インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
RAVENの装甲ヘリで目的地まで移動する。場所は中東で、大規模なレジスタンスの決起があるという。それを駆逐するのが今回の任務となっている。二人にとっては、いつもどおりの任務だった。違うのは互いに初対面の人物との共同という点くらいであろう。
互いに初対面ということもあってかヘリの中での会話はなかった。ヘリの中と言う狭いスペースの中で人二人が互いに沈黙しているというのはなかなかに苦しいものがあった。
セラスはその空気に耐えかねたのか、ややぎこちないながら、蘇摩に声をかけた。
「あ、あの」
「ん?」
セラスは帰ってきた返事が気さくなものだったので、内心安堵した。そして、言葉を続ける。
「貴方は、どこの出身なのだ?容姿は日系だが、ファミリーネームは英語だろう?」
蘇摩はああ、と言ってから大したことはないさ、と言った。
「一応生まれは日本。DNAも日本人のものだ。ただ、昔の記憶はあまりなくてね、自分の名前も知らなかったんだ。だから名前は自分で付けたのさ」
「そうだったのか・・・・・・」
セラスは名のある家の出身なため、蘇摩の置かれた状況がイマイチ理解できなかったが、それでも一人の寂しさについては人一倍知っているつもりだった。だから彼が孤児だと知って彼女は少し胸が苦しくなった。同情したと言えばそれまでだろう。だが、そんな言葉では説明ができない何かが彼女の中を満たしていった。
「同情はありがたいね。でも、俺に同情するより、今から俺等に殺される連中を同情してやれよ。糞みたいな治安の中東で健気にも立ち上がってきたやつらを、今から殺しに行くんだぜ?」
同情はありがたい。それは彼の本心でもあった。世界には同情を嫌う人間が5万といるだろう。だが彼は、彼にとって同情は一つの、その人間に対する理解の証だと思っている。だから、彼は他人の同情をありがたいと思えるし、そう言ったのだ。
セラスは、何もかもがほかの人間と違う、蘇摩の思想、言動、その全てに惹かれた。すべてを悟ったようで、ただの無知であるかのような、そんな不思議な雰囲気を彼は感じさせる。
彼女はまだ13歳だ。その感情がなんであるかはまだ、よくわからない。でも、彼女は彼のことをもっと深く知りたいと思ってくる。彼のもっと深いところ、感情、能力、嗜好、生活、過去、罪、業、彼の表裏、汚れたものすべてを含む、彼のすべてを知りたいと。
『セラス様、蘇摩様。間もなく到着いたします。御用意を』
機内アナウンスが流れる。蘇摩は、灰色のシャツの上に、そばに置いてあった白いコートを羽織った。後で知ったことだが、どうもお気に入りのコートで、来ているのも含めて、5着の同じコートを持っているらしい。そして、漆で塗られた漆黒の直刀を右手に持つ。
「なあ」
「ん?」
「お前の武器はそれだけなのか?」
セラスは疑問に思った。確かに事前に調べた蘇摩のデータでは使用武器が基本的にこのカタナだと記されているので、予想していたのだが、それでも実際に見ると面食らうものがある。
蘇摩は軽く被りを振った。
「いや、一応コートの内ポケットにファイブセブンがある。だがまあ、基本はこの一振りりで十分ってとこかな」
「そうか」
セラスは蘇摩の言葉が満身や驕りからくるものではないと思った。セラスの装備はアサルトライフル、ハンドガン、コンバットナイフと言ったごく普通のもの。特別な物など
何一つない。ただ自身の能力で、ランクA-1に上り詰めたのだ。
『こちらアメリカ陸軍中東基地司令官。フルエン・カーツ大尉だ。その方のコードを求む』
「こちらRAVENS ARK実動員。当方陸軍総司令、ポール・オブライエンより派遣されてきました」
中東に駐留しているアメリカ軍から通信が入る。モニターに映し出されたのは、白人の若い男性だった。フルエン・カーツはアメリカ軍内でも名の知れた司令官であった。
自らも戦場にいた叩き上げの指揮官で、ほかのお偉方からは疎ましく思われいる一方で、前線に出る軍人たちからは慕われている。RAVEN内でも有能な軍人として知られていた。
その通信にセラスが答える。フルエン・カーツは通信に応じたのが女性であったため、驚いたようだったが、咳払いをひとつして言葉を続けた。
「RAVENか。そちらの話は聞いている。済まないが、既に戦闘が始まろうとしている。そちらは急遽そちらに向かってもらいたい」
「了解」
通信が切られると同時に、ヘリが方向を変えた。向かう先は戦場だ。
(これで、コイツの力を確かめられる)
セラスは、普段よりも重い足取りで、ヘリの乗降口に向かっていった。
――――
「目的地付近に反応あり。すでに始まっています」
ヘリのパイロットから通信が入り、乗降口が開く。セラスは少し身を乗り出して、目的地を見た。荒廃した市街地の彼方此方で、炎が上がり、爆炎や、銃声が響く。
人と人の濁流が、一進一退で動いていくさまも見受けられる。なかなかにテロ組織もやるようだ。数で劣る差を、地の利を活かして、上手く戦っている。おそらく優秀な指導員がいるのだろう。
「うひゃー。派手にやってるねぇ。テロ連中もなかなかやるじゃん」
「ああ。この分だと長期化するな」
蘇摩の感想にセラスが同調する。アメリカ軍は数でこそ圧倒的に優っているものの、テロ組織は、市街地の利を生かし、建物の上から狙撃したり、路地を使い奇襲から即時撤退。また別の場所から奇襲といったゲリラ戦術を使っており、アメリカ軍を翻弄する。対するアメリカ軍も、少しづつではあるが、テロ組織を倒してきている。このままでは、混戦の後に長期化するだろう。
だが、それを阻止するために彼女らがここに来たのだ。
「降下します」
ヘリが比較的戦線から離れた場所へ、降下する。そして、戦場を貪るカラスが2羽。降り立った。
「それじゃ、始めますか」
「こちらセラス。作戦行動を開始する」
二人は同時に走りだした。
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