インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
学園祭の襲撃から1週間が経過した頃、今は昼飯時。
俺は屋上で電話をしていた。
「で、今度はアメリカか……」
『ああ。連中は結局ISは奪えなかったらしい。流石世界トップクラスの軍備を誇る国というべきかな』
「ハッ、それでもヤラレ放題じゃん。お前の言ったことをまとめりゃあな」
今日の電話はジャックからだ。流石にアメリカのことは、彼からの電話じゃなきゃ掴めないし、な。アメリカの人員で、
Aランカーすらアメリカの奴はいないので、幹部方からの情報が何よりなことなのだ。
『そう言うな。既にアメリカはイギリスやアイルランドと同じくISを奪われているんだ。その次の防備としては上出来な方さ』
「……それで、連中の狙いは?」
『今はまだわからん。確定情報としては、連中は2次大戦後期に誕生したということくらいだ。年号的にはドイツが撤退を始めたあたりだな』
確定情報、ということはまずそれで間違いはない。アテのならない物は、大戦前からあったというものもあったが、どうやらそいつはハズレだったということだろう。
大戦後期……まさか、な。
『他は確定情報は現在連中はISを欲しているくらいか。その他は何が目的化は不明。文字通り影のような連中だ』
「存外俺たちと似たようなものだったりしてな」
無論冗談だ。俺たちと同じなのならば、現在まで沈黙をしていた理由がつかないし、それなら
俺の冗談に、冗談で返した。
『フッ。もしかしたら戦争が目的かもな』
「質の悪い冗談は止してくれ」
『……切るぞ。次に情報が入り次第連絡する』
「ああ、頼む」
ブツッ――
ジャックの宣告通り、電話が切れ無機質な音が流れる。俺は電話を畳んでポッケにしまう。時間はまだ昼食の真っ最中、といったところか。
今頃あの一夏含む5人組で、あいつの誕生日について話し合っていうことだろう。
俺の誕生日は……一応12月31日。ん?勿論自分で決めたに決まっている。
物心ついた時に孤児で人殺しをしていたんだ。誕生日などあってないようなもの。だったら自分で決めるさ。
なぜ12月31日かと言うと、理由は特にない。ただ「俺」、『蘇摩・ラーズグリーズ』が生まれた時がその日だったからだ。
その時まで、ただの名無しの誰かだったから……まあ、こんな辛気臭い話は今はやめにしよう。
それよりも、だ。
「別に聞き耳立てなくても、となりで会話聞いてたらいいんじゃねえか?」
「いやん。だって一人の電話なんて、いかがわしいものだったりするかもしれないから、こっそり聞いて強請るネタにしたかったんだもん♪」
俺を強請っても金しか出てこねえよ。という言葉は飲み込んで、だ。いかがわしい内容ってなんだよ。俺は知り合いにそんな話ができるやつなんざ、お前くらいしかいねえよ。
「
「あら、また例の?」
「そのようだ。今回は強奪は免れたらしいがな」
おそらく今回の目的は、凍結中の『
おそらく、あの蜘蛛女かイツァムが殺りあった二人の内どちらかなのだろう。そのへんは関係ないとしても、アメリカが失敗したとなれば今度は
「あーあ。今度はまたこっちに来そうね。都合いい時にまた大会があるもの」
楯無がうんざりした口調で言う。そうだ、次は『キャノンボール・ファスト』が開かれる。実施日は9月27日。ちょうど一夏の誕生日らしい。
まあ、そのへんは置いといて、俺が亡国だとすれば、ここのISを奪えるチャンスがまたきたとしかならない。今回はイツァムもロスも自国の警備を厳重にするために
この競技には来れないらしい。俺一人でやるしかない。
これは……面倒なことになった。
またしてもどっかの面倒嫌いのセリフが出てくる。しかし、今年に入ってここは事件に事欠かないな。一体一年に何回事件が起きりゃいいんだよ。
行事のたびに事件が起きちゃ生徒もまいるだろうに。ホント何とかしろよ日本政府。使えねえな。
「はぁ……今回は「更識」の力も借りることになるかもな。そんときはよろしく」
「ええ、勿論。私も生徒の安全を預かる身としては、あんな奴らにこれ以上好きにさせるわけにはいかないわ」
こういう時は真面目に受け答えしてくれるから助かる。相手の戦力は前回より強化されるかな。蜘蛛女は良いとして、あの二人……イツァムから貰った映像情報を見る限りでは
