インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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キャノンボール・ファストⅡ

『蘇摩?聞こえる?』

 

「楯無か。こっちは少々忙しいがどうした?」

 

蘇摩はゼフィルスの射撃を躱し、アサルトライフルで反撃する。だが、大口径の弾丸はいとも容易くよけられる。その軌道を予測していたセシリアがビットによる射撃を加えるが、今度は真上の上昇してその射撃を避ける。今度はラウラのワイヤーブレードが飛来するが、それをビットの偏光射撃でたった一発のレーザーで全て撃ち落とす。

対レーザーコーティングが施されたワイヤーブレードは、破壊はされなかったものの全て無効化され、ラウラはそれを機体に戻す。

 

「こんのおおお!!」

 

凰が衝撃砲を、メガセリオンに向けて放つが、メガセリオンは右腕のレーザーを、膜のように展開し全てを防御する。そして、右側に回り込んだシャルロットを左手のハイレーザーライフル

で射撃。

 

シャルロットは既にビットにより機動を制限され、ハイレーザーを回避することができないため、物理シールドを展開。射撃を耐える。

 

「くぅ……」

 

こちらは今のところ大した損害はないが、それはあちらも同じでほぼ互角といっていい。

 

てかふざけんな。こっちは8対2でこの有様かよ。くそっ。

 

『お取り込み中のところ悪いのだけれど、今から転送する人物を捕えてくれない?』

 

転送された画像には、混乱の中を優雅に歩く女性が映し出されている。……亡国の幹部クラスの人物か。

 

「OK。今から向かう」

 

『ありがとう。こっちはちょっと人を送らなきゃいけないからよろしくね』

 

「ああ」

 

そこで通信が切れる。人物の画像をISにコンバート。ハイパーセンサーがそれを捉えるのに時間はかからなかった。

 

よし、そこにいるか。なら

 

「簪。ここは任せた」

 

「……うん」

 

蘇摩は踵を返し、画像の人物がいるほうへと飛ぶ。それを見ていた2人は、すぐに目的に気づいたが追いかける様子はなかった。

 

(……狙いはスコールか。流石に奴は優秀な人間だな)

 

(でも、そう簡単にスコールは堕とせないよ)

 

「戦闘中に余所見なんて、随分余裕ね!!」

 

「余裕じゃない。全体を見るというのは戦場では当然のことだよ。それに……」

 

凰の言葉にメガセリオンの搭乗者はそう返し、衝撃砲を躱し右腕のレーザーキャノンを収束する。

 

「勝つためにはある程度手段を選ばないのも定石だ」

 

レーザーキャノンを発射。単純計算でIS2機を落とせる光の牙を紙一重で躱す凰。だが、電離化(イオンか)したプラズマの渦流によりシールドが削られ、ちょうど回避行動をとったタイミングで

ハイレーザーライフルを撃つ。

 

ISを飲み込むほどの大きさの橙色のレーザーに隠れた水色の閃光は、凰に回避する間も与えずに牙をむく。そして、その威力は名銃と呼ばれるにふさわしく直撃によるダメージと、エネルギー爆発のダメージと2段階の攻撃が降りかかる。そして、エネルギー爆発の衝撃により、安定性の高い甲龍すらも固まってしまう。

 

「くっ……やるわね。前に私の衝撃砲でそうそうに戦闘不能になったくせに!!」

 

「あの時はこちらのミスだった。だから、今度は同じミスはしないよ」

 

「僕のことも忘れないでね!!」

 

シャルロットが、背後からスナイパーライフルで狙撃をする。だが、標準的な口径のライフル弾は、大口径の弾丸によって粉砕された。

 

「貴様も、私のことを忘れるな」

 

今のはゼフィルスの狙撃なのだろう。恐らくは左手に持っている銃剣付きライフルによるもの。先程までの攻撃も合わせると、あのライフルは実弾とレーザー弾両方を発射できる。

という考えで間違いはないだろう。

 

「…………私も、忘れないでね」

 

簪はゼフィルスとメガセリオンの両方から最も離れた位置にいて、その時を待っていた。

 

本当はキャノンボールファスト用の武装だった。特殊ミサイルを起動。ロックオンいらずで発射するこのミサイルは、発射後自動でターゲットを認識し追尾する。

コンソールを開き、認識ターゲットを、ランダムから襲撃者2名に変更。

 

ハッチオープン。発射。

 

48発のミサイルが発射され、それぞれが2機のISを個別に襲いかかる。

 

無論これで相手を落とせるとは思っちゃいない。ただ、これだけの量のミサイルを回避し切るのは困難だ。必ず武器を使って撃ち落としにかかる。

つまり、それはその武器をその瞬間のみ使用不能にできるということ。

 

その隙を使って、ダメージを与えられればそれでいい。

 

「「!!」」

 

襲撃者の2人もミサイルに気づいたようだ。互いに距離を取り、お互いの武装を使ってミサイルを迎撃する―――そう思っていた。

 

「「甘い」」

 

なんと、ゼフィルスはいま展開している6基のビットの他に、更にもう6基のシールドビットを展開する。

それで自機を守る盾を作った。

 

