インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
くそっ……核にダメージがっ……しばらく動けそうにない。ハハッ『最終成功体』の僕も結局難点だらけの欠陥品か……。
だけど……。
「何!?」
右腕だけをなんとか上げて、キャノンを撃つ。ロスヴァイセは咄嗟に体を捻って避けるが、無駄だ。メガセリオンからは逃れられはしない。
出力調整―――拡散角度を10度から72度へ、拡散範囲を8mに。
収束された先行は一瞬にして、嵐がごときレーザーの雨となって降り注ぐ。
「ちぃ!」
拡散するレーザーの全ては避けきれないはずだ。これで手傷の一つでも追えばなんとかなる。
「調子に乗るな!!」
「!?」
確かに彼女に結構なダメージを与えることはできたが、なんと彼女は避けることを途中でやめた。
そして、被弾覚悟で、僕にライフルを撃ってきたのだ。
「ぐうぅ……!」
そして、ライフル弾を受けて、右腕が破損する。
まずい。このままキャノンを放射し続けると、爆発する恐れがある。
高エネルギー体を孕んだ右腕は爆発すれば、大型気化爆弾に相当するエネルギーの奔流がこの辺り一帯を包む。そうなれば、ここに居る全員が、粉々に吹き飛ぶことになる。
放射を切る。瞬間、ヴァルキュリアは再び、次は左腕のライフルを蹴り飛ばした上で、右足で、僕の胸部を、左足で右腕を抑えてきた。
そして、左手の手甲から、コンバットナイフを出し、ナイフを首筋に持ってくる。そして右手のライフルで、マドカを牽制する。
「R!」
「動くな!」
ロスヴァイセの言葉にマドカが停止する。
「これまでだな。テロリストども」
ロスヴァイセの言葉が響く。そして、彼女のナイフが僕の首の皮膚に食い込む。
―――終わる?
―――僕が?まだ何も出来てないのに?
―――彼女を巻き込んで―――
――――――――――――――――――――――――――
―――私が終わるだと?
―――ふざけるな!
―――まだ何も出来てなどいない。何もなしてなどいない!
―――それなのに。終わってたまるか!!
――――――――――――――――――――――――――
え?
何?
この……感覚。
心臓の鼓動が聞こえた。自分のものとは違う、だれかの鼓動。
最初はバラバラだった自分の誰かの鼓動。それが重なっていき―――
「「!!」」
これは、マドカの―――
これは、レイの―――
心?
――――
真っ白の空間。どこまでも、はてなしなく続くまるでひとつの世界のように広い空間に私はいた。
ISのスーツをまとっているが、それだけで私はここにいる。
なぜ私はここにいる。今の今まで戦闘をしていたはずなのに。それが嘘だったかのように静まり返っている。
死後の世界とはこんなものなのか。だとしたらとんだ笑い種だ。狂気の下に生まれ、狂気の下にに生き狂気のもとで殺した私がこんな何もない空間にいるのだから。
延々とした時。何分が経ったのだろう。何時間かもしれない。いやもう1日がたったかもしれないし、もしかすると、まだ一秒も立っていないかもしれない。
そんな不思議な感覚の中から、向こうから誰かがやって来る。それはなんとなくわかった。アイツだ。それ以外ありえない。
そう、私の前にやってきたのは、レイだった。
「マドカ……」
「……レイ」
二人は互いに歩み寄り、そっと手を繋ぐ―――
――――
「レイ!!」
「なんだと!?」
マドカがゼフィルスのビットを射出。損傷も、キレイに治っている。
これは
そして、それだけではない。
「喰らえ」
ヴァルキュリアが、ビットの射撃を避けた瞬間のこちらが完全に死角になった瞬間に避けられない出力のキャノンを、撃つと判断してからの
「馬鹿な!?」
直撃こそ避けたものの、またしてもライフルを破壊されたロスヴァイセは驚愕の声を上げた。無理もないだろう。
今、僕はマドカの感情、感覚、思考とある一定の状態でクロッシングしている。
この状態では、お互いの視野が同時に脳に交信され、思考と感情もある一定のレベルで統合される。
つまり、視界や感情、感覚がある一定で同じな為に通信や意思疎通すら、今の私たちには不要になる。
あの研究者が、私たちを二人に分けた理由。『複数人での意思疎通いらずの精神共有による戦闘能力増加』という研究を一時期していた彼らにとって、私たちはその研究の結果でもあるわけだ。
「これで―――」
「―――終わりだ!!」
メガセリオンのキャノンとゼフィルスのライフルが同時に襲いかかる。それを避けることは不可能だった。
拡散するシャワーと収束された鋭い一閃。どう避けろというのだ。
「あああああああ!!」
