インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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すいません。過去編がまだ続きそうです。できれば今回で終わらせたかったのですが、もう少し続きそうになってしまいました。

出来るだけ早めに終わらせて、本編に戻るよう努めますので、これからもよろしくお願いします。


蘇摩の過去 Ⅶ

「いやはや・・・・・・なんつーか。圧巻だな」

 

リーナの観客席に座っていた蘇摩は、そんなことを口に漏らした。圧巻なのは言うまでもないと思うが、アリーナで模擬戦を行う二人のことだ。

片やRAVENランクA-3。ロスヴァイセ・ヴィンヤード。搭乗IS「ヴァルキュリアC」

 

全体に真っ白で細い外見をしている。そして、イギリスが誇る精密機器において、他の追随を許さないBFFが作り上げたISは精密射撃や、狙撃に特化している。

最近では、BT兵器の開発にも着手しているそうで、おそらく世界で初の第3世代を作り上げるだろうと言われている会社でもある。

 

この会社が精密射撃に向く装備や期待を開発し続けるのは、彼女ロスヴァイセの意向であるとも言われている。

 

主な装備は、右腕に装備している実弾系スナイパーライフル。BFFの物では一番大口径で、扱いも難しいと言われているものだ。

次に左手に装備されている衝撃吸収用の手甲。内部にはコンバットナイフが搭載されているらしい。

最後に一番目を引くのは、右背部装備している巨大な砲塔のような武装。

データでは、『大口径全自動散弾砲(フルオート・ショットカノン)』という武装らしい。・・・・・・なんつー化物だよ。

 

対するセラスのISは、「ノブリス・オブリージュ」

イギリスではおそらく一番有名なIS製造会社。ローゼンタール社が作り上げた物だ。

「重厚な鎧を纒った騎士」をモチーフに作り上げたものらしい。カラーリングは、純白に金色のサブカラーを合わせた上品で繊細な仕立てになっている。これ考えたやつセンスいいな。

データを見ると、外見に合わずなかなかの機動性を持っていようで、装備は、左手に装備している大型ライフル、

MR-R100R。非常に性能バランスが取れていて使い勝手もいいものだ。

後、今は見えないけど、クレイモア型近接ブレードが存在する。ちなみにここでいうクレイモアは、別に指向性ベアリングボール爆弾のことではないし、

RPGでよく出てくる大剣のことでもない。篭柄の片手用刀剣で物的にはサーベルに近い。

これは第2次大戦でも使われていたという、由緒正しい武器でもある。

非常に便利なもので、フェンシングの動きもできれば、通常の剣のように切ったり叩いたり突いたりもできる。

最後に一番目を引くのが、背部のウイングバインダーのようなもの。

 

あれはウングバインダーなどではなく、3基6対のレーザーキャノン砲だ。たしか、砲塔自体にジェネレータが内蔵されていて、機体のエネルギーを損なわずに第2世代最高の火力を、

有している。

 

その美しい外見に合わず、暴力的な火力を持つこの機体は、別名「破壊天使」とも呼ばれている。

 

司会開始2分前。互いに無言のまま機体の最終チェックを行っている。お互いに世界大会への切符がかかった戦いであるからか、チェックに余念がない。だが、それに反して表情は固まるどころか、

むしろ互いにリラックスしているのは流石といったところだろう。先にチェックが終わったのはロスヴァイセ。その数秒後にセラスの方もチェックが終わったのか、すべてのウインドウ

を閉じた。

 

試合開始まで、残り15秒。互の表情に変化が現れた。それはこれから戦いに赴く戦士の表情の他ならなかった。残り5、4、3、2、1―――

 

Fight

 

ブザーと同時に二人が距離を取る。先生を取っのはセラスだった。左手のライフルを斉射し、ロスヴァイセの出方を見る。ロスヴァイセは、地面を滑るように毎分1200発の銃弾を避けていく。

50Mの距離を滑っところで空中に跳んだ。ものの2秒で50mほどの上空に上昇する。そして、右腕のライフルを構える。セラスとの距離、およそ47m。ロスヴァイセのライフルには、スコープはない。

本来アリーナの広さでは、狙撃には致命的に不利なのだ。まず、狙撃するには場所が開放的すぎる。本来狙撃とは、標的に位置がバレないように長距離で隠れて、一発で仕留めるのが常識だ。

理由は、狙撃用のライフルは、長い射程と制度を持つ反面、迎撃には致命的に不利になる。その為反撃されない距離で、相手に一を悟られぬよう隠れるのが基本だ。

 

だが、アリーナの広さでは隠れるのはもちろん、撃つ前に確実に反撃される。そんな場所で、わざわざスコープを覗いて精密狙撃をしようとするのは馬鹿としか言うようがない。

それに彼女は150m程度の距離ならば、生身でもスコープなど使わずに、ほぼ確実にヘッドショットをすることができる。

 

その実力は、同じ狙撃手からも、「ヘイへの分身」などと呼ばれるほどだ。

 

スコープなしのライフルには、オープンサイトと呼ばれる基本拳銃などにも採用されている簡易的な標準器がある。それは本来狙撃に向かないものだが、彼女にはスコープと違って、

