インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
あれから間も無くして、各代表候補生含む全生徒に帰還命令がでた。今回は極めて特例のためIS学園の規則も例外とのことだった。
俺は刀奈と一緒に空港に来ている。だが、通常口ではなく裏口、要は正規の人が使う場所ではないということだが、まあ要はそういうことだ。
通常ホールは慌ただしく、帰国者で溢れている。日本に帰ってきたもの、日本から母国に帰るもの。もう間もなく戦争が始まるという事実に、空気も殺伐としている。
IS国家代表や代表候補は専用の空港機を用いての帰国になり、一機につき自衛隊の護衛機がつく。航空圏で母国の軍機と入れ替わりになる予定らしい。
そして俺はRAVENS ARKの特別機を使い、刀奈はロシアの特別機を使う。つい先日、ロシアから刀奈にRAVENとして正式の依頼が舞い込んできた。
刀奈はそれに応じ、帰国するというわけだ。
「よかったの?一夏君の見送り断って」
刀奈が少し心配そうに聞いてきたが、そこはそれで問題ないと説明する。
「あいつらはあいつらのほうがいいのさ。俺たちは俺たちで、見送る奴らがいなくても出迎える連中がいる。それに―――」
一旦言葉を切って、一拍おいてから続けた。
「これから殺し合うことになるかもしれないんだ。あまり感傷的なことはしたくないのさ」
「・・・・・・そう、よね」
刀奈は少し顔を伏せて悲しそうにつぶやいた。それは一夏達に対するものだけでないことを俺は知っている。
更識簪。言うまでもなく刀奈の妹だ。あいつは日本の国家代表候補、つまり現在刀奈とは敵対するかもしれない状況だ。
「気休めにしかならんだろうが。あんま心配すんな」
「蘇摩・・・・・・」
「前にも言ったろ?代表候補生は基本出さない。それに出たとしてもあいつの適性的に拠点防衛に回される可能性が高い。防衛ならお前と会う確率はそれだけ低くなる」
蘇摩の言葉に刀奈は頷きつつも顔色は晴れず、口を開いた。
「でも、それは―――」
「あくまで出会わない確率であり、死ぬ確率とは別計算。だが、それでも気休めにはなるだろ。万が一簪が死んだら、それはそれだ」
俺は刀奈の言葉にかぶせて口を開いた。俺は甲斐性なしの人でなしなんだとつくづく思う。
おそらくことと気に言うべきは、「妹を信じてやれ」や「それでも死ぬとは限らない」などといった慰めや安心できるような言葉だと思う。だが、俺は生き死にには事シビアな目線を持っているつもりだ。確率論を希望的観測でいうことはしないし、それができるほど楽観的ではない。
「うん・・・・・・そうね」
顔色は暗いまま、それでも微かに笑ってみせる刀奈。だが、無理をしていることぐらい普通に分かるし、心配させないよう気を使わせている俺は、やはり解消がない男なんだと改めて思う。
だから、俺がここでいうのは甲斐性に溢れた言葉でなく、もっと現実的なこと。
「簪よりも、お前は自分の心配をしたらどうだ?ここからは生き死にの戦場だ。俺は慣れ親しんだところだから別にいいが、お前はそうはいかねえだろ?」
そんな事実を容赦なく突きつける。だが、それでも刀奈は笑って言った。
「大丈夫よ蘇摩。私は『RAVEN』なんだから」
RAVEN。と、彼女は言った。今までは彼女は『更識』と名乗っていたものを、彼女は少し前から蘇摩の前では『RAVEN』というようになった。
その単語を口にするということは、つまり文字通り死と隣り合わせの場所を生息地とする鴉であるということであり、それを口にしたからには分相応の能力を持っていることの証明である。
そして、彼女にとっては隣にいる少年と同じ所に生きるという覚悟と力を示すものである。その単語を聞いた蘇摩は、少しだけ、目を細めた。
「そう・・・・・・だったな」
「そうよ」
刀奈は初めて、顔色を少し明るくして微笑んだ。そして、蘇摩の手を引っ張り、ゲートへ向かって足を踏み出した。
「蘇摩のほうがあとに出発するんだから、私の見送りちゃんとしてね?」
手を引かれた蘇摩は一瞬だけバランスを崩したが、すぐに立て直して彼女の足についていく。
「わかってるよ」
――――――――
刀奈を見送った蘇摩。彼は少しだけ後ろ髪を引かれる思いで、発進する前の飛行機に背を向けた。行くものと、残るものをわかつゲートをくぐる直前に、刀奈が繋いだ手を強く握った時の感触が、未だに熱を持って残っている。
「・・・・・・らしくねえな」
まるで今生の別れみたいに、らしくもなく感傷になっている。
全く、らしくない。別に敵対すると決まったわけじゃないというのに。我ながら最近は感傷的になることが増えてきたようだ。
さて、
そして、金属探知のゲートを潜る。無論赤色のランプが点灯しブザーが鳴る。ちょっとだけうんざりしながらもバッグをベルトの上に放り込んだ。
なんのことはない。バッグの中に拳銃といつもの直刀が入っているのだ。
改めてゲートを通過する。今度は青いランプが点灯し通ることができた。
バッグはすぐに返してもらえるので、肩に担いで待合場所に向かう。
待合場所の椅子が並ぶ広場で、自販機の前に立っている少女を見つけた。
「うーん・・・・・・スポドリとオレンジジュース。どっちにしようかな・・・・・・」
どうやら一番上のペットボトルの欄をみて悩んでいるらしい。身長は155cmちょいと、いったところで金髪を小さいポニーテールにしている。
少女の隣にはキャリーバッグが置いてあり、少し背伸びをしているのか表面が革でできた真四角のやつだ。
