インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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無間流

修了式の後、自分の部屋で待っていると、すぐに蘇摩はやってきた。蘇摩のそばには大型のキャリーバッグが2つある。

 

「こいつに着替えとかいろいろ入れとけ」

 

蘇摩はそう言ってキャリーバッグの1つを俺に差し出した。

 

「遠出なのか?」

 

「ああ、多少な。すぐにここに戻ってこれるわけじゃない」

 

蘇摩はベッドに寝転んで、「終わったら声かけてくれ」と言って目を閉じた。

とりあえず、キャリーバッグには、入る分の着替えを入れておくことにした。

 

作業自体は5分とかからずに終わり、蘇摩に声をかけると、蘇摩は「OK」と言ってすぐに跳ね起きた。

そして、部屋のドアを開けて「行くぞ」といい、外に出る。無論俺もすぐにあとを追った。

 

学園から出て、蘇摩は駅の方へと歩き出す。

 

「電車使うのか?」

 

「いや、タクシーの方が早い。駅前にタクシーが並んでるからな」

 

学園からは、5分も歩けば駅にたどり着く。

 

タクシーはすぐに拾えた。蘇摩は俺に荷物をトランクに入れててくれと言ったあとで、何やら運転手と話している。

俺は荷物をトランクまで運んで、とりあえず自分のを入れる。そして、蘇摩のを入れるのだが、なんか少し重い。

多分服以外にいろいろ入ってるようだ。

 

少し手間取りつつトランクに入れて蓋を閉める。

 

蘇摩は運転手と話し終わったようでタクシーの席に座っていた。

 

「乗れ一夏」

 

「ああ」

 

蘇摩に促されるままに席に座り、ドアを閉め、シートベルトをする。

それを見た蘇摩は運転手に「出してくれ」と言って、タクシーは発車した。

 

発車してすぐ蘇摩は寝てしまい、どこに行くのかを聞きそびれたが、そこまで危険な場所にはいかないだろうとは思う。

 

だが、どうやら都会のなかに目的地があるわけではないようだ。

タクシーに揺られること1時間。既に人工物は少なくなり、自然が目立つようになってきたからだ。

とは言ってもまるきり田舎というわけではなく、少なからずコンクリの建造物が見える。

 

そうしておよそ2時間と40分ほどタクシーに揺られて、目的の場所についたようでタクシーが停車した。

 

「着いたか」

 

そして、まるで測ったかのようなタイミングで蘇摩も目が覚め、ドアを開けて外に出る。

そして、運転手にお金を出しているが、明らかに諭吉が複数枚出ている。

 

支払いが終わったところで、タクシーはそのまま帰っていく。

 

「・・・・・・」

 

「行くぞ」

 

「タクシー、行っちまったぞ?」

 

「安心しろ、帰りは駅から電車だ」

 

そう言って、蘇摩は歩き出した。俺は少しばかりため息をついて、蘇摩についていく。

 

――――

 

「―――ついたぞ」

 

タクシーの通れないような細い路地を進んで、そこについた。

外見は年季の入った寺のような建物で、立派ではないが頑丈そうな門がある。

門には表札が有り『無間』と表記されていた。

 

「蘇摩。ここって・・・・・・」

 

「無間流道場。俺が少しばかり、拳法の真似事を教えてもらった場所さ」

 

蘇摩はそう言って、門に手を置く。すると、意外にも簡単に門が開き、中に入れるようになった。

 

「まだやってるようだな」

 

蘇摩は少し懐かしそうに言って、中に入っていく。

俺も、蘇摩に少し遅れて入る。・・・・・・ここに来た時点で大体の目的はわかった。

 

俺、ここから生きて出れたら家の大掃除をやるんだ・・・・・・。

 

 

 

寺の扉を開けると、そこはかなり広い畳の間で奥に仏像のようなものが鎮座しているのが見える。

そして、ざっと見20人ほどのここの門下生のような人たちが、あるいは木刀で切り結んでいたり、あるいは無手で殴り合っていたり

、あるいは槍を振るっていたりしている。

 

その人たちが、扉が開き、俺たちが入ってきた瞬間に、動きを止めてこちらに目を向ける。

 

「悪いな。邪魔するぞ」

 

堂々、蘇摩は言い放ち中を進んでいく。

 

するとやはりというか、道場破りと思われたようで20代後半あたりの男が、声をかけてきた。

 

「失礼ながら、御手前は?

