インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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すいません。1ヶ月以上が経過してしまいました。
最近PCと向き合う時間がお幅に減っていることに加え、PCがタチの悪いウイルスに引っかかり、
画面真っ黒でマウスだけポツンと浮かんでいる。そんな状況が続いていました。




間幕

放課後の屋上、人の気配が全く感じられないこの場所で、織斑一夏は一人竹刀を振るっていた。

 

「―――ふっ―――ふっ―――」

 

蘇摩が国外へ一度帰ると言った時とほぼ同じ時期から一夏はこの素振りを始めていた。

これを始めてからおよそ2週間。欠かすことなく行っている。

 

3時半から4時の間、30分という短い時間だが少しづつ竹刀の重量を増やしていっている。

今は最初に振っていた竹刀より4kgほど重くなっている。ここまで来ると、かなり振るうのに差が出てきて、この重量になってからまだ2日だが筋肉痛がひどい。

なぜ、こんなことをしているのかというと、その理由は単純。

 

何よりもまず地力。

 

蘇摩は自分よりもISの技術が高いとは言えない。

授業中も、ISに関しては真面目に受けているとは言い難く、実際ISを使った訓練も体外専用機の中では一番低い点数を出している。

 

そんな彼がほかの専用機持ちと互角以上に渡り合っている理由は一つ。素の戦闘能力が非常に高いこと。

シャルやラウラ、楯無先輩など専用機持ち、それも国家代表候補生達はかなりの能力を持っていた。

それでも、蘇摩の能力は異常と呼ぶほどに高い。

 

筋力、スタミナ、バネ。何をとっても一級レベル。そして何よりあの反応速度は本当に異常だろう。

俺と箒を同時に相手取っていた時も、攻撃を全て避けるか防ぐかをしており、一発も当たることなんてなかった。

 

マドカが現れた時も、放たれる拳銃を全て躱していきあの瞬間移動のような技。

 

縮地

 

地を縮めるという仙人の御技。それの体現ともいうべき高速移動。正直、あんなのは漫画とかだけの世界かと思っていたけど、蘇摩は

普通に行使している。

 

あの技術を取っても、なお余りある能力値は正直言って千冬姉レベルだと思う。

そして、本人が言うには経験値が絶対的に千冬姉を含めて俺たちとは違うんだそうだ。

 

楯無さんに聞く限りは4年前から既にかなりの実力を持っていたらしい。

俺の現状の目標は、流石に蘇摩レベルとは言わないが、劣勢でも食い下がれるくらいにはなろうと思っている。

 

・・・・・・なぜ、急にこんなことをしているのか、その理由はまだ言っていないかな?

 

以前、蘇摩に言われた一言が、俺の頭に反響している。

 

『少なくとも、強くならなければ困るのはお前自身だろう?守りたいんだろ?自分の手にあるものは』

 

『なら、その大言を成せるだけの力をつけるのがお前の義務だ。そうは思わないか?』

 

蘇摩のあの一言、あれがあったからこの前の無人機の襲撃も『敵』を相手に善戦できたと思っているし、少し前にシャルと模擬戦をして

ギリギリとはいえ、勝利できたと思っている。

 

目指す場所は遠い。自分の手に届くものは、何もかもを守りきる。その為に必要な力は、限りない。

 

「712、713、71・・・4っ」

 

このあたりから、腕が上がらなくなる。そして、都合720回で素振りをやめる。

校舎の時計を見ると、3時50分過ぎ。時間もいいところになってきたので、今日はこの辺で自室に帰ろう。

 

竹刀を、袋に入れ屋上を後にする。

 

 

 ――――――

 

 

「ん?」

 

ふと、扉の前で立ち止まる。そして後ろを振り返った。

 

(いま、何か聞こえたような・・・・・・?)

