インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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獣は蝶を貪るか。蝶は獣を喰らうのか

「織斑一夏の能力は低い。彼だけなら狙うのは簡単……だけど」

 

「蘇摩・ラーズグリーズ。こいつが障害だな。ISはともかく生身での戦闘は絶対に避けたい」

 

部屋のテーブルで、パソコンを前に座っているマドカとレイ。先日のことで、蘇摩に邪魔立てをされた件をもとに、相手の分析を行っていた。

対象はあの男。蘇摩だ。

 

「通称『白い閃光』専用機は『アビス・ウォーカー』スペック自体は、カスタムされたラファール・リヴァイブと同等。特徴としては瞬発力と瞬間加速能力が

第4世代に匹敵することのみ」

 

「だが、本人自体の戦闘力がずば抜けて高い。それによりISの能力も技量自体は低いが総合力は高い」

 

「武装は主に大剣を使うが、銃器が苦手などの傾向は無し。武器自体はレイレナード社製のものを使う傾向は有り」

 

パソコンに写っているのはカメラ越しの蘇摩の映像。一番最初のものはシュヴァルツェア・レーゲンとの模擬戦。

次に流れる映像は文化祭の時、オータムと戦闘する時のもの。その次は日本代表候補生更識簪との模擬戦の時の映像。

最後に流れるのはスコールとの戦闘の時のものだ。

 

「ふん。オータムめ。好き放題にやられた挙句がこれか」

 

「仕方ないよ。『剥離剤(プランダー)』が『故障』していたんだ。仕方のないことさ。次はこれだけど……」

 

「入るわよ、エム」

 

ノックもなしに入ってきたのは『亡国企業(ファントム・タスク)』の幹部でもあるスコール・ミューゼルだった。

豊かな金髪が、歩くたびに、柔らかく揺れる。

 

「あら、アールもいたのね。ちょうどいいわ」

 

スコールはそう言うと、足を止めた。

 

「昨日の無断出撃の件。説明してもらえるかしら?織斑マドカさんに、レイ・ベルリオーズさん?」

 

「……」

 

「……フン」

 

ニコニコとした笑を絶やさないスコール。マドカはそれを一瞥すると、パソコンの画面にまた目を向ける。レイは特に興味もなさそうに、パソコンから目を離さずに、キーボードを叩き始めた。

そしてスコールに見えない影になっている左手で拳銃を持つ。

 

「あなたたちにとっては劇的な出会いなのかもしれないけれど、私たちにとっては困るのよ。あまり無軌道に動かれるとね」

 

「わかっている」

 

「百も承知ですよ。そんなこと」

 

「あなたたちの任務はIS学園の各専用機の強奪。それ以外に不用意にISを使うようなら―――」

 

ドウン!

 

爆発音が響き、ベッドの近くに置いてあるテーブルがパソコンごと吹き飛ぶ。

次の瞬間。スコールに首を絞められる形で、マドカは壁に、レイは何かに貼り付けにされたように天井に押さえつけられていた。

 

「クスッ……相変わらず、いい反応ね」

 

「……」

 

「チッ……」

 

ISの部分展開により宙に浮くスコール。それを囲むように『サイレント・ゼフィルス』のビットが5基スコールを囲んでいる。

さらに天井からは、天井に貼り付けられているものの、『ランブリング・メガセリオン』の右腕の掌がスコールを睨んでいる。

すでに橙色の粒子が収束されていき、淡い光を掌の奥から放っている。

 

状況だけを見れば、スコールが不利な状態だ。

 

「……」

 

高速を解かれて、ベッドに降りるマドカに床に着地するレイ。スコールはISを解除しマドカと同じくベッドに着地する。2人分の重さを一挙に受けてベッドは軋み、悲鳴を上げる。

 

「ねえ、2人とも。貴女達が織斑マドカにレイ・ベルリオーズであろうとなかろうと、私には関係ないわ。でも、できるならエムにアールで動いてね。『亡国企業(ファントム・タスク)』」

のエムとアールとして」

 

「……『私の』決着がつくまではそうするつもりだ」

 

「決着……織斑一夏との?」

 

スコールの言葉をマドカはフン、と鼻で笑った。レイは目を閉じて被りを降る。

 

「あんな奴が、私の敵になろうものか。いつでもカンタンに殺せる存在だ」

 

「やろうと思えば、僕ですら(・・・・)彼を殺すのは簡単だよ」

 

レイの言葉に一瞬2人の顔が変化する。とても複雑そうなものだったが、本の一瞬のことだった。それくらいで今の雰囲気が壊れることもない。

 

「それで……目的は織斑千冬……といったところかしらね」

 

スコールがそう言うと、今まで無表情だったマドカが嬉しそうに口元を歪める。それはまるで悪魔の如き笑だった。

 

