インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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ファフナー最高!

・・・・・・すいません書くの遅れました。


嵐の前

あれから一週間が過ぎ、今日俺たちは学園に帰ることになる。

 

「いつつ・・・・・・筋肉痛がひでえ」

 

蘇摩は道場の方へ行き、向こうの人たちに挨拶に行っているようで、今俺は門の前で蘇摩を待っている。

だが、それにしてもこの筋肉痛はひどすぎると思う。全身未だズキズキするし、脇腹とか腕とか特にひどい。

それに首とかも別の意味で痛いし。

 

現状、外見から一夏の首に2枚の絆創膏が貼ってある。蘇摩の貫手を躱しそこね、掠った結果だ。

かすっただけでパックリ切れるほどの威力をまともに食らったら、想像するに恐ろしい。

 

それが仲良く両横の首筋に存在するのだ。俺はこの一週間、よく死ななかったと自分を褒めたい気分である。

もはや重いとすら感じなくなったバンドをつけた腕を持ち上げ、日を遮りながら空を見上げる。

 

多少雲が見えるが快晴と呼べる天気だ。

この1週間、青空を見る機会がなかった。いつも夕焼けか夜の空を見る毎日で、少しだけこの青空が懐かしく感じる。

 

「待たせたな」

 

どうやら蘇摩も話を終えて、帰ってきたようだ。

 

「何話してきたんだ?」

 

「大したことじゃない。一週間ここ使わせてもらった礼と嫌味を少し言われただけさ」

 

肩をすくめて答える蘇摩。

 

そして、門の扉に手をかけた時、後ろから声をかけられた。

 

「蘇摩さーん!!」

 

「ん?」

 

後ろを振り返ると、見覚えのある青年。来栖涼が走ってくるのが見えた。

 

「これから帰られるとうことなので、見送りに来ました」

 

「ああ。ありがとよ」

 

「ぜひ、もう一度ここにいらした時にはリベンジマッチ、お願いします」

 

軽く頭を下げてお願いをする涼に蘇摩は軽く手を振って答える。

 

「ああ、その時はいつでも来い。相手になる」

 

「ありがとうございます。織斑さんも是非一度、お手合わせ願います」

 

「あ、ああ。こちらこそ」

 

一夏が応えると、涼は軽く頭を下げ、「ありがとうございます」と礼をした。

 

「行くぞ」

 

蘇摩が門の扉を開ける。そして、俺たちはこの屋敷をあとにした。

 

――――

 

屋敷から出た俺たちは、変えるために少し遠いところにある駅を目指して歩こうとしたが。

 

「はあい蘇摩」

 

何か見覚えのある人たらしと、それがもたれかかっている長い車(形状からおそらくポピュラーなリムジンだろう)があるが、あえて無視しよう。

反応に困っている一夏を軽く押して、足早にその場を離れる。

 

「ちょっと」

 

「・・・・・・」

 

なにか聞こえたが、無視する。

 

「ちょっと蘇摩」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ」

 

一夏、ため息ついてないで早く行くぞ。そう思いながら歩くペースを早める。

後ろから短い間隔の足音が聞こえるが、無視しよう。

 

「蘇摩ってば!」

 

手を掴まれ、歩く足を前に出せなくなってしまった。

仕方ないので、振り返る。そこには水色の髪をした人たらし、更識楯無が困ったような顔でいた。

なんかしてやったりと思ってしまう。

 

「まったく蘇摩ったら、久しぶりに会っていきなり無視って酷いわ」

 

「なんでここの場所がわかったし」

 

「簪ちゃんから聞いたからだし」

 

「あいつが素直にしゃべるわけないだろ」

 

「ちょっとくすぐったらキレイさっぱり喋ってくれたわ♪」

 

はあ、とため息をつく蘇摩。だが、直ぐに一夏に顎で楯無が乗ってきたであろう車を指す。

一夏も若干戸惑いつつ頷き、車へと歩いていく。

 

――――

 

車中では、俺と楯無。少し離れた位置に一夏といった構図で座っている。妙に楯無がくっついてくるので動きづらいがまあ良しとしておこう。

だが、この微妙な情勢を理解しているはずなのにこの人たらしの行動はなんというべきか。

 

