インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
久しぶりに楯無や一夏が出てきたぜ。
それはそうと、過去編を読み直していたら、モブのつもりで書き始めたはずのセラスが、こんなでかい存在になっているとは・・・・・・
過去編だけで出番終了にするのがおしくなってきた・・・・・・(^^;
「以上。俺の過去話は終わりだ。予想より長引いたな」
蘇摩は足を組み直した。顔は笑っているが、内心はあまり思い出したくないことだっただろうことが、容易に取れる。楯無の表情は優れなかった。
「ごめん・・・・・・気楽に聴くものじゃなかったわね」
「謝るなよ。話したのは俺だ。自分の意思でな」
楯無の謝罪にそう答える蘇摩。それでも、楯無の心は晴れるものではなかった。だが、不意に蘇摩が上を見上げて、顔を若干引きつらせる。
「げっ。いつの間にか昼回ってんじゃねえか。午後からISの授業だし」
それを聞いた楯無も、アハハと苦笑いしかできなかった。それもそうだろう、ISの授業は無論世界最強、織斑千冬が教鞭を執っているのだ。遅刻すればもれなく出席簿の振り下ろしが待っている。
蘇摩の心中を理解した楯無は、早く戻るよう蘇摩に言った。
「アハハ。早く戻らないと、織斑先生に怒られちゃうわよ」
「ああ。そうさせてもらう」
足早に蘇摩は生徒会室を後にした。楯無はそれを一人見送る。そして、蘇摩が見えなくなったところでドアを閉めた。ゆっくりと蘇摩が座っていた椅子に座る。まだ、彼の体温が残った椅子は、温かかった。
そして、彼女は顔を伏せた。ひどく弱い声で、一人つぶやく。
「そんなになって、まだ戦うつもりなの?・・・・・・一体、なんで貴方はまだ戦えるのよ。蘇摩・・・・・・」
彼の苦痛は、容易に想像できるものではない。だが、それでも相当の苦痛であることはわかる。彼女もまだ失っていないが、大切な人に避け続けられ、嫌われてしまったのではないかと
考えることもある。そこにいるのに、手が届かない。それだけでこんなにも苦痛なのに、もうそばにいることはない、と知ってしまえばそれがどんなに辛く、悲しいことか。
考えるだけで、体が震えてしまう。
「蘇摩。今すぐにとは言わない。でも、あなたの傷を私は癒したい。だから、少しづつでいい。私に・・・・・・」
―――寄り添って。そうつぶいた声は、誰にも届くことはない。
――――
後日。生徒会室で、蘇摩はパソコンのキーボードを打っていた。理由は、なぜか生徒会の出し物の準備を手伝わされているからである。しかも
「なぜ俺が衣装のデザインをしなければならない・・・・・・!」
そう、蘇摩は出し物に使う衣装のデザインをやらされていたのだった。3DCGで立体的に衣装をデザインしていく。とは言ってもただ単に飾りの位置や体型位の調整を数字にして入力して、
形を見ながら変えていくという作業だった。ただ、その衣装がほとんど女性用のものだったのだから、始末に負えない。しかも役者は決まっているらしく、
その人物の3サイズまで指定されて
「お嬢様のそういうところは昔から変わっておりませんので、許してあげてください」
ちょうど向かい側の席に座っていた、3年生の女子が蘇摩に少し申し訳なさげに言う。彼女は
髪を三つ編みにして、眼鏡をかけており、お堅いイメージを思わせる。中身もその通りのお堅いしっかりものである。そして、その隣にはダボダボの制服を着て、普段より3割増に
その目がたれている、本音がいた。本音と虚も姉妹で、顔以外全く真逆の性格をしている。最近すごく眠たそうにしており、作業中もたまに眠ってしまうことがあった。
「・・・・・・いつまでぼんやりしてるの」
虚が本音を嗜めるが、本音は本当に眠いらしく、言葉もうつろうつろになりかけている。
「眠・・・・・・夜・・・・・・遅・・・・・・」
かろうじて聞き取れたキーワードから察するに、昨日の夜遅くまでなにかの作業をしていたのだろう。だが、彼女の姉は無慈悲にも本音の言葉をバッサリと断ち切った。
「しゃんとしなさい」
「了解・・・・・・」
なんだか見ていて可哀想になってくるが、あいにく俺は彼女たちに構っている暇はない。さっさとこんな面倒な作業を終わらせたいのだ。そう思い、パソコンに向き直る。それから数秒経たないうちに
生徒会室のドアが開いた。ようやく楯無が戻ってきたのか。顔を上げると、そこにいたのは予想通り楯無と、意外な人物だった。
――――
楯無さんに誘われ?生徒会室にやってきたんだけど、その部屋の中から、なんだか聞き覚えのある声が聞こえてきた。それを楯無さんに言うと、彼女は「ああ」と行ったあとで、こう続けた。
「今はあの子達が中にいるかもしれないわね」
そう言って、生徒会室のドアを開けた。重厚な引き戸からは軋む音一つしないで、開いていく。どうやらかなりいいものを使っているようだ。楯無さんが先に入り、俺もあとへ続く。そこには、意外な顔が待っていた。
「ただいま」
「おかえりなさい、会長」
迎えてくれたのは3年生の女子だった。三つ編みの髪に眼鏡をかけており、いかにもな『お堅いいが仕事はできる』と言った風の人だった。片手に持ったファイルがよく似合っている。そして、その人の後ろと向かい側の席に、意外な人物がいた。
「わー・・・・・・おりむーだ~・・・・・・」
「よう、一夏。生徒会に入り用か?」
のほほんさんと、蘇摩だった。えと、何でこげなところに・・・・・・?
