インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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織斑マドカ

俺たちの目の前に現れた少女。

 

俺はその顔を知っている。いや、知っているなんてものじゃない!

なぜならその顔は……

 

「千冬……姉?」

 

俺の姉に瓜二つだったのだから。

 

「おいおいおいおい……笑えないぜ」

 

流石の蘇摩も本当に笑っていない。

 

いや(・・)

 

少女は否定を紡ぐ。その顔には冷徹な笑が刻まれており、とても千冬姉には似つかない。

むしろ笑は蘇摩に近かった。

 

私はお前だ(・・・・・)織斑一夏(・・・・)

 

「な……っ」

 

「……ほう?」

 

「今日は世話になったな」

 

織斑一夏と同じと名乗る少女の言葉に、一夏はハッとしたように口を開いた。

 

「おまえ、もしかして『サイレント・ゼフィルス』の……」

 

「そうだ」

 

一歩、俺に近づく少女。その左手には拳銃を持っている。

 

「そして私の名は―――」

 

まるで、親が子供に言い聞かせるような、その言葉の一文字さえも聞き逃さないような雰囲気と共に紡がれた言葉。

 

織斑マドカ(・・・・・)、だ」

 

織斑、マドカ?。……聞いたことのない苗字だが、なんで俺と同じ……。

いや、そんなことよりもなんで……。

 

どうして千冬姉と瓜二つなんだ!?

 

そんな俺の困惑など知る由もないと言いたげに、彼女は口を開く。

 

「私が私たるために、お前の命をもらう……」

 

すっと、持ち上げられた左手。その手に握られた黒く光る拳銃の銃口が俺に向けられる。

 

パァン!とひどく軽く、乾いた音がこの夜道に響いた。

 

――――

 

響いた銃声。だが、その弾丸は俺に届く前に、俺の前に突き出された物体によって、はじかれた。

 

「ちっ」

 

マドカと名乗った少女が舌打ちをする。俺の前に突き出されたものはナイフの刃だった。

 

「特注錬成のチタンナイフだ。9mmパラペラント程度じゃ傷一つつかねえ代物だ」

 

ナイフを自分の手元に引き寄せる蘇摩。そして順手に持ったナイフを手の中てくるりと回し、逆手に持ち帰る。

 

「それに、簡単に殺してもらっちゃ俺のメンツも立たないしな」

 

「ふん」

 

マドカはそのまま蘇摩に銃の標準を移し、発泡。だが、全て蘇摩は紙一重で避けていく。本当に一瞬のことでよくわからないが俺の目には、蘇摩が銃弾の一発一発を

目で全て捉えているように見えた。

 

もっと言えば、発射される銃弾を蘇摩は目で追っている(・・・・・・・)ように見えたのだ。

 

カチ、カチ……。

 

拳銃の弾が尽きたのか、拳銃をしまい、今度はナイフを取り出した。

 

「ほう?格闘戦で俺とやる気か……面白い」

 

蘇摩は、そう言うと、わずかに右足を曲げ、つま先立ちになる。

 

「行くぜ―――」

 

「っ!!」

 

蘇摩の姿が、一瞬ぶれる様に移り、掻き消えた。

縮地だ―――。俺は直感的にそう思った。

 

だが、蘇摩の動きは俺の想像を遥かに超えていた。

 

一瞬で距離を詰めたのかと思いきや、既に蘇摩はマドカの(・・・・・・・・・)後ろにいる(・・・・・)

 

「―――な!?」

 

「もらったぞ!」

 

蘇摩のナイフが、マドカに突き出される―――

 

――――

 

マドカとか言った女は拳銃をぶっぱなしてきた。おいここ日本だぞ。銃刀法違反じゃねえかよ。

銃はM9。撃たれた銃弾は9mmパラペラント。……弾頭に十字の切れ込みがある。つまりお手製のダムダム弾というわけか。

 

んなもん当たったらただじゃすまねえな。まあ、当てさせんが。

 

