インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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亡霊と鴉

「マドカ。オータムから信号。作戦を開始するよ」

 

「解った」

 

二人は短いやりとりで、互いにISを展開させる。今彼女等がいる場所は、IS学園より、数十メートル離れたビルの屋上。そこに2機のISが出現した。

 

レイはISのアンバランスに大型で、巨大な5本の爪を擁する右腕を学園に向ける。

 

ジャゴン

 

まるで銃の弾を装填したような音が響き、間もなくおびただしい量の粒子が右腕の掌に収束されて行く。

それは橙色の光の玉を形成した。その玉は周りの空気を電離(イオン)化させているのか、バチバチとプラズマをまとい始めていく。

 

「バーン」

 

軽い言葉とともに撃ち出される閃光は、ISを飲み込むほどの巨大な光の柱となって、学園のアリーナへ牙をむく。

 

――――

 

ドガアァン

 

凄まじい爆音とともに、舞台の中心に橙色のレーザーが降り注いだ。

 

天井に大穴が空き、レーザーが直撃した部分は溶解している。さらにレーザーの射線跡には、未だイオン化されたプラズマがはしっていた。

 

「ちょっと、こんな火力だなんて聞いてないわよ」

 

イツァムは混乱に満ちた舞台で、一人愚痴った。こんな火力の装備なんて、明らかにアラスカ条約を無視している。

とんでもない火力だ。自身のISのハイパーセンサーを起動させ、残留エネルギーを計測する。

 

「ちょっ……残留分だけで677だなんて、軽く見積もってレーザー本体は3000近いエネルギーの塊よ……笑えない」

 

大穴があいたアリーナのシールドを見る。半年ほど前の無人機襲撃事件から、アリーナのシールド強度は倍近くに強化されたって聞いたけど……それすらたやすくぶち抜くって言うの?

 

穴の向こうから、何かが飛来してくる。今度はレーザーじゃない。ハイパーセンサーによる形式照合……。

第3世代、サイレント・ゼフィルス。及び第3世代、ランブリング・メガセリオン……!

 

片や深海のような深い碧。ブルーティアーズよりも角張った鋭利なフォルムで、より攻撃的な印象を受ける。

かたや、暗闇のような漆黒。それ以外に色はなく、相方とは違い流線的で細身。そして、その右腕は流線的ながらも猛禽類のような荒々しい5本の爪をを持っている。

そして、互いにフルフェイスのヘルメットを被り、ゼフィルスは、バイザー型のカメラアイの薄緑色の光りを放つ。

メガセリオンは、4つのカメラアイで、濃い赤色の光を宿す。

 

アリーナに侵入したISは紛れもなく強奪されたもの。そして、ゼフィルスのとなりのISは、ロスから聞いた襲撃のときのISと同じ。ということは、

間違いない。メガセリオンに乗っているのは男性。

 

「フフッ……面白いじゃない」

 

舐めてくれたものね。真昼間に堂々侵入してきて、余程此方の怒りを買いたいと見えるわ。いいわよ、見せてあげる。

 

「現RAVEN最強ランカーの実力をね!!」

 

IS、展開。

 

「きなさい。プロトエグゾス」

 

それは紅色に包まれた物。無駄のない直線的なフォルムと、紅色を際立たせるかのように、繊細に入れられた紫のツートンカラー。

肩に装備された連装ミサイルと、大型チェーンガンがその目を引く。

 

オーストラリア製第2世代ISにして、最強の傭兵が持つISである。

 

「ふん、オーストラリアの代表が、こんな所にいるとはな」

 

「悪いけど目障りなんだ。消えてもらうよ」

 

二人の声は、ボイスチェンジャーによって、男友女ともつかないものになっている。だが、目の前の『敵』の性別などここでは意味はない。ただ、目の前に立つのなら、

打倒すのみ。

 

「あら、なんだか雑魚っぽい扱いされてるけど、今の私は不機嫌なの。荒っぽく行くわよ」

 

ブースター展開。急上昇とともに、武装を展開。右手には連射能力が高いガトリングマシンガン。左手には単発の威力を求めたエネルギーマシンガン。

左肩のチェーンガンを起動、展開。

 

「いきなり、ぶっぱなすわよ」

 

合計3門。撃ち出される様はまるで嵐。おびただしい量の弾丸が、侵入者に襲い掛かる。

だが、二人は慌てるどころか、まるで目じゃないというばかりに、ランブリング・メガセリオンが右腕を突き出し、サイレント・ゼフィルスは棒立ちを決め込む。

メガセリオンの右腕の手のひらから、橙色の閃光が、まるで膜のように広がり、弾丸を全て消し去ってゆく。これ以上は無駄と悟ったイツァムは射撃を中止する。直後にメガセリオンは膜としていたエネルギーを、一瞬で収束し、エネルギー砲へと変えて、発射する。

 

「!!」

 

イツァムは、その攻防の転換の早さに驚きつつも避けたが、僅かにシールドが減少しているのを確認し、舌打ちをする。

 

「全く、ノブリスの再来じゃないんだから」

 

あのキャノンの威力は、かのノブリス・オブリージュのウイングブラスターを彷彿とさせた。あれは6本の斉射だったが、これはそれを一本にまとめて撃ち出しているかのようだ。

そして厄介なことに敵はその一機だけではなく、もう一機、ゼフィルスもいるのだ。

 

「ようやくお祭りみたいになってきたじゃない!さあ、楽しく行こうか!!」

 

