インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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なかなか思い通りに執筆が進まない。
これは困った・・・・・・。




嵐の目 中編

第4アリーナで一夏たちは模擬戦をしていた。

 

「一夏!覚悟しろ!!」

 

紅椿の雨月による刺突から、多数のエネルギーが光波となって白式に襲いかかる。だが、一夏は白式のブーストを一瞬だけ強く吹かして機体を回転させることでかわした。

 

その直後に右側から荷電粒子の砲弾が飛んできて体をひねって躱すが、躱しきれずに機体の脚部を掠める。

 

「うぉ!っと」

 

だが、今の掠り方では到底シールドエネルギーを減らせたとは思えない。そして一夏から自分のものよりも高出力の荷電粒子砲がお見舞いされる。

 

「・・・・・・」

 

簪はそれを躱し、再び射撃を開始する。

 

一夏はその射撃を躱すと、今度は真上から切り込んできた箒の二刀流を捌く。

 

初めに来た右の袈裟懸けを弾いて、左の右薙を受け流す。直後に弾けるように距離を取ると、一瞬前まで白式があった場所を荷電粒子砲が通過する。

 

「っぶね・・・・・・」

 

一夏はふう、と息を吐いて、今度は簪の打鉄弐式に荷電粒子砲を撃ちだすとそれが躱されるか当たるかを確認するまでもなく箒に向かって突進する。

 

白式の機動性は非常に高い。紅椿に劣るとしても、おそらく第3世代最高の機動力を誇る白式の突進を受けては箒は一瞬反応が遅れ、唐竹の振り下ろしを二刀を十字にして防御するを得なかった。

 

「っ・・・・・・やるな一夏」

 

「へっ、お陰様でねっと!」

 

一夏は箒の言葉を返すやいなや手持ちの雪平弐型で箒の防御を弾きながら距離を取り、急速に下がりながら荷電粒子砲で箒を狙い撃つ。

 

「ぐぁあ!!」

 

箒は一発直撃を受けたものの、続き2発3発は躱し距離を取る。一方後ろに下がる一夏のすぐ眼前を次々と粒子砲が通過していく。

 

「っと!!」

 

一夏は7発目を躱したところで急上昇し、空中で縦に回転しながら箒と簪に一発ずつ荷電粒子砲を発射する。それを2人は躱して簪は再び一夏に荷電粒子砲を撃ちだす。

 

それを一夏が躱して白式がアリーナの中央の空中に位置する形になり、簪の打鉄弐式が一夏の右側の地面に陣取って荷電粒子砲『春雷』で彼を狙い撃つ。

 

そして箒が紅椿で一夏からやや距離をとり、穿千(うがち)雨月(あまづき)空裂(からわれ)で中距離から撃ち続けている。

 

模擬戦が始まって2分が経過しているが、2人は違和感を感じていた。

 

(おかしい・・・・・・)

 

まずそう思ったのは簪の方だった。模擬戦が始まってからのタイムを計測している彼女はいち早く気づいたといっていい。

 

2分以上もこうして射撃戦をしているにもかかわらず、あの一夏にダメージ(・・・・・・・・・)らしいダメージを(・・・・・・・・)負わせられていない(・・・・・・・・・)のは明らかにおかしい。

 

べつに一夏は2方向から飛んでくる弾幕を全て躱しているわけではない。

自分の撃っている『春雷』もかなり掠っているし、箒の攻撃も躱しきれてばかりではない。

 

躱し損なった部分は掠っている。いまも白式の装甲は一部溶解したり、破損している。だが、あの程度ではダメージレベルのカウントもないしシールドエネルギーにも大したダメージはない。

 

そしてなにより、躱している一夏の動きが以前よりもかなり安定しているのだ。少し前までは、それなりには動けていたが、そのときとはまるで別人のような安定性をもっている。

そういえば、一週間ほど蘇摩に連れ回されていたらしいが、一体なにをしていたのだろうか。

 

(・・・・・・ちょっと危険だけど)

 

今のままでは勝負がつかないと判断した簪は、背部のミサイルポッド『山嵐』を起動する。ターゲットインゲージを表示、インサイト。

 

「―――ってやべ!」

 

一夏は簪がミサイルをロックオンするまでの間、箒と斬り合っていて数秒反応が遅れた。ターゲットされたことを知らせるブザーのおかげで、なんとか回避行動を取ろうとするが、その数秒で簪はすでに一夏へのロックオンを済ませている。

 

「これで・・・・・・」

 

