インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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プロローグ2 少年の今

『―――度重なる独断専行に命令無視。いくら結果を出しているとはいえ、これでは他者への示しがつかないな』

 

『やはり「あれ」には、相応のペナルティが必要と思われるが』

 

モニターに映し出される人影は、皆バイザーに顔を覆われ、素顔がわからないようになっている。モニターの前にいる

3人の人影は、モニター越しの人物たちの言葉を黙って聞いていた。一人はプラチナブロンドの長髪で、モデルのような

すばらしいほどのプロポーションを持っている女性。一人はロングヘアーで、短気な性格なのかモニター越しの人物に

対して、口には出さないがいやそうな顔を露骨に出している。最後の一人は、淡い金髪で線の細い少年だった。

 

「それはつまり」

 

モニター越しの人物の言葉に、今まで沈黙を通していた少年が口を開いた。その口調は、丁寧だが、

声色は底冷えするような低いものだった。

 

「おい!」

 

「R]

 

「―――つまり、あなた方は、彼女に監視用ナノマシンを使用すると……そう仰るのですね?」

 

少年は二人の女性に咎められる様な声と視線を受けながらも、自身の言葉をつむいだ。言葉がつむがれるとともに、

その声色はますます低くなっていった。

 

『左様。「あれ」にはやはり、首輪を嵌めるのが最良だと思われるがね?』

 

『そうですな。命令違反や独断専行を除けば、捨てるには惜しい人材だ。首輪を嵌るのは行動を制限するが、それなり

以上に此方の利に繋がるだろう』

 

そんな彼の声にモニター越しの人物達は特に気に留めることも無く、声を発する。まるで自分達の言葉は絶対だと

いわんばかりの調子だ。

 

『私も賛成させていただく。「あれ」は有能だが、調子に乗り過ぎている節もある。一度ここで、

自分の立場をわからせるためにも―――」

 

 

ジャゴン!

 

 

モニター越しの人物の言葉をさえぎるようにしてその音は発せられた。それは、鈍く、大きな、まるで巨大な銃のスライドを

引き、弾丸を銃身に給弾したような音だった。

 

それまで、モニターを見ていた二人の女性も、驚きを隠せずに、少年を見た。少年の右腕は、巨大な機械の腕をまとっている。

猛禽類のような五本の爪を内包するその腕は、まるで、この世のものすべてを破壊せんとするような威圧感を放っている。

 

「もし、彼女に変なまねをしてみろ。そのときは、僕が貴様らを縊り殺す」

 

少年の行動と発言は彼女達には到底看過できるものではなく、二人も少年と同じように体に機械の鎧を纏った。

 

「……その発言は看過できないわね」

 

「てめぇ、流石にやりすぎだ。」

 

そんな二人の声に彼は構いなしに、むしろ止められるものなら止めてみろとでも言いたげに、右腕を振りかざす。

ヴヴヴヴヴヴという鈍い音とともに、巨大な機械仕掛けの右腕の掌から燈色の光が漏れ出す。それを見た二人の女性は

やや、顔を引きつらせた。長髪の女性は、少し青ざめてもいる。

 

「てめぇ、此処でそんな物をぶっ放す気か!!へたすりゃ、この部屋どころか此処自体が崩壊するぞ!!」

 

「かまわないよ。彼女の安全と引き換えなら、こんな場所と組織なんて安すぎる」

 

彼のことを知らない人間はこの発言を聞けば、狂っていると思うかもしれない。なにしろ、人一人のために、

ひとつの施設、ないしその施設を有する一組織をつぶすつというのだから。まあ、彼のことを知っている人物も

くるっていると思うだろう。あの日、少年は何かが崩れ落ちたのだから。

そして、今までの状況とは逆転し、沈黙していたモニター越しの人物達が口を開いた。

 

『……そこまでだ』

 

『此処どころか我々を消し飛ばされては適わんな。そこはわれわれにとっても重要な場所であり、我々も命は惜しいのだ』

 

『とりあえず、「あれ」の件は保留ということにしておこう。ただし、これ以上独断で行動されても困るのは事実だ』

 

『ならば、きみが、「あれ」をのストッパーになってくれたまえ。此方としては、「あれ」がきちんと命令どおりに

動いてくれれば文句は無いのだから』

 

次々と継ぎ足されるように声が発せられる。最後の言葉に、少年は腕を振った。すると、機械の腕が粒子のように消えていった。

そして、舞う粒子は彼の首もとのネックレスへと集約されてゆき、それに吸収されるようにして消えた。

 

「当然だ。彼女を抑えるのは僕の役目。後は結果さえ出せば問題ないだろう?」

 

そう言って、少年はその場を去った。

 

それを見送った二人の女性は、モニター越しの人物の方へ、向き直る。

 

