インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
日曜日。俺は駅前のパチ公銅像前にいる。
パチ公とはかの有名な名犬の銅像のパチモンということらしい。
版権的にどうかと思うが、形が犬じゃないからいいのだ。ということらしいのだが、肝心の形状はというと、
犬のような猫のような、ライオンのような狼のような……微妙な生き物である。
狼みたいな顔にライオンの鬣、子犬のような体躯に猫のような脚部という説明が銅像前に書かれているが、はっきり言って顔の部分以外は全くわからない。
……こんな微妙なものをどうして作ったのだろうか。
ポケットから携帯を取り出し時計を見る。時刻は8時43分。約束の時刻まで17分……少し早く着きすぎたかな?
ここ到着した時刻が8時20分。いつか誰かから聞いた話によると、「女の子は約束の30分前に来るものなのさ」と言う事だったのだがな。
まあ、あのマイブリスの言うことなど、正確さに欠けるものが多いから信用することはなかったのか。こういった経験は人一倍多いやつだからと思ったのだが……。
もしかしたら楯無が遅いだけなのかもしれないし。それに約束の時刻まで時間があるのだから待つとしよう。
……なんか、あっちの広場が騒がしいな。暇つぶしにでも行ってみるか。
――――
まいったわね。
今、私は不良と思われる男性複数名に因縁つけられて困っている。
多分私の格好がいけないのかしら。今、私は『少し』胸元が開いたラフな半袖に、『ちょっと』丈の短いスカートを履いている。
ん?ちょっとのところを強調してるって?気にしない気にしない。
細かいところを気にすると、老けるわよ♪
まあその辺の話は置いといて、今この状況をどうにかしなければ。
私は、蘇摩との待ち合わせの時刻に少し遅れ気味で急いでいた。とは言っても時間的には十分余裕があるのだが、彼より先に到着して待って居らねば女がすたるってものよね。
で、急いでいて、ちょっとガラの悪い男にぶつかっちゃったのよ。で、今こうしわけのわからない理屈で因縁つけられてるってわけ。
「だからよ、あんたがぶつかった時に俺の携帯が落ちて壊れちまったんだよぉ」
「どうしてくれんのかねー、兄貴の携帯ってか~な~り、高価なもんなんだけどさぁ。弁償できるかな~」
「できねえってんなら、どうしてくれよっかなー」
……うざい。
どうせ体で払えって言うつもりでしょうけど、生憎私の体はあんた達みたいな男にくれてやるほど安くないわよ。
蘇摩に合流するまで目立った行動はしたくないけど、仕方ないわね……。
彼に曰く『殺られる前に殺れ。殺ってしまえば撃たれもしない』なかなか詩人よね♪
「金で払えねえなら、わかってんよな――――べふっ!!」
顔を近づけてきた下品な男に一発。グーでパンチをお見舞いする。すると面白いくらいに、簡単にブッ倒れてくれた。他の男たちは一瞬何が起きたのかわからない様子だったが、
表情がみるみるうちに阿呆みたいな顔から、バカみたいな怒り顔に変わっていった。
「こ、この
「やろってのか!極道者なめんじゃねえぞ!」
「はいはいおしまい」
男の一人が私に掴みかかろうとした瞬間、横からもう一人の男が激突し、一緒に吹っ飛ばされてった。とんだ距離は約2m顔面に靴の跡が残っているので、蹴られたのだろう。
私がキョトンとしてると横からポン、と手が置かれた。灰色のYシャツにジーパンと小さいポシェットという、非常にラフな格好をしている男だ。
身長は一夏くんより少し高い。そして、日本人にしてもすぎるほどに黒い髪と瞳。それは私がよく知っている人物だった。
「蘇摩!」
「あいっかわらずトラブルに事欠かねー奴だなお前。やっちゃん(ヤクザのこと)に絡まれるって何しでかしたんだよ」
私の目の前に映る人物――蘇摩は、呆れ顔でため息をついた。でも、私にだって今回のことはちゃんとした言い分がある。それを言うと、蘇摩は無言になった。
「……………」
表情は何とも言えない、私が悪いわけではないけど、対応が悪い。と言いたげな表情だ。
いいじゃない。私にだって手を出したくなる時くらいあるのよ。
「まあ、それはそれとして、光り物を取り出したやっちゃんは、それでどうするのかな?」
