第43話:神都
「我が家だ!!」
モモンガたちは懐かしき我が家、ナザリック地下大墳墓に帰還する。思い返せば今回の
今はとにかく羽を伸ばしたい。
「ボクたちお風呂入ってくるから」
やまいこがユリを伴って大浴場へ向かう。今のやまいこはシモベたちの為に
やまいこ本人が醜い
ちなみに、クレマンティーヌは別行動だ。スレイン法国の最高執行機関とやらが事あるごとに連絡を寄越せとうるさいらしい。本来であれば彼女に箝口令を敷くのが“正しい”のだろうが、彼女は部下ではなくあくまでも同盟者であることと、核心的な機密情報は与えていない為にその裁量は本人に任せている。
モモンガは2人を見送り、何処からともなく現れたメイドを付き従えて自室に向かう。
苦手だったメイドへの対応もそれらしくできるようになったのは実に感慨深い。彼女たちのどこにでも付いてまわる行動も、“そういう習性”として受け入れてしまえば幾らか気が楽になった。
執務室に改装した居間にメイドを控えさせ、モモンガは独り寝室に籠る。このナザリック内で他人の目が無い唯一の空間だ。
人目が無いことを良いことに、キングサイズの豪華なベッドに大の字で飛び込む。間を置かずにシェイプチェンジを解くと、“
「はぁあぁぁ~……、生き返る」
生者から
モモンガはベッドに寝ながら依頼を振り返る。
あの後、バハルス帝国は僅か半月ほどで援軍を派遣した。アゼルリシア山脈の険しい行程を思えば相当な強行軍だったはずだ。表向きは
この帝国の動きにアインズ・ウール・ゴウンとしてどうこうするつもりはない。フィオーラ王国と
それに、皇帝のジルクニフには漆黒の働きを正当に評価してもらったので、モモンガのジルクニフに対する心証は良い。アウラが現れるまでの僅かな活躍だが、漆黒が
そして帝国といえば解呪の約束を交わした四騎士のレイナース・ロックブルズ。
彼女は正式な手続きを経てナザリックで引き取る事になった。彼女の新たな勤め先は、アルベドが管理する男子禁制の神社。あそこに配置した戦力は決して少なくはないが、“参拝者に対応できる者”となると話は別だ。
現状は巫女や陽光聖典に所属する女性隊員が担っているが、できればナザリックの息がかかった者を配置したい。
――さて、どう育つものやら。
正直、レイナースほどの人材を神社で燻らせるのは勿体ないとモモンガは考えている。しかし、帝国が彼女を簡単に手放した要因でもあるのだが、解呪に伴い一部の
ただ、これは決して悪い事ではない。レイナースの
因みに失った
直前まで呪いに苦しんでいた相手に、それも女性に向かって「再び呪われろ」とは我ながら随分と酷な話だ。
「少し考えれば気づけたはずなのに……、ゲーム脳を晒してしまったな」
交渉事において相手への配慮にはそこそこ自信があったはずだが、どうも
今は考えを改め、漆黒聖典や巫女たちと訓練をかさねることで消えずに残った信仰系の
――上手くやれば
現在、“現地人の成長限界”を理由にアインズ・ウール・ゴウンはレベリング事業を凍結している。レベリングを施しても
だが、
ニニャのように運よく素質と
――問題は規模、か。
種族問わず、レベリングした後に有益な
スレイン法国の統計によれば
「うーん、
最終的に守護者たちへ丸投げすることになりそうだが、まずは相談だ。最初にやまいこ、次いでパンドラズ・アクターだろうか。
――あとは、ラナーか。
階層守護者の補佐として“領域守護者”の地位を与えた少女の事を思い出す。現地人の事は現地人に聞くのが一番かもしれない。
――まあ、今はレイナースだな。
やまいこには常々「ギルドのことを独りで抱え込むな」と釘を刺されているので“事業としてのパワーレベリング”を思考の外へ追いやり保留とする。
