インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
第6アリーナ。ここは当日本番のレースが行われるため、本番と同じコースが設定してある。
つまり、ここで本番に向けて実際にコースを走り、その対策や調整を行えるのだ。
第2アリーナから移ってきた蘇摩たちは、既にここに来ていた人物たちを見つける。
織斑一夏に篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒ、シャルロット・デュノアだ。
何やら、ボーデヴィッヒとデュノアが一夏と箒にレクチャーをしているらしい。
一夏がこちらに気づいたようだ。
「お、蘇摩。お前も練習に来たのか?」
「ああ。という訳でコース一回借りるぞ」
そう言うと、一夏は軽く頷き、「いいぜ」と言ってくれたので、早速使わせてもらうとする。
「ん?蘇摩。そっちの子は?」
「ん?ああ。コイツは更識簪。楯無の妹だよ」
一夏含む4人は、少し驚いた様子だった。まあ、無理もないよな。あんなにはっちゃけた姉の妹と聞くと大体似たような人物を想像してしまうのだろう。
例の簪は、少しおどおどしている。まあ、少しは改善されてるっぽいけど人見知りの多いやつだったからな……無理もない。
「俺はって……言う必要もねえと思うけど、織斑一夏。よろしくな、簪」
「私は篠ノ之箒だ。よろしく頼むな。簪」
「ボクはシャルロット・デュノア。よろしくね。簪ちゃん」
「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。よろしく頼む」
「よ、よろしく……」
ある程度の自己紹介を済ませた後、一夏以外にはキチンと挨拶を返した簪。
「って、俺にはないのかよ!?」
「……貴方は悪くない。けど、貴方は……私に殴られても、文句は言えない……」
簪の一言で一夏の顔が固まる。数秒後、楯無が「ああ」と、思い出したように手を叩いた。
「そういえば一夏くんのISを作った倉持自研って、元は簪ちゃんのISを作っていたんだけど……」
「空前絶後の男性IS操縦者専用機を作るってことで、そっちに人員が割かれまくって簪のISが製造途中でこいつに渡されたらしいからな」
楯無の説明に俺が補足を加える。一夏たちの面々は得心がいったらしい。でもまあ、一夏はほんとに不可抗力だからな。簪も文句は言えどもそれ以上は何もないようだ。
そして、俺たちはコースを走るためにISを展開すると、楯無がこう言ってきた。
「それじゃあ、一回簪ちゃんがコースを走ってみて、そのあとで蘇摩が実際に私と走ってみましょうか」
「わかった。じゃあ、行ってくる……」
簪はすぐに頷き、スタートラインに飛んでいく。見本としてはキチンとしたチョイスだ。
簪は「基本的には」セオリーに沿ったISの扱い方をする。
さっきの俺との戦闘では、対俺専用にだいぶはっちゃけた戦い方をしたらしい。
そして、きちんとした見本を見せたあとで自分と走らせる口実を作り上げる。おそらく俺の事故とかを防止するためとか言ってな。
ちゃんとした指導と自分の希望を見事に両立させる楯無のしたたかさ。
感嘆するよ。
しかも人選もちゃんとしすぎて文句も言えねえ。
『……蘇摩』
簪から通信。
「どうした?」
『私の映像回すから……チャンネルは472……』
「OK。サンキュな」
簪はスタートラインに着いたらしく、いつでも発信できる状態のようだ。
「準備はいい……?」
「ああ。いつでもスタートしてくれていいぞ」
「わかった……」
簪がスタートラインから、一気に加速していく。全く危なげない機動とバランス調整でコースを駆け抜けていく。そこで、俺はあることに気づいた。
簪の視点の端にいくつかのグラフとゲージが表示されていて、それがカーブや加速をする時に時に微妙に、時に一気に変動していく。これってまさか……
機体のブースタ出力とバランサーの調整をリアルタイムで、しかも手動で行ってる?
あっという間に中央タワーに到達し、そこから減速からのカーブを行っていく。真面目に格調整を手動で行っていたらしく、カーブの時に「あ……」という声が聞こえた。
どうやら少し調整をミスったらしく、カーブの軌道が若干右寄りになった。だが、すぐに修正し理想的なコース位置に戻る。タイムラグは僅かに0.3秒。これでもこのレースでは致命的なのだろうか。
ゴールして、此方に戻ってくるときの簪の顔が少し暗かった。
「すげえな。かなり勉強になったよ。手動調整以外は」
「……でも、中央地点のカーブで、ミスしちゃった……」
「それを差し引いてもすごいわよ簪ちゃん。さっすが私の自慢の妹なだけあるわ~♪」
姉に褒められたのが嬉しかったのか、少し簪は笑って「ありがとう」と言った。
「つかほぼ全部手動調整してただろ。ブースタとかバランサーとか。あれってまさかできないと拙い……のか?」
蘇摩の質問に顔が若干強ばる二人。なにか変な質問だったのだろうか。流石にこんなのは質問しなくても分かるはずのことだったのかなと若干不安を覚える。
どうしようかと迷っていたら楯無が口を開いてくれた。
「えっと……とりあえず簪ちゃんのアレはできなくて問題ないわよ。というより、あんなの出来るのはそうそういないし、ざっくり言っちゃうと、あんなの出来るのは
少なくともこの学園には私と簪ちゃん位だから……」
確かに……イツァムはこんなこと、できなさそうだな。できるとしたら、技術的にロス……か?
