インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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夢は懐かしく、苦々しく

冬の都会。この日は都会にしては珍しく、雪が降りしきっていた。

 

雪が積もり、靴が道を踏むたび、シャキシャキと音がする。そして、あたりはクリスマスが近いせいか家のドアには飾りがしてあり、店先にはイルミネーション用のLIDや豆電球が

これでもかと付けられており、夜になれば輝かしい街並みになるだろう。

 

彼氏彼女や家族、友人同士の人影が多い中、一人道を歩く人影がいた。

 

雪に負けないほどの純白のコートは、その白さの中にやや砂埃の汚れがついており、その背丈には重そうなゴルフバッグを肩に担いでいる。

彼にとって日本ああまりいい場所ではなかった。それは嫌な思い出があるというわけではなく。ただ、彼はここに対しての思い出や思い入れがないのが原因だった。

 

ただ道を歩いている。目的などない。

 

ただ歩いていた。

 

「――――」

 

声が聞こえた。ほかの人には聞こえなかったくらいの小さな声。だからそこの建物のあいだの路地へと入っていった。

 

路地に入り奥へと歩く。

 

そこには人がいた、6人だ。どうやら揉め事のようで、暗い雰囲気を出している。

 

4人は黒いスーツを羽織った大人。もうふたりは水色の髪をした二人の少女。

 

大人の一人がスーツの懐に手を入れる。だから俺は―――

 

――――

 

「・・・・・・ん・・・・・・」

 

目が覚めた。ベッドから上半身を起こす。携帯の時計を見ると時刻は4:17。夜明け前のまだ暗い時間。いつもより13分ほど早い。

 

「・・・・・・随分と懐かしい夢を見ていたな」

 

そう、アレは俺があの姉妹に会った時の夢。まだRAVENに入った駆け出しの、無駄で、くだらない夢を見ていた頃の、夢。

 

「ちっ・・・・・・」

 

舌打ちを一つ。なぜいまさらあんな夢を見たのだ。まったく、らしくないじゃないか。

そう思い、普段起きる時間が近いため二度寝する気も起きずに、音を殺して外に出る。目的地は屋上だ。

 

――――

 

午前の授業を終え、一夏たちと昼食を終え、一人廊下を歩いていた蘇摩。

 

理由は簡単。トイレに行っていたからだ。現状一夏の身に危険があるような要素は日常的なものを除けばなし。流石と言うべきか。警備はしっかりしているし、この学園自体、小さい島をそのまま使っているようなものだ。ちょっとやそっとのことでは、簡単には侵入できない。

 

(っと、そろそろ時間が押してくるか。さっさと行かなきゃな)

 

午後の時間はISの訓練で、早めに着替えてアリーナに行かなければならない。もし遅れれば出席簿の爆撃が落ちるだろう。一体どうやったら出席簿であんな威力の打撃ができるんだよ。

単純な腕力じゃ確実に負けてるな。

 

「・・・・・・で、いつまで尾行()いてくる気でしょうか。生徒会長殿?」

 

階段に差し掛かったところで、先程からついて来ていた人物に声をかける。すると、廊下のちょうど物陰になるような場所から人影が出てきた。

 

「やん。いつから気づいてたの?」

 

「トイレに入った時からですよ。ちなみに変な視線は昼食の時から感じてました」

 

そう。この人たらし、更識楯無は昼食の時から俺を、いや『俺たち』をずっと見てきていた。微妙な加減でこちらを見てくる。おかげで見られていることに確証が持てたのはしょくじをしおわるすこし前だった。

こちらを尾行するときも、おそらく知っていても気づかないほどでうまい具合に気配を空気に溶け込ませていた。多分(RAVEN)のAランクでもなかなか気づけないかもしれない。

 

ったく、一体どんな努力をしてきたのか彼女は。

 

「それで、ちょっと顔色が悪いけど、どうしたのかしら?教えてくれるとお姉さん嬉しいなー♪」

 

ったく、一体この人たらしな性格はどうなって出来上がったのか、ちど聞いてみたいもんだな。まあ、答えてやる義理はないが、別に答えない理由雨もない。それに一夏達は気づく素振りはなかったのになんでお前は気づくんだよ。一体どんな目してやがる。

 

蘇摩は自分の表情を隠すことに非常に長けていた。それは傭兵をやっていれば、特にRAVENのBランク以上は表情を変えない、ポーカーフェイスを維持できるようになる。

基本Bランク以上は凄惨な戦場で何人も何人も人殺しをするのだTPSDにかかって病院送りや精神崩壊などする方がおかしくなるというレベルで戦場に立っているような連中がBランク以上の傭兵たちだ。

 

「らしくもなく、昔の夢を見たんだよ。お前らに会ったときのな」

 

楯無は笑顔のままだが、どこか神妙な顔つきになった。あの時のことを思い出したのだろう。数秒、あたりは静まった。そして、ゆっくりと楯無は口を開いた。

 

「あの時は、本当にありがとう。あの時蘇摩がいなかったら、私も簪ちゃんもここにはいないわ。本当、ありがとうね」

 

目を伏せがちにそういう楯無。雰囲気が少し重くなる。蘇摩ははあ、とため息をつき口を開いた。

 

「ったく、あの時の礼なら昔さんざんしてもらったから今更いんねえよ。それにお前も俺も、今は『違う』お前は俺のクライアントだろが。もっとしゃきっとしてくれよ」

 

蘇摩の言葉にパッと顔を輝かせる楯無。先ほどの神妙な顔はどこえやら、擬音語の形容し難い効果音が鳴りそうな顔で扇子を広げた。

 

広げられたセンスには「激感謝」とこれまた非常に達筆な字で書かれている。つか、いつそんなん書くんだよ。

 

「そうね。どうせこれから蘇摩には死ぬほど働いてもらわないといけないんですもの。そして疲れきった蘇摩を優しく看病して好感度アップ!!ってね♪」

 

全部口に出して言い切ったぞこの女。そしてそれが本当に現実になりそうなのが恐ろしい。好感度アップはその時にならんとわからんが。

 

ふと、楯無が携帯を取り出した。って、結構時間押してきてるじゃん。早く行かねえと、出席簿が降ってくる。

 

「じゃあ、時間もそろそろだし、私はこれから人と合わなきゃいけないから。またね蘇摩!」

 

人と合うか、まあ更識の現当主で生徒会長だ。誰かと合うことも多いだろうな。そう思い、蘇摩は追求することはしなかった。

 

「ああ、んじゃあな!か―――楯無」

 

昔の話をしていたら、思わず本名で呼びそうになったな。どっかで聞いている人物がいるかもしれない以上、間違ってもあいつの本名を言うわけにはいかないだろう。

だが、それが本人には不満があったようで、なんかふくれっ面をしてる。

 

「んもう、昔みたいに名前呼んでよ!」

 

「ああ、今度二人きりになった時にはそうさせてもらうこともあることもない。じゃな!!」

 

そう言って廊下を走る蘇摩。本気じゃないのは目に見えてわかるが、それでも結構な速度が出てる。それを見送った楯無は、笑顔をふと崩し、悲しそうな顔になる。

 

「まだ、聞いてくれそうにないかな・・・・・・」

 

昔の約束。それを果たせるにはまだ、時間とすべてが足りないらしい。楯無は、彼が走っていった方向へと、少しゆったりとした足取りで向かっていった。




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