インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

17 / 116
蘇摩の過去 Ⅲ

「こちらα1。敵部隊は装甲車を出してきた!援軍求む!!」

 

「くそっ、テロリストめ。こんなものまで持ってやがったのか」

 

「一時退避だ!退避しろ!!」

 

テロ組織はどこで調達したのかは知らないが、装甲車を持ち出して、アメリカ軍に応援をはじめる。

一方でアメリカ軍は突然の装甲車の襲来に、適切な装備をしていなかったため、迷わず対比をはじめた。一応、部隊員の何人かは対戦車用ロケットランチャーを持っているが、それでも一部隊だけで、

装甲車を孕んだ舞台との戦闘は厳禁とされている。だから、迷わず退避を始めた。

 

「これ借りるぞ」

 

そんななか、隊員のロケットランチャーを一本拝借した人物がいた。それは戦場には不似合いなほどに白いコートを羽織った少年だった。

 

「お、おい!誰だか知らねえが子供に扱えるもんじゃねえぞ!!」

 

隊員の警告を無視して、少年は一本のロケットランチャーを持って走り出す。

 

装甲車やテロリストたちが銃撃を仕掛けるが、弧を描くように走る少年には当たる気配がない。銃弾は全て少年のすぐ後ろの地を抉る。それがテロリストたちを恐怖させ、焦燥と恐怖は、さらなる弾の乱れを呼びより少年から遠くなる。

 

「な、なんで当たらねえんだよ!!」

 

「ば、ばか!!もっとよく狙え」

 

「狙ってるんだよ!!!」

 

少年は、装甲車との距離が5mを切ったところで跳躍した。跳躍しながらまるで空中で側転するかのように体を縦に回す。

そして、空中でロケットランチャーの標準を定める。少年は、口角を吊り上げた。そして、スコープ越しに見える砲塔がまだ此方に回りきっていないのに、無駄弾を吐き出し続ける装甲車へ向けて、別れの言葉を紡ぐ。

 

「喰らえ」

 

引き金を引く。放たれた弾頭はまっすぐ装甲車へ向けて飛来した。瞬間、装甲車は爆音と煙に包まれ、炎上する。中にいた乗組員はひとたまりもないだろう。目の前で、しかもたった1人の年端もいかない少年にアメリカ軍ですら後退をせざるをえなかった、装甲車が破壊された。

 

その事実が、周りを震撼させた。そして、テロリストたちは、この年はもいかない少年が明らかに普通ではないことを知る。

 

「こ、降参だ・・・・・・」

 

「降伏する。だ、だから命だけは」

 

そう言った二人の首は気づいたときには既にはねられた。首から鮮血を吹き出し、崩れ落ちる二人、その後ろには、左手に血濡れた刃を持つ、少年。かれは抑揚のない、冷徹な声で言った。

 

「悪いな。依頼が『殲滅』なんだ。一人たりとも生かして返すわけには行かないんでね」

 

もはやテロリストは恐慌状態に駆られた新兵と同じだった。各々自分だけでも生き残るために、一目散になって、走り出す。蘇摩はそれを見てはあ、とため息をつきながら、先ほどと同じように口角を吊り上げた。

 

「ばかが、この市街地で逃げ道なんか限られてる。しかもここは道が大通りと路地しかないんだぜ?よく確認しないと・・・・・・」

 

そこまで蘇摩がいったところで、蘇摩と装甲車とは反対の大通りの道からは爆炎が上がった。路地からは、オレンジ色の光と爆音が上がる。そして、何人かの悲鳴も同時に聞こえた。

蘇摩は、自分の思惑が見事すぎるほどに当たったことが愉快で仕方がない。思わず大声で笑ってしまった。

 

「ッハハハハハハハハハハハ!!ほうら、言わんこっちゃない。クレイモア地雷が仕掛けてあるとも知らず、むやみに逃げたりするからそういうことになる!」

 

刃を振り下ろし、刃についた血を落とす。そして、様になった動作で、刃を鞘に収めた。

 

「あ、あんた。何者だ?」

 

アメリカ軍の一人がこちらに歩いてきた。当然だろう。たった一人で、アメリカ軍で言う機甲部隊を殲滅したのだ。しかもかかった時間は5分未満。

そんな自分たち以上の戦闘力をたった1人に見せつけられて、その正体を知りたがらないわけはない。

 