 

蘇摩は立ち止まる。

 

「蘇摩・ラーズグリーズ」

 

その名を聞いた瞬間、男は止まった。蘇摩の名前を聞いて、少しうろたえる素振りを見せる。

 

「蘇摩・・・ラーズグリーズ。だと」

 

「俺を忘れたか?木原東二」

 

蘇摩はそう言って、俺に振り向くと、顎で行くぞ、とジェスチャーをして先に進む。東二と呼ばれた男は、すぐに後ろに下がった。

そして、一番奥に座っている年配の人物の前にやってきた。

 

「久しぶりだな。ジジイ」

 

「ふん。貴様も、とっくにおっちんでるかと思ったが、生きていたようで何よりだな」

 

蘇摩は開口一番に年配の人に対する言葉遣いがアレで、相手もそれを咎めず、若干のブラックジョークで返してきた。

 

「裏の道場を借りたい。1週間ほどな」

 

「・・・・・・ダメといって聞く男じゃないだろう?全く・・・・・・好きにするが良い。ただし」

 

年配の人物は、手を叩く。すると、周りの人物たちが、皆壁際に下がり、内一人が前に出た。

 

「奴と戦って勝てたらな」

 

「おいおい」

 

蘇摩は両手を上げて呆れた、というふうな仕草をした。

 

「ま、仕方ないか」

 

蘇摩は振り返り、前に出てきた人物を見た。

一見すると、優男風で何処かだよりないような雰囲気がある。獲物は木刀を持っているところから刀あたりだろう。

 

「へぇ・・・・・・」

 

蘇摩は口元に笑みを浮かべる。俺もあの男が尋常な腕でないことはすぐにわかった。

刀を両手持ちで、低めに構える姿勢が、一切揺るがない。

 

そして、その男から発せられるような殺気も普通ではなかった。明らかにこの門下生の中でも頭ひとつ抜き出た人物だろう。

 

蘇摩は門下生の一人に目をやる。門下生の方も意図を察したようで、手に持っていた木刀を蘇摩に投げた。

蘇摩はそれを空中で取ると、静かに構えを取った。

 

門下生は両手持ち前のめり。蘇摩は片手持ち後ろ開き。距離は4m。

 

「名前は?」

 

「来栖凉です」

 

「良い名だ」

 

蘇摩は、僅かに姿勢をあげた。どうやら相手が仕掛けるのを待つようだ。そして、木刀の切っ先を上に向ける。

初めて見るが、おそらく蘇摩なりの受けの姿勢なのだろう。

対する凉と名乗った人物は、姿勢を落とす。蘇摩の誘いに乗るようだ。

 

「行きますよ」

 

「来い」

 

瞬間、来栖が迅雷の速度で蘇摩に迫った。

 

「!」

 

「フッ!!」

 

そして、そのまま突きを放つ。蘇摩はそれを紙一重で躱し、木刀を振り上げる。

それを凉は躱して、木刀で薙ぎ払った。

 

「はぁ!」

 

「ふん」

 

蘇摩はそれを再び紙一重で躱すと、木刀で突きを放つ。涼はそれを後ろに下がって避けた。だが、蘇摩はそれを踏み込んで、

さらに振り上げる。それを紙一重で躱すと凉は木刀を振り上げようとしたが、蘇摩が振り上げのあとに間髪いれた振り下ろし

を防ぐことになった。

 

