラーズグリーズペア』

 

一瞬、静まり返る会場。だが、徐々に凄まじい歓声が湧き上がってきた。いきなりの大番狂わせとでも言うのだろう。

観衆の中にはそんな馬鹿なといった顔をしているのが多かった。おそらくあのペアにかけていたものたちだろう。反対に凄まじい勢いで狂喜乱舞している者もいる。そちらは俺らにかけていた面子だろう。

 

「なんとかなったな」

 

一夏が蘇摩の方へ近寄ってきた。その後ろでは凰が悔しそうに一夏を睨みつけている。

 

「どうだった?感想は」

 

「ああ。蘇摩の言ったとおりだったよ。鈴の目線を見てたら結構楽に衝撃砲の弾道が読めた」

 

不可視のはずの衝撃砲を見切った策。それは撃つ人間の目線を読み取ること。

銃を撃つときに、人は撃つ方を見る。中には見ない人もいるがそれはよほどのプロか馬鹿だ。

 

そして、凰鈴音はよほどのプロでもなければ馬鹿でもない。

衝撃砲を撃つときには、正直に撃つものを見据えるはず。ならばその目線の先こそが、弾の軌道そのものになるということ。

あとは発射のタイミングさえ読めれば躱すことは難しいことではない。

 

「衝撃砲は発射の瞬間に、どうしても空間位相に大幅な変化が現れるから、発射のタイミングを見切るのは簡単だからな」

 

「ああ、とはいっても、本当に蘇摩のあの訓練がなけりゃここまで俺はできなかったよ」

 

「なあに訓練を課したのは俺だが、クリアしたのはお前だ。そこは胸を張って堂々とすればいい」

 

蘇摩は笑って、ISを解除し、4mの高さを普通に着地していった。

 

……俺はそんなことはできないので普通にISの状態で着地してから解除した。




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