8門6機、合計48門のミサイルが順次発射され、一夏に降りかかる。発射されるミサイルは多数の種類に分けられており、ハイスピードミサイルやハイアクト(高追尾)ミサイルに分裂ミサイルといった具合で、特に弾速の遅いハイアクトと高速弾頭のハイスピードミサイルは微妙な差を持って一夏に襲いかかる。

 

「まじかよ!」

 

すぐに回避行動をとるが、真っ先に飛来するハイスピードミサイルを躱すと、今度は分裂ミサイルの子弾頭が降り注ぐ。

分裂ミサイルは分裂後の数と分裂するまではそれがそういうものだと悟らせない隠匿性が武器。総合的な攻撃力も高いが、分裂した弾頭の一つ一つは火力が低い。

 

そのため一夏は分裂ミサイルを半分無視して一番厄介な高追尾ミサイルを捌くことにする。

だが、一度回避してもすぐに方向を変えて追ってくるミサイル。しかも高速ミサイルが白式を追尾しきれず緩やかな円を作ってい飛んでいる。さらに回避の時2、3発もらった分裂ミサイルんの残りがこちらに追いついてきていた。

 

「ちょ、タ、タンマ!!」

 

言いながら一夏はフルスロットルでミサイルから逃げるが、逃げる箇所を限定するように簪が春雷を撃ち込む。

目の前に撃ち込まれて一瞬速度を急速に落とした一夏。だが、その一瞬はミサイルが一夏に追いつくには十分な長さだった。

 

「やっべええ!!」

 

咄嗟に、荷電粒子砲を撃ち込み同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行使する。

背後のミサイル群を破壊するが、至近距離で爆発されただけあって直撃ほどではないが爆風でエネルギーが減少する。爆発的な速度でミサイルを置き去りにしてアリーナの天井付近に逃げ出した一夏。

 

直撃こそなかったものの、ダメージはダメージだし瞬時加速はエネルギーを消費する。燃費の面で、できれば攻撃するとき以外で使いたくはなかったが、直撃をいくつももらうよりはマシだった。

 

そう判断しよう。

 

「ふぅー・・・・・・」

 

大きく息を吐いて雪平を構えなおす。視界の隅で既に箒がこちらを猛追しており、あと2秒と経たずにこちらに攻撃を仕掛けてくる。

一夏は雪平の刃を水平にして、いわば刺突の構えを取る。

 

そして、白式の能力を活かした二段階加速(ダブル・イグニッション)を発動した。

 

「な!?」

 

それに驚愕したのは箒だった。もともと一夏のいた地点にめがけ突撃をかけたのだ。そしてそれを牽制する一夏の始動。

18mを詰めるつもりで行った箒に対し、一夏は都合4m距離を詰めた。

 

なまじ超速で動いているのだから誤差の修正は不可能に等しい。詰められた4m分、剣を振るうのが遅れ箒は一夏の刺突を無防備に喰らうことになる。

 

「うああああああ!!!」

 

互いに超速で激突したために、そのエネルギーは総じて凄まじいものとなる。そして、そのエネルギーの大半は速度で押し負けた紅椿が背負うこととなる。

 

その結果、暴力的な衝撃で箒は地面に叩きつけられる。

 

今の衝撃で脳が揺すられたはず。脳震盪とまで行かなくてもしばらくは動けない。なら、今のうちに簪を倒す。

 

(俺、戦えてる―――)

 

一夏は簪に雪平の鋒を向け、構えなおした。

 

(―――蘇摩の言ったとおりだ・・・・・・今までが嘘みたいに、全然戦えるようになってる・・・・・・)

 

エネルギーもまだ十分残っているし、装甲もキスが付いた程度で住んでいる。夏の頃紅椿と模擬戦をしたときは手も足も出なかったくらいだったのに、今ではもう紅椿をあのように余裕を持って無力化すら出来てしまうくらいだ。

 

しかも、前は1対1で精一杯だったのにも関わらず、この短い期間で2対1で戦えている。

 

さらに、前と比べて体が軽いし安定してる。蘇摩風に言えば地力が付いてきたということなんだろう。蘇摩の言ったとおり、代表候補レベルなら十分撃破できるほどに力ができている。

 

これもあの虐待まがいの訓練のおかげだと思うと、つくづく「よく生き残った」と自分を褒めてやりたくなるが、それはあとにしよう。

 

(これは、蘇摩の言ったとおりに訓練を続けたら・・・・・・っ)

 

雪平を斜めに構えて防御の姿勢をとる。直後、薙刀の刃が雪平の刀身に激突し、火花を上げた。簪が展開した夢現で突撃を仕掛けてきたのだ。

 

