インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
「さて、と」
蘇摩はISのブーストを吹かし、いきなりオータムへ斬りかかる。オータムはそれを紙一重で避け後ろに下がった。蘇摩はそのまま大盾を拾い上げ、右腕に装備させる。
拾い上げた時に、ガゴッという鈍い音がして、床の欠片がパラパラと盾から落ちる。
「ったく、重てぇんだよなぁこの盾。まあ、いいか」
ISがすっぽりとかぶさりそうなほどに大型の盾と、細身だが大振りな大剣を構える姿は悠然と、しかし殺伐としていた。
「てめえ……ちょうどいい。左手の借り。ここで返してやらあ!」
そう言いながら、8本の足を操作し、それぞれ個別に蘇摩のISへと襲いかかる。対する蘇摩は回避するどころか、一歩もう動く気配が無い。
「蘇摩!!」
一夏が蘇摩を大声で呼ぶが、蘇摩は全く慌てる素振りなく、むしろ顔に笑を浮かべながら剣を振りかぶった。
1本目。剣をなぎ払い弾き飛ばす。
2本目。一本目を弾いた反動で、剣を返し受け流す。
3本目。右足を振り上げ、弾く。
4本目。右足を左に持って行き、その勢いで左足の踵回し蹴りで弾く。
5本目。回し蹴りをした左足が、地面に着くスレスレで屈折させ、蹴り上げる。
6本目。蹴り上げた足を逆に踵落としの要領で地面に叩きつける。
7本目。右腕の盾で軽々と弾く。
8本目。右腕の盾でシールドバッシュをし、弾く。
計8本。全てを危なげなく凌ぎきった蘇摩。彼はさらに笑みを濃くし、オータムは顔を怒りに染める。
一夏は、驚愕に目を見開いた。あんなにも簡単に、多少のタイムラグはあれどほぼ同時に仕掛けてくる8本の武器を弾き、受け流し、逆に攻撃で無効化する。そんなことができるのか。
いや、蘇摩の反応速度が凄まじいということは知っていたし、ISを動かした経験はなくとも、実戦経験は学園にいる誰よりも多いということも、知っていた。
「すげ、え……」
だが、ハイパーセンサーがなければわからないであろうほどの速度をISの恩恵があるとは言え、生身の人間がそえを出せるのかと、目の前の光景を前にして、そう思ってしまう。
「そういやその左手、また生えてるみたいだがどうしたんだ?切た手は返してやったが、高温のプラズマで焼き切ったんだ。付け直すのは無理だろ」
「てめええ!!」
「ああ、義手か。フン、じゃあ今度はお揃いになるよう、右手も切り落としてやる」
蘇摩は再び、盾を前に突き出した構えと取る。いつでも正面からの攻撃なら防御が可能な構え。切り落としてやるとは言っても蘇摩は実のところ閉所での戦闘は苦手ではないが、
ある人物が来るまでの時間稼ぎに位ににしか思っていない。閉所での戦闘は自分よりも適任な奴がいるためだから、俺はさっさとイツァムの援護に回りたい。
「おもしれえ!やってみろよお!!」
8本の半分を射撃モードに、残りを格闘モードにし、両手にマシンガンを構える。蘇摩は盾の陰に隠れて見辛いが、ブーストを吹かし続けている。バイクで言う、ブレーキをかけながら
アクセルを回しているような状態だ。そのバイクは、ブレーキを解除した瞬間、凄まじい速度を出す。それがISなら
「!?」
「おそい!!」
なおさらだ。
一気に瞬間最高速度を出し、肉迫する。オータムはとっさに射撃モードにしたアームを向けるが、全て大盾に弾かれる。蘇摩は、そのまま突進しながら剣を水平に突き出した。
「ちぃ!」
オータムはそれを体を捻りながら避ける。が、蘇摩はそのまま剣をオータムへ向けて薙ぐ。オータムはそれを避けられず、脇腹に直撃し、そのままこの部屋―――、一夏がオータムに連れてこられた
更衣室のロッカーに叩きつけられる。
「がはあああっ!!
