インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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それは過去の影と死の仮面《デス・マスク》

「せーっの!」

 

「「「「「一夏!誕生日おめでとう!!」」」」」

 

「お……おう」

 

やれやれ。ここまでの人数が集まるとはな。

もう一度中を見渡す。

 

いつもの一夏スキー達に、一夏の友人らしい男2人。そして生徒会メンバーフルに俺だ。

………芋を洗うみたいな状態になってんぞ。

 

「この人数は何事だよ……」

 

一夏のほうもどうやら同じ感想らしい。

そして、セシリアが一夏に焼いたというケーキを持ってきていた。

 

……それにしても、よく生き残れたものだな。

 

俺は先のキャノンボール・ファストのことを思い出していた。

 

俺が到達した時には、既に戦闘が終わっており負傷したセシリアと一夏だけがいた。

しかも、セシリアの方は机上の空論と言われた『偏光射撃(フレキシブル)』が使える様になったというおまけ付きで。

 

そして、メガセリオンの方は、いきなり先頭域から離脱したらしい。

…………恐く、あの女。確かスコール・ミューゼルとか言ったな。そいつの回収にでも向かったのだろう。

 

前イタリア国家代表候補で、5年前に交通事故で死んだことになっている。

今のイタリア代表候補は、恐ろしいのなんのって……

 

イタリアを主に展開しているインテリオルグループ。

その一つであるレオーネ・メカニカの実質最強のIS操縦者。

 

名を霞スミカ。ISは『シリエジオ()

 

レールガンとレーザーライフルがメイン装備の機体なのだが、何せエネルギー効率がこれでもかという程に高く安定している。

そしてオーストラリアのミラージュに並ぶ名銃を作ったとされており、知名度も高い。

 

そして、その実力はあのサー・マロウスク。現RAVENのA-8よりもはるかに高い。

そのランクはA-4。

 

対IS戦闘に特化した戦術で、おそらく現A-1のイツァムとも、タメを張れるかもしれない人物だ。

 

と、また話がそれたな。最近話がそれることが多い。注意しなければ。 

ん?かなりの有名人がRAVENにいるなって?つまりはそういうことさ。

 

あまり深入りはしないほうがいい。

 

………あいつらの目的は何だ。

 

ISを欲しているのはわかる。だが、それが最終目的ではないはずだ。ISを手に入れて何をする?

 

わからない。何が目的なのかではなく、ISを手に入れて何をするというのかがだ。

ここである仮説を立ててみよう。もし亡国企業がどこかの国に所属しているとする。

それならばISを強奪していく理由にも、一応の納得がいくだろう。どこかの評論家曰く「IS一機で一国の軍事力に相当する」らしいからそれを各国々から奪えればそれはすなわち

強力な戦力になるのは違いない。

 

だが、ここである疑問が湧いてくる。

 

他国のISを運用するには無論、亡国が自分の国に所属していると疑われることすらあってはならないわけだ。なら、補給や整備などはどこで行うというのだ?

秘密裏に行えばいいのではないかという話はあるだろう。

 

だが、一昔前に元CIAの馬鹿野郎がCIAは世界各国の情報を集めていると暴露したことがあっただろう。

その通りにCIAはロシアやドイツは愚かISを所持していようといなかろうとある一定レベルの国全てに諜報員をばら撒いて情報を収集している。

そして、それはロシアのKGBも同じだということ。

 

すなわち、ロシアとアメリカ。両国がグルにでもなっていない限りは亡国がどこの国に所属しているということなど、比較的簡単に米か露のどちらかにバレるということだ。

……つまり、何が言いたいか?

 

亡国は何が目的でISを集めているのかという最初の疑問に戻るというわけだ。

 

「蘇摩」

 

楯無がこちらに声をかける。他の面子は一夏にプレゼントや自分が作ったご馳走を食べさせ用などで賑わっており、こちらの様子に気付く気配はなかった。

そして、楯無はすっと蘇摩の隣に移る。

 

「少し外でお話しましょう?」

 

「……解った」

 

蘇摩は頷くと、一夏に声をかけた。

 

「悪い。俺たちは少し外の空気を吸ってくる」

 

「あ、おう」

 

俺たちは、少し足早に玄関に向かった。

 

――――

 

「それで?話ってなんだ」

 

外は夕暮れになっており、西側の空が少し朱色と黄金の色に染まっている。楯無は俺の数歩前を歩いていて、振り向いた。

 

「ねえ、蘇摩。おかしいと思わない?」

 

「………何がだ?」

 

「IS委員会や日本政府の動きとか……」

 

それは確かに俺も気になていた。ここのところIS委員会や政府の対応が著しく悪い。そして、それに対して他国が何も言ってこないということも。

………俺の中で、ある仮説が一瞬頭をよぎるが、流石にそれはないかと思う。

 

あまりにも突拍子過ぎてとんでもない仮説だ。誰かに言えばその誰かは笑い時にするかもしれない。

 

「ここのところの政府の言動が、特にIS関連のものが要領を得ないものになってきているわ。夏休み前の1年生の修学旅行では日本政府がIS学園の代表候補を使ってことだってあるし……なにか、何を考えているのかとか今ひとつわからないの」

 

「この欺瞞と虚構に満ちた世界で、何が起ころうとしているのだろうか。少し詩人っぽいけど、そんなことが浮かぶほどだな」

 

