インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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第28話

文化祭から少し前のある日、俺はある人物を連れ、ある部屋に向かっていた。と言うのも、廊下でその人物に会いちょうどいいと思っての行動だった。

 

――――

 

図書室から本を借りて自室に帰る途中、俺はは箒に会った。彼女はひとりで、何やら不機嫌な様子である。理由はなんとなく察しがつくが、なんだかな……。

箒に限った話ではないが、危ういよな。

 

「箒か、珍しいなこんなところで会うとは」

 

「蘇摩か……」

 

「どうしたよ。いつにも増して不機嫌だな」

 

俺の言葉に少し強ばる箒。図星だったらしく、彼女は口を開こうとしたが、結局なにも出てこなかった。

 

「っ……その……」

 

「まあ、ちょっと付き合ってくれ。話したいことがある」

 

俺の言葉に箒は多少戸惑ったものの、了承してくれた。

 

「ああ、わかった」

 

そうして、なかなか珍しいコンビが即席で出来上がったのであった。のはおいといて、向かう場所は決まっている。

 

――――

 

付いた場所は剣道場だった。ちょうど部活自体は休みらしい。箒は蘇摩に連れってこられた場所が場所で、少し戸惑っていた。

 

「え、えっと……」

 

そんな彼女の戸惑いを尻目に、俺は2本の竹刀を手に取り、一本を彼女に投げた。

 

「ほらっ」

 

「え、な!?」

 

さらに戸惑う彼女、気持ちはわかる。いきなり剣道場に連れてこられて竹刀投げられたんじゃな。ここで、俺は説明した。

 

「まあ、話の前に、軽く運動しようぜ。そんなにフラストレーションがたまった状態じゃ、気持ちも、余裕も持てんだろう?」

 

そこでようやく彼女は理解した模様で、竹刀を握り直した。

 

「防具はなしでいいよな。あくまで軽い運動だ」

 

「そうだな。私も最近竹刀は握っていなかったからちょうどいい機会だ」

 

そう言って、箒は竹刀を正眼に構える。なかなかに様になっている。たしか、一夏から聞いた話だと中学の時全国大会で優勝したそうじゃないか。

所詮道場剣道とは言っても、これが軽い運動だといっても油断する気は毛頭ない。

 

左手に剣を持ったまま、やや刀身を開き気味に半身になる。無間流剣術基本の構え。ずいぶん久しぶりにこの構えを取ったな。

 

「……いくぞ」

 

箒がそう宣告する。

 

「……いつでも」

 

俺がそれに返事をし、いつ来てもいいように、やや姿勢を低めに取る。

 

「―――ハッ!」

 

先に動いたのは箒。かなりの速度で迫り、面での一刀を振り下ろす。だが、それは空振りに終わった。蘇摩が、刃が届くか届かないか、ギリギリの距離に下がったからだ。そして、一歩前に出て、左手のみだが、胴を取るために剣をやや振り上げ気味に、右へ薙いだ。それは箒が素早く竹刀を起こし、それを受け止める。竹刀同士がぶつかる、小気味良い音が道場内に響いた。

 

「―――ッ!」

 

短く息を吐き、箒は後ろへ間合いを取る。蘇摩は、後ろへ下がることも前へ出ることもしない。従い彼女が取った分の距離のみ開く。そして、箒は少しゆっくり目の動作で竹刀を正眼に構え直した。

 

「やるな……」

 

「だろ?」

 

蘇摩は口元に不敵な笑みを浮かべており、再び半身になる。一見ただ半身に立っているようだが、付け入る隙が無い。ただ突っ込めば一瞬で切捨てられる。それがリアルに感じることができた。

だが、守りは箒の得意とするところではない。一夏から聞いたところでは、蘇摩の剣は回避は難しく、生中な防御では無意味らしい。ただ、振りが大振りになため読みやすいとのこと。

 

ならば―――攻める!

 

「はああ!」

 

箒は竹刀を振り上げ、面を振り下ろす。蘇摩はまた半歩下がり、それをギリギリの距離で回避する。だが、箒は反撃を許すことなく、振り下ろした竹刀を振り上げ、胴を狙う。それにも蘇摩は反応し、竹刀を斜めに当てて受け流す。その防御法に箒は驚いたが、それだけだ。決して攻め手を休ませはしない。

 

受け流され、右側に大きく薙ぎ払われた竹刀を今度は小さく左に、小手を取るように切り払う。蘇摩はまた距離を取り躱す。それをみた箒はココぞとばかりに鋒を蘇摩に向けたまま、竹刀を大きく引かせる。そして、篠ノ乃流剣術『参華突(みかづき)』を放つ。胴の右側、左側、鳩尾に向けて放つ3連突き。非常に回避は困難で、今まで初見で回避されきったのは千冬しかいない。蘇摩も流石に驚愕に顔を染めた。

