インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~ 作:鳳慧罵亜
閃光。
青緑色の弾丸は、彼のISの目の前で爆ぜた。
「ぐぅ―――」
「うあああああ!!」
「くぅ・・・・・・っ」
そして、収束された粒子が霧となって広がり、3人の目からレイのISをかき消す。
高密度に圧縮された本体に連鎖した電子の爆発は、プラズマの渦流を巻き起こし周りにもダメージを与える。
「やった、か・・・・・・?」
現に3人のISもダメージを受け、センサー類が機能不全に陥ってしまっていた。
時間が経てば修復機能により回復するだろうが、今の状態では彼が生きているのか死んでいるのかさえ確認できない。
それにIS本体に対するダメージも大きく、動けずにいる。
「奴は・・・・・・?」
スケグルが2人に問いかけるが、2人は首を振り分からないと示す。未だに粒子は霧散せずに3人の視界を遮っている。
「ちっ・・・・・・センサーが完全に逝かれてやがる。スコール?」
「下手に動かないようにね、オータム。まずはこれが晴れるまで待つのよ」
そして、スコールが上を見上げた時、それを聞いた。
ゴゥ・・・・・・ン
――――
「―――なぜだ?」
「なぜ・・・・・・っ、2人係で―――ぐぅ!?」
それは無情の蹂躙であった。戦いとは『撃ち撃たれる』、たとえ既に勝敗が決まっていても戦いという概念において、互いに相手を撃つ。
その条件が重なってこそを戦いというのだ。
では、これはなんだというのか。2人の女性は、まるで木偶のように撃ち続けられるのみ。
先程までは、本当に皮一枚のレベルで、戦いと言う状態を繋げてこられたが、2人に相対している少女が自分の武器を一つ増やした瞬間に、この様相と成り果てた。
それは2機のビット。彼女のISの背部にある
だが、そのたった2機は既存の、もっと言えば彼女の以前のIS『サイレント・ゼフィルス』のものとは明らかに桁が違っていた。
ビットの速度、発射されるレーザーの威力、稼動可能時間。すべてが劇的に上昇している。
彼女に武器を向けた瞬間にビットにより破壊され、動揺した瞬間を狙ったライフルの一撃。
それで、ミストのISは既にダメージレベルCを突破。具体維持限界にはなっていないがそれも時間の問題。
「おのれぇっ、喰らえぇええ!!」
ミストと共に戦っている彼女は新たにスナイパーライフルを展開。狙いを付けることなくそのまま発射。
連続してトリガーを引く。BFF社製のスナイパーライフル『050ANSR』セミオート式で、かつ弾倉型のこのライフルの装填数は12発。そのうちの7発を発射するが、一発も彼女に掠る事なく躱される。
そして、向こうからのライフルを躱すが、それを見透かしたビットからの偏差射撃でライフルが破壊され、もう一機の一撃を喰らう。
「スルーズ!」
「心配か?」
吹き飛ばされた仲間に意識を向けた瞬間、背後から聞こえる声にブレードを薙ぎ払うもそれは新しく展開された一本の剣に防がれた。
「はぁっ」
「何!?」
レーザーブレードは実体の剣に弾かれ、さらにその剣での突きをくらって、ミストはスルーズの隣に吹き飛ばされた。
うつ伏せになりながらも、なんとか起き上がる。そして、自らを吹き飛ばした剣の全容を知覚した。
それは荘厳。
大きさは多少大型の物理ブレード。データで見た雪片と同じくらいの大きさの両刃の剣。
「冥土の土産に見せてやろう」
無駄な装飾を一切排し、敵を残滅することにその身を焦がしたひと振りの剣。
「『雪月花』をな」
だが、それでこそ美しいと、思える程に精錬された剣だった。
やや白い碧。僅かに霞む鏡面の刃。芸術的とはとても言えない簡素な造形。
なるほど、雪という程白くはなく、月というほど綺麗でもなく、花というほど鮮やかでもない。
だが、それでなくては、この美しさを生み出すことはできまい。そうでなくては、ただ綺麗な剣としか目に映るまい。
そう思える程に、それは完成された剣であった。
その専有された美しさに一瞬目を奪われた。だからだろうか―――
――――――――
その轟音に反応するのが遅れたのは。
――――
「―――――」
「・・・・・・?どうしたスコール」
未だ晴れぬ青緑色の霧の中である一点を見つめるスコールが気になり、声をかけるオータム。
次に見せたスコールの行動は、果たしてオータムの声に応えるものではなかった。
「っ―――!」
掌に炎の球体を作り出したスコール。そして、それを眼前の、未だ薄れぬ電子の霧の向こうへと撃ちだした。
「スコール!何やって―――っ!?」