空中で、一夏が上、簪が下の形で鍔迫り合いになる。どちらも押し負けない程度の力で押し合うが、双方の武器はピクリとも動かずに、武器が歪むことすらない。

 

「突っ込んでくるかよ」

 

「織斑君・・・・・・私も、近接は得意」

 

「うぉっ!」

 

そういった直後、簪は力を抜いて一夏の雪平を受け流した。受け流されたぶん、一夏は抑える力がなくなり両腕がすっぽ抜けるように前に押し出され姿勢を崩した。

 

そこに夢現を振り上げて、簪が斬りかかる。

 

「ぐはっ!!」

 

ここで、初めて一夏は直接的なダメージを受けることになった。簪の夢現による切り下ろし。遠心力も加わりその威力は並大抵のものではない。シールドに罅が入り、エネルギーが目に見えて減少する。

 

「っく」

 

咄嗟に体をひねって、片手で雪平を振り上げる。それは簡単に簪に躱されたがなんとかその隙をついて距離を取る。雪平を構え直し、改めて目の前の簪と打鉄弐式を見据える。

簪は超振動薙刀『夢現』を両手に保持して、刃を下に、柄頭を頭上にするかたちで斜めに構えをとっている。

 

両足をやや後ろに開く姿を観て、俺はピーンときた。というよりここ最近何回も見てきた構え方なので、それ以外に思い至らなかったのだが。

 

「まさか、簪って・・・・・・」

 

俺の指摘を受けて簪は軽く頷いた。

 

「・・・・・・無間流薙刀術。蘇摩と同じ流派」

 

「・・・・・・やっぱりな」

 

となると、これは気を引き締めていかなければならないだろう。

現在、簪は春雷を背中に収納した状態にしており、格闘戦を挑む気らしい。起動力を生かした中距離戦闘を主軸に置いた機体で、格闘戦を仕掛けるということはよほどの自信を持っているようだ。

そして、その自信は彼女の表情と構えから伝わる。

 

だが、近接戦闘が主軸の俺が格闘戦で負けるわけにはいかない。正眼の構えのまま雪平の柄を握り直す。しっかりと相手を見据えて、突撃の構えを取る。

 

「―――いくぞ・・・・・・!」

 

「・・・・・・いつでも」

 

二段階加速を行使する。トップクラスの速度でもって一気に打鉄弐式に肉迫する。袈裟懸けに振り上げた雪平を迎え撃つのは、突きの構えを取る夢現。

 

振り上げのはこちらが先、だが突きの方が攻撃としては速い。

 

結果は互角の速度で互いの体に放たれる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               「!―――危ない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪平で簪の夢現を防ぎながら、タックルをする。衝撃で簪諸共にアリーナの端に吹っ飛ぶ。瞬間、今まで一夏達のいた場所を薄紅色のレーザーが貫いた。

 

レーザーはエネルギーシールドを貫通し、アリーナの端から端まで伸びて、さらに再びエネルギーシールドを貫いて観客席を直撃した。

 

「―――なに、あれ」

 

簪はレーザーがアリーナを撃ち抜いた光景を見て、思わず声に出した。

 

それもそのはず、アリーナを横断したレーザーはシールドを貫いたとき、シールドに一切ヒビ(・・・・・・・・・)を入れていないのだから(・・・・・・・・・・・)

 

いままでこのシールドを貫いたエネルギー砲やレーザーは全てシールドを叩き割って、貫通していたのだ。

だが、今回のは、レーザーが辛い抜いている部分以外には、一切ヒビの一つも入っていないのだ。

 

規格外の貫通力を持っている。これがISの直撃でもすれば、絶対防御も一瞬で貫通していただろう。

 

すぐにレーザーの発信源を探す。そして、それはすぐに見つかった。それは見覚えのある女性だった。

 

というより、見覚えがないといけないだろう。

 

「あの時の、2人組・・・・・・?」

 

一夏が簪の感想を代弁してくれた。そう、彼女はさっきアリーナの前であった二人組のうちの一人だった。腕には蒼いISの腕を部分展開して黒いライフルを握っていた。先ほどの一撃はあれによるものなのだろうか。

 

待って、彼女がここにいるということは、近くにもう一人・・・・・・?

