インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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今回は番外編になります。
そして、もはや存在が消えて久しいもうひとりのオリ主が登場。

ここから、どのように彼らが動くのか、お楽しみください。

P.S.

シリアスを強めようとして書いたところ、本当にシリアスになっているのかいまいちわかりません。
その辺はあまり期待しないでください(汗


番外編 影は闇より濃し

4年前だった。私があいつに『再開』したのは。

 

昔、あの頃のアイツと比べて、あまり変わってはいなかった。変わったといえば、人間らしい感情を表現できるようになったというところか。あいつの根本は何ひとつ変わってはいなかった。

 

ドイツ軍第13生体兵器研究開発所、通称『魔女の鍋の底』。今は亡きアドルフ・ヒトラーが求めたという、決して裏切ることのない完全な兵士を作るためにその狂気の場は誕生した。

大戦期、彼等が造った兵士。アメリカではプラスと呼ばれた存在。それは、人体の骨格を人造された強固なものへ入れ替え、筋肉や臓器を超速での破壊と修復を繰り返すことによって可能にした。通常の倍以上の能力と耐久力を持った物へと作り替え、全神経を当時の光ファイバーへと入れ替えて、頭部内には当時最新鋭の各種レーダー、センサーを移植。さらに筋肉強化で増強された心臓でなければ耐えられない、人工血液、ホワイトブラッドを使用し、身体能力を上昇させる。まさに狂気の産物であった。

 

その能力は一人あたりで、当時のアメリカ陸軍の一個大隊をすら撃破可能というまさにヒトラーの求めた完全な兵士が完成した。だが、無論そんな非人道という言葉すら生ぬるい処置を施され、正気を保っていられる人間がいるのだろうか。答えは否である。結局、20172人渡る実験はたった一人の成功例を除いてすべてが使い物にならなくなってしまった。完成したただひとりの成功例も一戦闘毎にすべての記憶をリセットしなければまともに機能しないのだ。余計な記憶は強大な身体能力を制御するためには、邪魔だったのだ。

そして、それが完成した頃にはすでにドイツは戦争に敗北、第13研究所は研究員全員が死亡したとされる。

 

だが、もしその研究員たちが、何らかの方法で生き延びていたとしたら。何らかの方法で現代まで生き続けていたとしたら、どうなるだろう。

 

ここまで言えば私が何を言いたいのかもわかってくれるだろう。魔女の鍋は新しい玩具を手に入れたのだ。

 

ISという名の、彼らにとって最高の玩具を。

 

2020年。篠ノ之束がISを発表。同年、白騎士事件の発生。それによりISは世界から脚光を浴び、その性質から女尊男卑の風習が世界に広がっていった。

狂気の研究員たちは、その存在に歓喜した。そして、彼らは二つの可能性を実現せんと動き出した。

 

ひとつは最高のIS操縦者

 

ひとつはISを扱える男性

 

なぜこれらを一つにして動き出さなかったのかは、今となっては知る由もない。何故なら、研究人のすべてをあいつが殺し尽くしたのだ。自らの手で。

 

彼らはもはやプラスを過去のものとし、全く新しい今の世界の技術でも成し得ない、遺伝子配列の操作をかられは会得し、それを利用して狂気を再開させた―――

 

その研究所で、私はアイツと初めて会った。あいつと私はなんと7,513,698,123,924,568に及ぶ精子と卵子を使用してでのたった二人の最終成功体だということらしい。最終ということは途中まではほかにも成功体はいたということだ。

まったく、こいつらは沙汰の他だな。私は、ある人物の遺伝子を元に、改造を施され、誕生した個体。

 

私は最高のIS操縦者として、アイツは男でのIS操縦者として。その狂気の生を授かった。

 

あいつは、容姿は今より幼いだけだ。昔のことだったからよく覚えてはいない。だが、なんどか触れ合っているうちに分かってきたことだ。

アイツには感情と呼べるものがほぼ無いに等しかった。もっと正確には喜怒哀楽が無いと言うべきだろう。

物体を避けたり、対象を認識する。感覚は存在し、声を聞き、それを認識する『感情』はあった。だが、笑ったり、泣いたり、怒ったりといった『感性』が欠落していたのだ。

私は幼かった。だからコイツのことを気に入っていた。まるで人形のようで、ISを動かしているのも見たことがあるが、当時は戦闘といったことはせずに基本的なことをひたすら反復していた。

