インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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薙刀VS大剣 2

凄まじい速度で突進する蘇摩のIS。簪はそれを冷静に対処する。

蘇摩の斬撃は早い、鋭い、重いの豪華3点仕様だが、斬撃自体の起動はフェイントを入れることはあまりないのでわかり易い。

焦らず、しっかり防御する。

 

「はあああ!!」

 

「―――っうう……!」

 

が、防御できても豪華3点仕様の攻撃は衝撃が強く、PICの補助があるにもかかわらず、大きくノックバックされる。

蘇摩のISのパワーアシストはラファールカスタムと同程度のはずなのに、この威力をたたき出す蘇摩の素の実力には呆れを通り越し感心の域だ。

だが、そんな余裕はない。追撃に備え、薙刀を構える。今度は袈裟斬りに振られた刃を一度引き、突きの姿勢を取った蘇摩。

 

来る―――。

 

ギィィィィィイン!!

 

「っ―――!!」

 

薙刀の柄で受け流すが、それでも相殺しきれない衝撃が両腕に激痛となって奔る。本来ならば、受け流したまま刃を回し、蘇摩に一撃見舞うはずだったが衝撃が強すぎて、

腕が動かない。

 

蘇摩はそのまま簪のそばを通り抜ける。簪も蘇摩の動きに合わせ、何とか旋回する。

 

大剣を簪と反対の方向に開き気味に半身になって構える蘇摩。

薙刀を刃を蘇摩に向けつつ、少し刃を横向きにしながら構える簪。

 

「やるな。だが、次は―――どうかな!?」

 

蘇摩は『瞬時加速』で一気に距離を詰める。第4世代に匹敵する加速力は、圧倒的瞬間速度を叩き出し、簪に接近する。

剣の動きは下段左切り上げ――紙一重で躱して、カウンターを与える。

 

簪は、ここで確実な防御を捨てる。そうしなければ蘇摩に勝てないと踏んだのだ。ちょっとした賭けになるが、動き自体は読みやすい蘇摩の斬撃。しかも無間流の斬撃の特性は

斬撃の後には隙ができる。この際ダメージを受けてでも、肉を切らせて骨を立つ。

 

そう決めて、飛来する蘇摩の斬撃―――ここ!!

 

蘇摩が剣を振りかぶる前に、回避行動をとる―――

 

バリン!という重く大きい音が響く。簪は、蘇摩の斬撃を脆に(・・)喰らい、大きく吹き飛ばされた。

 

「キャアアアアアアア!!」

 

今、何が起こった!?

蘇摩が剣を振りかぶる瞬間、回避行動をとった。それは確か。だが、あの瞬間。

回避行動を取った時には、既に蘇摩の腕は振り切られていた―――。

 

―――そう、か。

 

吹き飛ばされ、視界が反転し、衝撃により一瞬飛んだ意識の中で彼女はそれに思い至った。

 

蘇摩が最も強力な技だ―――と言っていた。無間の技の中でも最も基本的な技。

 

無間流、攻の壱『瞬撃』

 

技自体は極々基本。斬撃を行う際に生じる予備動作を可能な限り簡略化して、完全な一撃を与える技術。

例えるなら、剣をまっすぐ振り下ろす時、『振り上げる』という予備動作が絶対に存在する。

それは強い一撃を与えれば与えようとすると、その振り上げる動作は大げさになる。

 

『瞬撃』の要諦は、その逆を掴む。すなわち最小の予備動作で、最大威力の斬撃を見舞うこと。

 

簡単ゆえに真理。故に完全に習得するのは困難を極める。事実4年前、蘇摩の瞬撃もこれほどのレベルではなかった。

まだ、振りかぶりの動作も鼻につき、見極めるのも比較的容易だった。

そう、4年という歳月と蘇摩の才能は、その壁を尽く破壊しつくし、この境地にいたらせたというのだ。

 

「この一撃は効いたろう。なにせ、一発撃つのに相当集中力がいるんでね。おいそれとできるもんじゃないのさ」

 

確かに、今の一撃はシールドを破壊し、絶対防御すらも起動せざるを得なかったために、この機体のエネルギーは最早最初の3分の1にまで減ってしまっていた。

だが、まだ私には『切り札』が残っている。I

 

「はあああ……!」

 

『瞬時加速』で蘇摩に突進。蘇摩はニヤリ、と口角を上げて、私の攻撃を避けることはせず、真っ向から迎え撃った。

 

『夢現』と大剣がぶつかり合い、金属同士が削れ合う音と共に、刃と刃の交差点から火花が飛び散る。恐く、ISのシールドがなければ火傷を追っていたかもしれない。

この程度の火花なら、ISのシールドに阻まれて私たちに届くことはないし、シールドエネルギーを消費することもない。

 

そして、驚くべきは超振動薙刀の『夢現』と鍔迫り合いをしても、刃こぼれ一つすることのない大剣の強度である。

楯無(お姉ちゃん)からのデータでは、あの大剣はごく普通の、高周波を発生する機能も何一つない剣であるはずなのに、シールドを叩き割る威力の斬撃を放てるというのは、

ISの恩恵か、はたまた蘇摩の実力か。

 