 

だが、無論のことここには一夏意外に人はいない。

 

気のせいか。そう判断し、一夏は降りていった。腕に装備しているガントレットが、わずかに光っていた。

 

――――

 

自室のドアを開けると、上半身裸の蘇摩がいた。右手にシャツを持っているところを見ると、どうやら着替えていたらしい。

 

「一夏か」

 

蘇摩はこっちに気づいたようで、声をかけてきた。

 

「帰ってたのかよ」

 

俺はドアを閉めて、鍵をかけた。最近は何かとノックなしで開けられることや、ぶち破られることが多いため鍵をかけてないと不安で仕方ない。

かけていても、破壊されることがままあるため、あまり意味はないが、気休めにはなる。

 

「ああ、今日の昼前にな」

 

蘇摩はシャツを着て、ベッドに座った。そして、そのまま寝転がる。

 

「昼前にアリーナで楯無とやりあった」

 

「楯無さんと?」

 

一夏はバッグをベッドの脇に置いて、備え付けのポッドでお茶を注ぐ。

 

「ああ、いままでやりあってなかったからちょうどイイってさ」

 

「へぇ。それで、どっちが勝ったんだ?」

 

俺の質問に、蘇摩は右手を上げながら言った。

 

「ドロー」

 

「マジか」

 

蘇摩は一度起き上がり、一夏からコップを受け取る。そして、一口飲んでから続けた。

 

「あいつのIS応用力半端じゃねな。多少戦場は選ぶが、条件整えりゃ無敵だろ」

 

と言って蘇摩はまたカップのお茶を一口飲む。だが、そこにちょっとだけ違和感を感じて、蘇摩の手元をよく見る。

違和感はすぐにわかった。蘇摩のカップを持つ手が右手だったのだ。蘇摩は左利きのはずなのに、なんで右手で?と蘇摩の左手を見てみると、

鈍色の指が、グローブから生えていた。

 

「蘇摩。左手・・・」

 

「ん?ああ。ご覧のとおり、義手になってるよ。右利きに矯正中だ」

 

と言って、蘇摩は俺に目を向けた。そして、数秒して口を開く。

 

「多少、できるようになったな」

 

「ん?」

 

「歩き方に芯が通ってる。体重移動が上手くなってる証拠だ。カップを渡すとき伸ばした手にブレがない。応用力のある筋がついてきたようだな。

もう少し行けば、あとは経験さえ積めば伸びるはずさ。経験なしに技術は伸びないからな」

 

さらっと、数秒の俺の行動を見てこうも違いが判別できる観察眼も、蘇摩が強い理由の一つなのかなと、ふとそう思った。

これも、経験によるものかな。

 

「・・・・・・そうだ。来週冬休みだったろ?時間開けられるか?」

 

蘇摩がふとそんなことを聞いてきた。冬休み・・・・・・だったらはじめの一週間とちょっと。それなら開けられる。

ただ大晦日の2日前からは、大掃除とかいろいろあるから無理かな。

 

俺がそれを蘇摩に伝えると、「そうか」と言ったあと蘇摩は少し考え込んだ様子で天井を見上げる。

何やらブツブツと言っているが、小さい声のため、あまり聞こえない。

 

十数秒後、少し大きめの声で、「いけるな」と言ったあと、顔をこっちに戻した。

 

「OK。なら終業式が終わったら、ちょっと部屋で待っててくれ。連れて行きたい場所がある」

 

「連れて行きたい場所?」

 

俺が蘇摩の言葉を反復すると、蘇摩は「ああ」と答えたあと、言った。

 

「詳しいことは、その時に話す。だから、少し待っとけ」

 

そう言ったあと、蘇摩は「生徒会に顔出してくる」といって、部屋をあとにした。

 

蘇摩が部屋から出ると入れ違いで、箒が入ってきた。

 

「一夏。少しいいか?」

 

「箒?どうしたんだ」

 

箒は少し体をモジモジさせている。何か言いづらいことでもあるのだろうか。トイレかな?と思ったが、だったら今部屋に来る前に

済ませてくるだろうと思い直す。そして、女性がこういう態度の時は「どうかしたのか」と聞くだけで止めとけ。絶対に余計なことを

口走るな。と、蘇摩に言われているので、黙って箒が言うのを待つことにする。

そして、やがて言い辛そうに口を開いた。

 

「その・・・・・・こんどの冬休み・・・よ、予定とか、空いてるか?」

 

「あー・・・・・・」

 

どうしよう。蘇摩に1週間明けとけって言われたばっかだしな。どうしよう・・・・・・やっぱり、ちゃんと言ったほうがいいよな?

