インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
『蘇摩?聞こえる?』
「楯無か。こっちは少々忙しいがどうした?」
蘇摩はゼフィルスの射撃を躱し、アサルトライフルで反撃する。だが、大口径の弾丸はいとも容易くよけられる。その軌道を予測していたセシリアがビットによる射撃を加えるが、今度は真上の上昇してその射撃を避ける。今度はラウラのワイヤーブレードが飛来するが、それをビットの偏光射撃でたった一発のレーザーで全て撃ち落とす。
対レーザーコーティングが施されたワイヤーブレードは、破壊はされなかったものの全て無効化され、ラウラはそれを機体に戻す。
「こんのおおお!!」
凰が衝撃砲を、メガセリオンに向けて放つが、メガセリオンは右腕のレーザーを、膜のように展開し全てを防御する。そして、右側に回り込んだシャルロットを左手のハイレーザーライフル
で射撃。
シャルロットは既にビットにより機動を制限され、ハイレーザーを回避することができないため、物理シールドを展開。射撃を耐える。
「くぅ……」
こちらは今のところ大した損害はないが、それはあちらも同じでほぼ互角といっていい。
てかふざけんな。こっちは8対2でこの有様かよ。くそっ。
『お取り込み中のところ悪いのだけれど、今から転送する人物を捕えてくれない?』
転送された画像には、混乱の中を優雅に歩く女性が映し出されている。……亡国の幹部クラスの人物か。
「OK。今から向かう」
『ありがとう。こっちはちょっと人を送らなきゃいけないからよろしくね』
「ああ」
そこで通信が切れる。人物の画像をISにコンバート。ハイパーセンサーがそれを捉えるのに時間はかからなかった。
よし、そこにいるか。なら
「簪。ここは任せた」
「……うん」
蘇摩は踵を返し、画像の人物がいるほうへと飛ぶ。それを見ていた2人は、すぐに目的に気づいたが追いかける様子はなかった。
(……狙いはスコールか。流石に奴は優秀な人間だな)
(でも、そう簡単にスコールは堕とせないよ)
「戦闘中に余所見なんて、随分余裕ね!!」
「余裕じゃない。全体を見るというのは戦場では当然のことだよ。それに……」
凰の言葉にメガセリオンの搭乗者はそう返し、衝撃砲を躱し右腕のレーザーキャノンを収束する。
「勝つためにはある程度手段を選ばないのも定石だ」
レーザーキャノンを発射。単純計算でIS2機を落とせる光の牙を紙一重で躱す凰。だが、
ハイレーザーライフルを撃つ。
ISを飲み込むほどの大きさの橙色のレーザーに隠れた水色の閃光は、凰に回避する間も与えずに牙をむく。そして、その威力は名銃と呼ばれるにふさわしく直撃によるダメージと、エネルギー爆発のダメージと2段階の攻撃が降りかかる。そして、エネルギー爆発の衝撃により、安定性の高い甲龍すらも固まってしまう。
「くっ……やるわね。前に私の衝撃砲でそうそうに戦闘不能になったくせに!!」
「あの時はこちらのミスだった。だから、今度は同じミスはしないよ」
「僕のことも忘れないでね!!」
シャルロットが、背後からスナイパーライフルで狙撃をする。だが、標準的な口径のライフル弾は、大口径の弾丸によって粉砕された。
「貴様も、私のことを忘れるな」
今のはゼフィルスの狙撃なのだろう。恐らくは左手に持っている銃剣付きライフルによるもの。先程までの攻撃も合わせると、あのライフルは実弾とレーザー弾両方を発射できる。
という考えで間違いはないだろう。
「…………私も、忘れないでね」
簪はゼフィルスとメガセリオンの両方から最も離れた位置にいて、その時を待っていた。
本当はキャノンボールファスト用の武装だった。特殊ミサイルを起動。ロックオンいらずで発射するこのミサイルは、発射後自動でターゲットを認識し追尾する。
コンソールを開き、認識ターゲットを、ランダムから襲撃者2名に変更。
ハッチオープン。発射。
48発のミサイルが発射され、それぞれが2機のISを個別に襲いかかる。
無論これで相手を落とせるとは思っちゃいない。ただ、これだけの量のミサイルを回避し切るのは困難だ。必ず武器を使って撃ち落としにかかる。
つまり、それはその武器をその瞬間のみ使用不能にできるということ。
その隙を使って、ダメージを与えられればそれでいい。
「「!!」」
襲撃者の2人もミサイルに気づいたようだ。互いに距離を取り、お互いの武装を使ってミサイルを迎撃する―――そう思っていた。
「「甘い」」
