インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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大剣VS薙刀

翌日。生徒会室の並べた椅子の上で、俺は目を覚ました。起き上がり、机を確認すると。パソコンが置いてある。まあ、自分のパソコンだから置いてあるのは当然といえば当然か。

さてさて、時間はと……4時20分。

 

ふん。いつもより少し早いが、こんなものだろう。

昨日はあのデートの後、生徒会で大量の書類に追われて、楯無と俺でその片付けをしていたんだっけか。

書類のほとんどは『キャノンボール・ファスト』の事で、何人のお偉方が来るのかや、どのような時間配分をするのかといった、基本的なことを行っていた。

職員がやればいいんじゃね?という疑問もあったが、言っても仕方ないことなので素直にやっていたのだ。俺も生徒会役員だしな。

 

机の向かい側に楯無が突っ伏している。彼女はまだ寝ているか。

この時間帯なら職員も起きてる奴は少ないだろうし、かといって寮室に戻る気も起きないし2度寝する気も起きない。一度、外に出よう。

 

なるべく音を立てないようにして、俺は生徒会室を後にした。

 

さて、どこに向かうとするか。自室は却下だ。嫌な予感がするので。

という訳で職員室で誰かいればアリーナの使用許可でも貰うとするか。

 

まだまだ、ISには慣れていないところが多い。早く慣れてしまわなければ。

付け焼刃では役に立たないからな。

 

――――

 

「ん?」

 

第3アリーナに向かってみたら何やら先客がいる。外から見てみると当然といえば当然か、誰かがISを起動している。

ただ、そのISは一般生徒たちが使う訓練機ではない。

 

外見的には打鉄に似ているところがあるが、あれは打鉄よりもスマートな外見をしていた。

ん。よく見たら簪、か……?

 

こんな日も出ていない時間によくやるなー。

 

とりあえず声をかけることにした。

 

「おーい」

 

「っ!?」

 

急に声をかけられてびっくりしたのか、半身に構えをとってこちらを警戒する簪。が、声をかけたのが蘇摩とわかるとすぐに警戒を解き、表情も柔らかくなった。

その身には、打鉄の特徴を残しつつも打鉄の防御力重視のそれとは違い、むしろ機動力を意識したようなスマートな外見に仕上がっているISを纏っていた。

 

背部に装備されている2基の非固定(アンロック)ユニットが印象に残る。

 

「蘇摩?こんな時間に、どうしたの……?」

 

「まあ普段はもうちょい後に起きるんだが、今日は早く目が覚めてな。んで少しでもISに慣れようと思ったわけ」

 

「そう、なんだ」

 

蘇摩は、ISを展開する。秒数にして約1.3秒。織斑千冬は以前一夏に0.5秒で展開可能にしろと言ったが、蘇摩は未だその域には到達できていない。

だから、今までのISでの戦闘ではなるべくISを展開しきって、かつ装備も展開した状態の万全な体制で望んできたのだ。そうして、自身のISの展開の遅さをカバーした。

 

それは最初の模擬戦や学園祭での戦いでもそうだった。が、それはそれまでの話でありこれからも万全の体制を整えてから戦闘が始められるわけではない。

だから、なるべく暇を作ってこういう風に練習をしなければならないのだ。

 

「………まだまだってところか」

 

「うん……全然遅い」

 

簪も少々辛辣な意見を述べるが、これも蘇摩とそれなり以上に親しいことの証明でもある。蘇摩は今度は武器の展開をはじめる。

 

まずは大剣。最も多く使っている武装なため、イメージは一番簡単。

形状、重さ、それらを頭の中で創造し、自らの手に具現化させる。

 

さすがに、一番多く使う武器なだけあって、展開は早い。それでも0.8秒。簪含む代表候補生にとっては遅いくらいである。

 

「なんだろうな……なんか上手くいかないんだよな」

 

「こういのは……慣れ、だから」

 

「習うより慣れろってことか……練習あるのみかな」

 

蘇摩は少々肩を落とし、ほかの武装も展開しては収納するを繰り返していく。簪が見ていた限りでは、アサルトライフルや重機関銃の展開速度は1.2秒ほど。大盾はほぼ1秒ジャストと言った時間であった。

 

簪も、蘇摩の練習を見ていて少し自分の武装展開速度を測ってみたくなり、超振動薙刀『夢現』を展開する。

かかった時間は0.43秒。普段通りの展開速度。

 

………よく考えると、あのフランス代表候補生のシャルロット・デュノアはすごいと思う。

武器を展開したりしまったりするだけで、基本代表候補生は合計で1秒近くかかってしまう。

だが、彼女は更に別の武器を展開し、それを1秒足らずで行ってしまうのだ。

 

自分いない技術を持っているというのは正直うらやましい。だけども、あの高速切替(ラピッド・スイッチ)はおいそれと習得できるような技術ではない。

そこは彼女に脱帽するしかないのだろう。

 

でも、私にだって得意とする技術は持っている。

 

「そうだ」

 

蘇摩は一旦武器展開の練習を中断し、簪に顔を向けた。

 

「ちょうどいいからさ、少し模擬戦でもしないか?」

 

「模擬戦?」

 

「ああ。通常の試合ルールと同じで、時間はちょっとアレだけど30分もあれば一本くらいできるだろ」

 

「………わかった」

 

