インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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なんとか、書き上げた。



嵐の目 結

 

「―――な」

 

「え―――」

 

アリーナの地面を2条の閃光が焼き払う。その光は、紅椿を中心に漆黒のIS、紺碧のISを飲み込んで焼き尽くす。エネルギーが通った場所は大きく抉れ、やや薄暗い肌色の地面は黒く焦げ付き、暗い灰色の煙を上げ壁際から立ち込める土煙と交じり合う。

 

白式を駆る一夏は本当にギリギリでプライベート・チャンネルから聞こえてきた『撃って』の声に反応して紺碧のISに突撃する直前でブレーキをかけることができたために直撃こそ受けなかったが、僅かに掠り、それだけでエネルギーを大きくすり減らしてしまっていた。

 

紅椿の『穿千』の破壊力は生半可なISならば物の一撃でシールドを破壊し、スクラップにすることができる。

 

そんな破壊力を持った攻撃を、掠っただけでも大ダメージをうけるのだ。直撃なんてすればその結果は見えている。

 

「ふぃー・・・・・・」

 

一夏は装甲を纏った腕で額を伝う汗と、今流れてきた冷や汗とを拭う。タオルなどの布ではなく、特殊合金の装甲なので所詮気休めだが、気休めでも汗は拭えた。

 

「一夏!」

 

自分を呼ぶ声に振り向くと、箒の駆る紅椿がこちらに向かって飛んできていた。

その後ろから簪と打鉄弐式が地面を滑走しながら近づいてきている。それにしても、今の攻撃は多分箒の判断じゃない。

 

おそらく簪が自分たちの位置を測定して最適のタイミングで箒に撃つように指示を出したのだろう。先ほどの『撃て』もおそらく彼女が出した指示に違いない。

 

だがまあ、事前に俺にも言って欲しかったかなとは思うが。

 

「無事か、一夏!?」

 

「なんとかな」

 

白式に隣接するまで接近した紅椿はそのまま両手で一夏の白式の手を取った。その瞬間、紅椿の展開装甲から黄金色の粒子が流れ出し、接触する白式のエネルギーを一気に全快状態にまで回復させた。

 

「・・・・・・一夏。まだ動ける?」

 

箒が一夏を回復させている間、こちらに近寄りながら簪は今なお濛濛と灰色の煙を上げている場所を見つめている。おそらくあの二人を警戒しているのだろう。無論俺だってあの程度で倒せたとは思っていない。多分適当に此方の出方を伺っているか、先ほどの言葉の通り、遊びで動かないでいるかのどちらかだろう。

 

「ああ。まだまだいけるけどよ。あそこまで派手にやったんだ。そろそろ職員たちが来るぞ」

 

「・・・・・・うん」

 

「そう、だな」

 

おそらく、あの2人のどちらか、または両方がアリーナの状況を何らかの形で隠蔽しているはずだ。でなければこの2人がIS学園に侵入していた時点でもう職員たちに気づかれる。

 

だが、こうしている今も職員たちがこちらに来る気配がない。つまりこの自体を隠蔽しているということに違いない。

 

だから、気づかせるためにさっきの時点で布石は打ってあった。アリーナの壁面の破壊、そしてさっきの地面を焼き払った紅椿の『穿千』。いかにアリーナ周囲をハッキングして事態を隠蔽していようと、物理的破壊に対してのアラームは鳴るだろう。

ともすれば、間もなく援軍がやって来るはずだ。

 

あとはそれまで時間を稼げばいい。

 

煙が晴れつつある中、各々構えを取る。そして、間もなく煙は晴れ2人の姿が見え始める。

 

煙が晴れたその場所には、3人の予想通りに、あるいは予想外に、全く無傷の2人がそこにいる。

 

あれだけの煙が立ち込めていたにもかかわらず、砂埃の一つすらついていない。外見では全くのゼロダメージのISが2機、鎮座していた。

 

「やるもんだね」

 

口を開いたのは、漆黒のISを駆る少年の方だった。彼はどこかおどけたような、笑うような口調で言った。

 

「ここまでやるのは流石に予想外だった。もっと一方的に嬲られるだけだと思ったのに」

 

