インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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電話は辛い過去を引き出させる

「・・・・・・遅刻の言い訳は以上か?」

 

蘇摩よりも早く更衣室に向かったはずの一夏は何故か蘇摩より遅く、しかも遅刻をしてきた。

なんでも理由は見知らぬ先輩の女性に話しかけられたからだという。蘇摩の頭にはあるイメージができ。しかも相当リアルに出てきたものだから

もしやと思ってしまう。あの人たらしなら十二分に有りうる事だ。

 

蘇摩がそう考えていたら、いつの間にか一夏への制裁が決まったらしい。デュノアの高速切り替え(ラピッド・スイッチ)の実演の的にされるようだ。あれま、デュノアの方は

結構怒ってるっぽいな。まあ当然か、想い人が初対面の女性と話をしていると聞けば気分のいいものじゃないよな。

 

さて、命にかかわらなけりゃ、俺は動く気はないし織斑姉も、そのへんはわかっているだろうし、何よりデュノアも流石に殺しはしないだろう。

まあ、痛い目にあうのは確実なようだが。

 

「始めるよ、リヴァイヴ」

 

バラララララララ

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

一夏の悲鳴とともに

午後の授業は開始されたのだった。

 

ん?メールだ。

 

織斑先生に気づかれぬよう携帯を確認すると、『Itzam』と画面に表示されていた。携帯を開き、メールを確認すると、モニターに表示された一言。

 

「連絡求む。可能ならば2時間以内」

 

と表示されていた。

 

――――

 

電話をかける。コールオンは一回なるかならないかのところで切れた。

 

『Hey Soma. It’s been ages, hasn’t it?(はいソーマ。久しぶりね?』

 

電話に出た女性の声。英語だが、その声は誰が聴いても凛々しい大人の女性を思い浮かべるだろう。蘇摩もひとつ咳払いをすると、非常にネイティブな英語を話し始めた。

 

「Hey Itzam. Wow, it’s been such a long time.(ああイツァム。本当に久しぶりだな)」

 

さすがというべきなのだろう。蘇摩は世界中を飛び回っていた時期があった。おかげで、英語や日本語のみならず、中国、ロシア、イタリア、フランス、ドイツ等計7ヶ国後は話せる。最もRAVENのAランクに入る必須条件の中に、最低5ヶ国言を話せることが挙げられているのだが。

 

『(IS学園の暮らしはどう?)』※ここからセリフ内の()内の文は全て英語という形を取らせていただきます。

 

「(慣れないな。硝煙と血の中に居ないと感覚が鈍りそうだ)」

 

そこまで言ったら、クスクスと笑い声が聞こえてきた。

 

『(あいかわらずね。セラスが生きていれば嘆くところだわ?)』

 

セラスという単語が出てきた瞬間。蘇摩の表情は暗くなった。

 

「(・・・・・・あまりあいつの話題は出さないでくれ。まだ、踏ん切りがつかないんだ・・・・・・)」

 

いつもの彼とは違う、弱々しい声に、電話越しのイツァムは、しばし無言になった。そして、先程とは打て変わって悲しそうな声で電話越しの少年に声をかける。

 

『(・・・・・・そう・・・・・・まだ、引きずってるのね)』

 

「(ああ。本当、らしくないよな。・・・・・・お互い、いつ死んでもおかしくないってことは、分かってたけど。)」

 

そして、深い溜息を付いた。そして、まるで独白のように口を開いた。

 

「(頭で分かっていても、心がどうにもならないってことはあるんだ。ほんと、バカみたいだぜ。世界を変えようと思っていたあのころがな)」

 

「(・・・・・・)」

 

イツァムはただ、黙って聞くだけだった。慰めの言葉など、ここではただの暴言と変わらない。黙って聞いてやるのが、彼えの唯一の慰めだった。

そして、彼女は思い出した。正反対の二人、いがみ合いながらも信頼しあい、ともに戦場で駆け抜けていた二人。蘇摩をAランクランカーに推薦したのも彼女だった。

 

「(おかげで、4年前から、ずっと俺を想ってくれている奴がいるのに、そいつの想いからずっと逃げ続ける始末・・・・・・くそっ。本っ当、らしくねえ)」

 

そこまで言ったあとは、二人共、しばらく沈黙していた。約数分間の沈黙。重い空気が二人のあいだを漂う。その沈黙を破ったのは蘇摩の一言だった。

 

「(そういえば、イツァム。楯無の奴に俺のことを教えたな?)」

 

「(あなたも一回受けてみる?あの呼吸困難で窒息する直前で止められて、呼吸が整う前にまた窒息寸前までくすぐられるあの拷問。どんな拷問より強力よ。あれ)」

 

蘇摩は思わず笑ってしまった。くすぐられているイツァムを想像したら、どうにもおかしくなってしまう。そこには、いつもの蘇摩・ラーズグリーズの姿があった。

 

「(ははっ。で?俺に何か用があったんじゃないか?)」

 

未だに笑いながら、蘇摩はイツァムに聞く。彼女は、思い出したように「(あ)」と言って、改めて真剣な口調で話し始めた。

 

「(ARKが新しい情報を掴んだ。亡国企業(ファントム・タスク)がそろそろ動き出すかもしれない。とりあえずの目的は、おそらくIS学園。今度そっちで、大きなイベントがあるでしょう?

それに便乗してくるかもしれないから、気をつけて)」

 

それを聞いた蘇摩はふむ、と考え込む仕草をする。そして、何かを思いついたのか、口を開いた。

 

「(イツァム。可能ならで構わない)」

 

「(なに?)」

 

「(――――)」

 

――――

 

翌日。一時間目の半分を使用してでの全校朝礼が行われた。

 

内容は今月中中程にある学園祭についてのことだった。

 

(学園祭・・・・・・連中が仕掛けてくるとすればこの日だろうな。単純だが、確実な狙い目だ。俺でも相手が対策をねっていることを知ってでも実行する)

 

蘇摩は、亡国企業が、どんな手で来るのかを考えながら、今後の対策を一人考えていた。こんな全校朝礼に意味などない。参加だけするが、経論などの長話など耳にはこれっぽっちも入っては来ない。

次の生徒会長挨拶も聞くつもりはなかった。『あの宣言』が出るまでは・・・・・・っ。

 

「名づけて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!!」

 

なん・・・・・・だと・・・・・・。

 

楯無の説明が続く。なんでも毎年各部活ごとに催し物を出し、それにたいしての投票を行い、上位の組に対して、特別補助金が出るという仕組みだったらしいのだが、

あの人たらしのいたずら好きはそれだけじゃつまらないとして何と織斑一夏を一位の部活に強制的に入部させるという本人の意思関係なしのなんともエグい内容だった。

 

まてよ、そうなったら俺の仕事がやりづらくなるんだよ。あいつがなにかの部に入ったとなれば、それは護衛任務の立場上、俺も入部をせざるをえなくなる。そして、

あの真面目な一夏のことだ。入ったのならばきちんと部活には出るだろう。となれば俺も部活に出なければならない。そんなのはごめんだよ!!

 

「あ、ちなみに今学期新しく入ってきた、もうひとりの男子。蘇摩・ラーズグリーズは既に生徒会に入っているのでこの争奪戦には適用されませんのであしからず♪」

 

あのやろう。ちゃっかり、俺の活動範囲を狭めやがって・・・・・・。

 

そうして、一夏と俺のある意味これからの生活をかけた学園祭が執り行われることが決定したのだった。




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