 

「―――!織斑君!」

 

「―――ってうわあああ!!!」

 

簪の言葉に振り返った一夏。彼等の目の前にはパッと見でも20は下らない大量のロケットランチャーが火を噴いていたのだから。

 

「っく・・・・・・!」

 

「下がれ!!」

 

聞こえてきた声に従い急いで距離を取る。直後側面からエネルギー弾の雨がゆうに20を超える砲弾の群れを破壊していった。

紅色のエネルギー。そして、弾丸一発一発の細さを鑑みれば、今のは一人しかいない。

 

「箒!!」

 

一夏が声を上げた先には、先ほどの状態から立ち直り、両手に雨突と空裂を携えた箒と紅椿がいる。

 

雨突を前に突き出しているから、いまのは雨突の光波で撃ち落としたのだろう。

そして、簪はいまの砲弾に見覚えがあるらしく、おそるおそるといった調子で口を開いた。

 

「今のは・・・・・・パンツァー、ファウスト?」

 

「それって2次大戦の―――」

 

「ピンポーン♪」

 

一夏の言葉を途中で遮って聞こえてきたのはどこか人を小馬鹿にしたような口調の声。

そして、声の聞こえてきた方向を向くと、アリーナのピットからここにくる前にあった2人組の金髪の女性が黒いISを纏って現れた。いや、()は女性じゃない。

 

「お前・・・・・・ならまさか―――」

 

一夏は先ほどのライフルを持った女性を見る。

 

そうだ。後ろのISが彼だっら、あそこにいる女性は―――

 

「ふん」

 

彼女は俺たちを鼻で笑い、ロングヘアーのウィッグを脱ぎ捨てる。背中まで届くロングヘアーは肩にかかる程度になり、全身にISを纏う。そして、その顔は正しく俺のよく知る女性のものだ。

 

「織斑マドカ・・・・・・!」

 

「・・・・・・」

 

彼女は、左手のライフルを収納し、今度は両刃の剣を新たに展開する。あまりに早かったので、一瞬いつ展開したのかと思ったほど。

 

その展開速度は今まで見た誰よりも速かった。そして、この状況で展開した剣。これでやることなど、考えなくてもすぐにわかる。

 

「そらっ」

 

彼女は、アリーナのシールドに軽く剣を振るった。

 

直後、シールドはガラスのような音を立てて、まるでそうなることが当然のように粉砕される。ポッカリと空いたシールドの大穴を、マドカは悠々と飛び降り、アリーナの中に侵入する。

 

マドカのISはどうやらサイレント・ゼフィルスから変わっているようだ。

 

鋭角で直線的なデザインは共通しているところがあるものの、背部にはあのビットが存在せず、代わりに2基の非固定(アンロック)ユニットが浮いている。

そして、ボディの各部に赤いエネルギーラインが走っており、以前よりも禍々しさを感じる。

 

対する少年もISが変わったようだ。

真っ黒でか細い。装甲も少なく、彼の周囲に1基の非固定ユニットがグルグルと衛星のように廻っている。特徴的な右腕もなくなり、そこには通常のマニピュレータがある。

 

マドカのものとは違って、一見でどんなISかは予想しづらい。うかつに攻め込むのは危険だ。そう判断した一夏は雪平を正眼に構えて、マドカを見据えた。

 

「こんな時期になんの用だよ?」

 

「・・・・・・さてな」

 

マドカは剣を肩に担いで、惚けるような声で言った。直後、紅椿にも劣らない程の、ものすごい速度で此方に突っ込んでくる。

 

「っ!!―――ぐぅうううう・・・・・・!」

 

「強いて言うなら―――」

 

雪平でマドカの剣を受け止める。雪平の白い片刃が鏡面の白藍色の刃と激突し、軋る。パワーアシストで負けているのか、マドカが片手なのに対してこちらは両手。まるで蘇摩とやりあっているようだ。

 

蘇摩ほどの剣圧でないのが、救いといえば救いだろうが、ギリギリであることに変わりはない。

 

「――遊びに来てやった。か」

 

マドカはうすら笑いながら、そう言った。




感想、意見、評価、お待ちしています

この一夏、動くぞ・・・・・・(アムロ並感)
と、今回は一夏がかなり強くなって帰ってきたようです。あれだけ蘇摩にボッコボコにされて、当然といえば当然なのかな?

ちなみに、一夏は経験を通して学習する能力が高い隠れた才能があるということで、ここはひとつ。

え、原作だとただの猪?

知らぬ知らぬ聞こえぬ見えん。心底まとめてどうでもいい。(冷泉並感)
そして、後半。まあ前回読んで気づいた人も多いでしょうが、マドカ達が遊びに来ました。

どうやって忍び込んだかは感嘆、制服を調達して軽く変装して入り込んだ。それだけ。
実に簡単。

次回はもう少し早く出来たらいいなー。
裏も少しづつできているし、なんとか行けるかな?




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