インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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潜む影は粛々と

朝早くに行った簪との模擬戦は、俺の敗北という形で終わることとなった。

うん。流石に日本国家代表候補というだけはある。しかもあの動きは楯無にいろいろとレクチャーしてもらったのだろうな。

所々に楯無と同じ動きがあったし、しかもそれだけではなく簪は自分でも独自に練習をしたようで、なんともまあ大したことに薙刀の振り方にどこで覚えたかは知らないが『無間』の流れが見られたぞ。

 

俺の見様見真似なのか、はたまたあの糞ジジイから本当に学んだのかは知らないが大した者だ。

 

そして、まだまだ俺の技術は全然浅はかである事がわかった。とにかく武器展開が致命的に遅い。ここの一般性と程度なら十分な早さだろうが相手は亡国のISも絡んでいる。

少なくとも代表候補生と同レベルでの展開速度は欲しいところだ。

 

とは言うものの、代表候補は最低でも1年以上はISに乗って訓練している。ISの稼働時間はゲームに例えるならスキル値とでも言うべきか。

スキルの数値が高ければ高いほどに高度な技が使えるようになる。

 

俺と代表候補生との間にある埋めがたい差がそこにある。

 

そして、それを少しでも解消するために今俺は簪と第2アリーナにいる……はずなのだが。

 

「さあて、それじゃあ始めましょうか♪」

 

「なんでお前がいるんだよ楯無」

 

「………お姉ちゃんが、手伝うって…………………槍が降る……?」

 

第3アリーナでは一夏たちが今度のキャノンボール・ファストへ向けて練習をしている。なら俺たちも練習ついでに『CBF(キャノンボール・ファスト)』のとっくんでもしようかという話になった瞬間、この人たらしはやってきた。くそ、一夏たちをからかいにでも行けばいいのに何故俺達の所に来たというのだ。

 

「簪ちゃん……槍が降ってくるのはひどいよ~。まあ、どうせ蘇摩は設定切り替えすらままならないんでしょ。だから、そこからはじめるために「この私が」

手とり足取り、教えに来たんじゃなーい」

 

「さて簪。ブースタの調整だが、メインを引き上げて、サブを落とした上での補助用の旋回ブースタの出力を上げればいいのか?」

 

「ちょ、ちょっとちょっと。真面目に教えてあげるから蘇摩」

 

楯無が焦った様子で蘇摩に走っていく。簪はそれを見て、少し4年前のことを思い出した。

 

(あの時も……お姉ちゃんが蘇摩に走っていって、私は縁側でスイカを食べてて……蘇摩は一人で刀を振るっていて……なんだかあの時のまま4年が過ぎたみたい……)

 

簪は蘇摩に恋愛感情を抱いたことはない。初めて出会い、助けられたときは本当のヒーローを見たような羨望と尊崇の感情を持った。そのあとも憧れの感情は持っていた。

でも、恋愛対象として蘇摩が好きだと思ったことはない。

 

そんな感情を抱く前に、私はそれを諦めたからだ。

 

お姉ちゃん。まだ楯無ではない頃のお姉ちゃんが蘇摩をいつも口説きながらベッタリとしていた。

私はそれを見ていた。人見知りの多い私はお姉ちゃんみたいに蘇摩に接近する勇気がなかった。

 

私はお姉ちゃんと比べられるのが怖かった。何をやらせても完璧だったお姉ちゃんとそこそこの私。比べられるのが怖くて、いつも日陰にいた。

おねえちゃんを超えたい―――でも完璧なお姉ちゃんと勝負して、比べられるのが怖い。

 

そんなことを毎日のように思っていた。

 

そして、それは姉妹の仲を急激に冷えさせていく。それを変えたのが、蘇摩だった。

 

「簪ちゃん。ちょっと来てくれない?」

 

「え。あ。う、うん」

 

いきなりお姉ちゃんに呼ばれ、驚いたがすぐに返事をして、走っていく。そこには蘇摩の腕に自分の腕を絡ませた楯無(お姉ちゃん)がいた。

……蘇摩は諦めたようにため息をついている。状況、把握。

 

「お姉ちゃん……?どうしたの?」

 

「蘇摩のISのサブスラスターの調整をしたんだけどね?どうも調整した後、出力が微妙に変動するのよ。そこで、簪ちゃんにお願いってわけ♪」

 

…………なんだろう。目の前の姉に対して、無性に腹が立ってきた。

 

蘇摩が若干引いている。ということはそうなるようにお姉ちゃんがしたに違いない。そして、蘇摩にくっつくために私に始末をさせる気だ。

 

「………」

 

「ああ、待って!冗談だから!冗談だからその薙刀をしまって。ね?」

 

「本当に冗談だからしまってやれ簪。つかそんなんもん振り回されてクライアントに傷つけられるのも困るんだわ」

 

流石に拙いと思ったのか蘇摩も止めに来た。

仕方ないので『夢現』を量子化させて、拡張領域に収納する。お姉ちゃんはいつものセンスをどこからか取り出し、それを広げて口元に当てる。

今回書いてあったのは『私の簪ちゃんが~』珍しく4字熟語じゃない。……お姉ちゃん。

 

