インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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キャノンボール・ファスト

「さて、と」

 

蘇摩はISを展開する。彼のISは特に外見的な変化はない。白式と同じく、設定だけ高機動用に変更しているのだ。

今日のレースでは盾は役に立たない。大剣も使う場面はあるだろうが、それよりも銃器の方が有用だろうな。

 

戦闘機のドッグファイトと似たようなものだ。世界規模で開かれる本当のキャノンボール・ファストでは

ここ2回、連続で優勝している人物がいる。

 

その名をフランシスカ・ベルリオーズ。カナダの国家代表である。

登場機体は第1世代機『シュープリス』

見るもの全てを魅了する美しいフォルムに、「クイックブースト」と呼ばれる特殊なブースターによる

圧倒的な3次元起動。その機動力は、イツァムの『プロトエグゾス』と互角で、シュープリスは

レイレナード製の高機動型だが、それにそぐわぬ重武装をしているらしい。

が、彼女の技量により、高機動と、重火力を両立できているのだそうだ。

 

と、脇道にそれた。

 

何が言いたいのかというと、俺の武装にはそのレイレナードのものが多数であり、高機動戦闘には比較的有利なのだ。

 

まあ、レース自体が穏便に運ぶとは思わんがな。

 

「フフン。いいでしょ。最高速度ならセシリアにも負けないんだから」

 

「ふん。武器の性能で勝負が決まるものではないということを教えてやる」

 

「戦いは流れだ。全体を見て、流れを掴んだものが勝つ」

 

「みんな。全力で戦おうね」

 

ちょっと離れた場所では、例のメンツが足並み揃えて話し合っている。各々意気込みを言いながら、準備を進めているのだろう。

俺はちょっと離れた場所にいた。人物に声をかけた。

 

「簪」

 

「!……蘇摩」

 

一瞬、急に声をかけられてびっくりしたようだが、蘇摩を見ると、ほっとしたように息を吐いた。簪の『打鉄弐式』はキャノンボール・ファスト用に追加ブースタと

増槽を装備している。

 

「まあつかの間だが、頑張れよ」

 

「蘇摩も……墜落しないようにね」

 

「…………気を付けよう」

 

なぜかシャレにならない応援に少し寒気がした。

 

「皆さーん。準備はいいですかー?スタートポイントまで移動しますよー」

 

山田先生のすこしのんびりとした声が聞こえる。各々、頷きマーカーで指定されたポイントに移動し始める。

 

(白式の調子もいいし、頑張らねえとな)

 

(さて……いつごろ仕掛けてくる?)

 

同じ表情をした蘇摩と一夏。だが、考えていることはまるで違っていた。

一人はこのレースをただ、純粋に頑張るというもの。一人はこれから起こりうるであろう戦いを待ち構えるもの。

 

そして、全員がスタートラインに並ぶ。

 

『それでは、1年生専用機組のレースを開始します!』

 

山田先生のアナウンスが響き、カウントダウンが始まる。

 

5

 

各自、ブースタを点火

 

ヒィイイイイイイイイイ……

 

4

 

ハイパーセンサーのバイザーをおろし、高速機動に備える。

 

3

 

選手一同が、息を殺しその瞬間をいち早く捉えられるよう集中する。

 

2

 

1

 

そして、その瞬間は訪れる。

 

GO

 

けたたましいブザーと同時に、全8機のISが弾丸となりて会場を疾走する。

 

(まずはセシリアが先頭に出たのか)

 

第1コースを越え、セシリアの『ブルー・ティアーズ』が先頭に躍り出る。

そして、そのあとを俺、鈴、ラウラ、箒、シャル、蘇摩、簪の順で列になる。

 

「一夏、おっ先!」

 

そう言って飛び出したのは鈴。いきなり勝負を仕掛けてくるつもりらしい。

 

「おい!」

 

「もらったわよ!セシリア!」

 

衝撃砲を前面に向け連射する。

 

「くっ」

 

対するセシリアは、それを回避するべく、横にバレルロールする。が、その隙をついて鈴がセシリアを抜き出す。

 

「くっ!やりますわね」

 

「へへん。おっそーい」

 

「甘いな」

 

笑う鈴に悔しがるセシリア。爆発的な加速で、そのまま周りを置いてけぼりにしようとするが、後方から高速の飛翔体が飛んできた。

 

今のはシュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンだろう。

どうやら、今まで機会をうかがっていたようだ。

 

「こんの……!」

 

「遅いな」

 

鈴が慌てて衝撃砲を向けるが、その瞬間にはラウラのレールカノンが火を吹いた。

さすがに直撃は避けたものの、この超音速の世界で何かにかすりでもした瞬間にその衝撃であらぬ方向へ飛ばされてしまう。

 

さらに俺たちの行動を阻害するための牽制射撃まで飛んでくる。

恐くドイツ製のサブマシンガンによるものなのだろう。

流石軍人だけあって射撃の腕はピカイチだ。

 

ジャゴン!

