インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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俺は悪くない。

あれから一週間が経過した。

 

俺はこんな事になるとは思っていなかったんだ。いるかどうかは知らんが神に誓ってもいい。まさか、あの女がここまで好き放題やらかすなんてな。最初はただ彼を鍛え上げ、

最低限の自衛能力を身につけさせるためにやったんだと思っていた。たしかにそれは正しかったよ。だが、何故、なぜた。

 

なぜ、この部屋(俺と一夏の)に入居(・・)してきやがったんだ・・・・・・!

 

事の発端は一夏と楯無の勝負から、2日たった頃だ。俺は放課後の時間を適当に過ごし、自室に帰っている途中、それまで模擬戦でもやっていたのか、一夏が顔に少し汗を流して、やってきた。

 

「おう、蘇摩。今帰りか?」

 

「ああ。そんなところだ」

 

ありきたりな言葉のやり取りを交わし、一緒に部屋へ帰っている途中、一夏がこんなことを聞いてきた。

 

「なあ」

 

「ん?」

 

「蘇摩ってなにか拳法か何か習ってたのか?ほら、楯無先輩がなんか言ってたじゃん」

 

・・・・・・俺が意識を飛ばす間際のこと、よく覚えてたな。

 

そうややずれたところを感心しながら、俺は少しだけ、話そうか迷った。が別に減るものでもないし、そのまま口を開いた。

 

「ああ、4、5年前くらいか。日本にいたとき一年くらいか?まあ教えてやるか。無間流つってな、まあ古い部類に入る剣術なのかな?」

 

「古いってどれくらいだよ」

 

「確か、関ヶ原より少し前」

 

それから俺の習った剣術の話が始まった。無間流。それは示現を主とした者たちがさらに派生させて作り上げたのか。剣術以外にも、拳法等の流れを組みただひたすら1対多での戦闘に重きを置いた

実戦剣術だ。

 

その型は至って単純。

 

自由だ。

 

どんな構えでも、この剣術はその全てを遺憾なく発揮することができる、そういう技だ。

 

その技の基礎。この剣術のもとになった示現流は、一刀必殺が全てである。その独自の構えからなる神速の振り下ろしは、回避するものを切り落とし、防御するものを、

その獲物ごと切り捨てる。そして、そんな刀の耐久力を無視した剣術は、刀が折れれば転がっている死体から奪えばいいという、俺から言わせればすごく戦場にマッチしている剣術だといえる。

 

この無間流はその一刀を、剣術基本の9撃、唐竹 袈裟斬 右薙 右斬上 逆風 左斬上 左薙 逆袈裟 刺突。すべての斬撃で行うというもの。

 

その為、振りは大振りで、外せば隙ができるというものだ。だが、斬撃すべてが示現の特徴を持っているものと考えれば、その欠点は自ずと消えるだろうということが理解いただけるだろう。

 

次に、度々蘇摩が見せていた、消えたように見える瞬足の移動法。『縮地』

 

縮地とは、もともと仙術であったとされているが、武術にも明確な記載はないが、縮地と思われるものは存在している。

 

日本武術で、瞬時に相手との間合いを詰めたり、相手の死角に入り込む体捌きを、縮地と呼ぶ。

伝統武術が同種の技術を「縮地」と呼んだ例は確認できないが、無論、近づいている事を気付かせない移動法等のある意味で「瞬時に接近する」技術や、長い距離を少ない歩数で接近する技術自体はあった。

合気道の開祖植芝盛平の逸話に数十メートルの距離を一瞬にして移動したという話がある。開祖の高弟である塩田剛三の著書には、軍人に的の位置に立った開祖を撃たせ、発射の瞬間に距離をつめ、弾が的のあたりに当たる時には撃った兵士が投げられていたという記述がある。

 

無論これを極めた人物は、多くはない。この数十年。ここまでの縮地を極めた人物は、蘇摩以外いないだろう。

 

と、そんな話をしていたら、いつの間にか自室の入口に立っていた。

 

もう一度言わせてもらうが、おれはこんなことが起きているとは知る由もなかった。

 

ガチャ―――

 

「おかえりなさい。ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」

 

―――バタン。どうやら部屋を間違えてようだ。

 

お互いに互いを見合う。そして、表札を見る。

 

1025。名前は織斑一夏。隣に蘇摩・ラーズグリーズ。うん。ここは俺たちの部屋のはずだ。まさか、あのイタズラ好きのアイツでも、こんな性質(たち)の悪いことはしないだろう。

