インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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固め

「―――乾杯」

 

「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

 

グラスにワインやシャンパンを揺らし、俺らはホールでパーティー紛いのことをしている。

つい12時間前に1Mt級の核弾頭による爆発を見たばかりだというのに、豪胆な連中だ。

まあ、とはいえそれは俺にも言えることだし、久しぶりに大規模な作戦だったのでその祝いもあってかこうして本ビルの第42階のホールで祝いというかなんというか、

簡易な打ち上げを行っているのである。

 

「で、そんときの連中ときたらよ―――」

 

「フフッ。たしかそんなこともあったわね」

 

現状、このホールにいるメンツは合計で20人ほど。

 

RAVENS ARKの栄えあるAランカー9人に、そのオペレーター。そして、作戦立案者であるジャック・O・ブライエンに

 

「サラシキさん。貴方はどう思うかしら?」

 

「ええ、そうですね。彼はいつもそんな感じで―――」

 

このとおり、刀奈のやつもここに居るわけで、俺はホールの中心にあるテーブルから北を前に見て2つほど右、そして一つ後ろにあるテーブルを独占しているわけなのである。

現在飲んでいるのはワイン。銘柄は……まあそれなりに有名なやつだろう。

 

えっと……『Romanee-conti』フランス語か。ロマネ・コンティ。

 

俺はこういうのには詳しくないから、あまり興味もないし。まあ、美味しいかと言われれば美味しいかな?

 

「呑んでるか?」

 

俺の座っているテーブルの向かい席に、ジャックが座った。彼も彼でシャンパンだろうか、グラスに酒を淹れて飲んでいる。

 

「ああ、というよりも……なんか息苦しいよな」

 

「20人中、男は私たちのみだからな」

 

「換算して、10%か……どうせだ。やけ酒に付き合えよ」

 

グラスを持ち上げてジャックの前に持っていく。彼もこちらの意を察したのか、グラスをこちらに持っていく。

カチン、というグラス特有の甲高いおとがなり、乾杯が成立した。

 

「Ms.サラシキには付いていなくてもいいのか?」

 

「あっちはあっちで姦ってるよ。セラも自制のできる人間だ。特に問題はない」

 

「そうか……」

 

そして、ジャックはどこからかボトルを2本取り出しテーブルに置いた。一本はシャンパン。もう一本は俺が飲んでいるワインだった。

 

「好きなだけ付き合ってやろう。今日は特別だ」

 

「サンキュ」

 

それだけ言って、俺はワインのグラスを飲み干す。ジャックはグラスをテーブルに置いて、今度は懐から折りたたまれた紙を取り出した。

そして、それを広げテーブルの上に置く。

 

「ん?」

 

「先ほど入った情報だが、GAEがGA本部により粛清されたことは知っているな?」

 

「ああ。この前大々的にやってたな」

 

GAE……正式名称は『Global Armaments Europe』日本語表記でグローバル・アーマメンツ・ヨーロッパ。アメリカで最も巨大と言われている企業、GAのヨーロッパ支部であり、

フィンランドの企業『アクアビット』と提携している。半ば本社とは独立している節が有り、アクアビットへの癒着などが問題視されていた。

そして、それに対してGA本社が大規模な粛清行為を行い、アクアビットが正式に報復を宣言したのが6日前のできごと。

 

「そして、その報復による戦闘で、GA社、ひいてはアメリカのIS操縦者が2名重傷を負い、1人が死亡した。対してアクアビットは大したダメージを受けることはなかった」

 

「テペスがやったのか?」

 

「いや。やったのはフィンランドの代表候補。P.ダムという人物だ」

 

「へぇ……」

 

意外だった。つまり、フィンランドの代表候補に、名高いアメリカのIS操縦者が、3名もやられたということになる。

P.ダム……面識はないが、かなりできる人物のようだ。

 

「……それで、どうなった?」

 

蘇摩は話の続きを促す。

 

「……無論、これによって国家間に重大な問題が発生したことになる。国連はなんとか話し合いで収めようとしているが、もはやそんな余地はない。アクアビットはGAEのハイエダ工場に

いた技術者や、開発兵器。アメリカは重要な戦力を大幅に削がれたのだ。そして……」

 

一度、ジャックは言葉を切り、周りを見渡した。

それで、ジャックの言わんとしていることは容易に予想がついた。全く……こんなことで、まさかARK全体の危機になるとは、な。

つまり、こういうこと。

 

「これをきっかけに、今まで溜まっていた国家間や企業間の溝がさらに深くなり、それにより2つのせいろy国別れ始めている」

 

「レイレナードと、GA.オーメルか?」

 

「そうだ」

 

ジャックはここでグラスに手を取り、中身を飲み干した。

 