「っくぅ・・・・・・!」

 

「どうした?」

 

凉は木刀を弾こうとするが、凉の両手で木刀を持つ力と、蘇摩の片手で持つ力、それはギリギリで拮抗しており、徐々に蘇摩に押され始めている。

 

「ふんっ」

 

「くうう!」

 

蘇摩が木刀を弾き、その力を利用して、凉は後ろに飛ぶ。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

蘇摩は動かずに、凉の出方を見る。涼は息を整え、どう攻めるかを思案する。

 

「なぁ、凉はここでも1位2位を争うやつだろ?」

 

「蘇摩・ラーズグリーズの伝説って、マジだったのかよ・・・・・・」

 

周りから、ざわめきが聞こえてきた。俺は蘇摩に虐待されたり、蘇摩の実力の一端を間近で見たことがあったから、そこまで驚かない。むしろあの凉と名乗った少年の

実力に舌を巻いている。

 

蘇摩に押されているが、それでも俺じゃいくら頑張っても勝てそうにないというのはわかる。

 

「はぁ!」

 

再び迅雷の速度で蘇摩に迫る。そして、今度は突きではなく切り上げ。だが、蘇摩はそれを一歩後ろに下がって回避し、カウンターに横薙ぎを繰り出す。

 

「くぅっ」

 

それを木刀の腹で受け止めるが、勢いを殺せずに、畳になぎ倒された。が、すぐに回転して蘇摩の突きを交わす。畳に突き刺さった蘇摩の突き。その隙をついて、凉は起き上がりざまに切り払う。

が、蘇摩はそれを一瞬早く木刀を引き抜き、紙一重で躱す。

 

「狙いはいいが、経験不足だな。動きのキレが足りない」

 

「はは・・・・・・流石ですね」

 

言いつつも、2人から笑は消えない。次に動いたのは、蘇摩からだった。

 

「いくぞ」

 

凉が迅雷だとすれば、蘇摩はまさに閃光。凄まじいまでの速度をもってして、間合いを詰め、木刀を振り下ろす。

 

「ぐぅぅっ」

 

凉は木刀で受け止めるが、体が吹き飛ばされる。1m弱後ろまで飛ばされ、体勢を直す前に、蘇摩の追撃がやってきた。

 

「そら!!」

 

「っく」

 

薙ぎ払われた木刀を躱してカウンターの一撃を放つが、それも蘇摩に躱される。だが、蘇摩が躱すときに距離をとったため追撃されることはなかった。

蘇摩が着地した瞬間を見計らって、凉が一気に攻勢に出た。

 

「お?」

 

「はあああ!!」

 

迅雷の突撃とその勢いを上乗せされ、繰り出される神速の切り上げ。蘇摩はそれを躱してカウンターの切り払いを放つ。

が、凉はそれを受け流し、上に弾く。そして、一気に木刀を手前に引き寄せ、さらに踏み込んで距離を詰めた。

 

「ちぃ」

 

蘇摩は表情に笑みを浮かべたままだが、舌打をして、距離を話そうと後ろに飛ぶが、尚も追従する凉。

そして、蘇摩が着地する寸前を狙い、神速の突きを放った。

 

その勢いを利用し、木刀を手前に引き寄せ、突きを放つ。

 

無間流剣術攻の型『虚空』その一撃を前にしては達人ですら防ぐことはかなわない。

本来相手の行動の間隙を縫う技で、躱している途中にくらうのだ。意識が間に合っても普通体が追いつかない。

追いついても力が出ずに、逆に突きにはじかれてしまう。

 

蘇摩の胸に木刀が突き刺さる。

 

勝利を確信する凉。その視線の先にあるものは共学に表情を染める蘇摩―――

 

「甘いな」

 

「―――っ!!?」

 

ではなく、以前変わらぬ笑だった。

 