「織斑千冬、ね……。現在は現役を引退し、専用機を所持しているという情報もない。それほど手こずる相手にも思えないのだけれど―――」

 

刹那、スコールはオータムの掌打を躱しざまにケリを入れる。そして、その勢いのままに体を反転させ飛来する銃弾をかわす。

みると、先程まで笑みを浮かべていたまどかの表情は一点、激しい怒りのモノへと変わっていた。

 

そして、スコールを売った本人、レイは表情は涼しいものながら、その目には静かな怒りを燃やしている。

 

「あなどるな……お前など、ねえさんの足元にすら及ばない」

 

「現段階の蘇摩・ラーズグリーズを仕留め損ねた貴女では勝つ事は適わないかと」

 

「はいはい、わかったわよ。だから2人とも、拳銃とナイフはしまってね?壁紙にこれ以上傷つけると修理代が飛ぶから」

 

「ふん……」

 

くだらない挑発に乗ったことを恥じるようにナイフをホルスターにしまうマドカ。レイも指先で拳銃をくるくる回しながら、そのままホルスターにストンといれる。

 

「それじゃ。私はもうひと眠りさせてもらうわね」

 

そう言って、スコールはベッドから降りる。そして、レイを通り過ぎ部屋のドアのところまで来たところで、足を止めた。

 

「2人とも。今度の任務まではしばらく時間が開くわ。それまでは自重してちょうだいね」

 

「わかった」

 

「了解」

 

「フフ……素直な子って好きよ。じゃあね」

 

きた時と同じように、何かを言う前に、パパっと部屋から出ていったスコール。

ドアが閉まり、静寂が訪れる。マドカは、鏡の前に立つとホルスターからナイフを抜く。

 

それを、今度は自分の頬になぞるように当てた。

 

「…………」

 

スー、と肌が綺麗に裂けていき、血が滲み出す。

痛みはあるが、千冬と同じ顔が、傷つくのを見ると、いいよれない快感が自分の脳を犯していく。

 

今まではそうだった。

 

確かに今もわずかに残る快感の残照がある。だが、それよりもいまは別のものに私はその脳を支配されていくのだ。

 

「……」

 

レイは私に近づき、私の顔に手を添える。静かに、ゆっくりと。そしてその唇を、私の頬に触れさせた。すこしだけ、押し付けるように、まるでそれはキスをするように。

 

「ん……」

 

「ふ……んん……んっ……んあ……」

 

流れる血を、傷とともに唇で吸われ舌で舐め取られていく。僅かな痛みが頬から神経を伝わり、私の脳へと届く。それは痛みという感覚を私に伝えてくる。

だが、それ以上に頬を傷つけた時をはるかに超える快感に私は支配されていく。

 

鏡を見た。よく見えないのは私のめが細まっているからなのだろう。

だが、それでも自分の頬が、血の(アカ)以外の赤色に染まり、その顔をうっとりと蕩けさせているのがわかる。

 

私の両の腕がわずかに痙攣し、無意識にレイの肩を掴む。レイは私の頬から唇を離した。残った感触を名残惜しげに私はレイの顔を見つめる。

それだけでなんともいいよれない、背筋が続々とするような感覚が来る。

 

レイの手が私の顔から肩、背中へと回っていく。どちらともなくに私たちの顔は近づいていき、唇が重なった。

唇を押し付けて、顔の角度を変えながら、互の唇を貪るように。

 

「ん……は……ふん……んむ……」

 

「んん……ん……ちゅ……くちゅ……」

 

唇を重ねるだけでは聞こえない音がこの静寂に響く。私の体は少しずつ震え、かすかに痙攣を起こし始めていた。

波のように押し寄せる快感に、全てが溶けてなくなっていってしましそうな麻薬のような甘い快楽の波。

いくばくかの後に、互の唇が離れ、舌が顕になる。未だつながっていた舌も離れ、残るのは銀色の糸。それは互の顔が離れてもなお互いをつなぐ橋となっていた。

 

体の痙攣は止まない。私の肢体は、上気して、淡いピンク色に染まってきている。

 

ああ、もうだめだ。

 

もう耐えられない。我慢もできない。

 

「レイ……」

 

彼の名を呼ぶ。それ以上の言葉は続けない。私たちにはわかるのだ。互いのことが、互の全てが。

なんとなくという、限りなく正確で、出鱈目なおかしな感覚。それが一番心地いい。

 

「うん……」

 

レイも瞳を潤ませていた。そして、私の言葉に応え私の躰を抱いたまま、その身をベッドに沈ませていった。

部屋の明かりは、いつの間にか消えていた。




感想、意見、評価、お待ちしています

……このあと2人がどうなったのかは、ご想像におまかせするとします。

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