「レイレナードには、設立当時から関わりの深いアクアビット。GA社と因縁のあるイクバールに、アクアビットと提携しているインテリオル・ユニオングループにローゼンタールと対立したBFFが付く」

 

「対してGAには、ローゼンタールにオーメルか。物量ではGAが圧倒しているが……」

 

ジャックの言葉に続けた蘇摩。そして、その蘇摩の言葉にさらにジャックが付け加える。

 

「レイレナード陣営の方が、ISの操縦者がはるかに多い、加えて練度も高い」

 

「しかも、ARKのAランカーも多い」

 

「どう考える?」

 

ジャックの問に、蘇摩は一瞬思考するが、すぐに口を開いた。

 

「レイレナードの優勢だ。GA側にセラスクラスの化物でもいれば話は別だろうが、あいつレベルの人間が向こうにいるとは思えない」

 

「同感だ」

 

ジャックは蘇摩の言葉に同意し、そのまま言葉を続ける。

 

「だからと言っても、楽観できる状況ではない。おそらくAランカーの全員がそれぞれ所属している国へ帰国することになる。さらにはACの実戦試験も終わったばかりで、各ランカーへの配備もままならない。この状態で、Aランカーというフラグシップを失うことは、RAVENS ARKの崩壊を意味しかねない状態だ」

 

「だが、戦争は避けられない」

 

「そう、故に我々にできることはひとつのみ……」

 

ジャックの言葉に蘇摩は不敵に笑った。そして、椅子から立ち上がる。

 

「おーいそこらへんで姦ってるバトルジャンキーども」

 

「いったい誰がバトルジャンキーなのか、納得のいく説明が欲しいな」

 

「何かしらソーマ」

 

「てめぇ、一番ジャンキーなのは誰だよ」

 

Aランカーが全員、反応し蘇摩の周りに集まってくる。蘇摩は真ん中に置いてある観賞用の通常の5倍近い大きさのグラスにワインを注いだ。

丸々一本使い切って、グラスの7分目までを埋める。

 

それを片手で持ち上げて、言った。

 

「お前らなら、これからの情勢を理解できているはずだ」

 

その言葉に、Aランカー全員が神妙な顔付きになる。普段は決して酒などを飲まないアンジェやテペスまでもがこの場で打ち上げに興じていたのもその理由があったから。

 

「もしかしたら、今日が全員一堂に会する最後の機会になるかもしれない」

 

「……」

 

「はん」

 

「……」

 

蘇摩の言葉には、全員が思うところがあったようで、一部の人間は鼻で笑うも、誰しもがその言葉の重みを理解していた。

だからこそ、最後になるかもしれないこの今を楽しんでいた。

 

「だから……」

 

蘇摩は考えたことがあった。もう最後になるかもしれない顔ぶりを見渡しながら、言葉にわずかの祈りを交ぜつつ、口を開く。

 

「またいつか、このメンツ全員で酒を組交わせることを願って……固めといこうじゃないか」

 

まずは一口。蘇摩がてに持ったグラスを飲んで、一番近くにいたサーに手渡す。

 

「っと」

 

通常の5倍近いグラスを受け取り、それを両手に持ちつつ彼女は笑って言った。

 

「だな。本当にまた組交わせるせるのが何人になるかは知らねえが、こういうのは悪くない」

 

一口飲んで、隣のテペスに渡した。

 

「ふむ。確かに、何人になるかはしれぬが、いつの日か」

 

一口飲んで、近くにいたアンジェに渡した。

 

「私は、こういうのは苦手だが……」

 

素直じゃないことを口にしつつも、彼女だってここに集った者たちを友と思っているからこそ。

少量、口に含んで、スミカに回した

 

「まあ、全員で介する可能性も、少ないなりに存在しているのだからな。いいんじゃないか?」

 

彼女らしい、妙な自信がこもった言葉とともに一口飲み、ロスヴァイセに回した。

 

「……では、そうであることを祈ろう」

 

スミカの言葉に同意し一口飲んで、イツァムに手渡す。

 

「それじゃ、私たちの、再開を祈って……」

 

彼女もいつか、全員で再開することを祈って、ワインを飲んだ。そして、

 

「あなたも飲みなさい。サラシキさん」

 

そういって、少し離れた場所にいた刀奈にグラスを手渡した。

 

「え、いいの……?」

 

「もちろん」

 

「異存はない」

 

「さっさと飲みな」

 

刀奈の言葉に、ほかのAランカーは口を揃えて、頷く。刀奈は最後に蘇摩を見る。

 

「早く飲んじまえよ。刀奈」

 

普段の彼にはおおよそ似つかわしくない、ひどく穏やかで、優しい声でそう促した。

 

「……ええ」

 

刀奈は少し微笑んで、ワインを飲んだ。

丁度そこで、ワインは枯れる。刀奈はワインをテーブルに置く。それを蘇摩が片手でひょいと持ち上げ、口を開いた。

 

