インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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鴉と蝶と獣

アリーナでの戦闘は、激化を極めていった。

 

「フン。私たち相手にここまでやるとはな。流石国家代表なだけはある」

 

「もう少し楽に行けるかと思ったけど、存外そうはいかないものだね」

 

「フフッ。私も舐められたものよね!」

 

右腕のマシンガンで、メガセリオンを牽制する。そして、左手のレーザーマシンガンでゼフィルスを狙う。だが、簡単に避けられ、逆に後方上部と下部からビットによる射撃の反撃を受け、

それを避けるが、間髪いれずにメガセリオンからレーザーライフルによる射撃を受け、ぎりぎりで躱すが、装甲に掠る。そして、また間髪いれずにゼフィルスのビットから射撃が飛んできた。

 

「くっ」

 

それの5本を避け切るが、6本目がゼフィルス本人のライフルと同時に飛んできて、威力の高いライフルを優先的に避けたために、直撃とまではいかないがあたってしまう。

さらにまたメガセリオンの右手のキャノンが飛来する。橙色のレーザーはまず当たったら終わりなためなんとしても避けるが、イオン化したプラズマの渦流に巻き込まれ、

シールドエネルギーが減少する。

 

「なんて連携……!」

 

凄まじく攻撃的だが、驚異的な連携能力だ。明確な役割などはないようだが、互いにフォローし合って各々の長所を引き出せるようになっている。例えばゼフィルスのビットは1対1

なら、撃ち落とすことも簡単ではないができるだろう。だが、それをしようとすると、メガセリオンから強力な砲撃が飛んできて、逆にメガセリオンの砲撃を封じるために、高機動で、

的を絞らせないようにすると、各方位からビットによる射撃で、機動を制限されてしまう。

 

「なら!」

 

標準を切断。目視のみで標準を定めて、一気に上昇。2機の上に出てビットも振り切る。当然2機からの射撃が来るが、ビットに囲まれていないこの状況なら、一気に攻めに転じれる。

 

「はああああああ!!」

 

高速の連続バレルロール。からの乱れ撃ち。

バレルロールでの旋回機動で相手の射撃を避けつつ、ロックオンなしでの乱射。無論ただ乱射するわけではない。こちとら戦争のプロ。

目が回りかねないほどに世界が回転する中、正確に相手を撃ち抜く。それには無論ビットも含まれている。

 

相手の操縦技術が代表候補レベルなら、今の乱れ撃ちでビットをすべて破壊、本体にもそれなり以上のダメージを与えられただろう。

だが、ゼフィルスに登場している人物は、そこらの代表候補とは勝手が違った。

機体から板状のビットを射出し、すべてのビットを私の攻撃から防ぐばかりか、それだけのビットの操作をしながら、私からのダメージを最小限にして回避し続けた。

 

メガセリオンの方は、結構被弾したが、今は右手から、エネルギーを膜上に展開し、シールドのように機体を守っている。

この手も防がれたとは……認識を改める必要がありそうだ。少なくとも今この場にいる相手は、国家代表に近いレベルだろう。

 

「くっ。流石に、伊達ではないか……!」

 

「くそっ!注意するべきはブリュンヒルデだけだと思っていたのに……!」

 

本当、舐めてくれたものね。確かにセラスはともかく、私はまだあの人(織斑千冬)には勝てない。でも、それでも私はあの子に代わって、世界最強の傭兵を名乗っているのよ。

それを簡単に汚しちゃ、あの子達に申し訳が立たないのよね!

 

乱れ撃ちを中断。空中で姿勢を直し、チェーンガンを起動。弾を広範囲にばらまく。

20mmの機銃掃射だ。ビットは簡単にはシールドビットの外に出せないだろう。その内に体制を立て直し―――

 

今度は真下から橙色の閃光が迫ってきた。

 

とっさに体を捻り、直撃は免れたが、チェーンガンが見事に消し飛んだ。シールドエネルギーもだいぶ削られる。

エネルギー測定……嘘。

 

3006……単純な引き算でIS2機分は落とせるレベルの威力。なにこれ……ふざけてるの?