まずはレイナースをどう強化するかだ。
――“蒼の薔薇”のリーダーみたいに復活魔法でも覚えてくれればいいんだけど。
「そうだ、第一階層を攻略させてみるか。聖属性の武器を持たせれば効率も上がるだろうし、自動ポップするモブなら懐も痛まない。うん、有りだな」
モモンガは名案を思い付いたとばかりに
翌日、モモンガの執務室でやまいこを交えてアルベドから“売上”の報告を受ける。
モモンガたちは共栄圏が順調に広がる中、暇を持て余した階層守護者に現地で得た素材や技術、または人脈を利用しての“金策”を課していた。何を売るのか、その手段は各人の自由。強いて禁止している事と言えば、“市場を過度に荒らさない”と“
――ああ、懐かしいなぁ。
売上報告をするアルベドを眺めながら、モモンガはユグドラシル時代を思い出す。
ユグドラシルはゲーム内のリソースを基にプレイヤー主体の自由経済が成り立っていた。しかし、システムによる干渉が最小限だったものの、課金や
そして、かくいうアインズ・ウール・ゴウンも市場操作をした事がある。ギルド戦の延長で市場を攻撃的に操作したのだ。
しかし、これは実行するにあたってギルド内で賛否が分かれた。
――あの時は大変だった。
“ぷにっと萌え”を筆頭にした“ギルドの利益や報復を優先する派”と、生産職の“あまのまひとつ”を筆頭にした“無関係な人を巻き込みたくない派”で対立が起こったのだ。
最終的に“音改”が間に入り、
――音改さんのバランス感覚には助けられたなぁ。
ギルドメンバーの音改は商人系の
「モモンガ君、銭ゲバなんて言葉、よく知ってんね」
そんな彼の言葉が懐かしい。あの時は愛想笑いで誤魔化したが、実のところドイツ語由来だったから記憶していたに過ぎない。
和を重んじる“鈴木悟”としては他人を顧みずに市場を破壊する銭ゲバを良しとはしていない。給与の全てを課金に回していたのでどちらかといえば浪費家だ。
ただ、ゲーム内の“モモンガ”としては真逆だったなと懐古する。ギルドを維持する為にやむなく金貨を溜め込むようになったのだ。そして今は守銭奴の
なにせギルドを維持するのに金貨が必要にもかかわらず、この転移した世界の金貨はユグドラシル金貨の半分の価値しかないのだ。ケチと言われようと無駄を嫌うようになるのは仕方のないことだと自分に言い聞かせている。
「モモンガ様、やまいこ様。以上が売り上げになります」
「ご苦労、とても分かりやすかったぞ」
手元の報告書を斜め読みしながら思い出に浸っているとアルベドが報告を終える。
この金策はシモベたちが組になって活動している。アルベドとティトゥス、ソリュシャンとセバスとシャルティア、アウラとマーレとコキュートス、デミウルゴスとラナー、パンドラズ・アクターとンフィーレアがそれぞれ協力している。
競わせている訳ではないので優劣は無いが、あえて順位を付けると売り上げ一位はアルベドとティトゥスの組だ。神社を介して得られる収益が凄まじい。今はスレイン法国内からの参拝客しかいないが、今後アインズ・ウール・ゴウンの存在が広まり街道の安全が確保できたなら、他国からの参拝客も期待できるだろう。
次点で稼いでいるのが意外にもソリュシャンとセバスとシャルティアの組だ。ソリュシャンらが商人として広げた人脈を利用し、シャルティアが考案したジョークグッズやコスプレ衣装が売れている。
シャルティアの生みの親、ペロロンチーノの欲望が駄々洩れしているだけのような気もするが、なんにせよ共栄圏内の住人に幾ばくかの余裕が生まれたのは僥倖。趣味嗜好に意識を割けるのは平和の証だ。
