インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

52 / 116
見えない影

 

「襲われたの?」

 

「ああ。昨日の夜だ」

 

生徒会室で俺と楯無、簪は食事をしていた。今、俺は楯無に昨日のことを報告している。

一夏の誕生日パーティの時に話してもよかったが、その日くらいは余計なことは抜きで楽しみたかったから報告しないでいた。

それは一夏と箒も同意見だったようで、賛成してくれていた。

 

おそらく今頃食堂で質問攻めにあっていることだろう。

 

「それで……来たのは?」

 

「サイレント・ゼフィルス、及びランブリング・メガセリオンの搭乗者。メガセリオンの搭乗者は思ったとおり男だったよ」

 

簪の質問に答える蘇摩。蘇摩の顔は当時のことがまだ苦いのだろう。肩をすくめて笑っていた。

 

「それで、どうするの?」

 

楯無が蘇摩に言う。言いたいことは蘇摩にはすぐにわかった。

 

「どうもこうも、今は様子を見るしかないな。一夏の同意があれば俺も万全を期したいからRAVENのランカーを一人よこさせるつもりだけど」

 

「そう……」

 

楯無は蘇摩の性格を知っている。彼は一度受けた任務は何があっても完遂しようとする。

それがかれにとって半ば無理矢理なものであったとしても同じだ。

 

だから、万全を期す。そして自分の能力と状況を冷静に分析し、必要なら援軍も要請するのだ。

 

そして、彼は他人を考えることができるから、自分にとって万全でもそれを他人が拒否すれば、それをすぐに切り捨てて、行動することができる。

 

そういう人間だ。

 

兵士として、戦士として『不完成』された人間である。

 

「まあ、それあそれとしてだ。次のことについてまた考えなければな」

 

蘇摩はそう言って自分のPCを開いた。そして、数十秒程操作すると、PCを回す。

 

「これは……次のタッグマッチね」

 

「ああ。ISが1学年だけじゃなく2年3年の専用機も一同に会する場だ。連中にとっちゃ願ったり叶ったりの状況だろうな。

多分だが仕掛けてくると思う。まあ、確率的には50%50%ってところだがな」

 

「……どうして?」

 

そう発言したのは簪だった。確かに亡国にとって好ましい状況なら仕掛けてきてもおかしくない。事実蘇摩もかなりの好条件だと発言している。

 

「多くのISが参加するこのイベントはな、連中にとって絶好の狩場であり、また避けたい狩場だということさ」

 

ますます訳がわからなくなってくる。楯無は杣の言いたいことを理解した模様で、「そうね……」と頷いた。

簪は、「詳しく説明して……」と蘇摩に説明を求める。

 

「要は単純な数の理ってところだ。今回参加する専用機持ちの中じゃ結構の手練もいる。それに、そろそろ警備も口出ししたくなってきたからな」

 

「亡国にとって、このイベントはISを手に入れるチャンスだけれども、それと同時に手持ちのISを失う可能性も高くなっているわけよ、簪ちゃん」

 

「……なるほど」

 

簪は、蘇摩と楯無の説明で理解ができたらしく、頷いて自分の弁当箱の掻揚げを口にする。

 

…………それにしても。気になることがあった。

 

「お姉ちゃん……その重箱」

 

「ん?これ?」

 

そう、楯無と蘇摩の間にある5段の重箱である。しかもなぜか箱の蓋が五重塔をあしらっている凝ったものだ。

…………それ、お母さんがピクニックに行くときに使っていたものだった気が……。

 

「そうよ。だって、そういう時にしか使われないのってさみしいじゃない。お姉さんは普段でも使ってほしいなーってこの重箱が言うもんだからついね♪」

 

「……」

 

「…………」

 

「……………………」

 

沈黙。

 

「さて簪。今度のタッグマッチなんだが、一緒に組まないか?」

 

「うん。わかった」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ蘇摩、簪ちゃん」

 

そういって、楽しい楽しい昼食の時は流れていった。

 

――――

 

「よし。これで今日の遠距離戦での、各距離の銃器の扱いにおける講座を終わりにする。あとラーズグリーズ」

 

「はい?」

 

「あとで職員室に来い。話がある」

 

「………わかりました」

 

今日の授業が終わり、放課後に入る。千冬に呼び出された蘇摩は言われた通りに職員室へと向かった。

扉をノックし、入る。

 

「よく来たな。ラーズグリーズ」

 

「どうも。それで、要件とは何です?此方は、まあ暇っちゃあ暇ですけど」

 

「なに、あまり時間は取らせん。とりあえずついてこい」

 

そう言って、千冬あとをついていく蘇摩。

その先は屋上だった。

 

「それで、こんなところへ何のようです?」

 

「……ふん。ここなら盗聴の心配はないぞ」

 