その言葉は本心からのものだろう。おそらくあの二人は全然本気を出していなかった。いくら俺が地獄のスパルタをやってきていてもマドカが本気で俺を殺しに来ているとすれば、とうに俺は死体になっていたに違いない。それでも、二人にとっては以前と同じようなただ自分たちが一方的に嬲るだけのものだと思っていただろう。

 

多分今までの俺だったらそうなっていいたに違いないが、今の俺はあの生き地獄(蘇摩の特訓)を曲がりなりにもくぐってきたんだ。

 

それなりには戦えている。

 

「だが、まだ私の敵ですらないな」

 

「というより、僕らに勝てる人間なんてもはやいないも同然なだけだけどね」

 

「どうだかな」

 

二人の言葉に対するように雪平を構えなおす。その俺に続くように隣にいた箒が日本の刀を構え、簪が『夢現』を両手で保持し、刃の方を肩に担ぐような構えを取り、『山嵐』を起動した。

 

俺ら3人の行動を見て、2人はそれぞれ、少年は面白うそうに笑い、マドカは鼻で笑うように剣を一度振るう。地面スレスレで停止した剣。その鋒を中心にまるで戦く様に土埃が円を描いて散っていく。

 

少年の背後から見せつけるかのように、おびただしい数の銃器が姿を現した。

 

「なら、教えてやろう」

 

「『差』をね」

 

静かにふわりと浮かぶマドカに、銃器の群れが旋回するように動いてこちらを囲むように展開される。

 

「へっ。やるきになったかよ」

 

そう、いままではただの児戯。戦いをすらしていなかった。

ここからが、マドカ達の「戦闘」になる。それを本能で理解して、刀を握り締める。

 

「この程度、引きはせんぞ!」

 

本人達は知らないことだが、唯一性能で並ぶ『紅椿』を駆る彼女も、声を張り気を締め直す。

 

「・・・・・・」

 

そんな中でも彼女だけは冷静に周りの状況を分析し続けていた。そして―――

 

『動くな!!』

 

今まさに激突しようとした5人を制止する声にいち早く反応できたのもそのためだったと言える。

上を見上げると、そこには一機のISが天井を叩き割り、5機の中心に飛び込んできた。

 

赤銅色の外装は武者鎧を彷彿とさせる『全身装甲』。

 

両手で厳かに構える刃は美しく、日光に反射し凶器の光を輝かせる。

 

「日本代表・・・・・・」

 

「先に来たのは貴様だったか」

 

2人の侵入者の言葉に、その搭乗者は不敵に唇を釣り上げた。

 

――――

 

異変に気づいたのは、ふと、一夏たちが使っているアリーナのカメラに目を向けた時だった。

先ほどと変わらず、一夏が2人の攻撃を捌き続けている。

 

最初に見たときは少しながら驚いた。まさかあの一夏がここまで戦えるようになるとはと。本音を言えば、また一方的にボコられて終わるだろうと思っていたが、なかなかどうしてやるようになっている。今ならばボーデヴィッヒをも下せるのではないだろうか。

 

実際問題。あいつの身体能力に特に変化は見られない。反応速度も、単純な力も、多少上がっているが大きな変化は全くない。操縦技術もお世辞にも上がっているとは言い難い。

なのに何故更識の妹と、箒の2人相手に互角に立ち回れているのか。

 

答えはすぐに見つかった。戦い方が大幅に良くなっている。

戦い方といっても、それは実に数が多い。視野の広さ立ち回り、体重移動に判断力に攻撃のタイミングに回避のタイミング、etc,etc・・・・・・。数を挙げればきりがない。

それら全てが、劇的に良くなっているのだ。

 

例えば、視野の広さで言うと、いまのアイツは自分の目の前だけでなく、常に目線を動かして相手がどこにいて、どこに移動しているのかを予想して動いている。そうすることで、

なるべく2人同時に同じ視界に入れるように立ち回っている。

 

何らかのアクションを起こすための体重移動も、無駄がなくスムーズになっているし、相手の動きを予測して、攻撃のタイミングをよく掴んでいる。ただ、攻撃に集中している分回避のタイミングがやや遅れ気味なのはどこかの男に影響された影響されてのことだろう。

 