あ、あとランクA-8のP.ダムあたりはやってそうだな。性格的に……。
P.ダムと言えば……アクアビットかー。あの変態企業の奴らめ。俺がレイレナードの武器を裏で注文したのをどこからか嗅ぎつけて
「是非うちの製品を!!」と声を大にして言ってきたな。
あんな変態の製品など不安で不安で……モノの良さは知っているんだがどうしても、な。
「蘇摩」
「っとすまん。じゃ、俺らも行くか」
楯無の呼び声に思考を中断し、スタート地点に向かう。それじゃあ、行きますか。
スタートの合図がなった瞬間。『瞬時加速』を使用する。それにより視界が一気にバイクに乗ったみたいに流れていく。ハイパーセンサーを高機動モードにしているというのに
この流れ方は半端じゃない。流石突進力重視の機体なだけはある。
「ひゅー行けるねぇ」
「さっすが蘇摩。初めてでこれだけいけるなら、問題ないわね」
さっすが。最初の段階で突き放したつもりが、もう俺に並んでいる。流石ロシア国家代表なだけあって、大したものだ。
中央塔のカーブに差し掛かる。簪はここで大きく減速したのだが……ちょっとやってみるか。
この超音速状態でやると骨がイカれるかもしれんが、ものは試しだ。
超音速状態での、無反動回転。それにより、慣性で移動したまま全身をバク転の要領で反転しながらブーストをフルパワーで吹かす。最高クラスの瞬間出力を持つブースタのフルパワーは
一気に減速することなくほぼ直角に曲がる
そして、再び無反動回転。それで体制を向き直させて、それからの『瞬時加速』
それにより、一切原則でカーブをすることなく、最短距離かつ直角に曲がり切る。自動車で言う『ドリフト走行』をISの超音速域でやってみたのだ。
うん。使える。カーブにかかった時間は、簪のやく65%。だいぶ短くすんだ。
だが、楯無は俺が曲がり切った時には、既に俺の前にいた。
「フフン。ドリフトは考えたけどまだまだね♪」
おいこら待て。どんな魔法を使ったんだよ。と思いつつも、再び『瞬時加速』を使用する。距離は一気に縮まり、並ぶのだが、そのちょうどISが並ぶ瞬間に楯無が『瞬時加速』を使用し
また距離を離した。
クッソ。『アビス・ウォーカー』は瞬間最高速度はトップレベルだが、通常最高速度ではラファールカスタムと同程度。それに対して楯無の『
走行を可能な限り削り取っており、機動力全般がハイレベルに高い。
つまり、通常速度で負けているわけで徐々にはなされていく。
「フフッ。ISの速度でも、技術でも負けるつもりはこれっぽっちもないわよ♪」
そう言いながら、『瞬時加速』を使用。更に距離を離すつもりなのか。だが、そうは行くかよ。こっちも『瞬時加速』を使用する。『瞬時加速』の最高速度はこっちが優っているからか
距離自体は縮む。が、その瞬間。あいつは悪魔の様な笑顔をこちらい向けてきた。
「残念無念。また来てねん♪」
「っな!?」
楯無は間髪いれずに『瞬時加速中』に
まさか、楯無のやつ『
冗談だろ!?あれは一夏の白式が
それをいくら機動性に優れる『霧纏の淑女』でとはいえ、使ってくるなんて……。
そして、終盤で俺をぶっちぎりに抜いた楯無に一足遅れで俺はゴールインした。
「お帰り。蘇摩♪」
楯無がずいぶんご機嫌な様子で俺に近寄ってくる。俺は白い目であいつを見ることにした。
「そんなすねないでよ~。IS以外で蘇摩に勝てるものなんてゲームくらいしかないんだから。お姉さんちょっと本気になっちゃっただけよ♪」
「確かに生身の戦闘でお前に負ける要素は何一つとして……質の悪さ以外ではないつもりだがな。『2段階加速』が使えるなんて知らんぞ」
「あ、それ俺も聞きたんだけどさ。えっと、楯無さん。なんでアレができるんすか。俺だってようやくまともに使えるようになたばかりなのに……」
一夏がおずおずと質問をしてきた。どうやら、彼らも俺らが走ってるのを見ていたらしい。少し後ろから箒以下3名がやってきた。
彼女らも、同じ疑問があったらしい。
楯無は「うーん……」少し考える素振りを見せ、とびきりの笑顔で言った。
「なんとなく♪」
「最高にわかりやすい答えをどうもありがとう」
俺たちは、楯無の返答にげんなりする他なかった。
「お姉ちゃん……それはあんまりな、回答だと思う」
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