敵が移動した場合、標準軌から外れても、すぐに修正が可能な点からこれを愛用している。

 

標準合わせ、発射

 

この間わずか0.2秒。ISのハイパーセンサーと恩恵があるとは言え、たったそれだけの時間でコンマ22の狂いで銃弾を打ち出すのは彼女以外に不可能な神業だ。

発射される銃弾の速度は秒速3300m。口径40mm×3300mmの巨大銃弾だ。セミオート式で、一発毎に拡張領域(バススロット)から装填される仕組みになっており、弾切れはあるものの、

リロードは不要という画期的な仕組みである。

 

セラスは回避しようとするが、完全には躱しきれずに掠ってしまう。間髪いれずに、次弾が飛んでくる。今度も掠る程度で終わるが、接近したり、反撃する暇すら与えずに、

秒速3300mの銃弾が飛んでくる。セラスも銃弾の起動を読み回避を続けるが、徐々に正確に当たる様になってきている。このままでは直撃は時間の問題。セラスの持っているシールドでは

あの大口径の実弾は衝撃が強すぎて、弾かれる。そして、実に37発目が彼女に直撃した。シールドに罅を入れ、衝撃で弾かれるようにノックバックする。

 

「ガハッ!!」

 

腹部に直撃したそれは、シールドを破壊こそしなかったものの、衝撃で腹部にダメージを与えた。そのまま、ロスヴァイセは銃弾を撃ち込んで行く。セラスは咄嗟に、瞬時加速(イグニッションブースト)

を使用、その間に2発の直撃を喰らい、バランスは崩れたものの、セラスの車線から大幅に擦れることに成功した。そのまま上空に移動。ロスヴァイセと並行する。

 

そして、右手にクレイモアを展開。再び撃ち出された銃弾を弾いた。

 

それを見た蘇摩は思わず口笛を吹き、内心賞賛する。

 

(相変わらずロスの狙撃はアホみたいな正確さだな。んで、それを弾いたセラスもアホだろ。どんな読みしてんだよ)

 

蘇摩とセラスは何度か剣で戦ったことがあった。

 

勝敗はセラスの15勝14敗31引き分け。セラスが勝ち越している状態だ。反応速度と動体視力で圧倒的に上回る蘇摩を、下す要因は、彼女の『読み』である。

相手の表情、仕草、動作を見抜き、そこからどんな攻撃が来るのかを彼女は恐ろしく正確に読んで、先手を打つことができる。その読みの正確さこそ、彼女を頂点たらしめる要因の一つであった。

 

彼女が今回読んだのは、ロスヴァイセの視線と、銃口、そして引き金を引く指である。それでいつ、ロスヴァイセがどこへ向けて、いつ撃つのかを彼女は読んでいたのだ。

そして、それでも彼女に直撃を与えたロスヴァイセの狙撃の腕も、蘇摩からすれば、「どっちも頭おかしいんじゃねえの?」と呆れ顔でいうことだろう。

 

まあ、彼女らにしてみれば蘇摩のライフル弾をも「見てよけれる」反応速度の方が「お前の方こそ頭がどうかしてしまったんじゃないか」と言いたくなるほどなのだが、これは余談として

隅に置いておこう。

 

 

ここで、セラスが攻撃に出た。剣を構えて、突進する。瞬時加速(イグニッションブースト)を用いた速度はロスヴァイセにライフルの標準を許すほどの時間は与えずに、一気に距離を詰める。

だが、ロスヴァイセは慌てる様子はなかった。

 

右配布に装備されている砲塔を、下ろす。瞬間、夥しい程の散弾が吐き出された。大口径の其れは一発ごとに700個のベアリングボールが吐き出される。

簡単に言えばクレイモア地雷の持つベアリングボールが700個ほどと言われている。その威力は言うまでもないだろう。

それが毎秒20発で発射される。ISだろうと一発直撃を喰らえば衝撃に回避もままならず、第3世代がまだ開発されていないこの時だ。国家代表といえどヘタをすればそのまま

ご退場になりかねない。

 

まさに化物だ。こんな武器も、BFFの3000/1の精密な設計があってこそだ。

 

セラスは、それも読んでいたのか、最小限の被弾で回避する。それに合わせ、ロスヴァイセも旋回し、ショットカノンの砲撃を止めてセラスにライフルを向けた。

 

その時にセラスは背部の羽を広げた。

 

広げられて羽は、3つのパーツに別れ、セラスの『ノブリス・オブリージュ』を囲むようにロスヴァイセに向けられた。燈色の輝きが砲口から漏れ出す。ロスヴァイセは、咄嗟に回避行動と同時に

ライフルを発泡。だが、撃ち出された銃弾はセラスのクレイモアによって弾かれた。

 

3本6対の先行が発射されたのはほぼ同時だった。燈色の閃光はロスヴァイセに降り注ぐ。凄まじい熱量を持ったレーザー光は、射線上の空気を電離(イオン)化させ、半径15mに及ぶ激烈なプラズマ過流と数十mに及ぶ灼熱の奔流を巻き起こす。

