インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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軍人S傭兵 Ⅱ

「うそ!?」

 

「そんな!?」

 

「馬鹿な!?」

 

「マジかよ!?」

 

「やっぱり・・・・・・!」

 

アリーナの観客席にいる一夏達も、目の前で起こった光景が信じられずに目を疑った。それもそのはず、完全にAICに絡め取られ、運動を停止した砲弾が、停止した瞬間に爆発したのだ。

慣性を止めるAICも、爆発のエネルギーまでを防ぐことはできず、有沢の誇る100mm砲弾の爆発はかの88mm(アハトアハト)を遥かに凌ぎ、椀部用に作られた武装では最強クラスの破壊力を持つ榴弾である。

だが、代表候補生たちが、驚きの声を上げる中、シャルロットは自身の予想が当たったことが幸いして、驚愕とまではいかなかった。だが、予想していたとは言え本当に目の前で起きたことには

驚きを隠せない。

 

「や、やっぱりってシャルロット!あんたこんな展開になるってわかってたの!?」

 

鈴がシャルロットの言葉に食ってかかるような形で疑問をぶつける。シャルロットは困惑に苦笑いを浮かべた。

 

「わかってたって程じゃないけど、ある意味予想は出来たって感じか・・・・・・な」

 

「だったら、教えてくれ。アイツは何をやってラウラのAICを掻い潜ったんだ?」

 

シャルロットの言葉に今度は一夏が疑問を口にする。シャルロットは「あくまで予想だよ?」と断りを入れ、自身の予想を口にした。

 

「彼が狙ったのはラウラじゃない。彼が狙ったのは―――

 

――――

 

(っく。何故、停止結界で、奴の撃った砲弾は止めたはず。なのに―――)

 

そんなラウラの思考を読んでかは知らないが、蘇摩はしてやったりと言いた表情で口を開いた。

 

「マシンガンの銃撃を止めたあと、AICを一度切らなかったのは失敗だったな。あれだけの的が浮かんでるんだ。撃つのは簡単だったよ」

 

そこまで蘇摩が言ったところで、彼女は理解した。そうか、狙ったのは私じゃない。やつが狙ったのは―――

 

「―――狙ったのは私が止めた(・・・・・)銃弾か!?」

 

そう、蘇摩が撃った砲弾は、ラウラが先にAICで停止させていた銃弾に当たったのだ。それも、AICで停止するすのとほぼ同時に。ラウラは蘇摩が銃撃を止めた後、すぐに糠平を呼び出したのはラウラに

砲撃を迎撃するためにAICを切らせないためだ。

 

蘇摩は接近戦を仕掛ける気でいた。だが、正面切って突撃したところでAICに固められるのがオチだろう。隙をつこうにもよっぽどのことがない限り、ラウラはすぐに体勢を立て直し、

迎撃してくるに違いない。ならばどうする?答えは一つだ。

 

よっぽどの隙を作ればいい。私には何がある?彼女には何がある?それを使えば私はどうなる?彼女はどうなる?持てるものを使い相手の動きを予想して戦術をその場で立て、実行する。

複雑な戦術はいらない。複雑にすればするほど応用が効かなくなる。応用が効かないということは相手が予想外の行動をしたときにその戦術は崩れ去る。

 

多少アバウトでも確実で簡単な戦術を取る。それが、戦線での生死を分ける数少ない要因の一つである。

 

――――

 

「なんか、聞いた限りだと結構簡単なものなんだな」

 

シャルロットの説明を聞いた一夏感想はそれであった。聞いたほかの代表候補生たちも、聞けば少々拍子抜けしてしまっていた。だが、同時に簡単なことでも戦闘開始から今の時間は

2分立っていない。たった2分足らずで、考えることはともかく実行するとなると国家代表でもできるのは数人程度になるかもしれない。

 

それほどに蘇摩・ラーズグリーズは戦闘というものに慣れていた。

 

「それでね。僕が予想できたのはもう一つあるんだけど」

 

シャルロットの口から出たのは一夏たちをさらに驚愕させるものだった。

 

――――

 

激化する二人の模擬戦。だが、激化していると同時に、一方的なものへともなってきている。

 

蘇摩とアビス・ウォーカーは突進力を活かした一撃離脱を繰り返し、自身の間合いで戦闘を掌握しつつある。一方ラウラとシュヴァルツェア・レーゲンはその場で、停止したまま4方に

駆け回るアビス・ウォーカーを捉えきれずに、格闘戦を許してしまっていた。無論ラウラも接近戦をさせまいと両腕のプラズマブレードを起動し蘇摩の斬撃に耐えているが、蘇摩の搭乗IS、アビス・ウォーカーに装備されている大剣による格闘能力が異様に高い。

 

(これが白い閃光(ホワイト・グリント)の実力か・・・・・・。たった一人で一個中退を殲滅したのも頷ける。だが!!)