 

そして、いつの日かアイツは研究施設から姿を消した。そして、4年前、あいつに再会した。そうだ、アイツは人間の感情を手に入れ、感情を手に入れてしまったせいで、痛みと悲しみ、怒りに苛まれ続けていた。

再開した場所は亡国企業の基地の一つ。そして、今まで生活し、共に生きてきた仲間を裏切った先。アイルランド製第3世代ISを手土産に亡国企業の門を叩いたのだ。

 

そして、アイツは私にこういったのだ。

 

「手を組んで欲しい」

 

 

――――

 

「マドカ」

 

基地の外、芝生が生えているグラウンドに、二人の人影がいる。一人は少年。一人は少女の影が、月明かりに映った。少年。レイ・ベルリオーズはマドカにこう言った。

 

「僕と手を組んで欲しい」

 

マドカは訝しげに彼を見る。何かを企んでいる。いや、何かを思索している。普段なら絶対にその提案の内容すら聞かないところだが、今日はどうせ暇だったから話だけでも聞いてやろうと思った。

とはいっても、これは目の前の人間が私が最も信用している人間であるからだ。ほかの人間なら、たとえ暇でも話を聞くことはない。

 

「それで私に理はあるのか?」

 

マドカはそう言った。話を聞くにしても、手を組むということは、双方に利益があってこそ成り立つ図式だ。私に対する理が私にとって本当の理でなければこの話は破産にする。

そう思いながら言った言葉。そして、彼から帰ってきた言葉にまどかは面食らった。

 

「君の復讐を手伝うよ」

 

マドカはレイの言葉に面食らってしまった。マドカはレイに復讐の事など伝えた覚えはない。同じ実戦部隊のスコールとオータムが話したわけでもないだろう。そう思っていたら、

レイはクスッ、と笑って口を開いた。

 

「目を見ればわかるよ。僕と同じ目をしている。でも、僕の目よりも強い」

 

「・・・・・・」

 

私は沈黙で、彼の言葉を肯定することにする。だが復讐の手伝いとはどう言う意味だ?

 

私がその疑問を口にすると、彼は右手を自身の胸に当てて、話し始めた。

 

「君の復讐。何が標的かはわからない。だけど、君が復讐を成すためには様々な障害があるだろう。なら、その障害は僕が取り除こう。僕の力の限りにすべての障害は叩き潰そう。それがたとえ誰であっても、なんであっても叩いて潰し、君が前進するための道を作ろう。そして、君の復讐が成された後、僕の復讐に手をかしてほしい。僕は僕だけの力で復讐ができないのは僕がよく知っている。だから、ほかの誰でもない君の力が欲しい。僕がこの世で一番信頼しているのは、今となっては君だけだから」

 

私は、この時に自分が抱いた感情が理解できなかった。ただ、なにか惹かれるものがあった。なぜコイツに惹かれたのかは、この時の私は知らなかった。ただ、私はコイツの目を見て、思ったんだ。こいつと私は同じなんだと。

 

何が同じか、それはもはや自分には復讐しか残っていないこと。そして自分の復讐が、何の意味も持たないことを。

 

「僕は自分の復讐に、もうなんの意味がないことを知っている。たとえ、復讐を果たしても彼女が帰ってくる訳じゃない。復讐が終わった時、僕には何も残らないことも。

でも、頭で分かっていても、僕の心が収まらない。何度も忘れようとした。でも、その度に疼くんだ。その疼きが渦巻いて、僕を動かす。髪の毛を掴んで引き摺り下ろし、眼を開けさせ思い知らしてやる。」

 

私も同じだ。自分の憎しみがただの逆恨みだということも、復讐をなして後、私には何も残らないと。お互い何も残らない同士。だから、私は口にしたのだろう。自然と口は言葉を紡いだのだ

 

「お互い全てが終わったら何も残らない者どうし。利用し、利用される共同関係。フッ・・・・・・悪くない」

 

私は哂った。アイツも哂った。その口元は邪悪に歪んでいる。私も同じ、あいつの瞳に私の顔が反射している。全く、同じ表情じゃないか。

手を差し出す。目の前の人間も同じように手を差し出した。

 

互の手が結び合う。軽い結びだ。ちょっと力を入れれば簡単に解ける程度の結び。だが、今の二人にはこれくらいがちょうど良かったのかもしれない。

 

夜は更けていった。

 




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