「お前なあ」

 

「なあに?」

 

「こんな派手な事して、狙ってくださいと言わんばかりじゃねえかよ」

 

ただでさえその筋では名の知れた暗部、ましてその当主にしてISのロシア国家代表。戦争寸前のこの情勢では、暗殺の憂き目に遭うのは必定だろうに。

そんなことを考えていると、知ってか知らずか楯無は笑顔で言い切った。

 

「あら、蘇摩は私を見くびってるのかしら?」

 

笑顔ではあるが、その目と声色は微妙に笑っていなかった。

 

「そんなことでやられる体たらくで、貴方と一緒にはいけないわ」

 

「・・・・・・」

 

その言葉で俺は黙った。黙らざるを得なくなった。

 

 

バカが・・・・・・。誰も一緒に来いなんて言ってねえのによ。

 

 

「あのー」

 

今まで状況についてこれなくて黙っていた一夏がようやく口を開いた。

 

「さっきから聞いてたんですけど、今ってやばいんすか?」

 

「ああ」

 

「蘇摩」

 

蘇摩の言葉に楯無が制止をかけた。だが、蘇摩は楯無の方に目線を向けて言った。

 

「遅かれ早かれ分かることだ。だったら早いほうがいいだろう?」

 

「それは・・・・・・」

 

「?」

 

話が見えてこないとばかりに首をかしげた一夏に蘇摩は向き直って口を開いた。

 

「なに、1ヶ月もすれば戦争が始まるってことさ」

 

「え・・・・・・」

 

あまりに普通に語られた事実は、突飛すぎて一瞬理解が遅れたが、すぐに言葉の意味を理解し驚愕する。

 

「ちょっと待ってくれ。それって本当なのか!?」

 

「嘘言っても始まらんだろ」

 

蘇摩はそう言って、現在の世界情勢をかいつまんで説明してくれた。

 

「・・・・・・ええと、つまり企業同士のいさかいが、戦争の発端てことか?」

 

「そういうことだ」

 

「でも、そんなことで戦争が始まるのかよ!?」

 

身を乗り出して迫る一夏に蘇摩は一夏の肩を押して、座席に戻す。そうして口を開いた。

 

「お前の言い分は最もだが、実際戦争なんてのはそんなものだ。敵対している企業が原因なんてのも戦争レベルじゃないにせよザラにある。最も戦争にまで発展したのは

確かに初めてだ。つまり、それだけ国同士の中も険悪だったということだ。理由は、どうせくだらんものだろうがな」

 

蘇摩は空いている方の手を軽く振る。そして「大体の理由は想像つくが」と呆れたようにため息をついた。戦争なんてことをそんなもので片付ける蘇摩に対しては正直

憤りを覚えるが、蘇摩がそういう奴だということは知っているし、傭兵という家業柄そういうふうな感想を持つのも共感はできないがなんとなくわかる。

 

だが、それとこれとは話が別だ。どうにかして止められないのか。どうにかして、戦争は回避できないのか。そう考えている一夏の思いを知ってか知らずか、今まで

沈黙していた楯無が口を開いた。

 

「一夏君。この戦争を止めることはできないわ。理由は二つあるのよ」

 

「理由、ですか?」

 

「とは言っても、実に利己的でくだらん理由になるがな」

 

一夏の自然と漏れた疑問に最初に答えたのは蘇摩だ。

 

「一つ。これは現状の勢力を見なければわからないが、企業間の長い対立がそれを許さない。なんてったって合法的、つったらおかしいけどまあ、要は堂々と

敵対企業を潰すチャンスなんだからな、逃す手はないだろうさ。そしてあわよくば、あの兎博士の居場所を掴むことも可能かもしれない。これがひとつ」

 

「ひとつって、企業だけでそんな国の方針を決められるようなことなんて」

 

「可能よ」

 

そこから先を答えたのは楯無さんだった。

 

「もう一つは、簡単。破壊からの再生は、すべからく経済成長の土壌になからよ」

 

「・・・・・・そんな、こと」

 

「敗戦国である日本が、ここまでの成長を遂げたのが何よりの証拠さ」

 