「なんだと!」
オータムの声は霧を貫いた炎の弾丸が、突然爆発したことによって掻き消えた。
いや、突然と言うにはいささか齟齬があるか。爆発したのは、あまりにも至近距離だったのだ。
おそらく、10も飛んでいない。精々が6、7m程とんだところで、
「馬鹿な。何が起きている!?」
「オータム!残っているアームで全方位を撃ちなさい!」
「あ、ああ!」
驚愕に顔を歪めるスケグル。スコールはオータムに声を飛ばし、オータムはその声に多少戸惑いながらも応じ、残ったアーム、5本を使い、周囲全方向にレーザーを乱射した。
すると、それは全てホンの5,6mとんだところで、爆発して消滅する。
「シールドに、覆われているの?」
「馬鹿な!!内側に対しての防御シールドなんて、聞いたことねえぞ!!」
瞬間、何か大きな音が聞こえてきた。
ゴゥ・・・・・・ン・・・・・・
それは、何か巨大な物体が動くような音で、大きく、重く、低い音だった。
その瞬間、彼女たちは気がついたのだ。
「逆転の夢は、楽しめたかい?」
彼を、侮っていたと。
「じゃあ、目覚めの時間だ。もう、朝だよ」
突如、スコール達の間を一陣の風が抜け、青緑色の霧が霧散する。
視界が一気に開け、彼女達の目の前には彼がいた。
「レイ・ベルリオーズ・・・・・・」
「馬鹿な。コジマライフルをまともに食らって生きているだと・・・・・・」
「このシールドは、てめえの仕業か!?」
レイは、無言のまま右手を上に持ち上げ、パチンと指を鳴らす。すると、今まで何もなかったところから、赤い壁が彼女たちを覆っていく。
そして、シールドが完全に赤色に変わると彼女たちを覆っているシールドが浮かび、スコール等を空中へと運ぶ。そこで、初めて3人は、このシールドが、キューブ状のものだと気がついた。
「いくらこのISでも、コジマライフルの直撃を受けてはひとたまりもないです。ですので、切り札を切らせていただきました。最も・・・・・・」
レイはキューブの少しあとに浮かび、すぐにキューブの位置に並ぶ。
「それでも多少のダメージは受けましたが、まあ些細なことです」
そして、再び右手を上げる。今度は先ほどよりも大きく、恭しく。
ゴウン・・・・・・ゴウン・・・・・・ゴウン
その音は先程も聞こえてきた鉄の音。そして、その音はどんどん大きくなっていく。
「魔弾の射手という歌を知っているかい?」
「なんだと?」
レイの誰へとなく投げた質問に、スケグルが反応する。
「狩猟の神ザミエルの放つ魔弾は、どんな標的も絶対に逃げる事叶わず、その狙いは決して外れる事がなかったそうだ。―――ここで問題」
その問題とは、直ぐに思い至った。というより、最初の前ふりをしている時点で、こういう質問が来ることは誰でもわかるというもの。
「『絶対に外れない攻撃』って何かな?」
ゴウン・・・・・・ゴウン・・・・・・ゴウン・・・・・ゴウン・・・・・
「当たるまで相手を追尾する弾頭かな?それとも全方位からの一斉射撃かな?・・・・・・僕は否だと言うよ。なぜなら―――」
彼の後ろに、光の粒子が集まり形を作っていく。それはISの武器を展開するのと同じものだった。
だが、武器一つ展開するために使うような粒子の量ではない。明らかにISの10倍以上の大きさの粒子が集まっている。これがISの武器というのか。こんな、それでは・・・・・・
それではあまりにも―――
「絶対に外れないということは―――逃げ場なんて、最初から存在しないものだから」
―――巨大すぎる。
「
轟音と灼熱と共に。その昔、第3帝国が作り出した重戦術兵器。おそらく世界で最強の破壊力と加害範囲、射程距離を持つ悪夢の大砲が顕現した。
「80cm列車砲。こんなものまで・・・・・・」
言葉が出ない。ありえない、馬鹿げている。あんなものが許されるというのか。
「こんな・・・・・・」
「何を呆けている!このシールドを破壊しろ!!」
「―――っ!!」
スケグルの言葉で2人は我に返り、自分たちを囲っているシールドの破壊しようとする。だが、スコールの火球や、オータムのレーザー砲ですらこのシールドにヒビひとつ入れられる様子はない。
果ては直接的な打撃を加えても、このシールドはこゆるぎもしないのだ。
「くそったれええええ!!」
オータムが怒り任せに5本のアームのブレードを展開し、一点に集中攻撃を加えるがそれでも一瞬たりとも揺らぐことがない。
「無駄だよ」
レイは、3人の行動を冷ややかに嘲け、シールドの周りに50を超えるシュマイザーとパンツァーファウストを配置する。
「このシールドは物理的手段では消して破壊できない。こんなふうにね」