凉の放った木刀は蘇摩の胸に向かって伸びているが、その切っ先は蘇摩の木刀の腹に止められていた。

バキッ。といった木の折れる音と共に、蘇摩の持つ木刀がへし折られるが、蘇摩はまだ無事だった。

 

「あっぶね。これ盾にしなきゃやられてたな」

 

「ですが、その木刀ではもう、戦えないでしょう」

 

言外に自分の勝ちを宣言する凉だが、蘇摩はまた構えを取った。

 

「なにこの程度で買った気になってるんだよ」

 

「ですが、その得物では」

 

「気にするな。剣が少し短くなっただけだ」

 

蘇摩はそう言って、姿勢を低くする。

 

「お前の実力はすごいな。確かに強いよ。経験が少ないなりによく勝ち方を考えている」

 

蘇摩はそう凉を賞賛した。凉は「ありがとうございます」と謙虚な姿勢で返す。だが、蘇摩は「だけどな」と言って、こう続けた。

 

「俺の勝ちだ―――」

 

 

瞬間

 

 

閃光のごとき速度で、間合いを詰める。蘇摩の構えは切り上げ。この距離では防ぐことはできない。

 

「く―――」

 

反射的に会費は不可能と判断して防御の姿勢をとる。

だが、直後に襲ったのは木刀にかかる重圧と衝撃ではなく。

 

自分自身への激痛と衝撃だった。

 

「ぐあああああ!!!」

 

その衝撃のままに弾かれる様に仰向けに倒される。そして、襲ってくる激痛の中で、頭が自分の身を襲った現象に対しての分析を始めた。

自分は蘇摩の攻撃に対して防御を取った。だが、取った時既に(・・・・・・)蘇摩は木刀を振り上げていた。

 

「―――!?」

 

その事実に驚嘆する。そして、自分を襲った攻撃の正体を理解し、さらなる驚嘆に包まれる。

 

「無間流攻の型。初段『瞬撃』か・・・・・・」

 

いつの間にか、自分のそばに来ていた久重師範がそう口にした。

 

「ああ。大したもんだろう?」

 

蘇摩は何気ない風に言い切り、再び口を開いた。

 

「裏の道場。使わせてもらうぞ?」

 

「構わん。好きにするが良い」

 

蘇摩は満足した風で、連れの男と一緒に裏の道場に行った。

 

「師範・・・・・・彼は、一体・・・・・・」

 

痛む肩を抑えつつ、師範に問を投げかける。

 

「天才。というものだよ」

 

師範の回答はそんな在り来たりのもので、だが、言葉の重みは、桁が違っていた。

それくらいは未熟な僕でも理解できる。僕も周りから散々天才だのと言われてきたが、僕の天才と彼の天才。その意味はまるで違う。

 

「だが、奴の天才はお前のような『天に与えられた才能』ではない。『天に限りなく迫る程の才能』とでも言うべきものよ」

 

師範はそう言うと、周りの門下生に「怪我の手当をしてやれ」そう言った。

僕は、生まれて初めて、尊敬という言葉の意味を知ったのかもしれない。

 

師範には敬意を、彼、蘇摩・ラーズグリーズには、尊敬という言葉を。僕は知ることになったのだ。




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使い捨てキャラ登場の巻。

来栖凉
年齢18歳
蘇摩を除けば無間流道場において剣術最強の男。
得意技は『虚空』
虚空とは、相手の動きの隙間を狙う、『無拍子』を攻撃に転化したもの。
突きはやっぱり躱しにくい。蘇摩ですら、木刀を盾にしなければならないほどの腕を持っているが、
哀れ、相手が悪すぎた。多分ライトノベルにちょくちょく出てくる剣道の全国ベスト8だとか準優勝、優勝だとかを軽くねじ伏せることは可能なレベルの実力。

モデルは蘇摩。(戦争に行かず平凡な日々を過ごしたVer)
と、若干沖田総司。


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