服装もやはり背伸びをしてか黒いスーツを着込んでおり、そのことごとくが明らかに背伸びしているとわかるのでちょっとだけ可愛く見える。小動物的とは、こう言う奴のことをいうのだろう。
「うん。スポドリにしよっ」
約20秒の審議の結果、スポドリになったようだ。やはり背伸びをしているようにしか見えない。
「オレンジジュースじゃなくていいのか?セラ」
「わっ」
後ろからいきなり声をかけられて、びっくりして後ろを振り向き、懐に右手を差し入れる。だが、相手が俺とわかったのか、すぐに手を懐から抜いて、表情をぱあ、と輝かせる。
「お久しぶりです。ソーマさん!」
「ああ、久しぶりだなセラ。ところでその慎ましい部分の裏にあるのはパスポートか?それともM9か?」
「両方です」
この小動物のような背伸びをした少女、セラ・クライシスはスポドリを俺に投げつけ、キャリーバッグを引っ張りながらこちらに歩いてくる。
「危なねえな」
「次セクハラしたら撃ちますよ♪」
「撃ったところで当たりゃしねがな」
スポドリのキャップをあけて、中身を飲みながら蘇摩はそう言って、自販機の前まで行くと、コインを入れてオレンジジュースを購入し、それをセラに投げて渡す。
「むぅ・・・・・・」
「オレンジの方が好きだろ?お前」
蘇摩のからかうような言葉特徴に、セラは少しだけ頬をふくらませて、「それは、そうですけど・・・・・・」と行った後、蘇摩の一歩後ろに立つ。
その様はまるで兄弟のようで、髪の色が同じだったなら、本当に兄弟だと間違われるに違いない。
「髪伸ばしたのか」
蘇摩はセラを見かけた時に気づいた点を指摘すると、セラはテールの部分をちょっといじると、照れくさそうに笑った。
「結構似合ってるよ。・・・・・・セラスの真似か?」
「はい」
「そうか」
なるほど、自分でも言ってみたが、言ってみるとやはりセラス似た髪型だ。違うのはテール部分がセラの方が少し低い位置にあるというところだ。そこは髪の長さが足りずに妥協したのだろう。
こいつにとって、俺は兄、セラスは姉だったからな。
「いくつか依頼が来ていますので、それについてはARKに着いてからお話します」
「ああ。頼む」
そして、蘇摩の一歩後ろに並んでセラは彼のあとをついていく。こうして見ると本当に兄妹のようである。
――――――――
織斑一夏と篠ノ之箒、更識簪は代表候補生達の見送りを終えて、学園に帰ってきたところだった。
「やっぱり航空機の前まで送りたかったな」
「仕方ないだろう一夏。代表候補生は一般とは別口なのだからな」
「お姉ちゃんも、もうすぐ出るって言ってた」
一夏の部屋で3人は彼の用意したお茶を飲んでいた。見送りが思ったよりも早く済んだので、予定が空いてしまったのだ。アリーナも先生がいろんな手続きで忙しく、申請の許可がまだ降りていない。
「蘇摩は見送りはいい、って言うしよ」
「お姉ちゃんが、2人っきりがいいって言ってたから・・・・・・それだと思う」
「ふむ。あの2人。傍から見れば全く違う人柄だが、息はあっているしな」
そんなこんなで30分ほど、団欒をしていた一夏達だった。30分が経過したとき、部屋に添え付けてある電話から、コールが鳴り、一夏がそれを取った。
『アリーナの使用許可だがな。一応今日は第4アリーナは使ってもいいぞ。それ以外は管理が回らん。ただし6時までだ。いいな』
電話の声は千冬のようだったので、一夏は一言礼を言うと、直ぐに切った。多分仕事の合間を縫って許可を出してくれたのだろう。
「じゃあ、俺はアリーナで練習するけど、箒達はどうする?」
「私は無論付き合うぞ」
「私も」
一夏が立ち上がると、2人も同じように立ち上がる。そして、3人でアリーナへ向かい、部屋をあとにした。
―――
3人で歩いていると、アリーナ前の廊下から2人生徒が出来るのが見えた。片方は黒髪ロングヘアーの女性でもう片方はブロンドのウェーブヘアの女性だった。
身につけているリボンの色から、1年生だというのが理解できた。前の2人は一夏達に気づいたようで、一瞬驚いたような表情をしたが、直ぐに微笑んで
「あなたたちもこれからアリーナ?」
と、金髪の女性が質問をしたので、一夏が答えた。
「ああ、2人はどうしたんだ?」
その問に、また金髪の女性が肩をすくめて答えた。
「私たちは整備部の仕事で、点検」
「そうだったのか。大変だな」
一夏がそう言うと、金髪の女性が笑って答えた。そして、手を振りながら
「じゃあね、織斑くん」
と言って、黒髪の女性と一緒に3人の横を通り過ぎていった。
「・・・・・・?」
ふと、2人を見送った一夏は首をかしげた。なにか、釈然としないような表情を浮かべた彼に箒が問を投げた。
「どうしたのだ一夏」
その問に、一夏はなにか引っかかっているような口ぶりで言った。
「いや、あの2人な。どっかであったような気がしたんだ」
「そうか。同じ生徒だろう?ならどこかで顔を見るのも当然じゃないか?」
「多分。それに織斑君。有名人だし」
2人に言われた一夏は、未だ釈然としない表情をしながらも、「そうだよな」と言って笑った。
「まあ、気にしてても仕方ないな。行こうぜ」
そうして、3人はすぐそこのアリーナに向けて再び歩き出した。
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オペレーター、セラ・クライシス。
再び登場。
これから、彼女の出番と、活躍の場は増えていきます。割と書きやすいキャラなので、使いやすいですね。