インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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――――

ゲーセンについた。まあ躊躇の必要もないので入る。

 

「さて、と……」

 

「ちょ、ちょっと蘇摩。どこに行くのよ」

 

入ってすぐに、蘇摩が向かったのは最近アップデートされた格ゲーでも、最新モデルに変わり、人気が急上昇しているシューティングでも

クレーンゲームでも、コインゲームでもなく……。

 

両替機だった。

 

「いや、両替しないと、遊ぶものもできないし」

 

そう言いつつ、ジーパンから結構上質の革で出来た財布を取り出すと、なんの躊躇もなく1万円を千円にばらし、千円札を百円に変える。あまりの躊躇のなさとスムーズな作業で、見逃しそうだったが、なんとか反応した。

 

「1万円って、何考えてるのよ蘇摩。後々考えたほうがいいんじゃないの?」

 

最もな楯無の意見。彼女も腐る程のお金を持っているが、今は『高校生の生活』を送りたいがために、服の中の財布には6~7万程度しか入っていない。

高校生としてはそれでも大金だが、そこは彼女も今日が楽しみだったに違いない。そして、蘇摩は最もな顔で返した。

 

「いや、その……財布に万札しか入ってなかったから軽くて、重くしようと思ったんだ」

 

「ちょ~っと財布の中を見せてくれるかな~」

 

蘇摩に渡された財布の中を見ると、楯無と同じように6~7万ほど入っていた。そこは彼も同じような理由を持っているのだろう。

問題はカードの入っているところ。見てみると、出てくる出てくる。

 

危険物取り扱いに、自動車免許、バイクの免許にDORA○Aのポイントカード。ゲームセンターのカードに……

 

ブラックカード。

 

ブラックカード。

 

(大事なことなので2回ry)

 

「………どういうこと。これ」

 

唖然とした。RAVENってそんなに稼げるものなの?いや、莫大な報酬で動くことは私も知ってるし今回も5000億円程出している。

こうでもしなきゃRAVENのAランカーに依頼はできない。

 

でも、それでもブラックカードが出てくるほどに彼は稼いでるってこと?

 

「い、いや……全然使わなくて。それで、最近持ってたカードの表示限界超えちゃってさ」

 

「だからって稼ぎすぎよ。……つまり、私が呼ぶまでそんなに危険な任務に何回も行ってたんだ」

 

「そう言うけどさ。危険なんてそんな。この前だってテロリストもろとも爆撃されそうになただけだし」

 

そういうのを危険っていうのじゃないかしら?全く……蘇摩は自分の命は守ろうとするけど、自分を危険な状況に置く癖は治らないのね。

死にたくないと言いながら一番危険な場所に進んではいろうとするまったくもって矛盾した行動。でもそれが彼を彼にするものの一つ。

危険場所に入りたがらない蘇摩なんて、あまり見たくないしね。

 

「ほ、ほら。こんなことで時間使ってないで、さっさとなんかやろうぜ」

 

たしかにこんなことで時間を使ってはせっかくのデートが台無しだ。ここは大目に見てゲームを楽しみましょうか。

 

「ふふっ。じゃあさ蘇摩。これやらない?」

 

楯無が指したのは、レーシングゲームだった。順位表を見ると、かなり難易度が高いのが見て取れる。ゲーム紹介用のモニターには、かなり抉いコースと障害が多数存在する。

急カーブが続く蛇行、真っ暗なトンネル。抜かすことができない細い一本道。

 

しかも車も車で、かなりリアルに作りこまれている様子だ。

自信満々の表情でこれを指定する楯無。多分相当やり込んでいるのだろうが、こんな反射神経が必要とされるゲームで俺に挑んでくるとは、いい度胸じゃねえか。

 

「おもしれえ。俺の俺の反応速度についてこれるのか?」

 

「フフッ。このゲームのランキング1位の実力。思い知らせてあげるわ♪」

 

