インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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素質はある

「はあっ……はあっ……はあ……」

 

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」

 

一夏と箒は、畳の上に座り込んで、肩で息をしていた。そして、疲労困憊状態の2人の前にいる人物は汗をこそかいてはいるが、息切れはしておらずピンピンしている。

独特の構えからの大振りな剣筋。その感覚を思い出しているようだった。

 

「うん。だいぶ感覚が戻ってきたな……」

 

その人物、蘇摩は幾度目かのすぶりの後、満足そうに頷くと思い出したように座り込んでいる2人に目を向けた。

 

「初日はこれくらいでいいだろうな。ゆっくり休んだら冷えないうちにストレッチでもしておくといい。じゃないと

明日筋肉痛がすごいからな」

 

「……ああ……」

 

「……わか、った……」

 

「すごい疲れ様だな。まあ、初日で3時間もぶっ通しでやっていたんじゃ無理もないよな」

 

3時間。その時間は蘇摩と2人が特訓を行っていた時間である。

その間、蘇摩は何度か危ういところはあったが一本たりとも2人からもらうことはなかった。流石に2人が座り込んだ時は蘇摩も多少息切れはしていたが、

僅か数十秒で息を整えたのだ。

 

「つか……なんで蘇摩は……そんなすぐに……息整うんだよ……」

 

一夏の疑問に蘇摩はこう言った。

 

「生きてきた場所が違うんだ。16年も生き死にの中を渡ってればこうもなるってものさ」

 

生き死にの中と蘇摩は言った。ただ戦場とだけ言わなかったのは理由がある。

彼が生きていたのは戦場だけではないのだ。時にはスラムだったり、時には普通の市街だったり、いろいろな場所で堂々と殺人をしたり、時の首相の暗殺を企てたりと、

様々なことをしている。

 

だが、詳しく話すつもりは蘇摩にはなかった。別に話したくないというわけではなく、面倒なだけだ。

話したところで何かがあるわけでもなし。特にメリットがないので態々話すのもバカバカしい。

 

蘇摩がそういう正確なのは、2人ともなんとなくわかっているので、何があったのかまでは聞かなかった。

 

「まあ、今度も明日の同じくらいにはじめるからそのつもりで」

 

蘇摩はそう言うと、スポーツドリンクを2本、箒と一夏に投げ渡して部室をあとにした。

 

――――

 

「それで?どうなの、一夏くんは」

 

『素質はあるな。十分すぎるほどに。もう少し刺激を与えれば、あとはちょっとしたことで開花するだろうな』

 

「ふうん。蘇摩が言うのなら間違いはなさそうね」

 

楯無は携帯越しに蘇摩と話していた。内容は言うまでもなく今回の一夏の訓練のこと。

当初は自分が行おうとしていたが、今回は俺がやろう。と蘇摩が言い、彼に任せたのだ。それは多分正解だと思う。蘇摩の訓練は

ただ彼について行けば自然とついてくる。それほどにはハードなものだ。

 

「蘇摩。どうおもう?」

 

『何がだ?』

 

「亡国企業。今回は動くと思う?」

 

『……俺だったら仕掛けない』

 

蘇摩の言いたいことはその一言で分かった。

彼は戦闘に関しては世辞にも指揮官に向いてはいない。だが、戦場を長期的に見渡すことはできる。

選択肢は2つあった。

 

ひとつは健全的に見て、今回の襲撃は見送る。

もう一つはこの会に必勝を期して、襲撃をかける。

 

だが、連続して襲撃をかけるには、今回は部が悪すぎるのだ。

各学年の代表候補生たちがひしめくタッグマッチ。

 

そして、3度目をかけるには流石に警戒を強めるだろう政府。もともと数で負けているのだ。今回襲撃すれば、失敗だけで済めばいい。

ヘタを取ると手持ちのISが使い物にならなくなってしまう恐れもある。

今回は見送ると考えるべきだろう。

 

「そう。でも警戒はするのでしょう?」

 

『ああ。これでも護衛だからな』

 

「フフッ。あまり根を詰めないようにね」

 

『詰めてるように見えるか?』

 

「全然」

 

それから、適当な話をして電話は切られた。

 

――――

 

「箒」

 

「ん?」

 

剣道場から帰る途中、一夏は箒にふと声をかけた。箒はそれに返事をする。

 

「蘇摩のことだけどさ。箒はどう思う?」

 

「どうとはなんだ」

 

「その、強さっていうのかさ。蘇摩の剣っていうか。何か思わないか?」

 

一夏の言いたいことは箒にはなんとなくわかった。蘇摩の力には色々と思うことがあった。

 

「そうだな……。一言で言えば凄い、かな」

 

「すごい、か」

 

「ああ。ただ強いんじゃなくて、本当に純粋な力っていうのか」

 

「感想は俺と同じだな」

 

一夏も最初に楯無との決闘で感じたこと。楯無しさんはかなり強い。そう思った。

蘇摩の強さは、ただ凄い。本当にそれだけだった。

 

「なんだか。タッグマッチ当日になったら、これまで見えていたものが、全く変わるかもな」

 

