インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
4月前から入社式やらなにやらの準備で忙しく、また今までも研修などでかなり時間を取られ、執筆の時間がほとんどなかった次第です。
以上、言い訳をさせてもらいました。
なるべく早く更新したいのですが、そうも言ってられないですorz。
では本編をどぞ
「なに・・・・・・?これ」
「くっ―――数が、多すぎる・・・・・・!」
箒と簪は防戦に回る他なかった。敵は目の前にいて、かつISを展開しただけの状態で全く武装していない。にもかかわらずこうして防戦一方になっている理由はひとつ。
「ほらほら。早くしないと押しつぶされるよ?」
彼女達の周囲を無数のパンツァーファウストが次々と出現し囲ってくる。破壊しても躱してもキリがないほどに。これがその理由だった。
尋常じゃない数の砲弾が、こちらを包囲しようとしている。これを撃墜し躱すことに意識を持って行かれて、彼に気をさいている余裕が一切ない。
視界に入るだけでも20、30は出てくるし、視界の外からも次々に飛んでくる。何基墜としてもキリがない。
「くそぉおお!」
空裂を振るう。斬撃そのものを光波として飛ばすことで、直線上周りのパンツァーファウストは破壊できる。さらに雨月の刺突で発射されるレーザーの雨である程度の面でも破壊できる。だが、それでも破壊したそばからまた出現する武装の数。
一撃で10を破壊すると、またすぐに10の武装が展開される。いくつ破壊しても延々と続く展開は、あのISにどれだけの武装があるのかを無言のままに語っている。
そして、とうとう捌ききれずに砲弾の直撃を浴びることとなる。
「ああああああああ!!!」
1撃当たれば、2撃、3撃とどんどん命中していく。一度でも当たればその瞬間に足は止まり、その直後に集中砲火を受けるのは必至。
四方から降りかかる砲弾はシールドエネルギーを瞬く間に減少させていく。激しい爆炎で視界を潰され、衝撃で動きを封じられる。
それでもなんとか、15発前後に被弾をとどめ、
残りエネルギーは既に10を切っている。損傷レベルはBになっており、いきなり窮地に立たされた。だが、エネルギーが減った程度なら、まだ紅椿は倒せない。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・っく―――」
視界の隅に一夏を視認する。一夏は紺碧のISとまだ剣で戦っている。押され気味ではあるが、それでもまだ五分に近い状態で戦闘をしている。
(一夏―――)
白式のエネルギーを消滅させる力の真逆、エネルギーを増幅させる力。10を切っていた筈のエネルギー残量が瞬く間に全快に戻っていく。
「ふーん・・・・・・」
黒いISを纏っている少年は面白そうに見ている。相変わらず完全な無防備を晒しているが、それを突くことができないのが歯がゆい。
すぐに砲弾の包囲が始まりそれの迎撃を開始する。一歩間違えれば一瞬で死体になりかねない火力。一歩間違えれば即刻死体になるだろう。それほどの暴力に対して、まだ高い攻撃力と『絢爛舞踏』によるエネルギー回復を持つ紅椿を駆る箒は楽な方だ。
問題は簪と打鉄弐式。
彼女は壁際に陣取って、『夢現』と『春雷』の射撃で耐えていた。『春雷』で砲弾を撃ち落とし、撃ち漏らしは『夢現』で切り落とすという危険すぎる綱渡りを行っている。
壁際に陣取っているおかげで、少なくとも背後からの攻撃はありえない。だから、ほぼ視界の内側で対処ができる。最も、武装が最大で3つしかないこのISで、どこまで数の暴力を防ぎきれるのかは自分にかかっている。常に全ての砲弾の自機との距離を測定し、近いものから撃ち落としていく。
だが、ただこうして敵の攻撃を捌いていくだけが脳ではない。こうしている今も敵の情報を可能な限り分析する。
(多分、限界?)
これは予想だが、彼の武装は現状が最大展開可能数なのだろう。今までで一番多く展開した時の数は87。
これ以上はどれだけ撃墜しても増えることはない。どれだけ一気に展開してもこの数を上回ることは一度もない。となるとおそらくはこれが限界展開数。
(この数、そして位置取りさえ取れれば、勝機は・・・・・・ある!)