そして残る3組は概ね横這いだ。フィオーラ王国組はトブの大森林内を中心に取り引きが多いが、その内訳は交易、つまり物々交換も含まれるために利益率は低い。
デミウルゴスとラナーの組は食料生産の試行過程で発生した余剰分を販売しているが、収益の一部を
パンドラズ・アクターとンフィーレアの組は冒険者や兵士を相手に
「このまま現地人に
「畏まりました、モモンガ様」
国民の“働く喜び”と“消費する喜び”を熱く語るドラウディロン女王に感銘を受けた。ナザリックの技術力は過ぎた力だ。不用意に投入すれば現地人の仕事を奪うことになる。そして国家という共同体を身分や階級で縛るこの世界では転職は容易ではない。
職を奪われた人間が
重要なのは「頑張れば追いつけるかも」と思わせることで、相手の就労意欲を奪うのが目的ではないのだ。物資ひとつ運ぶにしても
特に、ユグドラシルのアバターを“当たり前のように受け入れた者”ほど無意識にユグドラシルでの習慣がでる。
武力、財力、技術力は、必要な時に必要なだけ誇示すればいいのだ。
「それにしても、祭り上げられるのはなんともムズ痒いな」
「まぁまぁ、モモンガさん。成りすましでないだけいいじゃない」
「そりゃまあその通りなんですが。背に腹は代えられない、か」
この世界に転移した直後は六大神の一人、スルシャーナに成りすます案があった。成りすましはリスクが高いとして廃案にしたが、先人が作り上げたイメージを払拭するのは難しい。であるならば、アルベドの作った神社をより活かすためにもそのイメージを利用することにしたのだ。
成りすましではなくモモンガとしてロールすることで“自分自身”でいられるのは気が楽だし、何よりも低位の魔法を込めた“お守り”や、価格帯の異なる“鳥居”を作るだけで金が舞い込むのだ。優秀な収入源として割り切れた。
――そういう意味では十三英雄たちは上手くやった方か。狙ってやったのか、それとも偶然なのか分からないけど、“英雄”という立場はギリギリ現地人に紛れることができるもんな。
「アルベド、
「はい。新たに着手したのはスレイン法国と竜王国、それとラナーの領地のみ。
モモンガとやまいこは多くの物が規格化された
既に形になっているのはフィオーラ王国と
アルベドは続ける。
「
「単純に労働力不足なら
「うん、ここで技術力を提供してしまっては金策に制限を設けている意味が無くなるからね。今は影響を与えただけで十分だと思うよ」
エンリたちも試行錯誤を繰り返して生活環境を整えている。今は失敗することに意義があるのだ。経験の伴わない知識を無価値だとは言わない。知っているだけで命が助かることもある。とはいえ、知識をより己のものとするには経験が一番であることも確かだ。
例えば、シズはカルネ村を守るために見張り櫓の代わりに“側防塔”にするよう指示した。側防塔自体はエ・ランテルにもあるが、塔が四角柱ではなく「“円柱である理由”を知る住民は居るのだろうか」という謎がある。この世界の人類がどれだけの歴史を歩んできたのか分からないが、“側防塔”に限らず、
――まぁ、シズの入れ知恵はご愛敬だな。
この世界の住人は限界はあれど成長はできる。それを妨げてしまうのは勿体ない。ナザリックが
そして“防止する”という観点では、発動されるまで認識できない魔法や
――その手の脅威を見破る手段が欲しいところだ。
スレイン法国、神都。ここは六大神降臨の地であり、また「人類の最大勢力圏」と謳われるだけあって周辺国のなかで一番の繁栄を誇っている。
人口や都市の規模、教育や娯楽の質でその繁栄振りを推し量ることができるが、分かりやすい尺度として神都内に10キロ四方にも及ぶ“森林区”がある。
平原へと追いやられた人類が壁で都市を囲うことを強いられている中、