ランキング表の1位。名前は「いたずら淑女」となっている。その秒数がなんと2位と10秒近い差があるのだ。使用している車は最高速度が一番の車種で、

加速度が低い。つまり、最高速度に乗っても、一度減速してしまうと再び最高速に乗るのは難しいテクニカルなものだ。

 

ちなみに2位も同じ車種を使用しており、これは1位と2位の単純な実力の差を示している。

 

「フフン」

 

楯無は手馴れた動作でその車を選択、対する俺は加速力がトップクラスでブレーキ力も強いパワータイプ。

これを使っているプレイヤーはランキングの中にはおらず、使いづらいのか、このゲームでは全く使えないのかは分からないが、人気がないのは確かなのだろう。

 

「へぇそれを選ぶんだ。まあ、蘇摩にはちょうどいいかもね。あ、そうだ」

 

「ん?」

 

「この勝負で、勝った方が昼食おごってもらうていうのはどう?5本勝負で」

 

面白い提案だった。つまり、楯無はこのゲームによほどの自信を持っているということになる。

なら、それを粉々に打ち砕いてやる。

 

「OK。あとで泣きべそかくなよ?」

 

そして、カウントが始まり、スタートする。

 

――――

 

「…………まさかあんなに人だかりができているとは思わなかった」

 

「アハハ……あんなに派手にやってたらね」

 

今、俺たちはゲーセンの近くのファミレスで昼食をとっていた。

レーシングゲームに熱中していて途中まで気づかなかったが、周りに多量の人だかりが出来ていていた。

 

ちなみに、最高難易度のコースを、全国平均2分のところ、俺は1分12秒。

楯無も1分12秒というかつてない大記録を打ち立ててしまったのだ。

 

楯無と俺の勝敗は、5本目の最後に僅か車体の差で俺が負けた。

すごく悔しかったが、負けは負けだ。素直に楯無に奢ることにする。

 

「次はどこに行く?」

 

俺の質問に楯無は少し考える素振りを見せる。まあ、大した予定もなくやっていることだし、考える時間は必要だろう。

 

俺の前の置かれているコーラに手を取り、飲み干す。ドリンクサービスはいいね。飲み放題ってのがたまらない。席を立ち、コーラを継に行こうとし、楯無に聞いた。

 

「お前飲み物おかわりしないか?」

 

「ん?ああ、私も行くわ」

 

そう言って楯無も席を立つ。俺の右側に楯無が回り込み、俺に並んだ。

 

「じゃ、行きましょ」

 

「おう」

 

――――

 

「それで、アメリカまで行ってきて、1日置かずにまた日本へ戻って来いとは、私たちをなんだと思っているんだ」

 

向かい側に座る彼女はアイスコーヒーを傍らに起き、メニューを眺めながらそう愚痴ている。無理もない、日本でいろいろやった後にすぐアメリカまで行って来いと言われて、

行ったあと今度はまたすぐに日本に戻れと命令されて、忙しい4日間だった。おかげで昨日は一日のほとんどを睡眠に費やすことになった。

 

今日は久しぶりの休暇というかなんの予定もない日だったから、久しぶりに彼女と遊びに出てきたのだ。

それで、最初はゲームセンターに遊びに行ったら、すごい人だかりが出来ていて、ちょっと見ていたら例のリストに載っている2人がレースゲームでとんでもない記録をたたき出していた。

それに触発された彼女と一緒に別のゲーセンに行き、FPS系のゲームでこっちもとんでもない記録をたたき出してきたばかりだ。

 

そして、ちょうど昼時となり、空いている店を探していたらここに来たということだ。

 

今は前菜的なものを食べ終え、メインに何を頼もうかと迷っているところだ。僕は既に決めてあるが、彼女は特にめぼしいものがないらしく決めあぐねている。

 

「それにしてもさっきのは凄かったね。あの角度で正確に当てられたのはびっくりしたよ」

 

話題を振ってみる。すると彼女の意識がメニューからこちらに向くのを簡単に感じ取れる。彼女はなんともないといった感じだった。

 