 

「「「「ん?」」」」

 

かなり大きな弾丸装填音。思わず俺を含めて、シャルや箒、ラウラまでもが後ろを振り返る。

 

そこには、巨大な砲台を抱えた蘇摩がいた。

 

「Good Luck♪」

 

蘇摩の上機嫌な声と共に発射された砲弾は、超音速機動状態による慣性の法則でとんでもない初速で発射される。

そして、それがちょうど4人の真ん中あたりに来た瞬間に、爆発した。

 

ドォオン!!!

 

「っく。エアバースト(空中爆破)か!?」

 

爆発の衝撃によりコースから外れたラウラが歯噛みする。今回は特別に爆発範囲の広い榴弾を使ってみた。

空中爆破式の弾丸にして、爆破時間がちょうど40m連中の中心に来た時点で爆発するようにして、な。

 

それで、一気に4人がコースから外れて、俺は一気に2位に浮上する。後ろから個別通信(プライベート・チャンネル)がきた。

 

『今の、まずいんじゃないの?』

 

無論通信相手は簪。その通信を聞いて、俺は言った。

 

「あの程度でやられるようなら代表候補は務まらないさ。それに観客席のE-33、見てみろよ」

 

『……?……お姉ちゃん』

 

蘇摩に指定された場所を見ると、姉の楯無が腹を抱えてうずくまっていた。隣の虚が心配そうに楯無を見ている。成程、そういうこと。

 

「あんなに腹抱えて転げまわっているんだぜ?俺の方がよっぽどマシだろう」

 

そして、後から例の4人が追いかけてくる。ほとんど俺に向けて射撃してくるが、当たるつもりはないね。

 

「んじゃ、お先!」

 

瞬時加速をかけて、突き放す。恐く世界最高クラスの加速能力と瞬間最高速度を持つこの機体に、瞬時加速で追いつけるやつはそういない。

 

そして、最終コーナーを曲がり2週目に突入する。前方には、セシリア嬢がいる。そして、その後ろに簪がいて、やや離れた場所からその他複数名が怒りの形相で追いかけてきた。

悪いな。お前らは一夏と固まっててもらわねえと困るんだわ。

 

「蘇摩さんが2位になられましたか」

 

「おう。つかBFFの機体って、精密機器の塊なんだろ。そんな速度で走って大丈夫なのか?」

 

「ご安心を。最大で18Gにまで耐えられるようにできておりますので、蘇摩さんこそ、どのような魔法をお使いに?」

 

「別に、対艦巨砲主義の権化を一発群れの中に撃ち込んだだけさ」

 

「そ、それは……成程」

 

(……セラスさんやロスヴァイセさんから聞いてはおりましたが、やるときは本当に容赦のない人ですわね)

 

セシリアは、一瞬顔が引きつったがすぐに表情を真剣なものに直す。

 

「ですが、私にはそのようなては通用しませんわよ!!」

 

「だったら、接近して切り落とすまでさ……!」

 

『蘇摩……あのビル!』

 

「わかっている!」

 

いち早く異常に気づいた蘇摩と簪。簪はブレーキを踏み、蘇摩はセシリアに瞬時加速で接近する。

 

「上昇しろ!セシリア!!」

 

「え?―――!!!」

 

蘇摩の声に反射的に従い、急上昇したセシリア。その瞬間、セシリアのいた場所を橙色の閃光が貫いた。

 

「―――っく!?」

 

更に閃光は、IS一機を丸々飲み込めそうな大きさを保ったまま、セシリアへ向けて、会場を薙ぎ払う。

 

なんとか交わしたものの、機体の周りに橙色のプラズマが奔りセシリアの機体にダメージを与える。

 

「こ、これは……」

 

「連中のお出ましだ」

 

蘇摩は、大剣とアサルトライフルを展開する。前方のビル群から、接近する2機のIS。

 

「あ、あれはBFF製BT2号機。サイレント・ゼフィルス……!」

 

「……アイルランド製第3世代……ランブリング・メガセリオン」

 

後からのメンツも駆けつけてきた。一瞬目の前の状況を飲み込めずにいたが、それでも蘇摩たちと対立するように向き合う2機のISを見て、どうすればよいのかはわかったようだ。

 

「………」

 

サイレント・ゼフィルスは、左手に持ったライフルをこちらに向け、ビットを展開する。

 

メガセリオンは、左手のライフルをこちらに向ける。

 

そして、ビットが散らばった瞬間、代表候補組も4方に散らばった。

 

――――

 

「さて、亡国の方々はとりあえず2人ね……!」

 

楯無は混乱する週にを見渡しながら、ひとりの女性に目がついた。

この混乱した状況の中、誰もが慌てふためいて、出口に走る状況の中で、1人優雅に逆方向へ進む、ブロンドヘアーの女性。

 

「うふふ。みーつけた♪」

 

楯無は、その女性に向かい、彼女に負けないぐらいに優雅に歩き始めた。




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