インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
ええと、なんか過去編が思ってより長く続きそうです(-_-;)
最初は2,3話くらいで終わるかなと思っていたんですが、おそらくあと2話くらい続くかもしれません。
なるべく早く本編に戻るよう努力しますので、今後とも宜しくお願いします
蘇摩とセラスの初めての共同任務が終わった日の夜。セラスは自室にいた。
「蘇摩・・・・・・か」
人前で泣いたのは初めてだった。それも親しい人間ならともかく会って間もない人間の、体に顔を填めてまでしてしまった。
だが、不思議と嫌悪感は湧いてこなかった。ばかりか、初めて顔を合わせた時に感じた感情が、再び私の胸を満たしてゆく。
今まで、いろんな男に出会った。学校では、名家の娘とあってか声をかけられることすら殆どなく、進学していった頃には、女尊男卑の風習が強まって来ていた時だたっため、
私に関わろうとするものすら遂に現れなくなった。代わりに学校以外では、明らかな下心を持って、私に近づいてくるものが増えた。
企業の社長。同じ名家の御曹司。遠まわしに縁を作ろうとするものから、明らかにパイプを持とうとするものまで様々だった。私は、女尊などというくだらない風習など持たなかったが、
歴史などで見る偉人の男性と比べるとやはり今の男性は情けないものに成っていったのかと思う。
そんな時だった。ある男が私にこんな話を持ちかけてきた。
世界中の戦争を自分の手で止めたくはないか?と。
当時から私は戦争が嫌いだった。戦争は多くの人の命を一瞬にして奪っていく。だが、その多くは銃を構える兵士じゃない。流れ弾に当たる民間人だ。
昔の大戦でもそうだろう。敵国の人民は容赦なく殺した国が多かった。それは我が国イギリスも例外ではない。今でも地域テロや紛争で、多くの罪なき人たちの命が奪われてく。
そんな戦争は、なくなってしまえばいいんだと、何度思ったことか。
私には剣の才能があった。イギリスでは剣といえばフェンシングが盛んだ。小学校の頃から、ずっと続けており、中学に入った頃。国のフェンシング大会で優勝をしたことは嬉しくも
苦い思い出だった。
その男は私が優勝した大会で、私には戦闘の才能が有るとみたのだという。
私はまだ中学生だったがこれでも貴族。英才教育のたまもので、社会やその他については知っているつもりだった。男も普段の生活は極力壊れないよう配慮すると言っていた。
そして、私は戦場を貪る鴉の巣に入っていったのだ。
私は躍進した。あの男の言っていたことは本当だった。私には戦いの才能があったのだ。戦場で戦うことに嫌悪感を持ったが、それでもこれが戦いをなくすためだと信じ引き金を引いた。
そして、IS適正試験で、何とAランクを出し、イギリスでISの訓練も行った。
ARKの仕事もこなしていくヘビーワーク。だが、戦争を止めるためだと思えば、なんのことはなかった。そして、半年が経った頃、当時全く異例の最年少イギリス国家代表に選ばれた。
その時には既にIS適性もSへ上昇しており、織斑千冬以来の天才と呼ばれてこともあった。
そして、国家代表に選ばれたことも重なり、RAVENの最高ランクAへと昇る。何もかもが順調に来ていた。だが、それでも周りの目線は変わることはなかった。いや、むしろ悪くなっていった。
私を鬱陶しく見ていた家族は、突然態度を変えて、色目まで使うようになり、男性も仕事の同僚も、私には声をかけることはなかった。企業のお偉方は、私を通してイギリスに取り入ろうとっするものまで出てくる。
それはランクAー1になっても変わることはなかった。だから、これはなってしかるべきものであり、何一つ変わることはないんだろうなと思っていた。
それをあの男に崩された。
蘇摩・ラーズグリーズ
凄まじい戦闘力をもている。そして、驚くべきはまだ絶頂ではないのだ。つまり、あいつの強さは未だ過程であってすべての集大成とした最高の状態ではないのだ。
それは私にも同じことが言えるだろう。だが、あいつと私とでは、潜在能力がまるで違う。
なんというか、こう彼は天才であって天才ではない。特別であって特別ではない。天才も、特別も、一つの一例として数えられるものだ。つまり、それはある一定の範疇を超えるものじゃない。
いうならば、あいつは『例外』だ。天才でも特別でもない。文字通り例の外側の人間。
私が思うに、あいつに勝てる人間など、この世に現れないのではとも思えてしまうほど。
そして、私を特別視しなかったのだ。
まるで、気のしれた友人に話しかけるかのような。なんの変哲もない普通。それがどうしたというものも多いだろう。いや、ほとんどがそう言うだろう。
だが、私には新鮮だった。今まで私を取り巻いていた人間関係を覆されたような感覚。それが私には嬉しくて仕方がなかった。
「また、彼と任務に行ければいいな」