 

だが、その反応速度は凄まじく、一撃目、鳩尾を狙った一撃を、半歩下がることで回避し、二撃目の胴の右側、つまり相手にとって心臓に近い部分を動をひねることで回避、そして三撃目の

動の左側を狙った一撃は、竹刀で、私の突きを受け流したのだ。

 

「な!?」

 

「っぶねー。マジで今のはびびったぞ」

 

蘇摩の顔が少し引きつっているあたり、ビビったのは本当だろう。だが、それも一瞬のことで竹刀を振り上げる。それ箒の竹刀を弾かせる。そして、今度は蘇摩が距離をとった。その顔には笑みが込められている。

箒は蘇摩の反応速度に内心戦慄した。最早人ではないような、目の前の男は人間であり人間ではない。そう思えてしまうほど。だが、それでも箒は勝つための手段を模索した。

 

(守勢は論外。連撃も無意味……なら残された手は)

 

再び正眼の構えを取る箒。

彼女の雰囲気が変わる。蘇摩はそれを機敏に感じ取り、さらに笑みを深くした。彼と比較的親しい同業者は彼のことをよく戦闘狂(バトルジャンキー)と評するがそれはこの辺から来ているのだろう。

 

二人共、これが軽い運動であることをたった数分で完全に忘れていた。箒の制服から露出している部分の肌は、汗で濡れている。

 

箒は、蘇摩に悟られぬよう、微妙な力加減で、下半身に力を貯めていく。最大まで力が貯まり、足が緊張に張る。そして―――

 

「―――ッ!!」

 

篠ノ乃流古武術裏奥義『零拍子』。その速さは一夏より上だった。蘇摩は大きく目を見開き、本能的に距離を取ろうと半歩味を引く。それを箒は見逃しはしない。

 

「はああああ!!」

 

上段からの一閃。それは今までにないほどの速度を持って蘇摩に襲い掛かる。

 

―――箒はこの瞬間の出来事を全てが、まるでスローモーションのように感じた。だから、あの刹那を見ることとなったのだ。

 

恐ろしい速さで迫る竹刀を蘇摩は完全に回避に遅れ、防御も間に合わない。確実に一本を取られるだろうその瞬間―――

 

「―――」

 

「!?」

 

蘇摩の眼が変わった。日本人にしても黒い黒曜石のような瞳。それが鋭く、一本の刃のようなものへと変わる。

 

まるで、漆黒の闇よりも、深く、暗い深淵に飲まれたような、そんな恐怖が箒の全身を駆け巡った。殺気などという生易しいものではない。まるで、全身を膾切りにされ続けるかのような

恐怖―――

 

振り下ろされた刃を、蘇摩はまるで見向きもせず箒の傍、服がぎりぎり触れるか触れないかの距離を通過した―――

 

「一本、だな」

 

気づいたら、箒の首元に竹刀が当てられていた。

 

「すまない。今のが凄くて、つい本気になっちまった」

 

蘇摩は内心冷や汗を書いていた。油断したつもりはなかった。あの一閃。箒の放った攻撃はビビるというレベルの話ではなく、つい本気になって『縮地』に手を出してしまっただけじゃなく

殺気の一部を無意識に漏らしてしまった。

 

「っとまあ、運動はこれくらいにして、本題に入ろうか―――」

 

蘇摩はバツが悪そうに頭をかき、竹刀を肩にかついだ。そういえば、これは軽い運動のはずだったのに、いつも間にか、こんな真剣勝負になっていたのだろうか。

そして、箒は先程まで感じていた苛立ちや不機嫌だった要素が体から抜け出ているのを感じた。

 

「あ、ああ。そうだ、な」

 

箒も少し間の抜けた返事をしてしまったが、本当の目的を思い出し、竹刀を片付けに、やや早足で向かった。

 

――――

 

道場に備え付けられている簡易的な机と椅子に、向かい合って座る二人。蘇摩は、少し落ち着いたところで、本題を切り出した。

 

「話ってのはほかでもない。一夏のことさ」

 

「―――?」

 

箒は首をかしげた。あいつに何かあったのだろうか。でもそれにしては蘇摩の口調は軽いため、

あいつに何か悪いことがあったわけではなさそうだ。そう思っていると

 

「お前さ、あいつのことが好きなんだろ?」

 

「―――な!?」

 

あまりにもスムーズに、まるで明日の天気でも聞くかのような軽さと直球気味に言われたため、異臭ん何を言われたのかわからなかったが、言葉の意味を理解すると同時にその顔は真っ赤になった。

 

「な、なにを」

 

「隠すことでもないだろう?なに、話ってのはお前に利益たっぷりの事さ」

 

蘇摩の顔は笑っていたが、その目は真剣味を帯びているのを箒はその時は羞恥心で頭が混乱気味になっていたため、気づくことはなかった。




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