だが、その全てが以前の一夏に比べても、まるで別人のような変化であった。ここまで一夏を「一般人」から「戦士」に鍛え上げたのは紛れもなくあの男。

 

蘇摩・ラーズグリーズ。

 

常に強気な表情を崩さず、とどまるところを知らない戦いのセンスとそれを根幹から支える驚異的という言葉すら微温い身体能力。

 

まさに戦いにおいて誰の追随も許すことのない「天才」。そんな男だが、これまたどうして人を導くことにも長けているようだ。まあ、戦いに関してだが。

 

どんな鍛え方をしたか知らないが、この短期間で誰も成し得なかった程の速度で一夏をここまでの領域に成長させたあの男には、瞠目するばかりだ。

 

そんなことを考えながら、カメラを眺めていた時だった。

 

「・・・・・・?」

 

カメラに映る映像に、違和感を感じた。

 

そのままカメラの映像を凝視する。そこには未だに器用に2人の攻撃を捌き、たまに反撃している一夏の姿があった。だが、どういうことだろうか。

リアルタイムの映像なのに、まるで自分はその展開を知っていたのだ。

 

簪が撃った荷電粒子砲を躱しながら、一夏が箒に斬りかかり、それを受け止めた箒をそのまま押し出して体を回転させながら荷電粒子を簪に向けて発射する一夏。そして―――

 

(簪が躱し箒が光波を放ったのを躱した一夏が箒に牽制をして簪に切りかかる―――)

 

なぜだか、展開の総てを私はまるで既に知っていたか(・・・・・・・・)のように言い当ててしまった。そう、リアルタイムのはずの映像を、まるで、同じ映像を延々と見せられたかのように―――。

 

(―――まさか)

 

パソコンのキーを叩き、PCの画面に別の、今までのカメラの録画を再生する―――違和感の正体に気づくのに時間はかからなかった。

 

(―――さっきと同じ映像)

 

そう、早送りで流している録画はかなりの時間の動画を延々と繰り返して流していたのだ。つまり、いまアリーナのカメラには今の状況(・・・・)が全く移されていない―――。

 

「まずい・・・!」

 

思わずガタンと椅子から立ち上がる。かなり大きな音だったので、周りの教師達も驚いて此方に視線を集中させてきた。近くにいた山田先生なんかは、ビビりまくって「どどどどうしました織斑先生?」と声を若干震わせて訪ねてくる。

 

だが、それに答えている余裕はなかった。すぐに声を張り上げて教師陣に事を伝えなければ、そう思い周りを見渡した直後。

 

ズゥ・・・・・・ン

 

遠くの方で地鳴りがしたのと同時に、第4アリーナに異常を知らせるアラームがなった。

 

「え?え?どど、どういうことですか!?」

 

突然の状況にパニックになる山田先生と、ざわつく、教師達。無理もない。第4アリーナのカメラには未だにさきほどと変わらない映像が延々と流され続けているのだ。

視覚にはどこにも異常など見受けられるはずもない。だからこそ、自分の不明に歯ぎしりをしながら千冬は教師たちに指示を飛ばした。

 

「今第4アリーナはハックされています!!」

 

そう、声を荒げて声を張った。

 

「山田先生達は至急ISの準備をして第4アリーナに、葛城先生は私についてきてください!」

 

その一言で、教師陣も自体を理解したらしく、静かに頷いて足早に職員室から出て行った。

残った葛城先生と私は別の出口から職員室をあとにする。

 

「私に残れと言ったということは、かなり重大な案件ですか?」

 

「ああ。あなたは私と一緒に第4アリーナ裏に来てもらう」

 

そう言った千冬の手には、インカムが黒く光っている。それを見た葛城はため息をついて言った。

 

「わかっていますか?私は―――」

 

「ああ。それでも、何もしないよりはマシだ。それに、お前なら私の代わりに戦える」

 

千冬は少しだけ、声を鋭くして目の前の教師を見据えた。

 

日本国家代表(・・・・・・)。『葛城沙耶』」

 

名前を呼ばれた女性、葛城沙耶は赤銅色の髪留めをなぞって、ため息をつきながらも不敵に微笑んだ。

 

――――

 