簪は少し考える素振りを見せたあと、頷いた。

 

――――

 

「手加減は……しない」

 

「じゃないと面白くない。全力で来い」

 

頭上にタイムが表示される。模擬戦とは言えど、こういったアリーナの機能は簡易的な物なら使えるようになっている。

 

残り3……2……1、

 

Fight

 

試合開始のブザーが響き、先に仕掛けたのは簪。

背部に搭載されている2連装荷電粒子砲『春雷』を4連射で牽制。蘇摩はそれを紙一重で全て避ける。そして、右手にアサルトライフル『04-MARVE』を展開。

左手に重機関銃『03-MOTORCOBRA』を展開し、広範囲にばらまくように斉射を開始。

 

簪は多少被弾したものの距離をとり、右手に『夢幻』を展開、高速で回転させる。それにより、銃弾は回転する薙刀の柄や刃に弾かれ、簪に当たらなくなる。

更に、簪は夢幻を回転させたままブーストを噴射、上昇する。そして、蘇摩の射線から一気に飛び出し、『春雷』を連射しながら『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を使用。

蘇摩に突撃する。

 

蘇摩は春雷を避けようとして、簪の狙いに気づいた。

 

連射された春雷は、避けなければ当たるがそれ以上にハズレ弾が多い。そして簪が『夢現』を振り被り突進するということは、春雷は動きを制限させるもの。

だが、気づいた時には既に簪はもう間近に迫っている。さらに『春雷』の弾幕は激しさを増し、無理に動けばダメージは必至。蘇摩は剣を展開しようとするが、ぎりぎり間に合わなかった。

 

「はああああ……!!」

 

「っぐ……!」

 

左手に剣を展開しながら右手で簪の斬撃をガードする。振り下ろされる刃を見切り、柄を止める。だが、それもかんざしの想定の範囲内だったようで、ブーストを吹かし、こちらを抑え、固定しながらほぼゼロ距離での『春雷』を撃ってくる。無論機体が動けないように抑えられていたので避けることはできずにモロに直撃を受ける。

 

シールドエネルギーが、みるみる減っていき、ようやく剣を展開しきった頃にはすでに1100以下に下がっていた。

わずか0.7秒のあいだにここまでダメージを食らわせるとは、想像以上に簪は強い……!

 

「はあ!!」

 

左手で振り抜いた剣はあっさりと躱され、簪は距離をとりつつ『春雷』で蘇摩を牽制する。蘇摩は『春雷』を避けながら右手に大盾を展開。放たれる荷電粒子弾をすべて防御する。

流石の防御力だが、簪は冷静に『春雷』での射撃を続行する。

 

蘇摩のISのデータは学園祭のあとで、楯無に渡された。なんでもあの綺麗な女性をエスコートしていた事の仕返しらしい。そして、蘇摩の戦闘傾向とISの武装やスペック等を徹底的に分析されたデータを見ているので、彼のISの対処策は既に出来ている。

 

盾を展開した蘇摩は機動力が落ちる。そのため被弾率が上がり、結局盾を展開し続ける必要がある。しかも、あの盾はISをすっぽり被せられるのではないかという大きさを持つ反面、その欠点である視界確保が浮き彫りとなる。こちらのロックは外れないだろうが、こちらが何をするのかはわかりにくいはず。それはこちらにも言えることではあるが、蘇摩がなにかをする前に、簪はそれを行える。

 

『春雷』を連射しながら接近。『夢現』の柄で、盾越しに殴りかかる。蘇摩は、一瞬衝撃に驚いたが、それにより簪が接近してきたのだと分かり、大剣をおきく振りかぶり、防御を解く。

 

「喰らえ」

 

左から右への薙ぎ払い。簪は間一髪で避けた。が、蘇摩はそのまま回転しもう一撃浴びせてくる。簪はそれを避けられずに直撃をくらってしまう。

 

「ああああ!!」

 

衝撃で吹き飛ばされる簪。蘇摩はそのまま突進してきて、追撃をしようとする。簪はなんとか体勢を整えて、蘇摩の斬撃を薙刀の柄で受け流した。

その瞬間。簪は受け流した流れを利用し、蘇摩の左側面に回り込む。蘇摩はすぐに反応し大剣を簪へ振るう。が、簪はそれを『春雷』で威力を軽減した。

 

「……!」

 

「―――そこっ」

 

さらに、『夢現』を突き出し反対側の右手に突き立てる。超振動する薙刀の刃は蘇摩右手を捉える。

蘇摩は咄嗟に右手を引かせるが、簪は『瞬時加速』で、一気に蘇摩にタックルを食らわせる。そして、薙刀の刃は蘇摩の右腕にダメージを与えた。

 

「―――くそっ」

 

蘇摩は簪に大剣を振り上げ、そのまま回転しながら距離をとった。振り上げられた剣は簪に直撃し、再び簪は吹き飛ばされる。が、今度はすぐに体制を整え、蘇摩に相対する。

蘇摩は大盾を収納した。今の攻撃で、蘇摩の右腕のパワーアシストが死んだはず。つまり、あの右手には録な装備はできない。蘇摩は舌打ちをし、左手の剣を肩に載せる。

 

「やるな簪。だが、まだこれから!!」

 

蘇摩は『瞬時加速』を用い、簪に突進した。




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