無意識にそうつぶやき、ベッドに潜る。そのつぶやきが、すぐに現実のものになるとはその時はおもってもいなかった。
――――
「本日を持って、蘇摩・ラーズグリーズをランクA-9として承認する」
この日、RAVENS ARKに衝撃が走った。
3時間前のこと。
ARK本部ビル(以下本ビル)に呼び出された蘇摩。個人が本部の幹部連中に呼ばれるというのは非常に稀であるため、蘇摩自身何故呼ばれたのかも分からずにビルのエレベータに乗り、
最上階へと目指す。
そこに待っていたのは、RAVENS ARKの運営者である12人の幹部であった。
「今回君を呼び出しあのはほかでもない。以前より議題として進められていた、男性でのAランク承認について、本日君と現ランクA-9の人物との模擬戦闘を行う。
それに君が勝利すれば、晴れて君はAランクに上がることができるという事だ」
「無論、ISの使用は無い。完全に生身の戦闘力での勝負となる。だが、相手もAランクだ。たとえ君とランク差は1しか無いと言っても、相応の能力を持っている」
蘇摩は、唖然とした。自分が?Aランクに上がれる?夢じゃないならなんて運のいいことだろうか。ようやく頭の固い上層部も重い腰を上げたということだろうか。
前から議題としてはあたが、政治がどうだので、今まで10年間。女性がAランクを占めていたというのに、どんな心境の変化だろうか。だが、これで目的へまた一歩近づけるチャンスを得たのだ。
利用しない手はない。模擬戦は1300。本部地下第4闘技場で行われる。
蘇摩は高ぶる気持ちを抑え、屋上のヘリポートへと向かった。
「ククク・・・・・・ッハハハハハハハハハハハ!!」
思わず笑ってしまう。Aランクになれば、更に目的への一歩を踏み出せる。より過酷な任務へと赴き、そこでまだまだ戦い続け、自分の経験を積んでゆく。そうすればもう俺に怖いものなど
なくなるだろう。そうだ、俺は伝説になるんだ。伝説にならなければ何もできない。何も変えられない。今まで歴史が大きく動いた時には常に伝説があったんだ。ならば今回も伝説が必要だろう。
「これで、これで・・・・・・!」
「ここにいたか」
蘇摩の昂ぶりは同じ様に屋上に上がってきた一人の男性によって中断された。
金髪のオールバックに、濃い青色の瞳。そして、灰色のスーツを着こなす男は、まだ20代後半に見える。その人物は先ほどの幹部室の右端にいた男と同じ人物だった。
蘇摩はその男をよく知っている。孤児だったお自分を拾い上げ、傭兵として力を与えた、ある意味恩人と呼べる事物。
「ジャックか」
その男。ジャック・O・ブライエンは静かな口調で口を開いた。
「本来ならば、完全な実力主義でランク付けをしなければならないが、我々の存在には常に政治や時代が絡む。我々も、時代や政治に合わせなければ生きてゆけんのだが、
今回の件はある人物が、我々に直訴した結果と言えるだろうな」
ある人物。蘇摩はその人物に思い当たりがあった。それは、先日ともに任務をこなした、金髪の女性。
「セラスが・・・・・・らしい話だ」
「そうか、既に彼女とは共同しているのだったな」
ジャックは両手に持っていた缶コーヒーの一本を投げてよこした。砂糖とミルクが入った、コーヒーと呼べるのかと言いたくなる甘いやつだ。
「ブラックの方が良かったんだがな」
蘇摩が言うとジャックはこう答えた。
「糖分は取れるときに取っておかなければ、無駄なところで死ぬことになる。特にお前のような奴ならなおさらだ」
「へいへい」
蘇摩は缶コーヒーに唇を当てる。コーヒーの風味のある砂糖水が流れ込む感覚だった。不味くはないが、甘い。そんな感想が頭の中に出てきた。
「勝てるか?」
ジャックは唐突にそんなことを聞いてきた。蘇摩はコーヒーの缶から口を離す。
「愚問。ってやつだな」
その目は、「俺が負けるわけねえだろ」とありありに出ている。ジャックはそれを見て、自身の脳裏に描くシナリオが順調なことを再認識した。
「あんたが、『優秀な人間を選定している』理由は知らねえが、あんたに利用されている分は、こっちも利用させてもらうさ」
「フッ・・・・・・」
ジャックは笑うとそのまま立ち去っていった。
一人になった蘇摩は、ふと彼女のことを思い出した。
「セラス・・・・・・か・・・・・・」
馬鹿な奴だ。甘ちゃんみたいな考えを持っていやがる。しかもそれを貫こうとするもんだから、バカの2条みたいになっている。でも、誰かに何を言われた程度で
自分の考えを変えるような奴と比べると、何倍も頼もしいな。
不思議な感情が彼を包む。今まで感じたことのない・・・・・・いや正確には2度目だったか。あの水色の髪をしたあいつと同じくらい馬鹿なアイツと、同じ感覚か・・・・・・。
「また、一緒に仕事をしてみたいな」
そう口に出す。そうすればそれはどこかに届くような感覚が彼にはあった。その言葉が現実になるのはすぐのことだった。
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