そんな人類にとって貴重な森林区だが、スレイン法国が正式に共栄圏へ加盟した際にアインズ・ウール・ゴウンへと無償で譲渡された。事情をしらぬ者が聞けば正気を疑うだろうが、信仰厚いスレイン法国の上層部では神を奉戴するうえで当然の行ないだとしている。
もっとも、慈悲深い神の計らいで外縁部に点在していた公園は今まで通り市民に開放されており、林産業と狩猟に携わる者の免許取得が難しくなったことを除けば今まで通りだ。
早朝にもかかわらず、熱心な参拝者たちが森林区外縁から神社まで続く参道を、小高い丘の頂上を目指して歩いている。表立った布教活動はしていない。それでも噂が噂を呼び、今ではスレイン法国で知らぬ者がいないほどだ。
ただ、口伝による拡散のためか、その実態を正確に把握している民はいない。多くの民は「顕現した神の社」として認識しており、隠蔽前の“ナザリック地下大墳墓”の存在はもはや都市伝説だ。伝わる噂は大きく歪み、過去に目撃された
曰く「麗しき天使が守る園」だという。
そんな怪しくもまことしやかに語られる都市伝説の影響もあり、神都内の森林区へ続く主だった大通りは活気に満ちていた。参拝者を相手に早くも商魂たくましい商工業者たちで賑わっているのだ。
草木が芽吹き始めた境内をレイナースは進む。
神社に配属され、数少ない仕事のひとつが朝夕の巡回。それ以外の大半の時間は巫女たちに混ざって信仰系魔法を学び、予定が合えば漆黒聖典たちの稽古を受ける日々だ。
「静かなものね……」
境内から眼下に霞む神都を眺める。呪いを解くためにいつかは訪れる予定だったが、それがまさか解呪後になるとは思わなかった。
解呪後は“漆黒”と共に冒険者として活動すると漠然と思っていた。しかし、気付けばこの身は御方預かりとなった。帝国時代と変わらず宮仕えに近いが、あの頃よりは日々が充実している。
スレイン法国は伝え聞いていた印象とは大きく異なっていた。
亜人種に対して排他的だった筈だが、目に映る範囲では寛容だ。そう、
噂ではスレイン法国が保有する住民台帳と神社へお布施をした者たちの一覧を基に、アインズ・ウール・ゴウン支持派の住人が集められているらしく、実際、森林区周辺で
人の価値観はそうそう変わらない。
つい先日、身をもってそのことを痛感した。呪いが解けたとき、祝福してくれたのは最後まで好くしてくれていた僅かな人たちだけで、多くの人は解呪を疑い“目に見えない呪い”に偏見が薄れることはなかった。
「
ただ“悔しい”、その一言に尽きる。
――ここに来れてよかった。
誰も自分のことを知らない新天地。
あのまま帝国に留まっていたら心を病んでいたかもしれない。
レイナースは神都を臨む。
今はまだ一区画に過ぎないが、遠くない未来、この森林区こそがスレイン法国の、いや、共栄圏の中心地になる日が来るのだろう。
誰もが偏見なく受け入れられる、そんな世になることを祈るばかりだ。
春風が撫でる右頬へ、レイナースは無意識に手を伸ばす。
呪いが解けた実感を得たくて、いつの間にか癖になってしまった所作だ。
弱体化が判明したときは落ち込みもしたが、今の置かれた環境を考えると結果的に良かったと思っている。呪いにばかり気を取られていた頃は何事にも視野が狭かった。でも今は違う。
ここに来てから間違いなく世界が広がった。
「……」
身体の具合を確かめるように関節を屈伸させる。
弱体化したからといって身体に故障があるわけではない。ただ身体を動かすと倦怠感に似た重さを全身に感じるのだ。
今はアインズ・ウール・ゴウンから授かった純白の
――それでも漆黒聖典には遠く及ばない、か。
レイナースは小さく唇を嚙む。