つまり、回避しても相応のダメージは必至。直撃なんてすれば、一撃でノックアウトだ。ヘタをすれば登場者を殺してしまいかねない。

ロスヴァイセはそれの殆どを回避するが、一発だげ脚部にあたってしまい、装甲が当たった部分が綺麗に溶解してしまった。

 

「っく」

 

シールドエネルギーも大幅に削られる。そして、改めて『破壊天使』の異名を理解し直した。製作者に小1時間問い詰めたいほどに呆れる火力である。

 

エネルギー残量は、逆転しセラスが有利になる。そして、セラスの攻撃は終わっていなかった。

 

「さあ、そろそろ幕を引こう」

 

そう言って、彼女は左手にてるてる坊主のようなものを展開した。それを見た瞬間ロスヴァイセの表情が強ばる。

 

セラスは、親指と人差し指のあいだに、それを挟んで平手のような状態にしたあと、右手のクレイモアの刃の根元に当てて、鋒へと滑らせた。

 

 

―――眩い程の燈色の輝きが根元から鋒へと広がってゆく―――

 

太陽の光の剣(ソル・レイ・ソード)・・・・・・!!」

 

太陽の光の剣。それはあのテルテル坊主、タリスマンと呼ばれるものを用い、拡張領域(バススロット)内のジェネレータからから剣へ直接エネルギーを流入し、その攻撃力を爆発的に上昇させる、

いわゆるエンチャント装備である。

 

そのエネルギー総量。数値にして470。

先ほどのウイングブラスターの6本のエネルギー総量が510であると言えば、その威力は察してもらえるだろう。

 

効果時間は72秒。ジェネレータに内蔵できる容量は一回分。それ以降はシールドエネルギーを流用する必要がある。ちなみに規定されているISのシールドエネルギー総量は1500と規定されている。

これで2回目以降の使用がどれほど危険か、理解してもらえただろうか。だが、一回分。72秒でその勝負がついてしまうほどに、その破壊力は非常なのである。

 

「いくぞ!!」

 

セラスはブーストをかけ、ロスヴァイセに突進する。

 

――――

 

「モンド・グロッソ出場オメデトさん。セラス」

 

蘇摩のピットから出てきたセラスに向けての最初の一言であった。

 

勝敗は察しがつくだろうが、セラスの勝ちである。ロスヴァイセもあれから見事な奮闘を見せた。数秒のうちにショットカノンを破壊されながらも、セラスの残りエネルギーを300近くまで減らし、例のエンチャント効果時間を残り6秒にまで持ちこたえたのは流石である。

 

だが、最後は、ウイングブラスターの牽制で退路を立たれ、そのままバッサリ行かれてしまったのであった。

 

「ありがとう。蘇摩」

 

セラスは蘇摩に例を言った。そして、思い出したように話を持ちかける。

 

「なあ、蘇摩。時間があれば少し付き合ってくれないか」

 

その誘いに蘇摩は当然といったように「いいぜ」と言う。蘇摩の快諾に、セラスはホッとしたように息を付き、蘇摩の手を掴んだ。

 

「お、おいセラス!?」

 

「いから付いて来い!!」

 

蘇摩はいきなり引っ張られたことに驚き、声を上げるがセラスはそれを一蹴し、蘇摩をそのまま引っ張る。蘇摩には彼女の顔がよく見えなかったが、心なしか朱に染まっているように見えた。

 

――――

 

「ふん。全く初々しいやつだ」

 

その二人の姿を見ていたロスヴァイセはやれやれといった様に首を振った。その言葉に反応するように後ろから声がかかる。

 

「あら、珍しいわね。あなたがこんな話題に首を突っ込むなんて」

 

「!来ていたのかイツァム」

 

後ろを振り向くと、茶髪のウェーブがかかった女性が立っていた。片手にスポーツドリンクを持っており、それをロスヴァイセに投げる。

 

「珍しいもなにも、あいつらは自分の感情に鈍感すぎるんだ。見ていて、ため息しか出てこないさ」

 

「そうなのよねぇお互いの感情に鈍感なのはわかるけど、自分の感情に鈍感なのは、なんてゆうか、もどかしいというか、ため息しか出ないわよね」

 

ロスヴァイセの言葉にイツァムが同調する。そして、お互いに顔を見合わせた。

 

「あなたも、早くいい人見つけないと、乗り遅れるわよ」

 

イツァムのからかうような声にロスヴァイセはため息をつき、ジト目でイツァムを見た。

 

「余計な世話だ。私はまだ23だから平気だ。そういうお前こそもうすぐ30近いだろう。乗り遅れるのはお前の方じゃないのか」

 

「あら、私はもういい人見つけちゃったわよ乗り遅れはロスだけね」

 

「なん・・・・・・だと」

 

イツァムのまさかのカミングにロスヴァイセは、唖然としてしまった。イツできたんだと考え、それに思考がこんがらがってきてしまった。

 

「あらあら、初々しいのはお互い様じゃない」

 

イツァムは肩をすくめ、クスクスと笑った。




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