インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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キャノンボール・ファスト Ⅲ

「はああああああ!!」

 

「遅い」

 

一夏が突撃し、サイレント・ゼフィルスに斬りかかる。だが、ゼフィルスはライフルの銃剣部で受け止めた。

箒はランブリング・メガセリオンに斬り込む。それをメガセリオンはバックステップで避け、左手のプラズマライフルを撃ち込む。

 

2回トリガーを引く。一発目はやや左よりに、そして2発目はかなり右寄りに。一発目を右に避けて紅椿は2発目の射撃を直撃とまではいかなかったが、

回避も間に合わず、当たる。

 

「くう……」

 

「箒!―――っ!?」

 

「………」

 

ゼフィルスは一夏に援護をさせまいと、銃剣で一夏に斬りかかる。

本来、銃剣とはライフルを使っている時にライフルでは戦いづらい距離に詰められた時の緊急用の装備なのだが、

 

ゼフィルスは、格闘で扱いづらいはずの銃のグリップを巧みに使い、一夏と互角以上の格闘戦を繰り広げる。袈裟斬りから刃を返し、横に薙ぐ。

一夏はそれをなんとか防御しきり、反撃を加えるが、全て紙一重で躱される。

 

「遅いな」

 

「くそっ」

 

一夏は完全にに押し込まれている。自分が加われればまだ楽になるかもしれない。

だが、それをさせてくれないものが、目の前にいる。

 

漆黒のISは真紅のカメラアイを光らせ、箒と紅椿を捉えている。

まずはこいつをどうにかしなければ。凰から聞いた話では胸部にダメージを与えたら、行動不能になったらしい。

なら、ひとつそこを狙ってみるか。

 

それに、私の見立てではコイツは格闘戦が苦手のようだ。装備も全て火力重視のレーザー兵器。

一応右手の爪のようなもので格闘戦は可能だろうが、それはあくまでもできるという程度のものだろう。

 

格闘戦に自信があるなら態々私の攻撃をよけなくてもいいはずだ。

なら……!

 

「はあああああああ!!」

 

突貫する。メガセリオンは、先ほどと同じようにバックステップで避けようとするが、紅椿はさらに加速した

 

「!」

 

「貰ったあああ!!!」

 

振り下ろす2本の刃。メガセリオンは虚を突かれている。入った!!

 

ズバン!ギイン!

 

「何!?」

 

「ふう……紅椿。これほどのスペックとは思わなかったよ」

 

確かに私の剣は一度確実に入った。だが、それは狙った胸部じゃなく、右腕。

右腕に切れ込みを入れたが、もう一本の剣はその5本の爪に捉えられた。

 

「じゃあ、これは耐えられるかな?」

 

左手のライフルが、ISに押し付けられる。躱さなくては。そう思う前に引き金は引かれた。

 

「きゃあああああ!!」

 

思わず左手を剣から離して、吹き飛ばされる。だが、すぐに体制を整えた。

エネルギー残量は残り330……拙い。このままでは押し切られる。

 

格闘戦も通じない。なら、どうする……?

 

「ほらほら。戦闘中にぼーっとしない」

 

「っ!?」

 

水色のプラズマ弾を避ける。くそっこのままじゃあ……!

 

「ぐああああ!!」

 

「一夏!!っああああ!!」

 

箒が落とされたわけではない。紅椿の右手で防御膜を貼りながら格闘を防ぎつつ、左手のライフルで狙い撃ちしただけのことだ。

そして、それと同時にゼフィルスのビットが紅椿を捉える。

 

「これで……」

 

「……終わりだ」

 

ゼフィルスがビットを機体の周りに集め、ライフルを構える。

その狙いは、一夏だった。

 

「くっそおおお!!」

 

「一夏!―――くっ」

 

箒がゼフィルスに切りかかろうとするが、メガセリオンが立ちふさがる。

 

「……」

 

引き金が引かれる。幾本の赤色のレーザーが一夏に注がれる。

 