 

大剣の一撃をなんとか受け流し、次の攻撃に備えAICを展開する。だが、またしてもAICの有効範囲ギリギリで蘇摩は急上昇し、こちらへ向けて急降下してくる。すぐに手を向けるが、その前に

大剣の一撃が襲ってくる。

 

咄嗟に両腕をクロスさせ、プラズマブレードで受け止める。だが、衝撃が強くて、PICによる補助があるにもかかわらず大幅にノックバックされる。比較的細身の大剣で、奴は左手一本で振るっているにもかかわらず

なんて威力なのだ。

 

「ぐううっ・・・・・・!」

 

(なぜだ!?なぜこうも接近しているのにAICに掛からない?まるでAICの有効範囲を知っているかのような対応だ・・・・・・ッ!?)

 

そして、ラウラはある可能性を思いついた。先ほどの機関銃の乱射、あれはさっきとはまた違った狙いがあったのではないか。それは―――

 

――――

 

「彼のさっきの乱射は、ラウラのAICの有効範囲を測るためでもあったんじゃないかって」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 

言葉が出てこなかった。シャルだって何度かAICに自分の銃撃を止められている。でも、それでもうまくAICの有効範囲は掴めずに、何度か機体を絡め取られ、敗北を喫することもあった。

それなのに、彼はいとも簡単に、たった一度相対しただけでAICの範囲を掴んだというのか。

 

「多分、ラウラと彼の戦闘経験の差だと思う。ラウラは軍人だし、織斑先生からの訓練も積んでいるから相当強いよ。でも、やっぱり彼とは業の深さが違うんだよ。もちろんこの場にいる全員よりも

彼は業が深い。だってずっと戦場にいて戦ってきたっていうから、彼のISの操縦技術は一夏より低いはず、でも絶対的経験値が違いすぎるんだ。ぼくたちと彼とでは」

 

そこまでシャルロットがいったところで、試合終了のブザーが響いた。一夏たちがアリーナを見ると、勝ったのはどっちなのか。アナウンサーが流れる。

 

『試合終了。勝者、ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

「え・・・・・・?」

 

シャルロットが、素っ頓狂な声を上げた。試合では断然有利だったのは蘇摩だ。だが、勝ったのはラウラ。アリーナの方も、両者釈然としない表情をしている。どうやら、蘇摩のISが突然具体維持限界(リミット・ダウン)を起こしたらしい。そして、蘇摩の機体システムをラウラとふたりで見ている。20秒ほど経ったところで、ラウラが素っ頓狂な声をあげた。

 

「なんだこれは!?ジェネレーターバルブがフルオープンではないか!?こんな設定でよく今までエネルギーが持ったものだな!?」

 

「いや、俺も初めて気づいた。なんでバルブが開いてんの?」

 

「こちらが知りたい!!」

 

なんともいたたまれない雰囲気になってきた。蘇摩のIS学園での初戦闘は何とも情けない理由での敗北となった。

 

――――

 

「終わったか、山田先生」

 

アリーナの管制室では織斑千冬と山田麻耶が、アリーナの戦闘記録を確認していた。終わったか、というのはその記録に出ているあるISをスキャンした結果である。麻耶は「はい」と短く

返事をして、画面に表示されているデータを読んだ。

 

「機体のスペックは、基本的にはラファール・リヴァイブより、少し高い程度のものです。強いて挙げるならば、異常に高い瞬発力と瞬間加速能力でしょうか、パワーアシストも一般から見れば高い方ですが、それでも甲龍に迫るほどではありません。期待能力を簡単にまとめると、突進力がすごく高いラファール・リヴァイブ・カスタムといったところでしょうか」

 

「ふむ」

 

千冬はあのISが映し出された画面を見る。あのISとは、他ならぬ蘇摩の『アビス・ウォーカー』のことだ。麻耶から提示された情報からでは凄まじく高い突進力意外に突出した能力はなく、

一つだけ、目を引いたのは特殊武装であったが、それといった特別なものではなかった。

 

「あの模擬戦で使わなかった武装は、特殊武装の他に初期装備の大盾とレイレナード製のレーザーブレード、アサルトライフルくらいか。これといって目を引くものはないな」

 

「特殊武装も第3世代用とは違って、どんな機体でも使えるようなものですしね」

 

総じて、凄まじい突進力を除けば特にこれといった特徴がない、搭乗者の能力がダイレクトに響く機体というところだ。

 

「こうして見ると、なんだかおかしな機体ですね」

 

「・・・・・・そうだな」

 

千冬は蘇摩の能力の片鱗を見せつけられたような気がした。つまり、彼は機体スペックに頼らず自分の能力で勝負をしていたということになる。そのへんはシャルロットと通じる部分があるが、彼女の場合は、期待能力の差を埋めるほどの技術と豊富な武装を瞬時に切り替え、いかなる状況にも対応できる柔軟さがある。一方彼の場合はISの登場経験がほとんど無い状態でのあの戦闘力だ。白い閃光の異名は伊達どころか、噂に流れている話の方が可愛く見えてきた。

 

(あれが護衛として一夏のそばにいるとなれば。、これからあいつに来るであろう危険にも最低限の安全は確保できている、か・・・・・・だが、あのバカが黙って見ているはずもない。これからどうなることやら・・・・・・)

 

千冬は、これからのことを考えると頭痛がしてきて、麻耶に気づかれぬよう、そっとため息を漏らした。




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