即座にナイフを抜き、一夏の前に持っていく。銃弾はナイフの腹に当たり、あらぬ方向へと弾かれた。

 

「特殊錬成のチタンナイフだ。9mmパラペラントじゃ傷ひとつつかねえ代物だ」

 

やってくれるぜ。だが、秒速350m程度じゃ、弾頭の回転すら見切れるのが俺なんでね。

 

「それに、簡単に殺してもらっちゃ俺のメンツも立たないんでね」

 

マドカはそのまま銃の標準を俺に向けなおす。やめとけっての。

 

撃たれる銃弾。加速する知覚。感覚が鋭敏に研ぎ澄まされ、俺の視界の物全てがスローに映る。

そして、銃口から発射されるすべての弾丸がまるでアニメを見るかのようにゆっくりと、俺に近づくのがわかる。

 

一発一発を捉え、目で追っていく。その直線軌道は、僅かにぶれながら、俺がいた場所を抜けていく。

 

弾が尽きたようだ。マドカは銃をしまうと、今度はナイフを取り出した。

 

おもしれぇ……

 

「ほう、格闘戦で俺とやる気か……面白い」

 

右足を少しだけ曲げ、爪先立ちにする。

ぐ……と、力が溜まる感覚……。

 

お前に、これが見切れるか?

 

それはまさに俺だけの一瞬。視界が全てクリアになり、全てが色を失い、全てが止まる刹那。

その刹那の中、俺は足を踏み出した。

 

無間流歩法奥義、縮地。その弐『旋』

 

縮地で相手の背後に立ち、片方の足を地面に貼り付け、捻り込む。

そして、相手の背が正面に来るように急旋回をする。

 

縮地の発展技『旋』

 

「な!?」

 

ほう、なかなかの反応だが、もう遅い!!

 

ナイフを、一気につき出す。この一瞬が、お前を貫く―――

 

ギィイン!!

 

――――

 

「な……に……!?」

 

蘇摩が驚愕した。無理もない。今、俺の目には、マドカの動きがぶれたようにしか見えなかった。

あの一瞬で、蘇摩の技を見切りナイフで、蘇摩の攻撃を弾いたのだ。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

マドカは息を切らし、冷や汗を書いているみたいだ。当たり前だ。

あんな無茶な動きをすれば、体の方が追いつかないはず。

むしろ蘇摩の動きに反応できただけでも凄すぎる。

 

チャキ……

 

「!蘇摩!!」

 

「!!っちぃ……!」

 

ほんのわずかな音、だが、その音に気づいた俺はその方を見やる。影になっているところで誰かが腕を蘇摩に向かって伸ばしている。

よくはみえないが、十中八九拳銃を持っているに違いない。

 

蘇摩を呼ぶ。蘇摩はすぐに反応して飛び退く。それとほぼ同時に、銃声と銃弾の軌跡が蘇摩のいたところを貫いた。

 

「……流石は『白い閃光』その異名は伊達じゃない、か」

 

出てきたのは少年だった。やや淡い色の金髪でエメラルドブルーの瞳が目を引き寄せる。

中性的な顔立ちだが、流石に女性と見間違うほどじゃない。表情や、物腰は柔らかく、穏やかな印象を受ける。

 

だが、その手には、特徴的な形の銃が握られている。

 

丸いグリップに、トリガーの前にある弾倉。そして、非常に細い銃身を持った銃だ。

 

「……モーゼルC98か。かなりレトロなものだな」

 

蘇摩は口元に笑みを浮かべた。流石傭兵というべきなのか、俺にはそんな余裕は全くない。

 

「いい銃だよ。もっと銃身が長ければよかったんだけど、それは携帯に不便だからね」

 

「はっ!お前はどっかの大尉かよ……」

 

マドカはすぐに少年の隣に移るる。蘇摩も俺の一歩前に移動した。

 

「助かった。レイ」

 

「クスッ……礼はいらないよ」

 