「別に大したことじゃないと思うが、お前の援護があってのことだし、お前も機関銃をあそこまで正確に当てられるのは凄いと思うぞ」

 

そう言いながら、彼女はようやく注文を決めたのか、ベルを鳴らした。1分とかからずに店員がこちらにやって来る。

店員に注文をして、食事が届くのを待つ。彼女は、飲んでいたコーヒーが切れたのか、コップを持って立ち上がった。

 

「継いでくる」

 

簡潔な言葉で要件を伝えるとすぐに席をあとにした。っと、僕も飲み物が切れたな。

彼女のあとを追い、足早に席をあとにした。

 

――――

 

飲み物を次ぎ終え、自分たちの席に戻ろうと歩いているそのとき、2人の男女のペアとすれ違った。

ひとりは金髪の外国人か?もう一人は日経だ。

 

すれ違ったとき、何か違和感を覚えた。

俺はあの二人に会った事がある?

 

いや、そんなはずはないだろう。あのふたりは確実に初対面だ。でも、あの二人の特に日経の女性に見覚えがある。というより、誰かに非常に似ている。

誰だったかな……

 

「蘇摩?」

 

俺の思考は楯無の声に中断された。

 

「っと悪い。いますれ違った2人がさ、なんか見覚えあったような気がしてな」

 

「やっぱり蘇摩もそう思う?」

 

どうやら、この違和感は気のせいじゃなかったようだ。楯無も同じ意見だとすると、

 

「誰だろうな。誰かに似てるんだけど」

 

「さあ、思い出せないわ。まあ、今はそんなことよりデートを楽しみましょう?」

 

「あ、ああ?。そうだな」

 

――――

 

「まずったな」

 

「そうだね」

 

今、ある人物たちとすれ違ったが、ちょっとまずいかな。

僕はともかく彼女の顔を見られたのが不味かった。

 

今彼らは彼女の顔に見覚えがあるという程度でしか、認識してないかもしれないのが幸いだろう。

すれ違ったとき、彼女の顔はホント数瞬しか目に入らなかったはずだ。

 

でも、もし何かのはずみで彼らが気づいてしまえば―――

 

そんな不安に駆られていると、そっと手を握られた。

 

「心配するな。こんな程度では私たちを止めようとすることなど出来はしない」

 

僕を落ち着かせるように彼女は言った。

そうだ。顔がバレることなど、計画のうちに入っていることだ。何をうろたえる必要があると言うんだ。

 

「ありがと。マドカ」

 

「ふん」

 

素っ気無い返事も、彼にとっては何の意味もないのだが、ついやってしまう。そんな彼女の姿につい笑ってしまった。

 

――――

 

ファミレスの向かい側にあるファストフード店の2階。窓際の席で、彼女は一人座っていた。

長い髪の女性は、真っ白のワンピースという出で立ちで、向かい側の店を眺める。

 

傍らに、レモンティーを置き、ケースに入ったパンケーキの一つはまだ食べかけであった。思い出す。忘れもしないあの日。私は全てを失った。

友人も

家族も

思想も

金も

力も

想いも

何もかもを失い、それでもここにいる。

 

そして、私は今日、失ったものの一つを見つけることができた。あの日の自分が持っていた。なくしてしまったどのものよりも取り戻したかったもの。

ちょうど2組の男女のペアがすれ違う。その中に、見えた一人の少年。深い青色の瞳が、その顔を捉える。

 

どれほどの時間を焦がれたことか。もう、彼は私のことなど覚えてないかもしれない。それでも、私は―――

 

「会いたかったよ……」

 

彼女は笑った。その微笑みはさながら女神のようで、その声はさながら玲瓏な鐘を思わせる。

 

「――――」

 

僅かにつぶやいたその名前は、店の天井から流れるヒット曲のBGMに全てかき消されていった……。




感想、意見、評価、お待ちています。

現れた新キャラ。キーワードは長い髪。過去に何かあった。のみ。
これから彼女がこの物語でどういう役割を果たすのか―――

………これからもお願いします。

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