 

途方もない火力。そして、思い出した。

 

アイルランド第3世代(・・・・)IS。ランブリング・メガセリオン。その特殊武装は、

 

時間間隔無しのレーザー出力、収束率変更可能砲撃武装(リアルタイム・アビリティチェンジ・レーザーキャノン)。それはまさにエネルギー消費を無視すれば攻防一体の重戦術級武装だ。

簡単に言えば、いつでも好きなタイミングで、砲撃を盾に変更し、盾を砲撃に変更し、砲撃を拡散から、撃ちながら収束に変動させることも、その逆も可能なのだ。

 

おそらく、使い勝手、威力ともに射撃系統武装では最高クラスの武器だろう。

 

しんどい話だが1対1なら勝てるだろうが、1対2だとこうも勝手が違う。それにISでの試合は基本1対1だ。それも戦いづらい要因の一つになっている。だが、このままで終わるつもりはない。

少々チープな手だが、逆に上手く嵌ってくれるかもしれない。

 

メガセリオンの砲撃とライフルをバレルロールで避け、イツァムはそのままミサイルポッドを起動、ターゲットをメガセリオンに標準。発射。

 

「そんなミサイルで……」

 

「ミサイルには、こんな使い方もあるのよ!」

 

発射されたばかりのミサイルを、自分で(・・・)撃ち落とす。一発爆発すればそれに連鎖して、すべてのミサイルが爆発する。それは、爆炎と爆風、爆熱による煙幕を作り出した。

その煙幕は、マドカ達を包む。

 

「目くらましのつもりか。こんなもの―――っ!?」

 

煙幕を振り払おうと、ブースタを最大出力で吹かし始めたとき、突然高密度の弾幕に襲われ、被弾する。そして、煙幕を突き破って、突撃する深紅の影―――。

 

―――かかった!!

 

「ここから、私のターン!」

 

イツァムブーストを最大出力で噴射し、高速でメガセリオンとゼフィルスの周りを飛び回る。あまりにも高速の動きに二人共標準が追いつかない。いや、

あの速度であそこまでき便に動き回ること自体がおかしい。確実にマッハ単位で速度を出している。そんなことをしたら確実に強烈なGにより、気絶するか吐血は必至だ。

 

それなのに、こんな正確な射撃を撃ってくる。ゼフィルスはなんとかビットを回し反撃に出ているが、一向に当たる気配がない。

いや、正確には何発もかすっている。だが、直撃が無い。プロトエグゾスの機動は単調な分速く、機動を予測し、撃つも掠りはするが当たることはない。

メガセリオンは、まず旋回が追いつかずイツァムを視野に入れること自体ができていない。

 

こうしている間にも、どんどんこちらのエネルギーは削れていく。それはプロトエグソスも同じであった。ここまで無茶な機動をやっているせいで、姿勢制御と補助用ブースタに

エネルギーを割いており、シールドを切ってしまっている。流石に絶対防御は切れないものの、このままでは此方もオーバーヒートを起こし、行動不能になってしまう。

それに、自分の体もそろそろキツイ。だから、このまま一気に短期決着を目指す。

 

さらにブーストの出力を上昇。体にかかるGも上がるが、それを無視し、さらに猛攻を仕掛ける。この高機動旋回射撃。相手の追従すら許さない苛烈な攻撃方法で、

彼女は第2回モンド・クロッソ高機動部門ヴァルキリー。総合部門第4位という結果を残すことができた。

 

だが―――

 

ゼフィルスのビットによる一斉射撃を、回避しきったところでこの状況は一変する。

 

回避した後、そのまま機動を維持して攻撃を続行しようとした瞬間、背後から攻撃を食らった。

 

「な!?」

 

あまりに突然のダメージに、機体がストップしてしまい、ココぞとばかりに一斉射撃が始まる。メガセリオンのライフルを避け、ゼフィルスのライフルも避けて、ビットからの射撃を回避しきる。

 

だが、またしても、今度は側面から射撃を受けてしまった。

 

「くっ。まさか伏兵?」

 

イツァムは、メガセリオンへ牽制射撃をしながら、高速でを行い円状制御飛行(サークル・ロンド)の応用をした楕円形型に高速で飛行し、ハイパーセンサーをフル起動させる。

だが、ここには自分含めた3機の他にISは見られない。

 

(どういうこと……!)