漆黒聖典の隊員たちとは何回か手合わせしたが強者ばかりで歯が立たなかった。特に同じ槍使いとして“隊長”には一矢報いる覚悟で挑んだが、神人として覚醒している彼はそもそもの次元が違ったのだ。
赤子の手をひねるように軽くあしらわれただけでなく、割れ物を扱うかのような気遣いまで感じ、元四騎士としての矜持が大きく傷つけられた。
「ロックブルズ様、お勤めご苦労様です」
声のする方へ顔を向けると、回廊で侍女たちが会釈をしている。
彼女たちはいわゆる“巫女付き”ではなく、神社の管理運営を手伝う者たちだ。詳しい経緯は知らされていないが、彼女たちはリ・エスティーゼ王国の農村出身だという。
「おはようございます。何かありましたら遠慮なくお申し付けください」
お互い挨拶を手短に交わし仕事に戻る。
世間話はしない。初めは避けられているのではと勘ぐったものだが、彼女たちが他人との交流を苦手としていることは短い付き合いながらも察している。参拝客への応対も迫られる職場で身体を強張らせながらも健気に頑張っている姿が痛々しい。
唯一の救いと言えば場所が場所なだけに不埒な者が少ない事だろう。
境内を一通り巡り終え、次に向かうは一般人の立ち入りが禁止されている本殿。巫女たちに混ざり信仰系魔法の理を学ぶ時間だ。
教本は神の御手で綴られた魔導書。座学に特別あかるくない自分でも、この魔導書がとてつもなく価値のあるものだということは理解できる。なにしろ帝国首席宮廷魔術師しか扱えないとさえ言われている第六位階魔法が当然のように載っているのだ。その筋の者は全財産を投げうってでも欲しがる代物だ。
「レイナース・ロックブルズ、ここにいたのね」
全身鎧を脱ぐため、与えられた個室へ向かう途中で呼び止められる。
「アルベド様!? 私めにご用向きでしょうか」
咄嗟に跪き畏まる自分に、しかしアルベド様は毅然と、そして優雅に応じる。
「立ちなさい。貴女は御方々が直々に召し抱えた身。そんなに卑下する必要はないわ」
「そう仰られても……」
はいそうですかと急に改められるものではない。所属しているのはかの“アインズ・ウール・ゴウン”だ。かつての主、バハルス帝国皇帝ジルクニフも気取らず接するよう求めてきたが、いま目の前に佇む相手は普通の上司ではない。世が世なら信仰の対象に成りえる従属神。神話に謳われてもおかしくない高位の存在だ。
「まあいいわ。――モモンガ様がお呼びよ」
「モモンガ様が!?」
「ふふふ、そんな構える必要はないわ。貴女はモモンガ様が計画なされた訓練を受ける栄誉を授かったのよ。光栄に思いなさい」
「訓練……」
自己強化に繋がるなら喜ぶべきなのだろうが、“呪われた武具”を装備させようとした相手なだけに警戒してしまう。あの赤く燃える眼光を思い出すだけで、不敬であると理解はしつつもゾワリと鳥肌が立つ。
「さあ、いらっしゃい。何度もシャルティアの手を煩わせるのもあれだし、行くわよ」
促されるままに付いていくと、学び舎代わりの本殿に
意を決してくぐった先は厳かな雰囲気の霊廟。浮世離れした遺跡のようだが、
以前は参拝者も訪れることができた場所、今は厳重に隠蔽され辿り着くことのできない場所だ。
――ここが“麗しき天使が守る園”ね。
解呪のために一度だけナザリック地下大墳墓を訪れたことがある。
あの時は内部へ直接転移したので、こうして地上部を目にするのはこれが初めてだ。
「来たか。せっかくの座学を休ませてすまんな」
神々しい霊廟に目を奪われていると声をかけられる。
現れたのは恩人であり、主であり、神。奇跡を体現した超越者。絶対存在のモモンガ様だ。