 

「わ、わりぃ。最初の1週間。蘇摩に空けとけって言われてんだよ・・・・・・」

 

「ぬっ・・・」

 

箒は黙り込んで、何かをブツブツとつぶやいている。

よく聞こえないが、蘇摩の名前が出てるから、多分恨み言でも言ってるのだと思う。

 

「あのさ、箒」

 

「奴もやつだ。私にあれだけ言っときながら・・・・・・む?なんだ一夏」

 

「空いてないのは最初の1週間だけだからさ、大晦日とか、新年とか。久しぶりに、一緒に行こうぜ?」

 

今さっき思い至ったことを口にする。冬休みは2週間ある。つまり、最初の1週間がなくなっても残りはまだ1週間ある。

それに、中学校3年のとき、俺は千冬姉と2人でしか行けなかったから、今度は久しぶりに箒といてもいいかなとも思う。

 

「え、あ・・・・・・ああ」

 

箒は突然の誘いに戸惑いながらも頷く。顔が真っ赤にして、うつむき

さっきよりも体を大きくもじもじと揺らしていた。そんなに嬉しかったかな?と首をかしげるが、少し経ってから

なにか思いついたように顔をバッとあげた。

 

「その時は二人で行くぞ!間違ってもほかの奴らを呼ぶんじゃない!いいな!?」

 

「え?でもみんなで行ったほうが・・・・・・」

 

「良くない!!絶対に良くないからな!!いいな一夏。このことは絶対誰にも言うな」

 

何やらすごい剣幕で、こっちに迫ってくる箒。いや、わかったからあまり体寄せてくるなよ。

 

「わ、わかったよ」

 

「よろしい」

 

と、箒は体勢を戻して、今度はさっきの剣幕とは打って変わって上機嫌な様子で部屋の出口へ歩いていく。

 

「いいな一夏。絶対だからな!!」

 

「わかってるよ。誰にも言わないからさ」

 

そう言うと、箒は笑顔でドアを開けて、部屋から出ていった。何やら、今年の冬はスケジュールの組立が大変そうだ。

 

「それにしても、箒の奴・・・・・・変わったな」

 

10月くらいからか、途端に暴力を振らなくなったというか、大人しくはなっていないが、それでも竹刀やISを使ってくることはなくなった。

さっきみたいにすごい剣幕で言い寄ってくることはあるけど、なんでだろ。

 

「楯無さんに、何か言われたのかな?」

 

と、そんなことを思いつつ、あっという間に過ぎていく1年を振り返ってしみじみ思う。

 

「今年って、俺何回死にかけただろ・・・・・・」

 

と。

 

この後に降りかかる1週間、とんだ地獄になることも知らずに・・・・・・。




感想、意見、評価、お待ちしてます。

知り合いから少し質問があったのでQ&Aいきます。

Q:蘇摩の直刀って具体的にどんなやつなの?
A:現実でも制作された特殊合金せいの車のドアを叩き斬って刃こぼれ一つしないリアル斬鉄剣と、同じようなもの。ただ、こっちのほうが技術的には上なので、もう少し切れ味が上。

Q:蘇摩って現時点で何歳?
A:17歳。一夏よりひとつ年上で、本来は楯無と同じ学年です。

Q:蘇摩って近接が得意なんじゃないの?結構中距離で戦うこと多いけど
A:蘇摩は、別に近距離が得意だからって銃が苦手ってわけじゃないんです。むしろ中は得意なんですよ。狙撃はダメだけど


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