インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
少年は、チェックインを済ませた。偽造ビザだったのだが、うまく通ったようだ。
ほっ、と息をつき、外に出る。イラクや、イスラエルなどとは違い、ここの空気は実においしいと思うのは、
長く此処を出ていたゆえだろうか。そして、独り言を漏らした。
「日本に帰ってきたのは、4年ぶりぐらいかな」
随分と、長いようで短いようなそんな時間。よく今まで日本語を忘れなかったものだ。
というのもここへ来る事になったのは、3日前。
――――
朝の7時ほど。いつもはもっと日が昇るくらいに目が覚めるのだが、今日は非番だったため、いつもより遅く目が覚めた。
非番?何のことだと思う人もいるだろうが、それは後に話すことにして、問題なのは、目を開いたら、見知らぬオッサンが
3名、俺が寝ているベッドを囲んでいたのだ。……ああ、マフィアか。
「ボスの命令だ。お前を殺す」
一人の男がそういった。俺は頭痛のする頭を抑え、ゆっくりと体を起こした。
「なに言ってんだよ朝っぱらから……俺は今日非番で久しぶりにゆっくり寝てた―――」
響き渡る銃声は、ベッドの白いシーツを無残にも穴を開け、黒く焦がし、スプリングを破壊し、マットをボロボロにする。
だが、其処に狙ったはずの少年の姿は無かった。
ダンッ、という壁を蹴る様な音が響き、その直後に、なにやら生暖かい液体が男達の顔にかかった。
二人が振り向いた先には、首と胴体が離れ離れになった仲間の姿と、その仲間が倒れた先にいた、左手に刃を、右手に鞘を持った
少年だった。
「ったく……このアジトももう使えねえな。さっさとジャックにでも連絡して、偽造ビザ発行してもらわねえと、なっ!」
その直後、二人の男はほぼ同時に意識がブラックアウトした。
「アイム シンカー トゥ~トゥ~トゥ~トゥトゥ~」
―――
部屋を出た少年は、街中の薄汚いバーにいた。雰囲気も薄汚く、ここは間違いなくこの国の現状をあらわにしていた。
マフィア管轄のバーだが、関係ない。そう言いたげに我が物顔で、カウンターに座っている。先ほどそのマフィアに襲
われたというのに、弱冠16歳にして、随分と図太い神経である。
pipipipipi……
携帯がなった。それを手に取り、表示された連絡先を見ると、『ARK』と記されていた。
「もしもし」
通話ボタンを押して、その後で、耳に当てるのもめんどくさかった為、拡声ボタンを押し、テーブルに置く。
『仕事だ』
携帯の通話口から聞こえてきたのは、男性の声。機械的な口調だったが、少年はその人物をよく知っていた。
「仕事?匿名か?」
『そうだ』
少年の問いに、またも機械的な口調で返す男。少年はコップに入った酒を一口飲んで、口を開いた。
「はあ、で今度はどこ飛べって?」
『日本。IS学園だ』
「…………」
少年は一瞬、コイツふざけてんのか?と思った。IS学園といえば、どこぞの博士が作った、女性しか使えないくだらない兵器を
扱う人間。まあ女性しかいないが、それを育成するくだらない学校だろ。何で俺がそんなとこに……。
「何でそれを俺にいうんだよ。イツァムでも派遣すらいいじゃねえかよ。俺よりランク上だし」
さて、ここで少年のことについて少し話そう。少年は、世界で最高の傭兵という存在。通称『RAVEN』と呼ばれる人間だ。
『RAVEN』とは莫大な報酬と引き換えに、可能であればどんな困難な任務だろうと、こなす。そして、それを管轄する
組織、『RAVEN'S ARK』からなっている。その少年はそのRAVENの中でも、最高位の者に位置するAランクの存在だ。
ちなみに今少年が言ったイツァムは、少年よりもランクが上のA-1に位置する女性だ。ISも扱えて、
世間的にはどっかの国家代表だったような気がする。そして、少年はA-9だ。
『依頼主は匿名だが、お前を名指しで指定してきたのでな』
「…………」
その依頼主は何を考えているのやら。まさか俺の秘密を知っているのか?
『それに『お前も』、だろう。非番だが、指名されたのだ。行って来い。偽造ビザなら後で発行しておこう』
「OK」
――――
いま、少年は人通りの無い路地に来ていた。周りの建物は工事中やら、ビルがあったりと、暗かったが、
この道を少し外れれば、歩行者天国のようで、話し声が聞こえてくる。
「さて、依頼主はそろそろくるのか?」
電話越しの男からは、『指定された時間に空港を出て、その場所に行けばいい』というなんとも無責任な指示をされたものだからな。
さて、どうくるかな?
少年の目の前に、一台の車が止まった。黒いポルシェ……このご時世に356Aかよ。どこの探偵漫画だこれは
「お待たせしました。蘇摩様」
「あんたらが、依頼主ねえ……。は?蘇摩?」
だが、出てきたのはどこぞの長髪の黒ずくめではなく、灰色のスーツに身を包のだ、黒髪の女性だった。
髪はきれいに整えられており、その口調も丁寧だが、事務的だった。
……つかまてよ、俺の本名を知ってるのは、日本じゃ、あの家しかねえんだけど。
「……この依頼は無かったことで、帰らせていただ―――」
猛烈にいやな予感がした。どんなって、今この瞬間に、阪神淡路大震災が起きそうなくらいにやばい予感がしたんだよ。
おれは、その女性に背を向けて、足早に去ろうとした。
そして、その予感はきれいに当たった。
「申し訳ありません」
パシュッ、という気の抜けた音とともに、俺の背中に、何か針が刺さったような感触がした。
スーツ姿の女性を見ると、その手に銃を持っていた。
「っち!……油断、し……っ!」
よほど強力なものだったのだろう。俺の意思は瞬く間に薄れていった。
そして、最後に見たものは、スーツだったが、黒髪はカツラだったのか、髪の色が水色で外側にはねていた。
その顔は、笑っていやがった……。
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