なんと、ゼフィルスはいま展開している6基のビットの他に、更にもう6基のシールドビットを展開する。
それで自機を守る盾を作った。
メガセリオンは、右腕を突き出す。その掌から漏れ出す橙色の粒子。
ミサイルがお互いに降り注ぐそのとき、それは放たれた。
広範囲に拡散する橙色の雨。その雨はミサイルを尽く撃ち落とし、他のISにも牙をむく。
「くっ」
ラウラはなんとかAICも駆使して回避するが、もともとエネルギー兵器は固定しづらく、そのうえこの数ではすべてを回避し切るのは無理がある。
「嘘でしょ!?」
凰は衝撃砲を拡散モードにして、レーザーを撃ち落とすつもりだったらしいが、拡散する一発一発の橙色の閃光は衝撃法をも容易く撃ち抜き、甲龍にダメージを与える。
「そんな!?」
シャルロットも物理シールドで防ぐが、数発で砕け甲龍と同じようにダメージを受ける。
「ちぃ!」
「くそっ」
無事だったのは一夏と箒の二人だった。一夏は雪羅のエネルギーを無効化するシールドで防ぎきる。箒は展開装甲でシールドを作り防いだ。流石第4世代機。
シールド一つ作っても、一般的な物理シールドの強度と防御力を簡単に上回るポテンシャルを発揮した。
「これで邪魔者は減ったか」
「フフッ。ここからが本番だよ」
そして、あの破壊の雨の中、全く無傷のサイレント・ゼフィルス。シールドビットで防いだのはほんの数発であとは自力で回避していた。
そして、此方は戦闘可能なISは7機から2機に激減。7対2ですら、互角に持ち込むのが精一杯だったのに、もはや代表候補ではない、今年初めてISに触れた2人が残った。
「くっ……どうするのだ。一夏?」
「どうもこうも。援軍が来るまで、なんとか持ちこたえるしかないだろう」
「ふん。それほどの時間が貴様に稼げるかな?」
「稼ぐつもりなら、無理だと断っておくよ」
キャノンボール・ファストの戦闘。第2幕が開かれた。
――――
「ふふ。さすがはあの二人ね。あれだけえの専用気持ちを相手に、既に複数を戦闘不能近くにまでもっていくなんて」
ブロンドの長髪を、なびかせて女性は呟く。
「さて、私も仕事を始めなきゃね」
「安心しろ。お前の仕事は今、ここで死ぬことだ」
女性はその声に振り向く。そこには、学園の制服を着た少年が立っていた。
「あら、あなたがオータムの報告にあった傭兵の?」
「ああ。『
「そう」
女性が腕を軽く振り上げる。その瞬間、ナイフが女性の袖から飛び出す。蘇摩はそれを首を動かすだけで避け、左手に持っていた拳銃を撃つ。
「マナーの悪い女は嫌われるぜ?」
「あなたも、私に対して随分失礼な態度じゃなくて?」
蘇摩はベルトから右手にコマンドナイフを抜き、斬りかかる。女性は掛けていたサングラスを捨て、ISを腕に部分展開して、受け止める。
蘇摩はそのまま左手の拳銃を女性の額に押し当てる。
引き金を引いた瞬間、女性の姿は消え去った。既に後ろ数Mに下がっている。
「『
「あら、言うと思う?せっかくいいシチュエーションが出来たっていうのに」
「吐かないならそれでいい。殺すだけだ」
「できるかしら?『白い閃光』?」
「できるかできないかは俺が決めることだ」
ISを展開。同時に重機関銃『03-MOTORCOBRA』を両手に展開。
標準合わせ、発射。
夥しい量の弾丸は、雨のように女性に降り注ぐ。それは弾ける椅子や足元を巻き上げ、硝煙を上げる。
女性の姿が完全に見えなくなったところで撃つのをやめた蘇摩。その表情は、試合が盛り上がりそれに鼓舞された選手のように笑っている。
煙幕に隠れて見えないが、ハイパーセンサーは確実にその姿を捉えている。
「やめにしましょう?」
「……」
煙幕が晴れ、その姿が顕になる。
黄金。
それがそのISを表すにふさわしいと言えた。
精錬されたフォルム。工芸品とでも言うような美しい細工や装飾。
そして、そのボディを覆う黄金の繭。
「貴方のISでは私の『ゴールデン・ドーン』を突破することは不可能。分かっていることでしょ?」
蘇摩は重機関銃を捨てる。ゴトン、重い金属が落ちる音が響いた。そして、左手に大剣を展開する。
「だからなんだ?突破できないなら……」
蘇摩のISのブースタから、光が漏れ出す。
噴射する火。そして、一瞬んで距離を詰め、肉迫する。
「無理やりこじ開けるだけだ!」
そして、両手で大剣を握り締め、その黄金のISに銀色の刃を振り下ろした。
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