第4アリーナに着いた時には異常に気がついていた。

 

織斑一夏と篠ノ之箒、更識簪の3人の他にもう2人。正体不明のISが並んでいる。アリーナのシールドは一部が崩壊しており、アリーナ内部もいたるところに小さいクレーターや抉れた線が有り、壁面に大穴があいているなどひどい状態だった。

 

そして、今なお5人は激突しようとしている。このまま戦闘を許容するわけには行かない。すぐにでも行動を起こすべきだ。

そう思い、各々教師陣もアリーナのピットに急ぐ。アリーナにあるのは全て量産型のラファール・リヴァイブに打鉄だが、戦力として質は低いが数は十分にある。

 

いくらあの2人が強くても、10~20のISに囲まれてはどうしようもないだろう。

 

そして、格納庫にあるISに乗り込んで、ピットから今まさに出撃しようとした時だった。

 

『動くな!!』

 

見知った声が響く。その声に一瞬止まるが、即座にピットから全14機が出撃する。

 

視界に捉えたのは、武者鎧のようなISと桜色に染め上げたISだった。

私たちはそれを知っている。いや、知らないほうがおかしいと言えるだろう。日本の頂点を幾度となく千冬と争いあった、無冠の強者。

 

「打國・・・・・・黒鉄」

 

現行の日本代表で、公式戦で千冬以外に敗北を喫したことがない無冠の王者、「葛城沙耶」のIS『打國黒鉄』

 

打鉄のベースとなった機体で、その防御力は全ISの頂点に立ち、それにもかかわらず現行量産型のISにも迫る機動力を持つ。

 

赤銅色を中心にした全身装甲型のISで、その鎧は細かいパーツに分けられ搭乗者の動作の妨げにならないように計算されておりその上にまた別の装甲を貼っている。

その姿はまさに武者。決して派手な装飾はなく、どこまでも実戦を追求され、かつ独特の美しさを兼ね備えた造形美と機能美を合わせた姿。

 

獲物はただ一振り、刃を上に垂直に構える武器は長巻。銘を、妖刀『不知火』

 

静かに、ゆっくりと、それでも物言えぬ威圧感を放つこのISは、それだけでただものではないと無言のうちに語る。

 

「侵入者2人。動けばそこで断つ」

 

一切構えを解かず、不動のままに告げる彼女の言葉には、明確な殺気が込められていた。

 

そして、その隙に14機のISが侵入者を取り囲む。既に武装しており、いつでも引き金が引ける状態。傍から見れば完全に詰んだ状況と言える。

 

「葛城先生・・・・・・」

 

「えっと・・・・・・保健室の先生だよ、な?」

 

箒が名前をつぶやいたあと、一夏が誰だかわからないような対応をした。それを箒と簪が冷めた目線を送る。それに対して一夏が「うっ・・・・・・」となったのを見ながら簪がため息混じりに言う。

 

「現行の、日本代表」

 

「・・・・・・マジで」

 

何度化お世話になった部屋の先生のことを全く知らなかった自分に唖然としつつ、その正体にまた唖然とする。彼女が、自らの姉の後釜であり千冬と同レベル近い能力を持っているという、その事実。そして、その人物が見方だという安心感。思わず気が緩みそうになるのをグッとこらえた。

 

「日本代表・・・・・・」

 

少年は至って落ち着いた様子で新手の登場を受け入れ、

 

「先に来たのは貴様だったか」

 

少女は微かに忌々しそうにつぶやいた。だが、2人に共通してあるものが存在する。

それはひとつの感情だった。

 

「・・・・・・なるほど、随分余裕そうね」

 

公式戦で千冬以外に負けたことはない日本代表、加えて教師陣14機のISを前にしても何一つ動じない2人の侵入者。

よほどの自信があるようだが、一体どれほどの力を持つのか。

 

(一応・・・・・・勧告だけはしておきましょうか)

 

そう考え、一度構えを解いた。

 

「ISを解除して、両手を挙げなさい。そうすれば安全は保証するわ」

 

無駄な行為だと知っているが、こちらは国際法に則る必要がある。相手はまだどこの所属かもわかっていない。テロリストでも人質をとるなどの行為をしていない以上、

問答無用の攻撃は控えるべきだ。

 