そんな疑問を持っていたら、楯無さんが椅子にかけてと言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。そして、彼女はお茶を入れにキッチンへ立っていった。
いつもより6割増くらいに眠たそうなのほほんさんは、3cmほど顔を上げたあと、またべちゃりと、テーブルに戻した。本当に眠そうで、テーブルに顔をつけたあと、ピクリとも動かない。
「お客様の前よ、しっかりなさい」
「無理・・・・・・眠・・・・・・帰宅・・・・・・いい?」
まるで最後の希望にすがるかのような、かろうじて吐き出された単語のみの言葉で訴える本音だったが、生真面目な姉には通じなかった。
「だめよ」
彼女の無情とも言えるほどにバッサリと切り捨てられた本音の望みは、脆くも崩れ去った。
「えーと、のほほんさん。眠いの?」
一夏の言葉にのほほんさんが、先ほどよりも消え入りそうな声で、つぶやいた。
「うん・・・・・・深夜・・・・・・壁紙・・・・・・収拾・・・・・・連日・・・・・・」
「う、うん?」
「要するに深夜まで壁紙の収集する作業が連日に続いて、体力と眠気がげんかいにきたんだろうよ」
一夏がよく聞き取れずに首をかしげたところを、蘇摩が内容を補足した。そこで、何があったのかを一夏は理解し、ああと言った。ちょうどそこに、
どうやらお茶の準備は3年生に任せたらしい。優雅な動きで、腕を組み座席にかける。
「あら、あだ名だなんて、仲いいのね」
「あー、いや、その・・・・・・本名知らないんで」
「ええ~!!」
がばり!という擬音が聞こえそうなほどの勢いで体を起こし、初めて聴くほどの大きさの声で、驚愕の声を上げる本音。つかこんな声だせたんだ。
「ひどい。ずっと私をあだ名で呼ぶからてっきり好きなんだと思ってた・・・・・・」
「いや、その・・・・・・ごめん」
哀愁を漂わせて伏せる本音をみた一夏が流石に酷いと思ったのか、いたたまれない感じで謝罪の言葉を述べた。だが、他の人物、特に彼女の姉にはそれが演技だとバレバレのようで、
ちょうどティーカップを持ってきた虚が口を開いた。
「本音。嘘をつくのはやめなさい」
「てひひ。バレた。わかったよーお姉ちゃん~」
「お姉ちゃん?」
一夏が不思議そうに本音の言葉を復唱した。まあ、初見じゃ解らんわな。
「ええ。私は布仏虚。妹は本音」
虚の説明に一夏は納得したようだ。だが、今度はこっちを見てきた。
「どうした?」
「そういえば蘇摩って、楯無先輩とどういう関係なんだ?なんか親しそうに話してるけど」
一夏の疑問は最もだ。傭兵と言ってるけど、楯無とのつながりを考えるには情報が少なすぎる。蘇摩は、端的にこう説明した。
「ああ、昔更識に雇われてたのさ。おてんばいたずら娘の子守をな」
「ちょっと、おてんばいたずらは認めるけど、子守って何かしら?お姉さんちょっと看過できないなー」
蘇摩の説明に縦無が、なにか思うところがあったようで、蘇摩に詰め寄る。蘇摩はそれを軽く流しながら、楯無に事情説明を求めた。
「で、なんで一夏がここに来てんだよ」
「そういえば、ただ話するために読んだつもりじゃありませんよね。楯無先輩」
楯無は待ってましたとばかりに、扇子を広げた。そこには達筆な字で、『一夏強化』と書かれている。
い、嫌な予感しかしねえ・・・・・・。
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