「はああ!!」

 

蘇摩は大剣を力任せに振り抜く。そのパワーはISごと私を弾き飛ばすには十分だった。

 

良し!私は、吹き飛ばされながらブーストをバック噴射、距離を取りながら『春雷』で蘇摩を射撃。蘇摩はバックジャンプで距離を取りながら、雨のごとくに放たれていく荷電粒子弾を

大剣で弾いていく。

 

流石の反応速度だ。だからこそ、この武装は蘇摩には効くはず。

 

「これで……!」

 

完全展開した背中と肩に存在する計6基の非固定(アンロック)ユニットには四角い升が8個ずつある。それら全てがミサイルポッドであり、6×8の合計48門のミサイルポッドなのだ。

しかも、今回は対蘇摩用に試験的に搭載したミサイルがある。

 

この武装こそ簪の第3世代IS『打鉄弐式』の特殊武装である大連装独自ロックオンミサイル『山嵐』。未だ個別ロックオン用のFCSが完成していないため通常の単一ロックオンシステムが使用されているが

蘇摩用のミサイルはそう簡単に避け切れる代物ではない。

 

ロックオン。第1、第2、第3、……全ポッド起動。

 

通常ミサイル及び近接信管ミサイル、分裂ミサイル、ハイアクト(高追尾)ミサイル発射。発射される3種のミサイルの雨は、まさに暴風雨となって蘇摩に牙を剥く。

 

「………………え」

 

い、今起きてることをありのままに話すぜ。俺は連射される『春雷』が止んだと思ったら、今度はミサイルの雨がやってきた。

何を言っているのかを理解してくれれば助かる。俺もこれ以上うまい説明が思いつかない。

 

ミサイルの一部が、分解し、多数の小型ミサイルになって襲いかかる。しかも中には近接信管まで入ってくる始末。

 

「嘘だろおい!!」

 

ブースタを更かし、距離を取ろうとするが、その瞬間簪が『春雷』で機動を制限する。そうか、わかったぞ。さっきから俺の動きに尽く簪が万全な対応を見せてくると思っていたが、

これではっきりしたぜ。楯無の奴が俺のデータをあいつに渡しやがったな!!

さては学園祭のことをまだ根に持ってやがるのか!あれについては説明しただろが。畜生!!こうなったら

 

「剣で叩き落とすしかない!!」

 

簪がしたように大剣を高速で回転させ、ミサイルを移動しながら叩き落としていく。

無論爆発のダメージでエネルギーが削られていく。しかも爆発が前提の近接信管ミサイルは特別痛いし、分裂ミサイルは数が多くて、総合爆発のダメージが結構くる。

大盾は右腕が死んでるから持てないし、武器を交換しようにも交換にかかる時間で詰むし、さらにこのままじゃ、ガチでエネルギーが切れちまう。

 

流石に荷電粒子砲は飛んでこなかったが、これを捌ききったら、覚えてろよ簪……!

徐々にミサイルの弾幕が薄くなり簪の姿を捉えられるようになってきた。かすかに映る簪は『春雷』を起動しこちらに狙いを定めている。

 

「甘い!!」

 

あいつの狙いは読めた。ミサイルが尽きかけた瞬間に荷電粒子砲の雨が再来するに違いない。ならその前に片を付ける!!

だが、蘇摩の読みは外れた。簪は見かけだけ『春雷』を展開していたが、右手に持っていた『夢現』を握り締める。

 

間合いはこちらが上、速度は蘇摩が上。

 

「……勝負」

 

「!……おもしれえ!!」

 

簪の本当の狙いに気づいた蘇摩。もはや俺のエネルギーはほぼ0だ。あと一撃喰らえば沈む。つまり簪は被弾覚悟で確実に俺にその一撃を与えるつもりなのだろう。

なら、奴の攻撃が来る前に沈めてやる。

 

エネルギーが少ないのはかんざしも同じだ。ならば、この一撃であいつより先に強烈なやつを浴びせてやる。『瞬撃』の速度と威力なら

簪の薙刀が届くより先にアイツのISを沈められる。

 

「はああああ!!」

 

「せえええええ!!」

 

振り下ろされる大剣。振り上げられる薙刀。その行く先は―――

 

ギィイイン!!!

 

「な……に……!?」

 

簪は蘇摩の一撃を片手で(・・・)受け流す。衝撃で、一瞬体が固まり、視界にノイズが走る。簪は、この局面で蘇摩は『瞬撃』を使うのはわかっていた。だからこそ、

右腕がイカれるのを覚悟で片手で防ぎ、彼の動揺を誘う。でも、実は体が無意識にこの行動をとるまで、意識は真っ向勝負を挑んでいたのは内緒。

 

「……ごめん」

 

一応謝罪。体が衝撃でかたまり、狙いがつけられない。でも、この距離で乱射すれば、絶対当たる。

狙いをつけず適当に『春雷』を乱射。

 

それは蘇摩に、無慈悲に襲いかかっていった。

 

『勝者、更識簪』

 

試合終了のブザーが響いたのは、午前5時50分頃であった。




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