「俺らは・・・・・・そうだな。米陸軍総司令官、ポール・オブライエンに依頼されて、ここまでやってきた傭兵さ。まあ、レイヴンとでも読んでくれ」

 

見た目は日経だが、非常にネイティブな英語を話すレイヴンと名乗る人物。総司令官直々の雇用ということに彼らは少し困惑するが、そんな彼らを尻目にして、蘇摩は歩きながら左の耳に手を当てた。

 

「蘇摩だ。ポイントA-1からA-5までの掃討完了。そっちはどうだ?」

 

左手で、耳から口元に伸びるインカムに手を取り、通信を取る。2秒ほど経ったところで、返事が返ってきた。

 

『此方セラス。ポイントB-1からB-3までの掃討を完了した。だが、最期のテロリストが手ごわい。彼らは戦闘ヘリを担ぎ出してきた。貴方に増援を頼みたい』

 

「りょーかい。すぐに向かう」

 

そまは走り出した。だが、すぐに立ち止まり、振り返る。そして、未だ困惑気味のアメリカ軍部隊に言った。

 

「あんたとこの部隊が結構不利っぽいけど、どうする?一緒に行くか?」

 

突然の問いにまたしても困惑したようだが、部隊長らしき人物が前に出た。

 

「無論だ。友軍の危急を救うのは、同じ舞台の我々の勤めだ」

 

そう言った。隊長に応じてか、部隊の隊員も同じように頷いた。

 

「ロケットランチャーはまだあるな。よし、じゃあ行くぜ!!」

 

蘇摩は部隊員たちと走り出した。

 

――――

 

「くっ。貴方達は戦況状態を維持しつつ、緩やかに後退してください!ここは、私が食い止めるっ」

 

セラスは蘇摩とは一転、苦戦を強いられていた。敵の戦闘ヘリの猛攻を掻い潜り、なんとか攻撃は出来ているものの、ライフル程度の口径ではヘリの防弾ガラスは破れない。

こちらにいた米軍部隊も、軽装の偵察部隊だったため、ロケットランチャーはなかった。だが、残っているのはヘリだけで、地面には、あたりに人の死体が転がっている。

そのうち米軍部隊と思われる人物の死体は5人。テロリストと思われる人物の死体は10や20ををはるかに超えていた。先程まで、情報収集のため突出していたこの部隊を袋叩きにしようと多くのテロリストたちがやってきたが、すぐにセラスがきて、舞台の指揮を強引に執った。すると、包囲されて、全滅必死だった戦況から一転して、あっという間に敵部隊を逆に殲滅することができたのだ。

これがRAVEN、ランクA-1。セラス・ヴィル・ランドグリーズの実力である。

 

戦闘能力だけじゃない。指揮官としての能力も、トップに君臨する理由の一つである。だが、そんな中、あのヘリ部隊がやってきた。

ヘリからの攻撃が凄まじく、あっという間に3人の犠牲者が出た。それでもヘリに追従していた部隊はほどなく全滅させられたが、偵察部隊のため、ヘリに対抗する兵装がなかったのだ。

 

それでもなんとか、合計5人の犠牲を広げないために、懸命に指揮を執る。だが、人間には限界というものが確かに存在するのだ。

 

「くそう、撤退しようにもヘリの機銃をかいくぐれる保証はねえ」

 

「俺たち、ここで終わるのか・・・・・・!」

 

精神的にも身体的にも限界が近い米軍部隊。セラスは歯軋りした。奥歯がギリィ、と不気味な音を立てる。

 

まだか、まだなのか、蘇摩!

 

「ぐわああ!!」

 

1人、機銃掃射を浴びて、バラバラのミンチ状になった隊員。セラスは、打開策を考えようとするが、焦燥した頭では妙策が出てくるはずもなかった。そして、運の悪いことに更なる増援がやってきた。数はおよそ一個小隊程。だが、この疲弊した偵察隊には十分すぎるほどの量だった。

 

「敵の増援だ!!」

 

「くそ、くそ!!こんな時に限ってっ」

 

「畜生!テロリストがぁ!」

 

激しさを増す機銃の音は防御用の即席のバリケートを激しく削る。もはや全滅は時間の問題となっていた。

万事休す。そんな言葉がセラスの頭をよぎる。だが、そんな言葉は、頭上より聞こえてきた爆音によってかき消された。

 