「ねえ、蘇摩」

 

「ん?」

 

「諦めたの?」

 

楯無の問いの意味。それはすぐにわかった。

4年前……いや、それ以上前からずっと胸に秘めていた願望。

 

『世界を変える』

 

だが、俺はあの日の事件を堺にその考えを捨て去った。

 

「本当に、セラスが死んだだけなの?蘇摩。貴方は自分に近い人のことを考えることができる人よ。そんなあなたが簡単に夢を諦めるとセラスがなんて思うかなんて、考えつかないはずがないわ」

 

「っ!」

 

痛いところをついてくる。忘れようと思っていたあのことが、再び脳裏をよぎり始めた。

それが俺の手元に渡ったのがセラスが死んでからすぐのことだった。

 

一枚のディスク。それに刻まれた、あいつのメッセージ。

 

『RAVENS ARKを管理する『NEST』という存在について』

 

当時ランクB-24のエラン・キュービックという人物のレポートだった。彼のメッセージ付きでそれは俺に送られてきたのだ。

 

「はじめまして、エランといいます。今回、貴方にお伝えすべきことだと判断しこのディスクをお届けいたしました。私は現在ある物に追われているために、しばらく姿をくらまそうと思います。この世界の真実の一部をあなたが知り、それに対してある答えが見つかったのなら必ずその前には何者かが訪れるでしょう。それが私なのか、また別の何者なのかはわかりません。ですが、もし私であったなら、いい返事がきけることを期待しています」

 

そして、俺はそのディスクを見た。

そこに記された世界の真実の一部。おれは言葉を失った。

 

これが本当なら、俺は今までなんのために戦っていたのだろう。なんであいつが死ななければならなかったのだろう。

 

そんなことがばかりが広がっていった。

 

あとは、わかるとおりだ。俺は今まで胸に秘めていた願望を捨て去った。

全ては無駄。所詮何をしても変わることはない。それが世界なのだと。

 

「……悪いな」

 

今はそれしか言えなかった。俺の我侭だ。こいつなら全てを話しても、俺を受け入れてくれるかもしれない。そしてもう一度俺に諦めるなと言ってくれるかもしれない。

でも、それでも怖いのだ。

 

また目の前で、あいつみたいに死ぬんじゃないかって……。

 

すべてを話して、俺を突き放してくれたのならそれでいい。俺は自分の近しい人間を作るのは怖いから。

でも、それでもあいつのように目の前のこいつが死んでしまったら……?

 

俺にはそれが耐えられないかもしれない。

 

っくそ。少しだけ吹っ切れたつもりだけだったが、所詮つもりだけだったのか。

 

「そう……」

 

楯無は、あの時と同じようにただ一言だけを言い、笑ってくれた。

 

「なら、話してくれるまで待つわ♪」

 

そう言って、笑顔でそれを言った。

 

「蘇摩が話してくれるまで、待つよ」

 

「……ありがとう。楯無」

 

「ええ♪」

 

本当、良い女だよ。お前は……。

俺は、少なからずこいつの心に救われているのかもしれないな。

 

そう思い、俺はふと後ろを振り返る。

東側の空は、藍色をもっと濃く、暗くしたような色を放っていた。

 

――――

 

「えーと、こんなものか?」

 

「楯無がコーヒー。篠ノ之がお茶。凰が烏龍茶にデュノアがオレンジジュース。ラウラがスポーツ飲料。セシリアが紅茶で男子どもはコーラか……とりあえずはそれでOKだ」

 

蘇摩と俺は足りなくなった飲み物を買いに来ている。

当初はみんなが主役の俺にそんなことをさせるわけには行かない!と言ってくれたのだが、流石に何もしていないのはまずいだろうと思って自ら買い出しを志願したのだ。

それで、一人だと荷物が多いだろうと箒が言って、誰が一緒に行くのかと議論が起きたのだが、蘇摩が俺が一緒に行こうと言い、丸く収まった。

 

「よし、戻ろうぜ」

 

俺が歩きだした瞬間、蘇摩が俺の方を掴んだ。

 

「なんだ?蘇摩……!」

 

「わかったか……持ってろ」

 

そう言って、俺にジュースのかんを預け、俺の前に立つ蘇摩。そして、自販機に向かって、一歩進んだ。

自販機の明かりからわずかに外れた一角。暗くてよく見えないが、誰かいる……。蘇摩は俺よりも早く気づいていたようで、ベルトに手をかけた。

………そこからこちらからにしか見えないが、ラウラにプレゼントとして渡されたナイフと同じようなものがホルダーにささっている。

 

「そこで隠れてないで出てこいよ」

 

蘇摩がそう言うと、自販機の影から、一人の人影が出てきた。

 

「……………」

 

その人影の正体は、少女だった。しかも、かなり見覚えのある顔をした。

いや、見覚えがあるってものじゃない。その顔はれがよく知る人物のものだった。

 

「おいおいおいおい………笑えないぜ」

 

蘇摩も驚いているようだ。何を隠そうその顔は……

 

「千冬……姉……?」

 

俺の姉。織斑千冬に瓜二つだたのだから……。




感想、意見、評価、お待ちしています

ところで、50話到達記念ということで、ちょっとしたアンケートというか、キャラクター投票的なものをやりたいと思います。

詳しくは活動報告に掲載いたしますので、暇があればどうか御付き合いください。

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