あの2人はかなり余裕な様子だった。多分あのランブリング・メガセリオンの搭乗者なのか?俺や蘇摩だってISを動かせるのだ。俄かには信じがたいが、

もう一人くらいいてもおかしくはないと思う。

 

「一夏!!」

 

「!?馬鹿!箒!!」

 

「ちっ……」

 

箒がこちらに向かって走ってくる。一応、ISを部分展開していた。だが、マドカ達だって、その気になればISを使用してくるかもしれない。

予断は許さない状況だった。

 

ファンファンファンファン

 

「警察がきた。引くよ」

 

「ああ。所詮今回は顔見せだからな」

 

マドカは少年の言葉を聞いて、すぐにISを纏う。

 

「また会おう……織斑一夏」

 

「クスッ……せいぜい死なないことだね」

 

2人は、夜の闇を飛び去っていった。

 

「ふう……あれだけ派手にぶっぱなせば流石に察も嗅ぎつけるよな……全部計算のうち、か」

 

蘇摩はナイフをベルトのホルダーにしまいつつ、そう言った。

 

「大丈夫か!一夏!」

 

「ああ……俺は大丈夫だ」

 

「……今回はしてやられたな」

 

箒が俺に駆け寄る。蘇摩はいつの間にか俺の腕から持っていった自分の分のコーヒーを飲んでいる。

 

「よく落とさなかったな。褒めてやるよ」

 

……それは素直に喜んでいいのだろうか。

 

「そういや、よく俺たちが襲われていたところに間に合ったな」

 

「そ、それは……だな」

 

急にモジモジし始める箒。それを見た蘇摩がふっ、と笑った。

 

「まあ、一夏。人にはそれぞれ知られたくないっていう事があるものさ」

 

「ん?そんなものか?」

 

「そんなものだ。っと、俺は少し警察にことを説明していくから、お前らだけ先に帰っておけ」

 

「いいのかよ」

 

「いいっていいって、適当に言っとくから、と。これ持って行ってくれ」

 

蘇摩はナイフのささったホルダーを取ると、俺に投げた。っと、缶の山に着陸したナイフは、ホルダーの重量を差し引いても、結構重い。

そして、蘇摩は一度箒に近寄って、何かを言っていた

 

「――――」

 

「よ、余計な世話だ!!」

 

箒が顔を赤くして蘇摩に食いつくが、蘇摩はするりと躱し、パトカーのランプが見える道路側へ歩いて行った。

 

「はやくかえれよー!」

 

蘇摩はそう言って、警察のところへ行った。

 

――――

 

「なあ、箒」

 

「な、なんだ」

 

家に帰る途中、一夏が突然口を開いた。

 

「えと……助けに来てくれて、サンキュな」

 

「!―――べ、別に例を言われるようなことではない!お前こそあんな連中に遅れを取るな!」

 

一夏はハハ、と笑って、「悪い悪い」と言う。

 

「そういや、最近箒も変わったよなー」

 

「何がだ?」

 

一夏の言葉に、箒は一夏が何を言いたいのかが分からずに、キョトンとした。

 

「いや、前まではさ事あるごとに竹刀やら、日本刀やら振り回してきたのに、最近は怒ってもそういう事がなくなっただろ?」

 

「あ、あれは……その……」

 

箒は目をそらし、何やらブツブツ言い始めたが、一夏にはよく聞こえなかった。そして、急にハッとしたように顔を上げた。

 

「それは私が凰やセシリアのような暴力女だとでも言いたいのか!?」

 

「い、いやそこまでは言ってねえよ。つかそれ本人たちの前では言うなよな……」

 

でも、前ならこの瞬間にでも、竹刀が飛んできそうなものだが、やっぱり暴力に訴えるようなことはしなくなった。

 

……なんだろう、な。

 

やっぱり女の子って難しいな。

 

一夏はそんなことを思っていた。




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開くだけ開いて、何もなかったというのは悲しすぎます……(´;ω;`)

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