「ああ、私の簪ちゃんが。いつのまにこんなバイオレンスな女の子に~……」

 

「それは楯無。お前の所為だ。っと話が進まないな。こっちの調整が一通り終わったから、一度適当に飛んでみないか?っつうことだ」

 

「……わかった」

 

簪は納得してくれたということで、早速そこに崩れ落ちてよよよと泣き崩れている(無論嘘泣きだ)楯無に一言。

 

「さっさとしないと置いてくぞ」

 

「ああん♪待ってよ蘇摩。女の子に放置プレイだなんて、男の風上にもおけないゾ♪」

 

……一回本当にマゾにしたほうがいいんじゃ……

 

簪はそんなとんでもないことが一瞬頭によぎり、首を振る。

 

なんだか、蘇摩の影響なのか随分とバイオレンスなことが頭に思い上がる。

最近は勧善懲悪物のアニメじゃなくて、もっとリアリティな「互の正義」と言ったものが題のアニメを見るようになってきた。

最近は「コード○アス」や「ガン×○ード」が熱い。

 

ちなみに私はランスロットはクラブ派。ゲーム?うん。私はロスカラ好きだよ。楽しいし。

ちなみに推すのはライカレ。ゲームのカレ○がすごく可愛い。

私は腐ってるつもりなんてない。でもウェンディングドレスのルルー○ュは可愛いと思う。

 

って何言ってるんだろうか私は……。

 

いつの間にか、やや置いてけぼりを食らってしまっている。急いで2人の跡を追うことにした。

 

「To~To~To~ToTo~」

 

私はちょっとだけ、彼の鼻歌を思いだし、歌ってみた。なんだか不思議な気分になる歌だ。

 

――――

 

「ふんふふーん♪」

 

機械の山に埋もれた部屋に、その人物はいた。

いくつものモニターに照らされ、いくつもの繋がれたキーボードを叩く指はしなやかで、その格好はエプロンにうさ耳とまるでおとぎ話の『不思議の国のアリス』を一人でやっているかのようだ。

 

「最近ご機嫌がよろしいようですが、何かありましたか?」

 

その人物の後ろからトレイとコップに入った紅茶を入れた真っ白の服に身を包んだ少女が入ってきた。

 

「うん♪なんてったって、あの子が見つかったんだよ~束ねさんは嬉しくて嬉しくてテンションが最高にハイッてやつになっちゃうよ~!!」

 

そう言いながら凄まじ速さでキーボードを打っていく。それに連動されている複数のモニターからは、素人が見れば何がなんだかわからない図面が出てきては消えてを繰り返している。

そして、ほかの画面には、ISと思わしき機体のCG画が、ゆっくりと回っていた。

 

非常に流線的で真っ黒。右腕に巨大な爪を孕んだ腕部。

 

「『あの子』と言いますと、例の計画の……発見されたんですか!」

 

「うん。しかも『あそこ』にいるんだから。まさにワンダフル!ってね全くあいつらも人が悪いよねくーちゃん。いるんだったら早くいるって言えばいいのにさ♪基地を一つまるまる失わなくて済んだのにね」

 

まるで今日の献立を聞くかの如くに軽い調子で話すその人物は話しているこの時もモニターから目を離さない。まるで新しい玩具をてにいれた子供のようにはしゃぎながらモニターに食い入っている。

 

「いやアイルランドもやるねーこんな機体を作り出せちゃうんだから。とは言っても機体の発案も、設計もみーんな『あの子』がやってるっぽいけどねー。さっすが束ねさんの頭脳の一部を写しただけはあるね。ブイブイ!」

 

「では、『保護』いたしますか?」

 

「ううん。今はしっかり『半身』もいるからね。下手に手を出すと、流石の束ねさんでも手に負えないからねー。能力が完全になればあの2人はなんとちーちゃん以上の能力を発揮しちゃんだよ。いくらクーちゃんでも勝てっこないからさ」

 

「では、いまはまだ様子を見ると……」

 

くーちゃんと呼ばれた少女の言葉にその人物は我が意を得たりと、今初めて後ろを振り返った。

 

「そういうこと。でもでもーいずれは2人とも束ねさんのところにこさせちゃうけどねー。それよりくーちゃん。ゴーレムⅢの準備は?」

 

「稼動可能なのは4機です。当初の計画通りの数ですが、やはり7機に増やすのですか」

 

「うん。だからさ。早いとこ調整終わらせちゃってねー」

 

「かしこまりました」

 

束様―――。そう呼ばれた人物。篠ノ之束は、モニターの横に貼り付けてある。一枚の写真を見た。そこに写っている人物を見て、笑顔を作る。

その表情は、まるで子供に注げる母の愛情のようでもあった。

 

「もう少ししたら迎えに行ってあげるからね。まっててね」

 

私の子供―――。

 

そう呟く声は、この狭い部屋に反響する。




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