抵抗してきてた場合は、斬ればいい。

 

勧告を受けた2人の内、少女の方が剣を持ったまま、「やれやれ」とでもいうようなジェスチャーを交えつつ少年の方を向いて声を発した。両名とも顔はフルフェイス型のハイパーセンサー

に覆われているため、詳細は分からないが、男女の区別だけは体型を見ればわかる。

 

「だそうだが、どうする?」

 

少年は少女に聞かれて、少し困惑したように「僕に聞かれてもねぇ・・・・・・」と両手を上げてお手上げのポーズをとった。

実に驚くべきことだ。これで世界には少なくとも3人の男性搭乗者が存在することになる。だが、今はそんなことを悠長に考えている場合ではない。

未だ二人は攻撃する気配はないが、いつでも対応できるように注意だけはしておく。

 

「とりあえず・・・・・・」

 

「・・・・・・いいだろう」

 

2人の会話は終わったようだ。互いに向き合っていた体勢を此方に変える。

 

―――来るか?

 

そう思った矢先だった。

 

 

 

「これでいいか?」「これでいいかい?」

 

 

 

「なっ―――」

 

なんと、2人はISを解除してしまった。そして、両手を上に掲げて降伏の姿勢をとる。私たちはもちろん驚いたが、織斑君たちも同様で、篠ノ之さんも毒気を抜かれたような表情をとった。

唯一更識さんだけは警戒している様子だった。

 

私も、いつ再展開して攻撃を仕掛けてくるかもしれないという状況になったと理解している。だが、表面上は警戒を解いた風を装い、周りに展開している教師陣に声をかけた。

 

これは要は化かし合いだ。どちらが相手を上回るかの。当然相手はこのまま連行される気はまたくないはず。隙を見てISを再展開して襲ってくるはずだ。だが、あらかじめそれを予測し、対応できるようにすれば問題はない。相手もそれを承知のはずで、一体どのタイミングで行動を起こすかが焦点となる。

 

「山田先生、木下先生。拘束を」

 

「あ、はいっ」

 

「わかりました」

 

指名された2人はおずおずと2人の侵入者に近寄り、ISを展開したまま、背中にアサルトライフル『ガルム』の銃口を突きつけた。だが、それでも2人の表情は依然涼しいままである。

 

「とりあえず、貴方達はこのまま地下施設まで来てもらうわよ」

 

目線で、2人に指示を送り連行を促す。さて、どこで仕掛けてくるか・・・・・・。

 

ふと、少年が立ち止まり、此方に顔を向けた。

 

「あ、そうそう」

 

少年は笑いながら、指で上を指して言い放った。

 

「Feuer」

 

――――甘かった―――と言えばそれだけのことかもしれない。

 

――――油断があった―――と言えばそうだったかもしれない。

 

――――私は、彼等のISと技術を見くびっていたのだ。

 

「きゃあああああああ!!!」

 

突如、アリーナを揺れ動かすほどの爆発の嵐が巻き起こった。このアリーナのあらゆる場所が爆発する。その爆発はアリーナだけでなく、教師陣や生徒たちのISにも及んでいた。無論私の『打國黒鉄』も例外でない。だが、この程度で私の黒鉄はビクともしない。

 

だから、まっさきに空を見上げることができたのだ。アリーナの天井、そこ視界に広がるのは―――

 

砲弾

 

 

砲弾砲弾

 

 

 

砲弾砲弾砲弾

 

 

 

 

 

砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾砲弾

 

 

 

 

 

文字通り、空を埋め尽くす程のパンツァーファウストの砲弾の天幕が広がっていた。

その数、実に1000。そして、ただ1000の砲弾が展開されているわけではなく、撃ったそばから新しいパンツァーが展開されて、その数を減らさない。そして、文字通り天を覆っているのだから、逐一標準を定める必要もない。だた無軌道に撃つだけで、相手は逃げ続けることしかできなくて、躱し続けられることなど不可能で―――

 

「きゃあああああああ!!!」

 

「あああああああああああああああ!!」

 

「っあああああ!」

 