まさか、裸エプロン?(というやつでいのか?)でこの部屋にいるはずが・・・・・・ありそうなのが怖い。

 

一夏が、もう一度ドアを開ける。

 

「おかえり。一夏くんはご飯にします?お風呂にします?それともキ・ゼ・ツ?。蘇摩は私にする?私にする?それとも、わ・た・し?」

 

「最後の選択が物騒!」

 

「選択肢が一つしかねえ!?」

 

俺等の部屋で待っていたのは裸エプロン?の楯無だった。

 

つか俺の選択は一体なんだ!!絶対一夏気絶させたあと、再び俺に選択迫ってくんだろ!?つかそれ選んだらどうなんだよ!?いやなんとなくわかるけど……。

 

「で、俺達の部屋になんの用すか?先輩」

 

あまりにもあまりな選択に俺が狼狽していたら、比較的健全な選択を与えられていた一夏は平静を取り戻したのか、楯無に疑問を投げかける。

 

「今日から私、ここに住もうと思ってね」

 

「「は……?」」

 

さらに俺の頭は思考が追いつかなくなってゆく。どうやら一夏の方も混乱してきているようだった。

 

「あの……ここ一年寮、ですけど……?」

 

一夏、問題はそこじゃない。それにあの女は決定的な死神(ジョーカー)を持っている。

 

「生徒会長権限」

 

「ぐあ!」

 

ほらな。こいつはトランプとかそういうのクソ強えんだよ。

 

「うふふ♪一夏くんは反応が可愛いね」

 

一夏の反応を楽しそうに見ながら、センスをパンッと開く。そこにはまたもや達筆な字で『諸行無常』と書かれている。

 

……無情なのはあんただよ。

 

「とにかく、その格好を何とかしろ。楯無」

 

蘇摩が眉間を抑え、疲れた声を出す。一夏は楯無の格好を直視できないのか、視線をさまよわせている。そして、こともあろうに楯無はくるり、と振り向いたのだった。

 

「うわああ!!」

 

「じゃん♪水着でした~」

 

「……」

 

「……はぁ」

 

最早ため息しか出てこない。一夏はややポカンとしている。

 

「んふ。残念だった?」

 

「そ、そんなわけ無いでしょう!」

 

……多分……。

 

「蘇摩は反応薄いよね。お姉さんの体ってそんな魅力ない~?」

 

ここで、楯無さんの標的が蘇摩に移る。蘇摩には悪いが、俺はバレないようにホッと息をついたのだった。

 

「悪いけど、女性の裸なんざ仕事の関係上何度も見てきてるんでな」

 

紛争地帯や軍の裏では、女性を攫って慰み者にし、用済みになったり、表沙汰になりそうになったら全員「廃棄」ということをやっているのを何度も見てきた。特にあの1年。セラスと任務に行っている間は、本当によく見かけたな。その度にアイツは軍のお偉方に明らかな敵意を見せて、遠まわしに脅したり、テロリストたちを、たとえ降伏していてもなんの躊躇なく、俺より残酷に殺したりしていたな。

 

ついでに言えば、彼女の肢体に女性としての魅力を感じないわけではない。昔からとし不相応にスタイルはよかったが、4年越しに見ても彼女の体はすごく女性として完成されたものへとなっている。

 

ただ、俺にもいろいろとありもしているんでな。アイツとか、死体の山とか。

 

「あっ……」

 

楯無は自分が失言をしたと思ったのか、一瞬顔を伏せるが、すぐパッと顔を起こし、一夏の方をみやった。

 

「一夏くんは、顔赤いよ」

 

そうやって、一夏で遊んでいるとき、蘇摩は部屋の奥を見た。

 

……俺のベッドはあいつが使うとして、俺はソファで寝りゃいいか。地面の上で寝るよりは遥かにマシだ。

 

蘇摩は既に楯無の私物や何やらで占領された自分のベッドを見てそう考えていた。なんだかんだ言って、彼は甘ったるい人間である。

 

「まあそんなんだから、これからよろしくね♪」

 

楯無の楽しそうな声を尻目に、一夏はベッドへ、俺はソファへ沈んでいった。

 

二人共、つい5分弱のやりとりで、精神的に大ダメージを喫していた。そのためにその疲労を少しでも和らげようと、本能的に休憩可能な場所へ自然と体を持っていったのである。

 

――――

 

「……ふふ♪」

 

この部屋に向かっている影の存在に気づかないまま……




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