蘇摩の言葉にもはや黙るしかなかった。

 

「でも・・・・・・」

 

「さっきの質問の回答だけれど、ISを作る企業の中でもな。国に発言力のあるものも多く存在しているのよ。例えるならアメリカのGA社。

ドイツのアルドラにイタリアのカナダのレイレナードとか。ほかにもいろんな企業がそれに入るわ」

 

「ちなみに、今回は主に2勢力での激突になる。カナダのレイレナード陣営と、アメリカとイスラエルのGA、オーメル陣営にな」

 

「そこまでわかっているんなら戦争だって止められるんじゃ―――」

 

「水面下では既に戦争は始まっている。もうすぐ学園の生徒。特に代表候補に近々帰国命令が下るはずだ。もう止めることは不可能なんだよ」

 

蘇摩の淡々とした口調にいらだちを覚え、拳を握るがすぐに力が緩まる。蘇摩はただ事実を口にしているだけで、蘇摩が戦争を引き起こしたわけではないのだから。

そして、蘇摩の言葉に疑問が出てきた。代表候補に帰国命令が出る。つまりそれはセシリアやシャル達が戦争に出るということなのだろうか。それを口にすると蘇摩は肩をすくめて言った。

 

「さあな。代表候補はまあ補欠要因だろうさ。基本は代表が出るくらいだろう。よっぽど戦力不足じゃなきゃ戦力としては数えんだろうさ。ヘタをすればISコアをみすみす

敵国に渡す羽目になりかねんしな」

 

蘇摩の言葉には傭兵としての経験からか説得力があった。蘇摩は変に気遣いのする人間じゃないことは知っているし、可能性として高いことはそのまま口にするはずだ。

だから、とりあえずは彼女たちが出る可能性は少ないと思い、不謹慎ながらホッとする。だが、それはそれで別の問題がある・

 

「そうか・・・・・・じゃあ、楯無さんは?」

 

「私は多分出ることになるでしょうね?ただ、私の場合は防衛の方が戦術的に向いているから前線には出ないんじゃないかしら。あら?ひょっとして心配してくれてるのかしらん?」

 

「・・・・・・蘇摩は?」

 

この状況でもこの調子な先輩にやや呆れてしまうが、もうひとりの方へ目を向けた。彼も相変わらずな調子で答えた。

 

「俺は雇われた側につくし、依頼になれば前線に行くし大量殺人でもなんでもするさ。それが仕事なわけだし」

 

「そうか・・・・・・」

 

そう言ったきり黙ってしまった一夏。その声にはある種の感嘆と諦観が込められていた。そして、黙りきった一夏に対して、今度は逆に俺が問を投げる形になった。

 

「他人事みたいに言ってっけど、お前だって参加する可能性大だぜ?」

 

「え・・・・・・」

 

案の定、すっとぼけた表情を浮かべる一夏。まあ、代表候補が補欠なら候補生ですらない自分は参加しないと思うのは当然か。

 

「日本は表立っては参加しないだろうな。だが、日本はアメリカの前線基地になる可能性が高い。そうなると、日本の代表が戦争に

参加する可能性もある。だが、日本の代表は日本の専守防衛に回されるだろう。かと言って代表候補じゃあ戦力としては不足だろう?」

 

「だったら・・・・・・」

 

「学園で下手に活躍したのが仇になったわね一夏くん」

 

「え?」

 

「そりゃそうだろ?代表候補生の協力があったとは言え、5月に無人機を撃破。夏には暴走したIS、俺が来たあとの2対2でも

代表候補を撃破。無人機だって代表候補2人係でようやく倒したバケモンを候補生たちより早く沈黙させたんだ。結果として成長速度含めて代表候補以上の戦力

として認知されてるだろうよ」

 

俺の言葉に唖然とした一夏。まあそうなるわな。今まで代表候補相手にいいようにボッコにされてたんだろ。

それが今じゃ、本人に自覚がないだけでもう代表候補を下せるほどの実力はついてきているんだ。

 

「っ・・・・・・」

 