メガセリオンは、右腕を突き出す。その掌から漏れ出す橙色の粒子。

 

ミサイルがお互いに降り注ぐそのとき、それは放たれた。

 

広範囲に拡散する橙色の雨。その雨はミサイルを尽く撃ち落とし、他のISにも牙をむく。

 

「くっ」

 

ラウラはなんとかAICも駆使して回避するが、もともとエネルギー兵器は固定しづらく、そのうえこの数ではすべてを回避し切るのは無理がある。

 

「嘘でしょ!?」

 

凰は衝撃砲を拡散モードにして、レーザーを撃ち落とすつもりだったらしいが、拡散する一発一発の橙色の閃光は衝撃法をも容易く撃ち抜き、甲龍にダメージを与える。

 

「そんな!?」

 

シャルロットも物理シールドで防ぐが、数発で砕け甲龍と同じようにダメージを受ける。

 

「ちぃ!」

 

「くそっ」

 

無事だったのは一夏と箒の二人だった。一夏は雪羅のエネルギーを無効化するシールドで防ぎきる。箒は展開装甲でシールドを作り防いだ。流石第4世代機。

シールド一つ作っても、一般的な物理シールドの強度と防御力を簡単に上回るポテンシャルを発揮した。

 

「これで邪魔者は減ったか」

 

「フフッ。ここからが本番だよ」

 

そして、あの破壊の雨の中、全く無傷のサイレント・ゼフィルス。シールドビットで防いだのはほんの数発であとは自力で回避していた。

そして、此方は戦闘可能なISは7機から2機に激減。7対2ですら、互角に持ち込むのが精一杯だったのに、もはや代表候補ではない、今年初めてISに触れた2人が残った。

 

「くっ……どうするのだ。一夏?」

 

「どうもこうも。援軍が来るまで、なんとか持ちこたえるしかないだろう」

 

「ふん。それほどの時間が貴様に稼げるかな?」

 

「稼ぐつもりなら、無理だと断っておくよ」

 

キャノンボール・ファストの戦闘。第2幕が開かれた。

 

――――

 

「ふふ。さすがはあの二人ね。あれだけえの専用気持ちを相手に、既に複数を戦闘不能近くにまでもっていくなんて」

 

ブロンドの長髪を、なびかせて女性は呟く。

 

「さて、私も仕事を始めなきゃね」

 

「安心しろ。お前の仕事は今、ここで死ぬことだ」

 

女性はその声に振り向く。そこには、学園の制服を着た少年が立っていた。

 

「あら、あなたがオータムの報告にあった傭兵の?」

 

「ああ。『白い閃光(ホワイト・グリント)』今はそう呼ばれている」

 

「そう」

 

女性が腕を軽く振り上げる。その瞬間、ナイフが女性の袖から飛び出す。蘇摩はそれを首を動かすだけで避け、左手に持っていた拳銃を撃つ。

 

「マナーの悪い女は嫌われるぜ?」

 

「あなたも、私に対して随分失礼な態度じゃなくて?」

 

蘇摩はベルトから右手にコマンドナイフを抜き、斬りかかる。女性は掛けていたサングラスを捨て、ISを腕に部分展開して、受け止める。

蘇摩はそのまま左手の拳銃を女性の額に押し当てる。

 

引き金を引いた瞬間、女性の姿は消え去った。既に後ろ数Mに下がっている。

 

「『亡国企業(ファントム・タスク)』狙いはなんだ?」

 

「あら、言うと思う?せっかくいいシチュエーションが出来たっていうのに」

 

「吐かないならそれでいい。殺すだけだ」

 

「できるかしら?『白い閃光』?」

 

「できるかできないかは俺が決めることだ」

 

ISを展開。同時に重機関銃『03-MOTORCOBRA』を両手に展開。

標準合わせ、発射。

 

夥しい量の弾丸は、雨のように女性に降り注ぐ。それは弾ける椅子や足元を巻き上げ、硝煙を上げる。

女性の姿が完全に見えなくなったところで撃つのをやめた蘇摩。その表情は、試合が盛り上がりそれに鼓舞された選手のように笑っている。

煙幕に隠れて見えないが、ハイパーセンサーは確実にその姿を捉えている。

 

「やめにしましょう?」

 

「……」

 

煙幕が晴れ、その姿が顕になる。

 

黄金。

 

それがそのISを表すにふさわしいと言えた。

精錬されたフォルム。工芸品とでも言うような美しい細工や装飾。

そして、そのボディを覆う黄金の繭。

 

「貴方のISでは私の『ゴールデン・ドーン』を突破することは不可能。分かっていることでしょ?」

 

蘇摩は重機関銃を捨てる。ゴトン、重い金属が落ちる音が響いた。そして、左手に大剣を展開する。

 

「だからなんだ?突破できないなら……」

 

蘇摩のISのブースタから、光が漏れ出す。

噴射する火。そして、一瞬んで距離を詰め、肉迫する。

 

「無理やりこじ開けるだけだ!」

 

そして、両手で大剣を握り締め、その黄金のISに銀色の刃を振り下ろした。




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