インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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蘇摩の過去、楯無の禍根

二人が落ち着き、冷めた紅茶を飲んで一服していた一時、ふと楯無が思い出したように言った。

 

「ねえ、蘇摩」

 

「ん?」

 

「セラス、って元イギリス代表の?」

 

その顔は満面の笑み。だが、だが!目が笑っていない。蘇摩は、自分が失言をしてしまった事に気がついた。だが、ときはすでに遅し。楯無は右腕にランスを持って、蘇摩の首筋に刺さるか刺さらないかの微妙な距離で突き立てていた。

 

「あ、あれは・・・・・・「言い訳は聞かない!!」・・・・・・はい」

 

弁解のために口を開いたが封殺されたばかりか、ランスの切っ先が首筋に減り込む。鋭い切っ先が皮膚を沈ませる。あとほんの少し力を加えたら、簡単に頚動脈に穴を開けるだろう。

脈の鼓動が、悲鳴を上げるかのようにドクドクと、感じることができた。

 

有無を言わさぬ空気を纏う楯無。蘇摩の眼には楯無の周りには、まるで深淵のようなドス黒いオーラが彼女を包んでいくように見えた。

 

「・・・・・・話してくれるよね・・・・・・!」

 

まるで底冷えするような低く、ドスの効いた声。その殺気は以前のラウラの比ではなかった。

 

「は、話す!話します!話させていただきますのでそのランスをどけてください!!」

 

蘇摩は、考えるよりも先に口が動いていく自分に引きつつも、自分の口に感謝した。恥も外聞もない発言だが、どこぞのワイルドな猫のごとくにこの際プライドは抜きだと叫んでやろう。

 

いまは自分の命が最優先だ。

 

「そう・・・・・・なら今は許してあげる♪」

 

ランスの切っ先がゆっくりと首から離れる。未だに心臓がバクバクうるさいし、頚動脈もドクドクと感じるくらいに流れ打っている。

 

「と、とりあえず、アイツにあったのが3年前。お前が分かれてから1年がすぎるか過ぎないかの時だったよ」

 

蘇摩は、首筋に冷や汗をかきながらも過去の記憶を手繰り寄せながら話していった。

 

――――――――

 

カリブ海沖沿岸に浮かぶ大型洋上プラント。RAVENS ARKの本拠地である。通称『BIG BOX』中央のマザープラントから四方に伸びる4つのプラント。

それぞれに高層ビルが立っており、中央のビルが一番巨大な作りである。向かって東側がDランク、西がCランク、南がBランク、そして来たがAランクの直轄本部となっている。

 

中央のビルは300名に渡るサポート員の仕事場と宿舎お兼ねており、上位層はそれぞれ1フロアが幹部のものとなってる。

 

そして、Bランクビルの(以下Bビル)の1階に、その人物はいた。

 

「・・・・・・♪」

 

蘇摩・ラーズグリーズ。当時13歳。ランクB-10。Aランクが女性専有のものとなっていた当時、実質男性ランカーの頂点にいた彼は、日本で言うところの大晦日。自分の形式上の誕生日を迎えた頃、久しぶりにこのBIG BOXへ戻っていた。

 

「お帰りなさいませ蘇摩様」

 

フロアのカウンターで帰還手続きと、任務報告を終えた蘇摩。

任務内容はイスラエル反政府組織の殲滅。政府軍は出動せずに、彼一人による戦闘が始まった。

結果は反政府組織の首領を殺害し、瓦解した組織を政府軍が彼諸共に絨毯爆撃を仕掛けての政府軍側の勝利で終わった。蘇摩は爆撃の直前に脱出し、きちんと政府から報酬金、アメリカ金額で3000000$を現金で貰い、帰還した。このうち半分はARKの維持費やその他に回される。だが、それでも1500000$の稼ぎは手に入れたのだった。

 

「ああ、何か伝言かなにか届いてないか?」

 

BIランク上位以上の者には何かと名指しで示されることがある。それはコチラにもそれなりには『お得意様』や『常連』もいるのだ。蘇摩もその例外ではなく、度々そう言ったこともある。

 

「はい。今回はランクA-1、セラス・ヴィル・ランドグリーズ様との共同任務が届いております」

 

「・・・・・・は?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった蘇摩。セラスって、最年少国家代表として注目のやつじゃないか。確かにRAVENでもAランクのトップに立つほどの人物でもある。

年齢は俺と同じはずだ。でも、なぜ俺と共同なんだ?