『彼の監視も、今までより、強化する必要があるな』

 

『左様。彼奴も優秀だが、彼奴自身も暴走することがある』

 

「畏まりました。これからは、M同様にRのほうも、私達のほうでで監視を強化します」

 

『うむ。任せる。何か問題があれば、随時、報告しろ』

 

モニター越しの人物がそう言った後、モニターから光が消える。残された二人の女性は、互いに向き合った。

 

「はあ……Mはともかくよ。あいつを監視しろって言うのが、無茶なんだよな」

 

ため息混じりに行った長髪の女性は、Rと呼ばれた少年に、苦汁を飲まされた経験が何度かあった。

 

「そうね。彼の実力自体はMより、少し下というレベルだけど……」

 

「あの機体が曲者なんだよなあ」

 

二人は、これからのことを考えると、居た堪れなくなり、深いため息を吐いたのだった。

 

――――

 

「……遅い」

 

M、マドカの反応はそれだった。普段の彼女にしては低く、機嫌が悪いことが簡単に予想できた。

彼女の目の前にいる人物は、「はは……」と空笑いしながら部屋に入る。

 

「ごめん。定期報告でちょっとね」

 

マドカはため息を吐いた。定期連絡で揉めるという事は、だいたい私絡みの事だろう。と当たりを付ける。

目の前の人物はいつもそうだ。私が、連中と揉める度に、割って入り私を擁護する。鬱陶しくも感じるが、実際こいつには何度も助けられているので言う気は無かった。

 

「でも、今回はちょっと厳しかったよ。マドカ、そろそろ少しは命令を守ってくれないと、こっちももう擁護しきれないよ」

 

「ふん、要らぬ世話だと言いたいが、常時監視されるのは気持ち悪いからな。そこは分かったと言って置こう」

 

少年はその返事に満足したのか、少し笑みを見せると、部屋に備え付けてある、キッチンに向かった。程なくして、戻ってきた彼の両手に、盆に載せられたポットと、二つのコップがあった。少年は慣れた手つきで、ポットの中の紅茶をコップに注ぐと、ひとつをマドカの前におく。

 

「いつも思うが、主婦みたいだな」

 

コップの紅茶を飲んでいた少年は、ピタ。と、停止した。そして、ゆっくりとコップを置き、此方を向く。その表情は複雑だった。

 

「ええ、それはもう何処かの旦那様がズボラで碌に家事ができないような人ですから家事がうまくなるのも当然です」

 

何処か女性口調で、一息にまくし立てた少年。その目はハイライトがやや消えていた。

 

マドカは、「うっ……」と一瞬たじろぎ、目を逸らす。少年は、ため息をつき、コップに残った紅茶を啜る。

 

「そういうところ、変わってないよね。マドカは」

 

「……ふん。そういうお前も、本質は変わっていないだろう?」

 

マドカの返答に、少年はそうだね、と返した。ちょうど2杯目の紅茶をコップに注ぎきったところで、少年が口を開いた。

 

「あ、そうだ」

 

「なんだ?」

 

少年は、紅茶を一口啜った後、マドカにこう告げた。

 

「3日後、日本に飛ぶよ」

 

「急な話だな」

 

「理由は、マドカには言わなくてもわかるね」

 

マドカはコップの紅茶を啜る。随分待った。だが、とうとう来たのだ。私の目的を果たすチャンスが。

そして、こいつとの約束も。変わったな、私も。少し前は、ただ利用しあう程度だったのに、いまでは、か。あの時を切欠に、だいぶ深くなったものだ。

 

「わかった。準備をしておく」

 

「うん。じゃあ、あとでね」

 

「待て」

 

立ち上がり、部屋を出ようとする少年を彼女は、その手をとり、引き寄せた。そして、

 

「マドカ……」

 

そのまま、少年を引っ張り、ベッドに引き倒す。ちょうど二人は、抱き合うような形で、ベッドへ倒れこんだ。

 

「今日は冷える……暖めろ、レイ」

 

ぶっきらぼうな口調で、少年に告げる。その顔は、ついさっきまでとは違い、朱に染まり、表情も、よく見れば少しだけ

蕩けているようにも見えた。

 

「ふふっ……りょーかい」

 

マドカの言葉に、ややおどけた調子で、答えた少年。R、レイ・ベルリオーズの顔も、彼女に負けないほどに朱に染まっていた。




感想、意見、評価、お待ちしております

ちなみに、当分ISは出てこないかもしれませんが、何卒お付き合いください。
あと、ここに出ているレイ・ベルリオーズですが、私のもう1つの作品であるキャラクターとは、ほぼ、関係ありません。転生でもないので、あくまでセルフオマージュのようなものだと考えください。

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