一夏は何かに気づいたよに言葉を詰まらせて押し黙る。戦争に参加する=人を殺す。そんな業を背負うにはつい今まで一般人だったこいつには多少重いかもしれんな。

だが、同情はない。コイツよりもはるかに年下で、戦場に出ている少年兵だって何人も見てきたし、殺してきた。そいつらに比べれば、まともな訓練を積む機会と、ある程度の実力

がある時点でかなり恵まれているといってもいいだろう。

 

「・・・・・・ああ、そうだ」

 

ふと、思いついたことがあった。こいつが戦争に巻き込まれても、自分を見失わないように行ける道標のようなものを。

 

「戦争は嫌いか?」

 

「・・・・・・当然だろ」

 

急に、蘇摩がそんなことを聞いてきた。答えはすぐに出た。当然だ。戦争が好きな奴なんて何人もいるはずがない。

 

「止めたいか?」

 

「当たり前だ!」

 

わかりきった答えを聞いてくる蘇摩に多少苛立ちもあり、語気が強まった。それでも蘇摩は涼しい顔で、楯無さんも特に気分を害した様子はなく、変わらず蘇摩の腕に絡みついている。

 

「まあ、戦争を止めることはできない。これはさっきも言ったよな」

 

「・・・・・・ああ」

 

「止められない。でも止めたい。スフィンクスだな。どうする?」

 

「どうするって・・・・・・」

 

一体何が言いたいのか、蘇摩の真意が分からずに聞き返す。だが、蘇摩は変わらず俺に問いかける。

 

「戦争はもはや止めようもない。すぐに開戦だ。でもお前は止めたいと言う」

 

「ああ」

 

「大変だ。これじゃまるで卵が先か鶏が先かのパラドックスだが、どうする?」

 

「なにが言いたいんだよ!!」

 

蘇摩のあまりに淡々とした口調と声色にとうとう切れてしまい、声を荒げてしまった。そして考えるより前に右手が出て蘇摩の顔面へ殴りかかってしまったが、蘇摩は薄く笑いながら

空いている左手で簡単に止めた。そして、その左手で俺の右手を握り締めるが、すぐに拳が悲鳴を上げる。半端な力じゃない。まるで万力に絞められているような感覚だ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「落ち着けよ。要は発想の転換だ。止められない。けど止めたい。だが、すぐに開戦。ならどうすればいい」

 

「どうって・・・・・・!」

 

容量不足ながら蘇摩の問いにを思い返して、そしてはたと気づく。

そうだ、戦争が始まるのはもう止められない。でも戦争を止めたい。だったらやることはひとつだけだ。

 

「始まった戦争を―――」

 

「―――速攻で終わらせりゃ同じだろ」

 

「くすっ」

 

俺の言葉に蘇摩が続け、一つの答えを提示した。そして、そこに蘇摩が続ける。

 

「要はそういうことだ。止められないなら終わらせりゃいい。都合のいいことに、お前には戦場で戦えるだけの力がある。だとすりゃあ、もうやることは一つだろ」

 

「でも、俺にでき―――」

 

「やるんだよ」

 

俺が言いかけたところに蘇摩が言葉をかぶせた。蘇摩の一言は、あの時と同じだった。

 

「守りたいんだろ?だったら出来る出来ないの問題じゃねえよ。やるだけだろが」

 

「―――ああ・・・・・・ああ!」

 

「だったら、迷ってる暇何ざありはしない。俺はもう教えることはできない。だけどひとつだけ、お前に言える最後の忠告だ」

 

「忠告?」

 

俺の問いに蘇摩はいつもの笑を作って、言った。

 

「『敵に情けをかけるな。』だ」




感想、意見、評価、お待ちしてます

うーん・・・ゴリ押しだったかな?
でもいいよね!

蘇摩の言葉は基本必ずしも正しいわけではないと思います。
自分もそう書いているつもりはないので、ただ蘇摩の言葉は経験者としての重みを
載せたいなと思っています。

ですので、蘇摩の意見が必ず正しいとは思わずに見てください。
むしろ一般論としては一夏の方が正しいんですから。

そして、一夏の強化がここでアダとなった?のか??
今後一夏は戦争でとことん苦悩させていきたいと思っています(ゲス顔

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