私の方へ向きながら、立ち上がって短刀(所謂ドスというもの)を取り出した男は、憤怒の形相でこちらを睨んでいた。だが、蘇摩はどこ吹く風といった様子で涼しい顔をしている。
まあ、蘇摩にとってはあんな短刀など、最早意味のない代物なのだろうが。取り出したのがプロの殺し屋ならば、彼も多少は警戒するだろう。
でも、相手が素人のヤクザ程度なら、私ですら警戒の必要は存在しない。
だが、野次馬の方達はそうでもないらしく、男がドスを取り出した瞬間、5mほど後ろに下がった。怖いのなら見なきゃいいのに、と思ってしまうが
それでも気になるのは人間のさがなのだろう。
蘇摩は、私を庇う形で前に出る。
「この野郎。ヤクザもん舐めてっと、どういう目に遭うか思い知らせてやる……!」
「御託はいいからさっさと斬りかかってこいよ。ただでさえあんたのトロイ動きに欠伸が出そうなんだからよ……ふぁ~ぁ」
「て……てめええええええええ!!」
男がドスを構え、突進してくる。蘇摩は一瞬目つきが変わり、顔に鋭い笑が走る。
男がナイフを突き出した瞬間。蘇摩は紙一重で避け、右手で男のドスを持っている手首を掴み、左手を脇下に添え、捻りながら引っ張った。
って、ナイフを避けたから、私に切っ先が来ちゃったじゃない。
私をかばう様に立ちながら、一切庇う気のない蘇摩……私のことを信用してるからなんだろうけど、か弱い女はきちんと守らなきゃダメよ。
ゴギィ
嫌な音が男の腕部から鳴る。男は、一瞬何が起きたのか、目を丸くしたが、次第に腕部から激しい痛みに襲われ、ドスを手放しコンクリートの地面に這い蹲り転げまわる。
なかなかに滑稽で愉快な光景であるが、少々滑稽すぎる。ダイの大人が子供のように地面を転がる姿は痛々しすぎて見てられない。
蘇摩がやったのは簡単だ。男の肩と腕の肘関節と手首の関節を外したのだ。ちょっと捻りながら。
一気に3つの関節が外れる痛みは相当なものなのだろう。男の右腕はさっきからピクリとも動いていない。多分捻った時に神経を挟んだのかもしれない。
随分えげつないことをしなさるわ。彼はねー。
騒ぎを聞きつけたのか、若い警察が自転車に乗ってきた。そして、おそらくヤクザが高校生を脅していると親切かつ正義感のある人にでも言われたのだろうか。目の前の光景に
目をパチクリさせている。
「やりすぎじゃない?」
「ドス持って突っ込んできたんだ。正当防衛さ」
そう言って、蘇摩は警察のところに行って、いきさつを話し始めた。
――――
そういうことで騒ぎも収まり、私たちはどこへ行こうかとカフェで相談していた。
「奥のショッピングモールにでもいくか?ゲーセンもあるし、確かモールをでてちょっとしたところに美味いファミレスがある」
「いいわね。というよりなんでそんなとこ知ってるのよ」
私はふと思った疑問をぶつける。蘇摩はここに来るのは初めてのはずだ。なのになぜそんな情報を持っているのか。
「いや、あの時警官に聞いただけさ。このあたりでおいしい店と楽しめる場所があるちょうどいい所はないかって」
……流石、Aランカー。情報収集の現地調達も抜かりはないわけね。
「ゲーセンで何かできるの?」
「ギャンブルとシューティングにアーケード?格ゲーはちょっと苦手」
ギャンブル……パチンコとスロットのことかしら。確かに蘇摩の反応速度なら、なんとかなるのかな?
「得意なのはトランプ。スロットは無理。無理やり修正される。パチンコは完全運じゃねえかよ」
得意げに話す蘇摩を見て、ちょっと嫌な予感がした私は、修正を入れてみることにした。
「……蘇摩。日本のゲーセンにギャンブルはないわよ?」
「……マジ?」
案の定、蘇摩はポカンとした顔で、私に聞き返してきた。というより、どこの国のゲーセンにギャンブルがあるのよ。そもそも日本以外にゲーセンなんてあるの?
「いや……ARKのBビル以降にはゲーセンがあるんだけど、普通にギャンブルしてるやつらいるし、俺もトランプで荒稼ぎしてたから……てっきりこっちにもあるかと思ってた」
蘇摩は思ったより、日本のゲーセンとかそういうの知らなかったりしていた。なんだか、彼の意外なところを知ることができた瞬間だった。
そうこうあって、私たちはショッピングモールに行くことにし、カフェを後にする。
「………」
その二人の後ろを、尾行している者もいた。
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