砲弾の嵐の中、轟音と爆炎が広がり攻撃を食らった皆の悲鳴と叫びが響く。そして、これを展開していると思われる少年のISは、赤色のシールドで覆われており、一切ダメージがない。

 

『おい!葛城!どうした!?何が起きている!?』

 

「っ・・・・・・はああああああああああああ!!!」

 

千冬からの通信に応えられる余裕もなく、私はこの嵐を突っ切り、少年に向かって突撃した。

 

パンツァーファウストの雨が降り注ぐ中、真っ直ぐに少年に突進する。無論砲弾の直撃を見舞うが、そんなことは問題ない。この『打國黒鉄』は無敵の防御力が売りなのだ。

この程度のことでは装甲で耐えられるし、シールドエネルギーを減らすことはない。

 

「!」

 

「はぁああああああああああ!!!」

 

砲弾の嵐をものともしない葛城を見て初めて驚きの表情を見せる少年。だが、遅い!!エネルギーを喰らうこの『不知火』の前に、生半なシールドなど無きものと知れ!

振り下ろされる長巻は垂直に少年へ振り下ろされる―――

 

「残念」

 

―――ハズだった。

 

「ばかな―――」

 

振り下ろされた斬撃は、赤色のシールドに阻まれて少年いとどいてはいなかった。

私の驚愕に、少年は面白そうに笑った。そして、笑いをこらえながら「ごめんごめん」と言って言葉を続ける。

 

「妖刀『不知火』刃で破壊したエネルギー体を吸収して、自分の破壊力に加算する武器・・・・・・確かにそれなら僕のシールドを超えることは原理上可能だ。でも・・・・・・」

 

そう言って、少年はシールドに指を触れ、『不知火』の刀身に重ねた。

 

「このシールドはね。物理手段での破壊は不可能に近いんだ・・・・・・それより」

 

まるで軽く流すような雰囲気で、行ってのけたあと、少年はある地点―――、一夏君達は居たはずの場所を指差した。

 

「生徒さんを助けなくていいんですか?」

 

「なにを――――――な!!?」

 

少年の指さした方。そう、一夏君達がいるはずの場所には、依然彼らはいた。

 

「・・・・・・どうだ?」

 

更識簪はISを解除された状態でうつ伏せに倒れ、篠ノ之箒は膝をつき、顔を伏せている。その腹には彼女が持っていたはずの刀の片割れが突き刺さり、血がとめどなく流れている。

 

そして、織斑一夏は―――

 

「これが私の、16年間の精算だ」

 

「―――ごふっ」

 

―――あの少女の逆手に持った剣に、貫かれていた。




感想、意見、評価、お待ちしています

日本代表、葛城沙耶。実は今回が初登場ではないんです。
『隣にいたい』の中で、千冬と会話をしていた葛城先生、その人です。

久々のQ&Aコーナー。知り合いにいくつかもらったのでここで消化。

Q:蘇摩とレイ、現状どっちが強い?

A:レイ。つか狩猟の王のシールドに阻まれて手が出せん。

Q:蘇摩は以前自分を日本人と言ってたけど、なぜわかった?

A:RAVENのネットワークで遺伝子情報を半年以上かけて調べてもらった感じです。

Q:簪が蘇摩と同じ流派の技使ってたけど・・・・・・

A:簪が姉を超えたい一心で蘇摩から聞いた話を元に無間の道場を叩いた感じですね。
そのおかげで薙刀に関しては楯無も勝てないほどの技量を持ってます。

Q:そういえばあんまりアンチ系の表現使わないよね

A:そうですね。個人的にはキャラの人間性とかはあまり貶めるような真似はしたくはないですね。一夏の願いも、蘇摩は認めた上で「ならそれだけの力をつけろ」と言ってますし、特定のキャラを必要以上に否定したり貶めたりする行為は個人的にはしないつもりです。(オリキャラは除く)

Q:セラちゃんと蘇摩達の邂逅話をぜひ!

A:暇があったらな。個人的には俺もちょっと書いてみたいし。

Q:あれ、セラちゃんってもしかしなくても非処j―――ごフッ(パンチ

A:( `Д´)>))д')ダマレ 

・・・・・・いやまあ、慰み者扱いされてそうじゃなかったらむしろおかしいでしょ



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