 

「日時は明後日の午前4時、BIG BOX中央プラントエアポートへ集合となっております。当たり前ですが、Aランクが動く以上、相応の内容だと思っていてください」

 

「・・・・・・ああ」

 

考えたところで答えは出ない。

だが、そんなことは関係ないか。俺が誰と共同でも、俺は俺の目的のために動けばいいんだから。

Aランクランカーが動く以上、相応の戦場に出ることになる。ならば、その中でも最強を誇るランカーだ。強力な助っ人として、結構な事じゃないか。

せいぜい目的のために利用すればいい。

 

蘇摩は表情は崩さないが心の中で、冷徹な笑みを浮かべていた。

 

――――

 

任務当日。BIG BOXのエアポートに立っている人物が一人。暗い夜、月の明かりに照らされて、その金色の髪をより美しく輝かせていた。

 

セラス・ヴィル・ランドグリーズ。彼女はイギリスの名門中の名門貴族、ランドグリー家の3女として生まれた。彼女の性格は、誰よりも貴族然としており、故に貴族の腐敗を誰よりも忌まわしく思っていた。

 

彼女は貴族の本分すら忘れ、遊びほうけている父母、二人の姉と兄とは全く違い、努力できることはなんでもした。

 

剣も、歌も、勉学も、礼儀も、貴族としての誇りと気概を胸に彼女は努力を続けてきた。

そんな彼女に家の人間は、彼女をぞんざいに扱っていたが、彼女の努力はとどまるところを知らず、ISの適性があったと知れば、今までと同時並行でISの技術を磨き続け、ついには最年少での国家代表に上り詰めた。

 

そんなある日、彼女はある人物からの誘いでRAVENS ARKに入った。

昔から、彼女は戦争というものを嫌った。だからRAVENS ARKに入り、戦争を終わらせるために、戦争の力をつけていく。

 

彼女は今までのすべてのみならず、事戦いに関しても人並み以上の才能を有し、それを上回る努力と練磨によって史上最年少でRAVENの最高位A-1の座に登る。だが、彼女は自分を恥じていた。戦争を嫌ったのは、戦争で罪のない人たちが大勢死んでいくのを見たくなかったからだったから。

 

でも、任務で赴く戦場で、戦争を終わらせればあとに続くのは国の圧政。それで、また大勢の人が死んでいく。そして、その圧政を討つべくして新たな勢力が戦争をはじめる。

その負のループが彼女のジレンマとなり、自信を恥ずる要因でもあった。

そんな中、彼女は一人の人間の名前を知る。

 

「ランクB-10。ソーマ・ラーズグリーズ」

 

それは彼女自身が『指名』した共同員。彼女は昨今の女性には珍しく、男女平等論を持っていた。いかなる場合も男女の別を問わず、優れたものが相応の地位と名誉を得なければならないと。

そのため、ISの能力にとらわれず、真に実力だけを評価して、ARKのランクを決めるべきだと訴え続けた。そして、今回の共同で彼女の予想通りの働きを彼、ソーマがしてくれればそれに一歩近づけると思っていた。

 

「時間30分前、まあ、十分間に合ってるだろ」

 

後ろから聞こえた男性の声に、セラスは振り向いた。

 

そこには白いロングコートを羽織り、右手に日本古来から伝わるカタナという武器を右手に持って、日本人にしても過ぎる、黒曜石のような黒い瞳を持った少年があくびをしながら歩いてきた。

 

「ん。あんたがセラス・ヴィル・ランドグリーズで、いいのかな?」

 

「その通りだ。貴方がソーマ・ラーズグリーズか」

 

「蘇摩でいいよ。同い年だろ」

 

「そ、そうか、なら私もセラスで構わない」

 

セラスは少し困惑した。ランクA-1であり国家代表である自分に対して他人は、常に顔色を伺ったり、あからさまな敬語を使ってきているのだ。

 

あれほど私を鬱陶しく、ぞんざいに扱ってきていた家の人物さえ、私が国家代表になった時からは態度がどこか媚びるように急変したのだ。通っていた学校でさえも、以前より名門貴族の出故に、私をお嬢様扱いされてきたものだが、一層恭しく、まるで天井の人のように扱われ、学校外では中にはあからさまなパイプを持とうと近づいてきた者もいる。

 

ARKにいる人間すらもごく一部を除いては、私に対してどこか一歩下がったような態度をとるものがおおかった。

 

だが、こいつは私に対して自分と対等に見ていた。間違いなく、同年代で初めて私をなんでもないただの人間として接してきてくれた。

不思議な感覚だった。敬語を使われているよりも、嬉しさと好感が私の中で広がった。

 

そんな私を見て彼は左手を持ち上げ、こういった。

 

「気に触ったなら、謝ろう悪いが俺は誰に対しても基本こうだから、女尊男卑なんてこれっぽっちも認めてないから」

 

まるで悪びれることもなく彼はそう言ってきた。

彼の言葉を聞いて、私は彼のことをどう言えばいいのだろうか。好感を持ったというか、好意を抱いたというか、とにかく気に入った、というような感覚だった。一度笑ってから私はこう続けた

 

「構わないさ。私も女尊男卑は認めていないからな。むしろ貴方みたいな人は初めてで少し嬉しいよ」

 

私はそう言って左手を差し出す。私は右利きだが、彼の方は左利きのようだったから。

 

「それはありがとう。じゃ、短い間だが、よろしくな。セラス」

 

蘇摩も私の握手に応じてくれた。握手の時も、周りの人物のように両手で恭しいものではなく左手一本でまるで友人のように私の手を握り返してきた。始めてばかりのこの数分間。私は何とも言えない感情に満たされていった。




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