「な!?」

 

ハッとして頭上を見上げる。そこには炎上し、墜落してゆくヘリの姿があった。ロケットランチャーの砲撃。と言う事はその答えは一つしかなかった。

 

「待たせたな」

 

間違えない。蘇摩の声だった。同時にほかの部隊を連れてきてくれたようだ。彼以外にも声が聞こえてくる。セラスは思わず口角が上がった。これでいい、後は簡単だ。後は簡単に敵を殲滅できる。

 

「まったく、遅かったじゃないか」

 

間に合ったとは言えど、憎まれ口の一つは言いたくなる。それに対して蘇摩は

 

「ヒーローは遅れて登場するものなのさ。覚えときな」

 

とさらなる憎まれ口で返した。

 

「フッ。行こう!!」

 

「OK」

 

二人は同時に走り出す。この後、戦局は一気に米軍に傾き、一方的なものへとなっていった。

 

――――

 

「なあ」

 

「ん?」

 

戦いが終わり、報酬をもらったあとの装甲ヘリでの帰り、セラスは蘇摩にある疑問を口にした。

 

「何故、あのテロリスト達は戦闘ヘリや装甲車などを持っていたんだ?」

 

そう、考えてみればおかしなことだ。郡でもないテロリストが、装甲車などという兵器を持っていることなど本来ならばありえないことだ。ましてや戦闘ヘリなど、米軍でさえもこの戦闘では使用しなかったのだ。そんな彼女の疑問に、蘇摩はあっけらかんとした口調で答えた。

 

「んなもん、米軍のお偉方が提供したに決まってんじゃん」

 

セラスは愕然とした。なぜそんな事をするのか、して何か利益があるのか。そこまで考えたところで彼女はハッとした。

 

「わかったみたいだな」

 

蘇摩は淡々とした口調で続ける。

 

「アメリカがあの国に駐留し続けるにはそれ相応の理由が必要になってくる。理由がなければお払い箱だからな。本国だって、軍の縮小を余儀なくされているのが実情だ。だから、軍の縮小を抑えるために中東とか、そういった紛争の絶えない場所に郡を駐留させることにした。でもそこのテロリストや反政府組織などが、そこの国の軍だけで対応しきれるのなら米軍は必要ない。むしろその国にとって財政を食われるだけ損だ」

 

それに続くようにセラスが口を開いた。

 

「だから秘密裏にそういった組織に武器、兵器を提供し、戦力の増加を図る。仮にもアメリカの兵器達。相応の能力を持つ。無論駐留する国にアメリカのものだという確証を持たせぬよう細工をして。そうすればその国の軍備では対応しきれなくなってしまう。そうなれば嫌でも駐留している米軍に救援を請うしかない。でも、テロ組織等の戦力が予想以上に上回っていた場合私たちに処理させるという図式か」

 

「ピンポーン」

 

と、蘇摩は軽い口調で言う。セラスは顔を伏せた。体がわずかに震えている。

 

「そんなことに私は手伝わされたというのか・・・・・・。戦争をなくすために戦ってきたのに、結局戦争の幇助をしていたのかっ私は・・・・・・!」

 

拳を握り締め、唇を噛む。蘇摩はそんなセラスに輸する様な声で言った。

 

「それが世界なのさ。セラス。だから俺は・・・・・・っ」

 

そこまで言って口を閉じた。ここでそんなことを言ったころで慰めにもならない。セラスは耐え切れなくなったのか、蘇摩の肩を掴んで、その胸に顔をうずめた。

 

「お、おい・・・・・・」

 

「済ま、ない・・・・・・しばらく、こうさせてくれ・・・・・・っ」

 

蘇摩は突然のセラスの行動に困惑した声を出すが、セラスの涙ぐんだ声を聞いて、ふっと息を吐き、優しく右手で彼女の方に手を回し、左手で彼女の頭をゆっくりと撫でた。

彼女の気持ちはわからなくない。同じような自分も彼女も、あまっちょろい考えで戦ってきたのだ。それが、目の前で崩されたとなれば、そんな彼女の気持ちなど手に取るようにわかる。

おなじ、甘ったるい思想を持っているのだから。

 

「っ・・・・・・――――――」

 

声を殺して、彼女は泣いた。




感想、意見、評価、お待ちしています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。