箒の方を一瞬見る。一度直撃を食らったようだが、なんとか持ち直したらしい。プライベートチャンネルを開いて通信を試みる。
『箒・・・・・・一瞬いい?』
『簪!?っく―――どうした?』
簪の通信に一瞬面食らったようになったがこちらを見向きせずに答える箒。彼女も彼女で目の前のことに手一杯なのだ。だが、それでいい。
下手にちゃんとした対応をされても、作戦を気取られる可能性があるから逆に手早く説明して終わらせる。
『穿千の準備をして。私の合図と一緒に送った座標をなぎ払って』
『ぐっ・・・・・・わ、わかった!』
切羽詰まり簪の言葉の意図も聞くことなく了解を伝える箒。最後に『お願い』とだけ伝えチャンネルを切る。あとはその時が来るのを待つ。
だが、時が来るのが遅すぎると本末転倒なため、自分も多少動く必要がある。
「―――っ」
壁に沿うように移動する。すぐにパンツァーファウストの砲弾が此方を捉えようと出現するが、そう来ることはあらかじめ分かっていたので落ち着いて対処する。
『春雷』を起動し、壁際に一番近い砲弾を撃つ。流石に爆風で誘爆することはない。敵がそうなるように距離を作って展開しているのだ。
だが、それゆえにこの壁際の位置ならばほとんど左右に動くことなく砲弾の雨をかいくぐれる。
「おっ」
先ほどから腕組みをしている敵は少しだけ目を開き、声を上げた。
だが、一切動く気配はない。
さらに、彼は此方を片手間に見ているように感じてしまう。顔はこちらに向いているのに意識の大半は向こう・・・・・・つまり一夏ともうひとりの方向に向いているようで、「おおー」と言う歓声のような声を上げた。
「・・・・・・?」
数瞬、一夏の方をみやる。だが、そこに一夏と敵のISの姿はなく、アリーナの中央から壁までに2本の直線で抉られた地面と、そこから壁にかけて濛々と上がる土煙が見えた。
だが、すぐに敵のISが飛び出てきて、そのすぐあとに一夏が飛び出してきた。そこで一夏達から視線を切り、目の前の砲弾を捌いていく。
パンツァーファウストの砲弾を撃ち落としながらもう一度彼らを見やると、遠くてよく見えないが、どうやら二人共笑っているようだ。
顔の部分をピックアップしてズームすれば表情の詳細が見れるが、今はそんな暇はない。すぐに、自分含む全員の位置取りを確認する。
(・・・・・・いける)
そう確信し、今も砲弾の雨をなんとか掻い潜る相方に号令を出す。
『―――撃って』
――――
ハイパーセンサーの恩恵で通常より広くなった視界の隅に箒達が砲弾の雨をどうにか凌いでいるのを見つつ、俺は目の前のこいつと戦っている。
左手に保持した両刃の剣の振り下ろしを左に躱し、同時に左から逆袈裟に振り下ろす。それを簡単に弾いて逆に喉元に突き出される剣を今度は右に左スピンで躱しその勢いを使って右薙に雪片を振る。
「ほう、随分動きが良くなったな」
その攻撃を一歩のステップで後ろに交わした直後、前にステップを踏んで袈裟懸けに振り下ろされた剣を受け止めた。
「へっ。俺だっていつまでも変わらないわけねえだろっ」
相手の剣を弾いて、両手に保持した雪片二型を右薙ぎに振るう。それを躱されるがすぐに左斬上げで追撃する。だが相手は斬上げを剣で受け止める。
瞬間―――
「そら」
「なっ!?」
受け止めた雪片を負荷代わりにして剣を走らせ、首を狙った斬撃を放った。完全に首を刎ねる一撃はエネルギーシールドを破壊し、絶対防御をまるで何もなかったかのように
飽和させて、刀身の周囲を煌かせた。
首の左側、既に蘇摩の攻撃で切り傷が出来ている場所に寸分狂わず迫る。
今までの俺だったらこの一瞬で首が落ちていただろう。だが、思考するよりも早く、俺の体は動いていた。
「―――」
これは条件反射と言っていいだろう。蘇摩の貫手を首筋に嫌というほど喰らった経験が、何よりも早く俺を突き動かしたのだった。
「ちっ」
僅かに半歩バックし、バックしながら首を右側にずらす。そうすることで既にある傷を深くする程度に負傷を抑え、半歩のバックの直後に一歩踏み込みながらの一歩下がるより早く踏み込んで雪片を坂袈裟に振り下ろす。
マドカはそれをバックステップで躱して一旦剣を下ろした。顔には変わらず笑みが浮かんでいる。
「よく避けたな」
「すげえだろ?」
血の流れる首の左側を手で押さえる。ここまでの戦闘で一度相手の能力を推測する。
本当に、蘇摩には頭が下がる。今までだったら、相手の動きだけで精一杯だったけど、あれだけの虐待まがいの特訓でかなり戦闘中も余裕が生まれて、しかも全然体力も残っている。
