インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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蘇摩の過去 Ⅵ

模擬戦が終了して3日が経った。俺はいまAランクビル(以下Aビル)の新しい部屋で寛いでいた。いやはや、Aランクの部屋は広すぎるんじゃないか?部屋一つに120坪って明らかに規模がおかしいだろう。

まあ、Aランクが9人しか居ないのはわかるが、何も1フロアを3つに区切って使用することはないんじゃないのか。1フロアだけで面積一体いくつあるんだっけか。たしかA~Dビルは

すべて70階あるんだっけ。

 

・・・・・・。Dビルは全域がランカーの部屋だろ。Cビルが7割ランカーで3割ホールとか簡易闘技場とかスポーツジムもどきだろ。Bビルは5割ランカーで5割闘技場に、カジノやらなんやらだったし、

Aビルは70分の9だから、1割強がランカーで残りの9割弱は、何があるんだよ。

 

軽く呆れてしまう。今に始まったことじゃないが、一体このAビルの9割弱には、何があるんだ?

 

pipipipi・・・・・・

 

携帯に手を取る。画面を見ると、どうやらメールのようだ。携帯を開き案内に沿ってメールを開く。差出人は「オペ子」と記されている。

内容はこうだった。

 

『蘇摩様。Aランクへの昇進おめでとうございます。この度、新たな依頼が入りましたのでご報告いたします。

依頼主は、米陸軍最高司令官。ポール・オブライエン。内容はイスラエル反政府組織の殲滅です。Aランクに上がってからの

初めての任務です。ご健闘をお祈りします』

 

――――

 

集合時間まで余裕があったためヘリポートに寝転び、潮風を楽しんでいると、ふと、頭上に影がさした。

 

「こんなところに寝転んで、風邪でもひきたいのか?」

 

その声で、誰が来たのかはすぐにっ分かった。まさか、こんなに早く彼女と共同任務に付けるとは思ってもいなかった。依頼者も同じあのポールだ。あいつに感謝しなければならない。

蘇摩が顔を上げると今回の共同員、セラスの顔がそこにあった。風を髪に受け、前髪を少し抑える仕草にも気品が感じられる。

 

「こんなことで風邪なんざひいてたら、オマンマ食いっぱぐれるぜ、全く」

 

蘇摩はゆっくりとした動作で立ち上がる。相変わらず、よくわからないやつだ。セラスは蘇摩の動きを見ながら、そう思った。

 

瞬間。脳裏にある情景が浮かんだ。

 

―――全身にわたり傷だらけの蘇摩―――

 

「っ!?」

 

セラスは被りを降った。もう一度見ると、蘇摩にみえた無数の傷は消えていた。

 

「?どうした。セラス」

 

「あ、ああ。なんでもないさ」

 

セラスは、手を軽く振り、大丈夫であることを表現する。

 

(気のせいだろう)

 

そう思うことにした。そう思わなければ、ヘタに引きずって、任務に支障をきたすわけにも行かない」

 

「そうか」

 

幸い、蘇摩はそれ以上気にする気はないらしく、この話題は切られた。セラスは少しほっとした。少しして、周りからプロペラの音が聞こえてきた。

 

「きたぜ、地獄へのお迎えが」

 

蘇摩の言葉にセラスは顔を引き締める。さっきの光景はなんだったのかはわからない。だが、蘇摩。お前は死なせはしない。まだ、お前のことを知ったばかりなんだ。

もっと、もっと深いところを知るまで。いや、知ってもお前を死なせて貯まるものか。

 

セラスは、最近知ったこの不思議な感情に身を委ねる。どこか甘美な感情で、深く沈み込むむような感覚がある。だが、その感覚に嫌悪感は抱かない。なんとも不思議なものだった。

彼女はまだその感情の正体を知らなかった。でも、自分は蘇摩の近くにいたい。それだけははっきりとわかっていた。

 

――――

 

蘇摩のランクがAに上がって以降。二人は一緒にいることが多くなった。任務もなるべく共同で受ける物を選ぶようにしていたし、プライベートな時間も基本的には2人一緒で過ごしていた。

お互いのことを少しずつ理解する日々。時にはAビル内の映画館に行ったり(蘇摩はAビルの案内もセラスにお願いしていた)イギリスに旅行したりと命をかけた戦争に身を投じながら、

そう言った時間もそばにいる二人の距離は圧倒言う間に近づいていった。

 

お互いに、自身の理想について語り合ったこともあった。

 

「まあ、なんていうかな。俺はこんな世界はまっぴらゴメンだね。腐敗したお偉方による支配。おれはそんなものを根本から破壊したいのさ」

 

「まったく、私の夢を理想理想という割には、お前の方が、よっぽど幻想に聞こえるぞ」

 

イギリスのレストラン。展望フロアで二人は食事をとっていた。セラスは初めて聞いた蘇摩の目的。それに苦笑いした。自分の夢をあんなに理想だといっていた者からは、

ありえないほどに幻想じみている。蘇摩は、ハハハ、と笑って言葉を続けた。

 

「そうさ。俺の目的の方が余程理想論だ。俺はお前のことを理想だと言ったが、否定した覚えはないぜ?」

 

「ふん。の割にはお前はあんなに私の理想を根底から打ち壊すようなことを言っていたのではなかったか?」

 

セラスはあの時の問答を思い出す。べつに口喧嘩をしたつもりはない。あれは私にとっても考える点は多かったのだから。

 

「おいおい、俺は事実を言いただけだぜ。戦争をおらわせてら、そこにあるのは領主の独裁だ。戦争で流れ弾にあたって関係ない人が死ぬ。今度は独裁政治による貧困で、

関係ありの罪なき命が失われる。それが、世界の本質だって言っただけじゃねえか」

 

「それだよ」

 

お互いに笑った。確実に二人の距離は縮まっている。もう傍から見ればお似合いのカップルにも見えるだろう。セラスは、蘇摩との距離が縮まるに連れ

あの時に見た光景が頻度を増しているように感じた。

 

あるときは朝あったとき。

 

あるときは戦場で合流したとき。

 

あるときは偶然すれ違った時にさえ。

 

あの、全身にわたりもはや生きているのが不思議なほどに傷だらけになった蘇摩の姿。最近になって、気づいたことがある。

 

「まあ、明日はロスと模擬戦っしょ?頑張れよ」

 

蘇摩の言葉に思考は中断されてしまう。そうだ。明日はイギリスでの模擬戦がある。模擬戦とは言っても、勝てばほぼ第次の第3回モンド・グロッソへの出場が決まる大事な戦いだ。

ここで蘇摩が言ったロスとは、RAVEN ランクA-3ロスヴァイセのことだ。狙撃を中心にしたBFF製遠距離戦闘型のIS、ヴァルキュリアCを扱う。

 

ランクは自分より低いとは言っても、油断はしない。それはセラスが彼女の実力をそれだけ評価していることでもある。

 

「そうだな。たしか、お前も招待されているな。ISの戦闘を知る。いい機会になるな」

 

セラスは笑ってそう言った。蘇摩も口元に笑みを浮かべる。

 

「ああ、精々勉強させてもらうことにするぜ。じゃあ、今日はこれでお開きにしよう。明日また、ホテルで待っている」

 

「ああ、それではホテルまで送ろう」

 

「ああ、頼む」

 

二人はレストランをあとにした。




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