 

いつの間にか散開していたビットから、射撃を受け、複雑な機動方法で、蛇行しながら避け続け一気に上昇。その瞬間、イツァムは見た。

 

突如、ビットからの射撃が、曲がった(・・・・)瞬間を

 

「な!?」

 

あまりに突然のことで一瞬思考が停止し、全6発。すべてが直撃する。馬鹿な、BT兵器からの射撃が途中で、軌跡を曲げるなんて、聞いたことがない。一体どんな魔法を使ったのかは知らないが、現に避けたはずのビットの射撃が

すべて湾曲したのだ。

 

「本当なら、この場で使いたくはなかったのだがな」

 

「仕方ないよM。オーストラリア代表の実力を甘く見た此方のミスだ」

 

っく……。この状態じゃあ、せめてこちらにもひとり欲しいわね。このままじゃあ、悔しいけど負ける。

 

ゼフィルスとメガセリオンが、自分たちの獲物をこちらに向けた時、私にとって救いが来た。

 

私の背後から、砲撃音が聞こえ、メガセリオンが前触れもなしに吹き飛ばされる。今のは、衝撃砲?かなり高出力で撃ったようだ。メガセリオンの装甲が拉げている。

あの拉げ方をすれば、生身にも多大なダメージを与えるだろう。ヘタをすれば、装甲の内側が破損して、破片が体に突き刺さっているかもしれない。

そして、私の隣かから、オレンジ色のISがゼフィルスに牽制射撃を浴びせながら、私の隣に並んだ。

 

「全く、何がどうなってんのよ!!」

 

先ほどの砲撃は中国製第3世代。甲龍(シェンロン)の龍砲の物らしい。そして、私の隣に並んだのはフランスのラファール・リヴァイブのカスタムモデル。

 

「わからないけど、こっちにオーストラリアの代表がいるんじゃあ、どうすればいいのかはわかるんじゃない?」

 

「それにしても、本当すごいいわね。オーストラリアの代表って」

 

中国とフランスの代表候補が、援軍として駆けつけてくれた。敵側の2機の能力に比べれば少々頼りないメンツではあるが、数で優位になったのは確かだ。

少しだけ、頼りにさせてもらうわ。

 

「フフッ。二人共、気を付けてね。敵さんはかなりの強敵よ」

 

「そんなの見てわかりますって」

 

「第2回モンド・クロッソ高機動部門ヴァルキリーの人がここまでやられているのを見れば、相手の実力が僕たちより上ってことはわかります。ですが、それでもこの場は」

 

「わかってるわ。アテにさせてもらうわよ」

 

そうして、即席ではあるが、3人のタッグが出来上がった。

相手の方は、ゼフィルスは、健在だがメガセリオンは今の砲撃でどこか生身の部分をやられたのだろう。吐血し、すぐに戦闘復帰できる状態ではなさそうだ。

そうだろう。走行がひしゃげたということは絶対防御と破壊したということになる。甲龍の攻撃力を持ってすればそれくらいなら可能だという話を聞いたことがある。

もしそうなら、普通ISの国家代表候補でも、あんな感じに直撃を受ければ気絶は必至だろう。下手をすれば、肋骨の1本や2本、はいにつきささってもおかしくない。

これで数では3対1。だいぶ有利になったが……。

 

「ごめん……M。ハァ、ハァ……少し、休ま、せて……」

 

「ああ」

 

少ない言葉で、やり取りをしたあと、ゼフィルスが一気に上昇し、ビットを期待の周りに集める。シールドビットと、攻撃ビット。合計12基を同時に操る技量は、感心せざるを得ない。

 

「代表候補如きが……。アイツに傷をつけた罪、貴様達の命で払ってもらう!!」

 

ゼフィルスの搭乗者は、相方を傷つけられ、怒り心頭のご様子。だが、決して冷静さを書いている訳ではないことが、今攻撃を仕掛けずに体制を立て直したことから容易に取れる。

さて、まだまだ勝負は

 

「―――これからよ」

 

イツァムは、再びブーストを展開させ、飛び立った。




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