いまだってこの小休止に十分な思考ができるほどの余裕がある。
(蘇摩ほど速くもないし、重くもない・・・・・・でも)
そして、こう見えても古流武術を収めている身だ。相手の剣がどういうものかだって理解できるし被我の能力差だって理解できる。推察した結果をまとめると、こうだ。
ISの性能。あっちの方が上。
剣の重さ。俺以上蘇摩以下
剣の速さ。俺以上蘇摩以下。
体捌き。蘇摩と互角。ないしそれ以上。
現状、俺に勝ち目はない。今の俺が全力に近い状態なのに対して、あいつはまだ本気を出していない。
振るっている剣術も、知らないものだが決して我流ではないのはわかるし、これだけでも大変だというのに、懸念材料がもう一つ。
(あの剣・・・・・・)
マドカが左手に持っている剣を見る。そう、あの剣は要注意だ。この場に乗り込んだ時もそう、今さっきの攻撃もそう。エネルギーシールドを簡単に破壊した。
今までの襲撃から、IS学園のエネルギーシールドはかなり強化されていた。それにISの通常シールドはともかく、絶対防御の硬度は尋常じゃない。
現在この絶対防御を破壊できる公式のISは俺の『白式』か鈴の『甲龍』のフルパワーくらいのものだ。『
その絶対防御をまるで何もなかったかのように崩壊させた。
あの攻撃力。尋常ではないことは確かだ。もしかしたら、『零落白夜』と同質の能力を持っている可能性もある。あの剣の攻撃に注意して、そして決して距離を開けさせないように戦闘をしなければならない。
(どちらにしろ・・・・・・)
この白式で受けに回っては勝負にならない。愚直でも猪でも、攻めなければこのISでは勝つことは決してできない。少なくとも、援軍が来るまでは。
「ぜあああ!!」
「終わりか?」
「へっ。驚くのはここからだ!!」
一夏が言った瞬間、白式からは今までにないほどの出力でブースタが火を噴き出す。今までとは明らかに一線を画した出力で瞬時加速の突撃ですら一切動じなかったマドカのISが地面を抉りながら猛スピードで押し出されていく。
この事実にマドカは驚愕の声を上げた。
「何!?」
「うぉおおおおおおお!!」
その推進力は二段階加速をすらゆうに超えており、一瞬でアリーナの壁に2機のISを衝突させた。
崩れる壁の破片に抉られた地面から煙が上がる。それは煙幕となって壁に激突したISを隠す。
どうやら煙幕の中でも、戦いは続いているようで激しい
剣戟の音が鳴る。
「ふんっ」
そして、最初に上空へ飛び出したのはマドカの方だった。だが、煙幕から飛び出して2秒と経たずに荷電粒子の弾丸が煙幕を突き破りマドカへ飛翔する。
マドカはそれを見ることもなく剣で叩き切る。
粒子砲は飽和するように剣の周囲を巡って消滅した。
一夏が煙幕を切り裂くように飛び出したのはその一瞬あとだった。
二段階加速で一気に肉薄し下から右から斬り上げる。それを上体を反らして躱しマドカ。そのマドカの目の前を通り過ぎて、頭上を取った一夏。
「はあああああああ!!!」
「ハッ!」
渾身の唐竹の斬撃を片手で受け流したマドカ。受け流した勢いを利用して今度は逆に右から剣を薙ぎ払った。
「っく!」
その一撃を胴に掠らせつつも、ギリギリで躱して蹴りを放つ。だが、その蹴りは躱されて逆に胸部を爪先部分で蹴られる。直撃はシールドに阻まれ、だがその衝撃で2機に距離ができる形になって、多少両機は離れつつ地面に着地した。
「面白い。雑魚の首を捻ったところで今日が覚めるだけだったが、いいぞ織斑一夏。そうでなければ殺し甲斐がない」
「そんなに俺を殺したいんだったら、蘇摩以上まで腕を磨いて出直してこいよ」
未だに剣を降ろして、構えらしい構えを取らないマドカ。対して一夏は雪平を両手に握り直し正眼に構えを取る。
少しだけ姿勢を前のめりにして、いつでも仕掛けられるように構えを取る一夏。
ひと呼吸をおいて、一気に突撃する。マドカは依然として動かずに、こちらの攻撃を受け止めようと剣を持ち上げる。
その瞬間―――
『撃って』
―――2条の閃光がアリーナを焼き払った。
感想、意見、評価、お待ちしています
おお、結構やるな一夏。
いや自分が書いているんですけども。それでもちょっと驚いてます。
無論マドカは全力じゃありませんし、一夏は現状がほぼ全力です。
でも、これは結構戦えてるんじゃないでしょうか。
以外に書いてて面白くなってきた。
これからどう料理しようかな。主人公の名に恥じない活躍をさせてみたい。