相当の連携力と操縦技術を持っている。つかこの連携能力は今まで見たことがないし、正直すごいと思う。おそらくコンビとしてまた来るかもしれないな。
他に留意すべきは幹部側の人間が来るかもしれないということだ。無論、いることなら女性幹部が来るだろう。
「楯無。次は幹部あたりが来るかもしれん。そっちの方は頼む」
「ええ」
「あとは……大会がどういう形で行われて、どれくらいの人数が来るのかがわからんことには対策も立てようがないな」
その辺については楯無が情報が入り次第教えてくれるということなので、良しとする。それじゃあ今のところできることはないな。
亡国も行動を起こす前に何らかのアクションを立てることはしないだろう。仮にも大戦を経験している組織だ。一筋縄でいってもらっては面白くない。
「あ、そうだ蘇摩」
「ん?」
屋上を降りようとして、数歩ほど歩いてところで楯無に呼び止められた。
「そ、その……今度の日曜、デート……しない?」
「デート?」
顔を少し赤くし、ややモジモジしながら楯無はそう言った。なんでまた急に……。
何か裏があるのではと思いつつも。
「ちょっと待て」
携帯のカレンダーを見る。予定は……空いてるな。特に断る理由もない。たまの息抜きにはちょうどいいだろう。
そして、デートの意味を辞書で確認……。
【デート】(英: date)
恋愛関係にある、もしくは恋愛関係に進みつつある二人が、連れだって外出し、一定の時間行動を共にすること。逢引(あいびき)およびランデヴーとも言う。
…………何だか、調べてものすっごい後悔した俺がいた。
ま、まあ……あまり深く考えないほうがいいのかもしれない。異性と遊びに行く~とか、そういった程度のものとして、捉えておこう。うん、そうしよう。
深い意味で捉えると、なんだかいろんな意味で後戻りができなくなりそうな気がする。そして、後ですっごい後悔しそう。
だが、断る理由もないし、軽い意味で捉えればそんなものでもないから、息抜きにはちょうどいい。その話に乗るとしよう。
「OK。今度の日曜な。で、時間は何時にする?」
「……え?」
俺の返事を聞いた楯無しは今度はキョトンとした顔をして、頓狂な声をあげた。そんなにも俺がデートについてあっさり承諾したことが意外だったらしい。
「いや、だから。デートの集合時間だよ。ああ、場所も決めとかないとな」
「え、いや……その……いいの?」
「誘ったのはお前の方だろが。驚いてどうするんだよ」
俺が呆れた口調でそう言うと、今度はパァ、っと表情が明るくなった。忙しいやつだな。
そして、今度はルンルンとか、そういった効果音がつきそうな程に明るい口調と表情で、楯無は言う。
「じゃあ9時に駅前のパチ公前に集合でいいわね?」
「OK。為にはお前も俺も息抜きしないとな。ハメ外さない程度で遊ぼうぜ」
やったー!と楯無はランランと行った様子で、スキップしながら屋上を去っていった。なんだったんだ一体。そんなにあいつにとっては嬉しいことだったのかね。
こんな俺となんか―――とかいうくだらない自嘲行為は置いといて、まあ男子としてならああいった一見完璧女子とのデートとかなんて、羨ましい限りなんだろうな。
まあ、スタイルは抜群。運動神経もいいし成績もトップ。料理はできるし表向き金持ちの名家だしな、逆玉的にもいいんだろうかな。
…………そして俺はある意味とんでもないことに気づいた。いままで俺とそういった関係の人物って、まあ二人しかいないけどさ―――
お嬢様ばっかじゃん。
片やイギリスの国家代表であり筆頭貴族『ランドグリーズ』の第3女。片やロシア代表で日本古来より伝わる対暗部用暗部の宗家『更識』の当主。すげー今更だが、どっちも完璧超人……な女性。俺って自分が思ってるより遥かにリア充だったりする?
誰に爆発しろと言われても……絶対に爆発なんてしてたまるか!
人殺しだって青春を楽しむ権利くらいあってもいいだろが!
……とキャラ崩壊一歩手前のことをしてみたくなったところである。
とりあえず、今度の日曜にデートと入れておいて、今日も護衛の仕事(ほぼ何もやってない)頑張りますかね。
感想、意見、評価、お待ちしています