イツァムは顔に笑みを浮かべ、ブースターを噴射した。

 

――――

 

 

「くらえ!」

 

白式の固定武装。『雪羅』を射撃モードにし、目の前のISに撃つ。だが、それは簡単によけられ、逆に相手のIS『アラクネ』の8本の蜘蛛の足のようなアームが襲いかかる。

 

「くそっ」

 

襲いかかる足の始めの3本は自力でかわしきる。だが、その次にきたアームは射撃モードで撃ってきた。それは避けられるとは思わず、エネルギーの消耗は避けられないが、迷わず

『雪羅』のシールドを起動。零落白夜と同じ能力を持つシールドは、相手のエネルギー弾を無効化し、消失させる。

 

最後の2本は、ギリギリ展開の間に合った雪片弐型で弾く。

 

「へぇ、やるじゃねえか!『アラクネ』相手にちょこまかと!」

 

その相手、巻紙礼子―――ではなく、俺があの時、第2回モンド・クロッソの決勝戦前、誘拐した組織の一員だと名乗った。それが本当なら、

 

「あの時の借りを、ここで返してやらああああ!!」

 

「ハッ!威勢だけは一人前だな!だけどよ、そんなバカ正直に正面から向かってくるガキに、あたしが負けるわけねえだろうがよ!!」

 

先程まで、綾取りのように弄っていた物を、俺に向かって投げる。エネルギーワイヤーで構成されたその糸の塊は、俺の目の前で、パンっと弾け、巨大なあ見えと変貌する。

 

「―――しまっ」

 

気付いたときには既に俺は蜘蛛の糸にかかった獲物であった。エネルギーの糸は、単純な物理的衝撃では簡単に壊れない。零落白夜なら簡単に切れるだろうけど、手首も捕われてしまい、

雪片を動かせない。

 

どうにかして動こうともがく俺の前に、あの女がやってくる。

 

「ハハハ!ざまあねえな。それじゃあ、お楽しみタイムといこうじゃねえか」

 

そういう女は何か、見たことのない4本脚の装置を持ってきた。大きさは大体40cm程。それは駆動音を響かせ、脚を開く。

 

「お別れの挨拶は済んだか?ギャハハハハハ!!」

 

「……なんのだよ」

 

装置が俺に取り付けられる。胸部装甲から接触したそれは、足を閉じて、俺の体に固定された。

 

「決まってんだろうが、てめえのISとだよ!」

 

あの女がそういった直後、機械から電流のようなエネルギーが流された。

 

「があああああああ!!」

 

体を引き裂かれるような激痛が全身をほとばしる。

俺が苦しんでいる時も、オータムの哄笑が聞こえてきて、それが余計に神経を逆なでする。

 

―――突然、俺に取り付けられた機械が爆発(・・)した。

 

「!?」

 

「ぐっ……」

 

幸い、絶対防御に守られたおかげで、爆発は、俺自身に直接届かなかった。胸部の装甲が少し凹み、焦げた程度の損傷で済んだし、ただシールドエネルギーが、今ので大幅に削られたがそれだけだ。

オータムは、目の前で起きたことが信じられないといった様子で、唖然としている。

 

「馬鹿な……なんで爆発すんだよ……っ!?」

 

その隙を見逃す手はない。一気に瞬時加速で距離を詰め、オータムに殴りかかる。突然のことで、オータムも完全に対応に遅れ、脆に俺のパンチが直撃し、数M吹っ飛ばされた。

だが、いかに今の一撃が入ったところで、先ほどのエネルギーによるダメージが、俺に残っていた。そのために今の一撃も威力が乗り切れていなかったらしく、すぐにあの女がのIS

による反撃が始まる。

 

8本の足による個別攻撃。なんとか5本は避けたものの、残りの3本をまともにくらってしまう。

 

「ぐああああ!」

 

「てめえ……。剥離剤(リムーバー)が利かなかったからって調子に乗ってんじゃねえぞガキがあああああ!!」

 

両手にマシンガンを構え、全アームを射撃モードにして、俺にめがけて一斉射をしてきた。今の一撃の衝撃で、うまく動けない。そして、俺はろくに回避行動も取れぬまま、オータムの

攻撃を受けることに―――

 

ガァン!!

 

ガガガガガガガガガガガ!!!

 

オータムの射撃は、あいつと俺のあいだに割って入った、一つの物体によって全て遮られた。それは、IS一機が覆われそうなほどに巨大な盾だった。

細身でシンプルな形状をしているが、オータムから見える盾の表面には、綺麗な彫り細工がしてあった。そして、あれだけの銃弾とエネルギー弾の雨を受けて、

傷ひとつ付いていない。盾そのものではなく、彫り細工にすら傷がついていないなど、尋常の強度ではない。

 

「全く、もう少し粘ると思ったんだが、ここまでコテンパンにされているとはな一夏」

 

男性の声。それは聞き覚えのあるものだった。それは一夏だけではなく、オータムも含めて。

 

「てめえは……」

 

「まあ、あの蜘蛛女が相手じゃあ、お前なら持ったほうか」

 

暗銀色の直線と曲線が見事に調和した装甲、背になびく藍色のマント、そしてその左手に持つ細身の大剣。

まるでそれは、物語に出てくる騎士の英雄が如きの出で立ちだった。

 

「ア、アビス・ウォーカー……」

 

「一夏。加勢してやるぞ。害虫駆除にな」

 

現れたのは、蘇摩・ラーズグリーズだった。




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