「モモンガ様!? “すまない”だなんて滅相もございません! 私はアインズ・ウール・ゴウンの忠実なシモベ。ご用命とあらば何をおいても馳せ参じます」
アインズ・ウール・ゴウンに所属するにあたり、教えられるまでも無くその偉大さは身に染みている。
そんなモモンガ様はシャルティア様とクレマンティーヌ殿を連れていた。シャルティア様はともかく、クレマンティーヌ殿が“漆黒”を離れてここに居るのは珍しい。
「そう硬くならなくてもいいぞ。お前の成長は私の楽しみでもあるのだからな」
まさかの御言葉に身体が熱くなる。
「はい、ご期待にそうよう一層の精進を重ねてまいります」
「ふむ……、では早速だが」
そう言いながらモモンガ様は骨の指をパチンと器用に鳴らし霊廟を指す。
「今日はこのクレマンティーヌと組み実戦形式でナザリック地下大墳墓第一階層を探索してもらう」
その言葉に脂汗が滲む。
ナザリック地下大墳墓に関しては説明を受けている。
「ナ、ナザリックを、でございますか?」
「そうだ。だが恐れることはないぞ? シャルティア、説明してやってくれ」
「お任せを。――この訓練はレイナースの強化が目的でありんす。成長の方向性を定めるために、敵へのとどめは極力レイナースの信仰系魔法ですること。ぬしらに合わせて難度70前後の不死系を配置しんした。開始位置は地上の霊廟で、最奥に控える
他にも道中で見つけた宝箱の中身は自由に活用できることや、
「――以上でありんす」
「了解いたしました」
難度70前後と聞いて少し気が楽になる。現実的な難度だ。
それに同行するクレマンティーヌ殿も英雄の域に達した猛者だと聞いている。
「クレマンティーヌ殿、宜しくお願いしますわ」
協力すればなんとかなる――、そう思い彼女に声をかけるが表情は芳しくない。記憶のなかではもっと明け透けな人物に思えたが、今の彼女には不思議と余裕が感じられない。
そんな彼女が声を上げる。
「あ、あの!
「どうした、質問があるなら今のうちだぞ」
「はい、前衛職だけでは些か編成に偏りがあるかと。その、我々だけでは
「ああ、確かにそうだな」
なるほどと納得する。クレマンティーヌ殿が危惧していたのはコレだ。
モモンガ様は実戦形式と仰った。当然、探索中は罠も警戒して然るべきだ。よしんば罠を発見できたとしても、編成が
――それにしても、転移の罠なんて想像もしていなかったわ。
クレマンティーヌ殿は漆黒との付き合いが長い。きっとナザリック内に関して幾らか事情通で、だからこそ“転移系の罠”と具体例を挙げたのだろう。
罠の話に触れたとき、アルベド様とシャルティア様の表情が一瞬曇った気がしたが、もしかしたら内部情報を漏らしたことをご不快になられたのかもしれない。
モモンガ様を窺うと「こうりつてきなれべるあげ」と漏らしながら何やらお悩みの様子だったが、シャルティア様に向きなおると助っ人を連れてくるように命じる。
「理想はペアなんだが、仕方がない。増える分は数で補うとしよう。――シャルティア、“蒼の薔薇”に双子の忍者がいたな? ユグドラシルとの差異を調べるいい機会だ。片方連れてきてくれ」
「仰せのままに」
ほどなくしてティナと名のるアダマンタイト級冒険者を加え、3人でナザリック地下大墳墓の第一階層に挑むことになった。
個人的な強化訓練に付き合わせるかたちなので少々心苦しいが、兎にも角にも一般常識が通用しないであろうこの訓練は「一筋縄ではいかない」と改めて気持ちを引き締める。
こうして、私は霊廟へ向け一歩を踏み出したのだった。
独自設定
・御方々の過去話。
・
・レイナースの鎧。パーツひとつひとつに魔化を施した際の費用対効果は不明。強そうだし強いと信じたい。
・ティアではなくティナが選ばれた理由はシャルティアのみぞ知る。