「どうだ?俺にここまで完膚なきにやられる感想は、男は女に勝てない?ISがあるからそんな考えが広がったんだろうが、みろよ条件が同じだとこうまで逆転できる。結局使う人間の実力次第で、
定説など覆されるのさ」
「てめええええええ!!」
オータムはアームを展開し、今度は8方からの同時攻撃を仕掛けるが、一瞬で全て切り飛ばされた。オータムからは盾に隠れて見えなかったが蘇摩は、大剣をすでに持っておらず、
代わりに小振りのプラズマブレードを持っていた。
一般的なレーザーブレード程の柄に、通常ブレードの半分以下の長さしかないプラズマの刃。それは見る人間にはすぐに解った。
レイレナード製近接用ブレード『DRAGONSLAYER』高出力のレーザーブレードを刃を短くすることで、刃のプラズマ密度を高め、より高威力を出せるようにした格闘武装。
非常に小回りが利き、それは日本刀で言う小太刀のようなものになっている。違うのは、ほかのブレードよりかなり高威力を誇っていることくらいだろう。
単純威力なら、このレーザーブレードに勝るものは、同じレーレナード製の『ある物』だけだ。
オータムの左手を切り落としたのも、この武器である。
「ちぃ!」
「どうした!?まだまだ終わりじゃないぜ!」
蘇摩は、盾を前面に出し、オータムの射撃武装を無効化しながら、小型ブレードで、じわじわ相手を削っていく。オータムは完全に蘇摩に気を取られ、忘れていたことがあった。
「うおおおおおおおおお!!」
「な!?」
敵は1人ではないことを。
一夏は、蘇摩とオータムが戦っていた時に、少しずつ自分の立ち位置を変えていった。相手に感づかれないよう少しづつ、そして、完全にオータムが一夏に背を向けたとき、一夏は
突撃した。こうも簡単に一夏の行動がうまくいったのも、蘇摩が逸早く彼の思惑を気づき、それが行いやすいよう立ち回ったおかげでもあるだろう。
ズバン!
完全に不意を突かれたオータムは回避が間に合わず、背中から出ている8本のアームのうち、5本を持っていかれることになる。だが、直後に残りのアームを反転させ、一夏へと攻撃する。
「てめえええ!!」
「ぐっ」
オータムは、今ので一気に頂点に達っしたが、同時に2人を敵と認識し、もともと一対多に適したアラクネの能力を大に発揮する。意識は蘇摩に割いたまま、アームを半自動にセットし、
一夏を攻撃する。
「あたしをなめんじゃねえええぞ!」
「ぐううううっ!」
「ちっ切れた奴とはやりづらい……どうするか」
蘇摩は、ふと異変に気づく。
暑い。いや、もっと言えば『蒸し暑い』今日の気温はさして高くない。だが、現に今ここまで蒸されるような感覚がある。
気温じゃないとすると、湿度か……。!
「一夏!」
「え―――ゲフッ!?」
一夏は蘇摩に強烈な突然強烈なケリを貰い、盛大に吹っ飛ぶ。蹴った蘇摩も一夏と同じ方向に飛び、一夏を庇うようにしてオータムと相対しなおす。そして、その大型の盾をしっかりと構えた。
「なんだあ?いきなり仲間割れか?」
「ゴホッゴホッ!おい蘇摩!いきなり何すんだ―――」
ドガアアアアアアアア!!!!
一夏は、蘇摩に文句を言おうとしたが、その閃光と爆音と爆風で、舌をかんでしまった。幸い、ダメージは蘇摩が盾をしっかり構えてくれたおかげで、無かったが、爆発の中心にいたオータムは
ひとたまりもないだろう。
「あの爆発に巻き込まれたかったのなら、蹴って悪かった。」
「い、いや。有難う……」
一夏は、かなり真顔で行ってのけた蘇摩にどんな顔で返していいか分からず、とりあえず礼を言った。
「味方もろともに爆死させる気かよ。楯無」
「え?」
蘇摩が言った言葉に驚き、辺りを見回すと、薄暗くなっている影から、ISを纏っている女性が姿を現した。
「あら、蘇摩ならすぐにわかると思って、あえて言わなかったのよ。味方を騙すときはまず敵からって言うじゃない?」
「逆だろそいつは、味方を優先に騙してどうする」
現れたのは更識楯無だった。
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