2本のレーザーの直撃を食らった私は、そこで意識を失う。
あとから聞いた話によると、観光として訪れていたカナダの国家代表が、救援に来てくれたのだという。
だが、あの二人―――もし亡国の戦闘員だとすると。厄介なことになりそうだ。
イツァムと蘇摩に相談してみるか。
――――
作戦が成功した夜。僕はマドカに呼び出された。呼び出された場所の基地の屋上のヘリポートの真ん中に、彼女は座って月を見ていた。
彼女の姿を見て、僕は体が熱くあなるのを感じた。
そもそも、あの時の戦闘が終わってからも、僕は戦闘時ほど強いものではないが、マドカの存在を近くできるようになっていた。マドカがどこにいるのか、何を考えているのか、それがなんとなくわかる―――その程度のものだが、その時から僕は彼女に対して、ある強い感情を持ち始めていた。
レイが来た。
今私はヘリポートの真ん中で座っているので姿は見えないが、何となく私にはわかる。
そして、私は自分の体が熱くなっていくのを感じる。
あの戦闘の後、私はあいつの存在を知覚できるようになった。戦闘時のあいつと感覚や意識がクロッシングするほどに強いものではないが、
それでもあいつが今どこにいて、何を考えているのか、それがなんとなくわかるくらいにはあいつを知覚できる。
そして、それを知った時から、私はあいつにある感情を抱くようになった。
「マドカ。来たよ」
「ああ」
まどかはゆっくりと立ち上がり、レイのいる方へと振り向く。
月の光に照らされた姿。水色のワンピースが映え、黒い髪が美しく輝き、僅かに朱に染まった頬が青白い光を受けて、妖艶な雰囲気を滲み出す。
レイはその姿に思わず見とれてしまい、その足が止まった。
「ふふっ。どうした?」
彼女が初めて人に見せた微笑み。それにまたしても見とれてしまうが、彼女の言葉に我に返ったレイは、やや噛みながらも、言葉を出した。
「あ……えっと、な、なんの用事、なのかな」
そんなそどろもどろな彼の対応にマドカは少しおかしくなった。
なぜだろう。今までこんな感情を抱いたことはなかった。
その時には、嫌悪感くらいしか特別感情を抱いたことはない。だが、自分がこういう感情を持つと、悪くないどころかこういう感情を好ましく思っている。
「話があるのさ」
そう言ってマドカは一度言葉を切る。数秒の沈黙があたりを包む。
ふと、一陣の風が、彼らの間を吹いた。互の服と髪が揺れる。
「いまの私たちの関係……終わらせないか?」
「え……」
レイはその言葉に少なからず衝撃を受けた。僕に何か不備があったか、彼女の邪魔をしてしまったことがあったか。そんなことを考える。
でも、すぐに彼女の言いたいことが、
つまり、彼女は―――
ぎゅっ…………
抱きしめられる。身長は僕のあまり変わらない。僕は身長173あるけど、彼女もあまり変わらないから互の頬が触れ合う高さにあった。
「利用し合うんじゃなくて、本当に必要とし合いたい。お前のことを、ずっと……」
「マドカ……」
マドカが顔を起こす。互の目が互の顔を映す鏡になる。
僕の顔は、あまり変わらないや。変だな、体はこんなに熱いのに、上気の一つしちゃいない。
私は、真っ赤だ。だが、今のお前の考えが私にはなんとなくわかる。私のこの顔が、この体が、私の全てがお前はそうなんだな。
「んっ」
「んむ……ふん……んちゅっ……んう……」
あの時は、ちょっと力を入れれば解ける程度の軽い手の結び。いまは何があっても解けないような、強い唇の結び。互いに過ぎる時間を忘れていく。唇が交わっているこの時も、
互の気持ちがなんとなくわかる。
どうしたら君は喜んでくれるだろうか。どうしたらお前は気持ちいいのだろうか。それがなんとなくわかって、互いに互のいいところを、刺激し合ってく。
幾許かの後、二人がどちらともなく唇を離す。絡み合った舌が離れてもなお、銀色の糸がお互いを結びつける。
完全に蕩けきった二人の顔。
あのクズみたいな研究者が私たちに何を仕込んだのかは知らないが、今は感謝しよう。私にレイを想わせてくれた事を。
感謝するよ。僕たち二人を創ってくれたことを。
ゆっくりと二人の位置が下がり始める。彼女が上で、僕が下。まるで僕が押し倒されたみたいな格好だ。
こんな状況でもしての気持ちがわかってしまう。だから―――
――――――――――――
そして、月は二人を照らし続ける。いつまでも―――
これにて、二人の過去編は終わります。
なんかやはり感情の描写は難しい。
うまく書けたと思っても、何か物足りないような……練習あるのみか。
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