「一夏ぁあああああ!!」

 

激しいレーザーの着弾音。だが、それを食らったのは一夏ではなく、凰だった。

 

「鈴!?」

 

一夏は、エネルギー弾の直撃を受け、弾き飛ばされた凰に駆け寄る。

 

「馬鹿!なんで俺を庇って……おい、鈴!!」

 

「うっさいわね……あんたが……ノロマなのが、悪いんでしょ……」

 

「お、おい!鈴!!」

 

その言葉を最後に、凰は気を失った。

 

「くそおおお!」

 

歯を食いしばり、立ち上がるがもはや雪羅のエネルギーは尽きかけている。

 

そして、再びゼフィルスの攻撃が向かってくる―――。

 

「させませんわ!!」

 

発射直前に、俺とゼフィルスの間に割って入ったセシリア。

そして、手に持っていたライフルでゼフィルスを撃つ。

 

「チッ」

 

ゼフィルスは舌打ちすると、バレルロールで攻撃をかわし、メガセリオンの隣に飛ぶ。

 

「「………」」

 

一度、互いに見合うとすぐにゼフィルスがビットを展開し、一夏と箒、セシリアを撃つ。

だが、僅かに狙いが稚拙だったため3人は回避に成功した。

 

だが、その瞬間橙色の閃光が3人の視界を奪う。直後、地響きのような衝撃が襲った。

 

「あれは!?」

 

今の一撃は、メガセリオンが右腕のレーザーキャノンでアリーナのシールドを破壊したらしい。

そして、2機はシールドを抜けていった。

 

「くっ。サイレント・ゼフィルス!逃しませんわよ!!」

 

セシリアもそのあとを追うようにシールドを潜ていった。

 

――――

 

「!?」

 

ギィィィィン

 

鈍い音と共に火花を上げる黄金の膜と銀色の刃。両手で大剣を振り下ろした威力は、少しではあるが、黄金の繭に食い込んでいる。

だが、食い込んではいるもののそれ以上刃が進む気配はない。

 

「流石、『白い閃光』の異名を持つだけはあるわね。生身だったら、今の一瞬で死んでいたでしょう」

 

その速度、剣の圧力。その凄まじい戦闘能力に賞賛の意を送るわ。ISを纏っていなかったら、本当にあの一瞬で私は屍になったであろう。生身では勝機はない。

だけど……

 

「ISでの戦闘力では負けるつもりはないわ!」

 

そう言って指を動かす。瞬間、蘇摩は何かに弾かれるように下がった。

 

一瞬、何が起きたのか解らなかったが、すぐにその存在を察知する。

 

「へぇ、面白いもんを装備しているな。その繭もそれで作ったのか」

 

「クスッ。恐ろしい人ね、貴方は。私達に喉から手が出るほどに欲しいわ」

 

「今の任務が終わったら考えてやらなくもないがな。相応の報酬は用意してもらわねえとな」

 

「ちょっと、依頼人(クライアント)差し置いて仕事の話なんてしないでもらえるかしら?」

 

蘇摩の頭上から何か槍のようなものが飛来し、女性は再び繭を作り身を守る。槍のようなものは、繭に激突すると、弾けて地面を濡らす。

 

「水?」

 

「遅かったな。楯無」

 

蘇摩は大剣を肩に担ぎ、後ろを見やる。ちょうど上り階段から、その姿はあわらした。

 

「『モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)』ロシアの国家代表。更識楯無ね……」

 

「残念。私の名前は合ってるけど、この子の名前は『霧纏の淑女(ミステリアス・レディ)』って言うの」

 

楯無の表情は真剣そのもの。正真正銘闇社会の人間のものだった。

 

「ごめんね蘇摩。ちょっとIS格納庫に居た「ゴミ」を掃除してたら遅れちゃったわ」

 

「そうか。まあ、これで役者は揃ったわけだ」

 

楯無は、笑顔でそう言った。蘇摩もそれを聞いて笑い、肩に担いだ大剣を下ろす。そして、目の前の女性に突き付けた。

 