「……」

 

千冬の言葉に、ある程度話の内容に察しが行った蘇摩。

 

「単刀直入に聞こう。ラーズグリーズ。お前は何者だ?」

 

「……質問の意味が理解できませんね。俺のことはあなたもご存知のことでしょう?」

 

「戦場を剣一本で駆け回り、標的としたものを確実に殲滅する『白い閃光(ホワイト・グリント)』そんなものでごまかせると思うか」

 

千冬にそう詰められても、蘇摩は表情を変えることはない。余裕そうで、興味がなさそうで、それで焦っているような、複雑で感情をの読めない表情のままだ。

RAVENの情報はたとえ一人にでも外部に漏らしてはならない。俺がRAVENだということは亡国ですらも掴んでいないはずなのだ。

ここで余計に情報を発信しては、いづれどこかでボロが出てくる。となると、一夏の護衛という任務は破綻することにつながりかねない。だから、白を切る。

 

「貴女が何を思おうと、俺は『白い閃光』それになんの代わりもないし、それ以上のものでもありませんよ」

 

「ほう。ならば何故学園祭の時に、都合よくイツァムがいたんだ?」

 

「……」

 

「オーストラリアの国家代表、それもかなりの上位の実力を持つあの女が、ここの学園祭程度に顔を出すほど暇なわけではない。なのにあの日に限って都合よくあいつがいて、亡国のIS

を撃退した。何故だ?」

 

「……俺と彼女に繋がりがあるとでも?」

 

まずったな……。ここまでの計算は頭に入っていなかった。

イツァムはある程度?身元がバレないようにしていたし、簡単にはバレないと思ったが、まあ、仕方ないか……。

 

「更識や政府からはなんの情報もなのでな。だが、私をあまり舐めるなよ?」

 

……このままだと簡単には返してくれそうもないな。仕方ない……荒事は好きだが、こればっかりはあまりしたくはないのだがな。

 

「千冬さん。傭兵が、しかもその道のプロがそう簡単に口をわるとでもお思いで?」

 

「ほう?」

 

「昔から、情報を聞き出す手段は限られている。ならば、それに沿って行うべきだとは思いませんか」

 

「お前を倒せとでも言いたいのか小僧……!」

 

「ええ。ですが拷問を受ける気にはならないので、知りたければ俺を屈服させるのが一番早い。……ねえ?『世界最強(ブリュンヒルデ)』」

 

こっちのほうがわかりやすいし、単純でいい。無論負ける気など一切ない。さすがに殺すのはまずいから全力ではかからないが……久しぶりの生身の戦闘だ。

すこしはしゃがせていただこうかね。

 

「おもしろい。私に勝負を仕掛けたことを、後悔させてやる」

 

「あなたこそ、そろそろ知るべきですよ。『公式試合』と、『戦争』の差を……」

 

互いに半身の姿勢をとる。千冬は、姿勢をやや低くし、蘇摩は右足を僅かに曲げ、つま先立ちをするのみ。

 

pipipi……

 

「―――もしもし?」

 

「!!」

 

蘇摩の姿が掻き消える。千冬はその動きを捉えたのか、腕を伸ばす。が、その時には既に蘇摩は千冬の後ろで、携帯をとっていた。

先ほどの空気が一瞬にして砕かれたような、毒気を抜かれた気分になる。蘇摩は比較的親しい人物を話しをしているのか、口調もかなり砕けていた。

 

「ああ、ああ。ん?わかった。っておい、それはまずいだろ。ん?うん……うん……なるほどねえ。確かにそれなら今回はいけるかもな。わかった。じゃあ」

 

蘇摩は携帯を切り、こちらを振り返った。

 

「んじゃ、俺は帰らせていただきますよ。俺のことは、その必要が出たらお話します」

 

蘇摩はそう言って、屋上をあとにした。

 

「……噂の方が可愛く聞こえるな」

 

千冬は一人になった屋上でつぶやいた。予想より、疾い。動き出しも、動きも。

本当に人間の反応速度なのか?そう思ってしまう。

 

私の反応速度は、0.07秒。ライフルでも、発射のタイミングさえ見極めれば躱すことだってできる自信はある。

その私でも、遅れた。奴の本能速度は、人間の限界をすら超えるというのか。

 

ふと、昔のある学者が提唱した論文を思い出した。

 

先天的戦闘適合者(ドミナント)説』あまりにも眉唾なもので學会からも、世間からも忘れられて久しいもの。

……まさか、な。

 

千冬は考えついたことを振り払って、屋上をあとにした。




感想、意見、評価、お待ちしています

それと、結局50話記念は誰も入れてくれなかったので、なにか番外編的なものを書こうとでも思います。

それについては、おいおい報告いたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。