「ああ。そうだな」

 

2人は、漠然とした予感を感じた。それが現実となるのは、もう少しあとのことになる。

 

――――

 

「はあ!!」

 

「せえぃ!!!」

 

あれから4日が過ぎ、今日は生身での訓練終日。最後とだけあって、2人の気合のい入り方もすごかった。

その前の時も、これまでの訓練を鑑みると、恐ろしい成長の速度だ。この2人は。

 

箒が、突きを入れ、蘇摩はそれを体を捻る事で躱し、捻る事で得た遠心力を利用して、反撃をする。だが、それは一夏が横からの横薙により、止められた。

そして、一夏はそのまま交差した竹刀を滑らせ、そのまま蘇摩に斬り込む。

 

蘇摩はそれを紙一重で避け、下がる。だが、箒がそこから距離を詰めていき、今度は下段からの切り上げを放つ。

蘇摩はそれを弾く。箒は弾かれた剣を無理やり下げて、突きを放つ。

蘇摩はそれを剣で受け流すように止める。

一夏が反対側から袈裟斬りを加える。蘇摩はそれに対して箒の剣を弾き、そのまま切り上げで一夏の剣を弾こうとするが、止めるだけのとどまった。

 

「圧力上がったな!」

 

「おかげさまでな!!」

 

そのまま一夏と蘇摩は互いに剣を弾き距離を取る。一夏と入れ替わるように箒が突進する。

 

「おおおおおお!!」

 

ただの突進ではなく、篠ノ之流古武術裏奥義『零拍子』で、距離を詰める箒。

 

リズム無視の突進に、蘇摩は反応を僅かに遅らせた。

 

「!」

 

「喰らえ!!」

 

切り上げの一撃は、ギリギリのところで躱されるにとどまった。

だが、蘇摩は僅かに体勢を崩し、反撃が遅れ、箒は距離をとった。

 

「ふうっ。僅か5日でここまでとはな」

 

「まだまだ終わりじゃない」

 

箒は再び斬り込む。今度は一夏が一瞬テンポを遅らせている。箒の突きを躱した蘇摩に、回避した瞬間を狙っての一撃。

蘇摩は竹刀を斜めに構え、その一撃を受け止めようとする。

だが、一夏の一撃を片手では受け止めきれず、竹刀の刃を右手で支える形になった。

 

(5日前とはエライ違いだな。ったく感服するよ)

 

蘇摩は右手を含めて力を込め、一夏の竹刀を弾く。箒はその瞬間を狙って、なぎ払いを繰り出した。

蘇摩はそれを竹刀の柄を頭上に上げて、刃を下にして受け止める。鍔迫り合いの状況となり、柄に力が込められる。

 

箒は両手で、蘇摩は片手で互の剣を押し合う。

 

「!」

 

蘇摩は気づいた。剣が動かない。それはちょっと拙い。何が拙いのかは、この訓練にはもうひとり参加しているのだ。

 

「はああああ!!」

 

一夏はこの期を逃すまいと竹刀を上段に構え突進する。蘇摩のやや斜め後ろの角度は右側。蘇摩の左利きに対して最も反応が遅れる部分。そこに必殺の一撃を畳み掛ける。

篠ノ之流古剣術裏奥義『逆千鳥(さかちどり)』上段から、順に切り下ろしと切り上げを行う技。

 

その剣は頭上に振りかぶった剣が足が踏み込まれた時には、刃が逆になって振り上げらる高速2連撃。

蘇摩とは言えども、箒に抑えられている状況では避けようがない!

 

「まじか!?」

 

蘇摩がここに来て初めて驚愕の声を上げる。だが、遅い!

 

「はああああああ!!」

 

振り下ろされる剣。蘇摩は持っていた剣を手放して反転する。その瞬間、鍔迫り合いで力を入れていた箒は急に力の均衡がなくなったために体制を崩した。

 

「なあ!?」

 

そのまま蘇摩は右手を後ろに伸ばして竹刀を手にとった。

 

「っ!はああああ!!」

 

蘇摩が再び体制を直そうとしていることに驚いた一夏だが、掛け声とともに気合一発。さらに踏み込みを早くした。

蘇摩は一夏へ向きながら右手で持つ竹刀を防御に回すのではなく、刃を一夏へと向けた。

 

生半な防御は無理、回避は論外。ならば会心の一撃で、刃が届く前に仕留める。そういう事だ。

 

一夏は、この刹那の中ある錯覚に襲われた。

 

今、自分たちが持っているのは竹刀ではなく本物の刀だと。

これは訓練ではなく、本当の斬り合いなのだと。

 

蘇摩と自分の力関係ならば、確実に自分が切られて終わる。

 

だが。

 

それでも、そまよりも先に剣を振り下ろす!それだけを思う。

蘇摩の右手に持つ刃が光に反射し、煌く。

 

この刃が先か、俺の剣が先か!

 

(勝負だ!蘇摩!!)

 

「ぜぇああああああああああああ!!!!」

 

「はぁあ!!!!」

 

バシイイン!!!

 

刃が振り下ろされた。




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