言いながら、展開した武装での一斉射をはじめる。シュマイザーの弾幕に加え、パンツァーファウストの嵐を浴びてもなおこのシールドは揺れることすらない。まさに、物理手段での破壊は不可能に等しい防御力を誇っているのだろう。
「このシールドの破壊手段は、僕の知るところ2つのみだ。一つは零落白夜による無効化。もう一つは・・・・・・」
そこまで言ったところで、レイは口を閉ざした。そして、肩をすくめ、もう一度口を開く。
「いや、どのみちここで終わるあなた達に言っても仕方がない。それじゃ・・・・・・」
そう言うと、レイはキューブから距離をとる。そしてレイの行動に追従するように、列車砲の砲身角度が上昇する。歯車の噛み合い、回る音が重苦しく、死を宣告するカウントダウンのように感じた。
砲身がキューブと直線上になったところで、停止した。
「
レイの口からカウントダウンが流れる。もはや詰みとなったこの状況ではどうすることもできず、ただ黙って
放火を受けるしかない。ISの防御力は兵器として破格の能力を持つが、都市区画を木っ端微塵にして余りある一撃を受け
耐えられるとは思えず、歯ぎしりする。
「
カウントダウンが終わる。すると、砲口が除く面のシールドの一部が、弁状になっていたようで開いていく。
だが、それはおそらく砲弾をシールド内部へ入れるための穴だろう。どうみてもISが通れる大きさでなく、もし解除して外に出ても、
その瞬間シュマイザーによって蜂の巣にされるに違いない。
「き、きさまあああああああああああああああ!!!」
スケグルが最後のあがきとコジマライフルを放つ。
それは開いたシールドを通り抜け、まっすぐレイのISに飛来する。
その動きが予想外だったのか、レイは目を剥いて、驚いたような表情をする。
そして、武器を展開する間もなく、レイに着弾―――
―――したかに見えた。
「言ったよね?このシールドは物理手段での破壊はできないよ」
「――――――」
声にならない声を上げるスケグル。青緑色の粒子が晴れた先にみえたのは、非固定ユニットを眼前に据えているレイのISだった。
ユニットの前には、例の赤いシールドが展開されていた。
「
そして、閃光と轟音が轟いた。
キューブの形状がわからなくなるほどの光と音。衝撃はすら遮断するキューブの中にいるものなど、一瞬で灰になるだろう。その光を見つめ、レイは目を僅かに細め―――
「仇はとったよ・・・・・・カノン」
―――1人、静かに呟いた。
――――
そして、とてつもない閃光と轟音がミストたちの背後から轟いた。
「―――な」
「にっ・・・・・・」
ミストとスルーズは一瞬遅れて、その光景に反応する。
ISの機能によって光量が調整されるため、目がくらむことがない。閃光の中心部にあるのは10m四方のキューブ状の塊。底から膨大な光が漏れている。
そして、同時に轟音が。
そして、センサーから3人の反応が消失する。
「まさか―――」
「あっちは終わったか」
「っ!!」
向き直る2人の前に、ちょうどマドカが少し2人から離れた位置に着地した。その視線は閃光の方を見ている。
間もなく閃光は消失した。それを見届けたマドカは剣を完全に掲げる。
「さて、時間もない。手っ取り早く終わらせよう」
直後、彼女の機体、蒼いボディに通る真紅のエネルギーラインが、碧く光りだし。同じ色の粒子が放出される。
「何もできず死ぬがいい」
そして、彼女の剣が光を纏う。その光は剣を多い、碧の刃となる。
「『
「なんだ・・・・・・それは?」
「まさか、その機体の単一仕様能力、なの?」
2人の声にマドカは答えず、ゆっくりと剣を振りかぶる。輝きを増す機体と剣。それを、ためらいも躊躇もなく、振り下ろした。
「
振り下ろした刃から、碧い光のドームが3人を覆い、そのドームはどこまでも広がっていき、亡国企業の施設すら飲み込んでいく。
そして、何もかもを飲み込んで、そのまま広がりを衰えることなく、消滅する。
あとにとこったのは、巨大なクレーターと2機のIS。
亡国企業は今この時を持って、誰にも知られることなく世界から退場した。
感想、意見、評価、お待ちしています
きました。
反則
チート
なんだこりゃ
インフレ凄まじいなおい。
紅椿などただの試験機。
これがうさぎ博士の本気というものだ。
あ、設定上基本スペックは紅椿と同じですはい。
だって、紅椿の武装がしょっぱいからさ。これくらいはやってもいいんでない?と思ってやったわけです。反省は・・・・・・
退きません!媚びへつらいません!反省しません!
by聖人の帝sauza将軍