「さあ、どうする?『亡国企業』」

 

「洗いざらい話すか、死ぬか。選ばせてあげるわ」

 

蘇摩・ラーズグリーズと更識楯無。この2人を同時に相手取るのは厳しい。そろそろ潮時ね。IS強奪班も全滅させられちゃったし、これ以上の長居はこちらを窮地に立たせるだけ、か。

 

「……残念だけど。貴方達でも、私を捕えるのは、無理よ」

 

そう言って、女性は2本のナイフを飛ばす。楯無は水の刃で引き裂き、蘇摩はグリップを掴んで止めた。しかし、その瞬間ナイフは爆発する。

 

この程度の爆発と煙幕ではISに僅かばかりのダメージを与えたに過ぎない。しかし、2人のハイパーセンサーには既に逃走する女性の姿が映っていた。

ここまでの距離をいかれると、流石に追跡は不可能だな。

 

「ちっ2連続で逃げられたか。最近いいとこねえな。俺……ん?」

 

蘇摩は、ゼフィルスがアリーナの外に出ていき、そのあとを2機のISが追っていくのを見た。

 

「ったく、あの2人はセシリアに一夏か……。楯無」

 

「なにかしら」

 

「とりあえずこっとは頼んだ。俺は任務を果たしに行ってくるわ」

 

そう言って、蘇摩はISを纏い飛んでいった。

 

――――

 

「………そろそろ出てきたらどうかしら」

 

スコールは人通りの少ない街の郊外で、立ち止まった。

先程からひしひしと伝わる気配。隠す気などないのかのように。

 

「……」

 

スコールの後ろの曲がり角。そこからひとりの女性が歩いてきた。

真っ白のコートに目元まで隠れるフード。フードの影から覗く金色の髪。

 

「―――!」

 

只者じゃない。スコールは直感した。

あの少年。蘇摩・ラーズグリーズ。彼には生身での勝負では勝てない。そう思った。100回戦おうとも100回私が屍になると。

だが、この女性には……戦うことすらできない。

 

少年の持つ深淵のような暗い殺気とは違う。まるで天使の羽に抱かれているかのような、まるでやることなすこと全てが無意味に終わるような……

そんな絶望感すら感じさせる。

 

「警告だ……これ以上、秩序を乱すな」

 

「……」

 

「力を持ちすぎたもの……秩序を破壊するものは」

 

背筋に汗が伝う。いつでもISを展開できるように準備する。全力で、逃げれればそれでいい。

まだ、相手に交戦の意思はないようだ。だが、それでも万一に備えて用意をしておく。だが、それすらも無駄に終わる気がしてならない。

下手に動いたら、その瞬間首が飛ぶ。

 

明確に、そのイメージが頭に浮かんだ。女性は、決して動くことなく自分の言葉を相手に伝える。

 

「この世界には……不要だ」

 

そう言って、目の前の女性はISを部分展開した。

したのは恐く背部の部分なのだろう。

 

 

そう、翼だ。それはまるで神話に出てくる天使がもつ天空を翔る羽。真っ白で何者にも汚されないような神々しさを放つ翼を抱いた女性はまさに神話に登場する天使のようだ。

 

「セラ、フ……」

 

スコールの目にはその姿が天使の最高の位に位置する、まさに神がごときの存在に映った。

翼を羽ばたかせ、一瞬でその場から消え去る女性。

ハイパーセンサーで追おうとしたが、ステルスを展開しているようで反応しない。

 

「何者……なの?」

 

スコールは、目の前に現れ、さった女性の言葉と姿に恐怖するしかなかった。




感想、意見、評価、お待ちしています

最後にスコールの前に現れた人物。わかる人にはわかったでしょう。
つかほとんどの人がわかっていそうな気が……

なんかもう思い切ってみようと思ってはっちゃけました。
フロムを、そしてAC好きの方にはもしかしたら分かっちゃったかもしれません。

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