「んじゃ、また会おうぜ、馬鹿どもが」

 

瞬間、グラスを床に叩きつけた。

 

――――

 

 

 

そして、1月後。

 

後に第3次世界大戦。

 

通称『IS戦争』と呼ばれる戦争の火蓋が落とされたのであった。

 

 

 

――――

 

「おおお!!」

 

一夏の白式が、突進し「雪片二型」を振るう。それは、シャルロットの駆る『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』の物理シールドに止められるが、白式は止まらない。

刃を止められた状態のまま、『瞬時加速』を行使。ラファール・リヴァイブを押し出す形で、アリーナを駆ける。

 

「っくう」

 

「まだだあ!」

 

さらに、片手を雪片から離し『雪羅』を起動、砲撃モードにして、ゼロ距離射撃を浴びせる。その標的は、ラファール本体ではなくラファールの右手だった。

砲撃で、アサルトカノンを持つ右手を弾く。そして、雪片を弾き、ラファールから距離を取ると同時に雪羅による砲撃を加える。

 

「くううううっ!」

 

「これでえ!」

 

砲撃により、バランスが乱れたラファールに再度突撃する白式。ラファールはバランスを立て直そうとするが、それよりも先に白式の剣がラファールを捉える

シールドで防ぐも、今度は雪羅のエネルギクローがシールドを押さえ込んだ。

 

白式は片手に持った雪片の『切り札』を発動させる。

刀身が割れ青白いエネルギーの刃が展開された。白式の単一仕様能力(ワン・オフ・アビリティ)『零落白夜』の刃がここに発現される。

それはエネルギーをことごとく無視し、消滅させる必殺の刃。使用には自らのエネルギーを使用する諸刃の剣。

 

自らを危険にさらすその武器は、故に絶対的な攻撃力を持つ。

 

その刃の出現に、ラファール・リヴァイブの搭乗者は思わず息を飲む。だが、右手には僅か1秒足らずで展開されたショットカノンがある。

それを白式に向け、トリガーを引く。

 

だが、それと同時に雪片の刃はラファール・リヴァイブのシールドを薄紙のように突き破り、胸部の装甲に、極浅く突き刺さる。

エネルギーを減少し続けるなか、ショットカノンを浴びる白式と、絶対の刃を受けたラファール・リヴァイブ。

 

単純なダメージレースの結果。それは

 

『勝者。織斑一夏』

 

白式の勝利で幕を下ろした。




感想、意見、評価、お待ちしています


Q&A。再び。



Q:楯無のISに原作と違うところがあるけどどったの?
A:原作の楯無のISに不満を持ったんで変更しました。ミストルテイン?使用時に自滅するリスクを持った兵器なんておかしいでしょ。そういうことです。

Q:原作で楯無のISのワンオフ出たけどここでも同じの出すの?
A:たしか超広範囲拘束結界?だったけ?出しません。
理由は、既に別の能力を考えています。簡単には、拘束ではなく、傷ひとつつけた時点で勝ち確になるくらいえぐいのを。

Q:セラって蘇摩とどういう関係?
A:プライベートでは、まあ兄妹的な関係だと思いますよ?うん。

Q:ぶっちゃけセラスに誰も勝てない予感が……
A:だ、だいじょうぶ。それでも蘇摩が、蘇摩なら何とかしてくれる……(震え声)

Q:千冬はもう戦闘では出てこないの?
A:はい。彼女には戦闘面では、退場してもらうことになりました。実は少し前までは死んでもらう予定でしたがそこまでするのはさすがに気が引けたのでこうなりました。

Q:ついにレイのISが一部公開されたけど、何それ?1メガトンの核?ピー○・ウォー○ーかよ
A:ああ、ですね。核弾頭については確かにそれを使いました。ですが、もっとゲスなISですよあれは

Q:簪ちゃんの趣味が……
A:はい。蘇摩の雰囲気に影響された結果です。

Q:カナダの国家代表とレイの苗字がかぶっている件について
A:あ、本当だ……。まあ、偶然ということで処理しましょう。

Q:登場人物使ってSAOも書いてくれないかなー……(チラッ
A:……あーうん。(遠い目

Q:どうでもいいが、主人公そんなに嫌われていたの?それに驚いた、普通にいいと思うんだが・・・・・。
A:完全に読者の受けを考えてないですからね。書き方がヘタこけば一気にメアリー・スーになりかねないので。今はぎりぎりメアリー・スーの定義には入ってないすけど。やっぱり蘇摩のキャラは人受けが良くないんですよ。性格とか言動とか。ちなみに知り合いにウケがいいのはどっちかというとレイの方だったりするんですよ。

今回はこんなところです。質問等ありましたら感想欄にどぞ。


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